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世界有数の鉄鋼生産国である日本は、原料となる鉄鉱石と原料炭のほぼ全量を海外から輸入している。
1トンの銑鉄を作るために必要な鉄鉱石は約1.6トン、同じく石炭が約0.8トン。つまり鉄鉱石と石炭を合わせて、必要な原料の量はその約2.4倍となる。1999年日本の銑鉄生産量は7463万トン。それに対し同年には鉄鉱石1億2011万トン、原料炭7273万トンが輸入されている。
こうした膨大な鉄鋼原料を運んでいるのが、鉱石専用船や鉱炭兼用船と呼ばれる超大型ばら積み船だ。わが国の鉄鉱石の最大の輸入先はオーストラリア。石炭もやはりオーストラリアが最大で、カナダそれに次ぐ。これらの原料をより安価に輸入するために、輸送に使われる船舶もスケールメリットを追求して次第に大型化が進み、現在では原油を輸送するタンカーに匹敵する20万重量トン前後の超大型船が数多く就航している。
鉱石専用船と鉱炭兼用船は構造と機能の面でやや異なる。前者は鉄鉱石の輸送に特化した船種で、比重の大きい鉄鉱石を満載した時に必要な浮力を確保するために、舷側に大きなバラストスペースを取り、船体中央部のみを貨物スペースとして使う。
一方、鉱炭兼用船は鉄鉱石も石炭も運べる船で、構造的には一般のバラ積み船とほとんど変わらない。比重の小さい石炭を運ぶときは各船艙に満載し、比重の大きい鉄鉱石を運ぶときは船艙を一つ置きに使うジャンピングロードという方法をとるか、あるいは各船艙を満載にせずに載貨重量の範囲で均等に積む。 |
▲西オーストラリアの積み出し 港での鉄鉱石の積み荷役。 鉄鉱石は、陸側から沖合の 船までベルトコンベアで 運ばれる。
▲鉱炭兼用船の積み付け方式 |
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「SHINREI」は新日本製鐵との長期用船契約のもとに1999年2月26日に竣工した新和海運の新鋭鉱炭兼用船。20万重量トン(D/W)型鉱石専用船「SHIN・HOH」の後継船として計画された。
普通なら同型の鉱石専用船が、あるいはスケールメリットを追求しさらに大型船へのリプレイスという形になりがちだが、「SHINREI」では、そのコンセプトが大幅に見直され、17万D/W型の鉱炭兼用船として新造されることになった。
用船主である新日本製鐵が重視したのは、スケールメリットよりも配船効率の向上だった。大型鉱石専用船では、積み地と揚げ地が限定されるため、配船スケジュールが硬直化し、それによって荷役の待ち時間が増え、滞船料がかさむ傾向がある。
新日本製鐵では、近年、原料輸入の効率化を目指し、原料ヤードへの連続式アンローダーの設置や石炭の積み地でのブレンド化の導入などを推進してきた。大型鉱石専用船からややスケールダウンした鉱炭兼用船への船種変更も同じ狙いによるもので、17万D/Wの鉱炭兼用船は、入港できるヤードを選ばす、積み地・揚げ地を随時変更することが可能で、フレキシブルで効率的な配船が可能になる。 |
▲従来のグラブ式に対し、 2倍の荷役効率を実現した 連続式アンローダー |
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安全で効率的な輸送を目指し、「SHINREI」には、多くの最新技術が取り入れられているが、最も注目されるのが、新日本製鐵が開発した新素材「HIAREST鋼板」の積極採用だ。
HIAREST鋼板は、従来の鋼板を1〜3μmという工業規模では世界初の微細な金属組織を持つ表層部でサンドイッチしたハイブリット鋼板で、衝突時や座礁時の脆性亀裂の進行に対して高い抵抗力をもつ。
「SHINREI」は高価なこの素材約1000トンを主要箇所に使い、万一の事故などに対する安全性を飛躍的に高めている。他にも省エネ・省力化機構が船内随所に採用され、運航コスト低減に効果を発揮している。
「SHINREI」の船名は、1968年2月竣工の「新嶺丸」、さらに87年9月竣工の「新黎丸」(いずれも新日本製鐵向け)に続く三代目となる。
西オーストラリアから鉄鉱石、東オーストラリアやカナダからの石炭という主要リソースの輸送を担い、安全かつ柔軟な輸送力を供給する「SHINREI」の活躍は、原料輸入面からの日本の鉄鋼業のコスト改善に貢献し、激化する国際競争の時代を勝ち抜く上での大きな切り札となるものといえよう。 |
▲製鉄所のヤードで揚げ荷役中の 「SHINREI」 |