日本船主協会
嘉祥丸(内航一般貨物船/三洋海運)
内航一般貨物船 産業とインフラの基礎物資を運ぶ
軽快なフットワークの
新鋭一般貨物船
嘉祥丸 主 要 目
嘉祥丸 全 長 75.50m
全 幅 12.30m
深 さ 6.31m
満載喫水 6.815m
重量トン数 1,600D/W
総トン数 499G/T
主機出力
(常用)
1,800ps
航海速力 11.0knots

 日本地図を広げてみよう。世界有数の長い海岸線を有するわが国の沿岸部には、戦後めざましい発展を遂げた大消費地や臨海工業地帯が点在する。内航海運は、こうした地域を網の目のように結んで、工業原料や産業資材から食糧・雑貨類まで、あらゆる物資を大量に安定して輸送する日本の経済と暮らしの大動脈である。
 トラック輸送には若干劣るものの、40%強(トン/キロベース)という国内貨物輸送に占めるシェアは諸外国と比べて圧倒的に高い。重要な点は、石灰石、石炭、セメント、石油製品、鉄鋼、機械などわが国の産業やインフラを支える基礎物資の長距離大量輸送に活躍していることで、生活物資を中心とする雑貨類の輸送が主力のトラック輸送では置き換えられない重要な機能を果たしている。
 その内航海運で最大の船腹量を占めるのが400GT(総トン)以上500G/T未満の船型で、中心となるのが通称「499(よんきゅうきゅう)」と呼ばれる499G/T、1600D/W(重量トン)クラスの貨物船。500G/T以上の船舶と比べ船員資格や乗組定員の要件が有利なことから経済船型と呼ばれ、一般貨物船やタンカーとして数多く建造されてきた。
 我が国の内航海運ではこうした船腹量の顕著なピークが他に2つある。100G/T以上200G/T未満と600G/T以上700G/T未満のクラスがそれで、いずれも499型同様、スケールメリットと運航要件からみた経済性がマキシマイズされるポイントに位置する。499型はその中でも最も使い勝手がよく、経済性と効率性のバランスの優れた船型といえる。

▲ばら積み貨物の荷役効率を
向上させたボックス形状の船艙
 嘉祥丸は1996年11月に竣工した三洋海運の新鋭一般貨物船。499G/T、1600D/Wの典型的な「499」タイプだ。国内のほとんどの港に寄港できる船型を生かして、鉄鋼副原料の石灰石を中心に多様なばら積み貨物の全国規模の輸送に従事する。
「499」型一般貨物船は基本的には万能選手で、嘉祥丸も雑貨類から鉄道車両のような特殊貨物まで積み取ることが可能だが、一方で主力カーゴである鉄鋼副原料の石灰石など、いわゆる「ばら物」を運ぶためのノウハウも随所に投入されている。完全なボックス型の船艙形状は、ブルドーザーによるばら積み貨物の浚いの効率を高め、荷役の効率性を向上させる。石灰石や骨材など重く硬い性状の貨物への耐久性を考慮して、船艙に一般より厚手の鋼板を使っているのも、ばら積み貨物に軸足を置く同社のポリシーの表れだ。
 注目すべき点としては居住設備の充実も上げられる。各船室にはテレビやビデオデッキが備えられ、衛星放送の受信もできる。エンジンの小型化のメリットを居住区のゆとりに生かし、広々とした船室は10年先を見越した仕様となっている。船内居住環境の向上は同社の一貫したポリシーで、こうした努力の結果、内航各社共通の課題である若年船員の確保についても同社はさほど苦労していないという。


▲充実した船内居住区は
三洋海運の基本ポリシー

 499型一般貨物船の場合、鋼材輸送に特化するケースが多いが、嘉祥丸が鉄鋼副原料の輸送を主力とする背景には、「ばら物のエキスパート」を目指す三洋海運の基本戦略がある。
 同社はセルフアンローダー(本船装備の自動揚荷装置)付き石灰石専用船の草分け的存在で、1967年竣工の「第八富洋丸」以来、先駆的なセルフアンローダー船を相次いで就航させてきた。石灰石や鉄鋼スラグの揚げ荷役を飛躍的に効率化し、現在では我が国の石灰石輸送船の荷役システムのスタンダードともなったRDM(ロータリー・ディスチャージ・マシン)システムは、三洋海運がエキスパートとしてのノウハウを傾注して開発したものだ。
 こうしたことから嘉祥丸には、同社の大型専用船隊を補完する機動的な輸送力としての位置付けも与えられている。主力の大型専用船は積地と揚地の決まった定点輸送に従事するが、全国どこの港にも配船できる嘉祥丸のフットワークは、よりきめ細かなネットワークを形成する上で貴重な役割を果たす。専用船による効率的なピストン輸送と、499型一般貨物船の機動的な輸送力のミックスが、石灰石を中心に年間400万トンのばら積み貨物を輸送する「ばら物のエキスパート」としての同社の全国規模のネットワークを支えているといえる。
 列島をくまなく結び、膨大な産業基礎物資の輸送という内航海運の最も中心的な機能を担う499型一般貨物船—。嘉祥丸は今日もその軽快なフットワークで、日本の産業とインフラを力強く支えている。