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海賊問題への取組み及び海賊事件の類型
 船舶に対する海賊および武装強盗の問題に当協会が取り組み始めたのは、1980年代になってマラッカ・シンガポール海峡および南シナ海で棍棒やナイフ・蛮刀を持った族が商船を襲うケースが増えてきてからです。1983年には会員会社の経験に基づく対策を取り纏め、船協会員会社へ周知しました。

 また、国際海事機関(IMO)でもこの様な状況に対応し各種の勧告等が出されていますが、特に1993年には東南アジアに各国の官民の専門家からなる調査団が派遣され、その結果に基づいて、沿岸国や船舶所有者、船長等の関係者が講じる防止対策に役立つよう、海上安全委員会(MSC)のサーキュラーを取りまとめるなど対策が講じられてきました。

 さらに沿岸国でも、マレーシア、インドネシア、シンガポールが合同訓練や合同パトロールなどに取り組んできていると聞いております。

 しかしながら、これらの関係者の努力にも拘わらず、アジアの経済危機と時を同じくするかのように、1995年以降この地域の海賊および武装強盗事件は増加し続けています。海賊の襲撃は、乗組員、船舶、貨物が危険に晒され被害を受けるのみならず、場合によっては大きな海洋汚染につながりかねません。また、近年特に憂慮されるのは、この地域で船舶のハイジャック事件が続発しており、わが国に関連したものだけでも、1998年にテンユウ号、1999年にはアロンドラレインボウ号、そして2000年2月にグローバル・マーズ号がハイジャックされました。

 このような状況の下で、わが国政府においては1999年11月に小渕総理(当時)がマニラで開催されたアセアンサミットの場で各国首脳にアジアの地域の各国政府がこの地域から船舶に対する海賊と武装強盗を撲滅するための方策を協議するために会合をもつことを提案し、本年3月から4月にかけて海賊対策のための国際会議を主催するなど、積極的に取り組んでいます。

海賊の分類

 一般的に考えれば宇宙飛行が可能になった現在、「海賊」が存在すること自体が不思議なことと思われます。ところが、今日いまなお、世界の海運界はこのような「海賊」に悩まされています。国際商業会議所(ICC)の国際海事局(IMB)は、その海賊を以下の6通りに分類しています。

(1)アジア型

(2)南アメリカ

(3)ベトナム難民の襲撃

(4)船舶の横取り型

(5)テロリスト/軍隊型

(6)ハイジャック型


(1) アジア型

 密かに船舶に侵入して、乗組員の部屋や倉庫から現金や貴重品を出来るだけ暴力を使わずに盗み取るタイプである。
 マラッカ・シンガポール海峡、南シナ海およびインドネシア海域に多発し、夜間航行中の船舶の船尾から侵入するケースが多い。インドネシア、バングラデッシュ、インド諸港では港外に錨泊中や着岸中に襲われることも少なくない。彼等は安価な物でも売れる物は何でももっていく。
 これらの海賊集団の多くは、今日の経済発展の恩恵を受けられない者や貧しい農民で、生活の為に海賊行為を行っていると言われる。彼等はもし逮捕されれば大罪に処せられるなどのリスクを負っているが、それでも海賊行為を犯さざるを得ない現実は、如何に彼等が必死であるかを物語っている。通常、暴力は発見されて乗組員の抵抗にあったり逃走する場合に使われる。
 このタイプは、被害額も相対的に小さい。事件発生の届出は実際に起きた事件の一部にすぎないと言われているのは次の理由による。

1)届け出ても盗まれた物が返ってくることはまずない。

2)多くの関係当局が入れ替わり立ち替わり調査と称して来船し、形式的な調べをする。ときには調査のために出港を遅延させられる。

3)当局の一部が海賊に関係しているとの噂もあり、その場合には届け出る意味がない(出港遅延などは届け出たことへの嫌がらせと考えられなくもない)。しかしながら、この種の海賊の中には銃などで武装し、乗組員を殺傷するケースも最近増えていることから事態は深刻化している。

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(2) 南アメリカ型

 これは「西アフリカ型」とも言われ。着岸または港外で錨泊している船を武力を用いて襲撃する。この海賊の特徴は次の通りである。

1)武器を使用して威嚇する。

2)現金、貴重品、貨物、船用品等動かせる物は全て強奪する。

3)一件当りの被害額は「アジア型」よりもはるかに高額で、充分な事前計画に基づいて襲撃する。

4)海賊の取り締まりに対する法執行機関の能力の欠如や消極的な態度が一般的である。

5)着岸中や港外で錨泊中の船がターゲットとされる。

 このタイプの海賊と「アジア型」との類似点はいずれも小型ボートを巧みに操り、敏捷に舷側をよじ登って船舶に侵入するという点のみで、船舶に侵入した海賊は時々謂れのない暴力を振うため、乗組員は陸上当局へ事件の発生を連絡し助けを求めた後は、船内の安全な場所へ退避する以外に方法がないのが実情である。

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(3) ベトナム難民の襲撃

 非人道的で憎むべき海賊の一つとして、ベトナムのボートピープルを襲う海賊があった。これらの海賊の多くは通常は漁師であるが、魚を獲るよりも難民のわずかな持ち物を強奪した方が儲けが大きいとなれば難民を襲い、さらに時には理由もなく難民を殺害し、婦女子は誘拐されたり、レイプされた。
 この地域の犯罪の防止は、陸上でも農民とゲリラが隣り合わせであるように、漁民と海賊の区別がつかないため、効果的な抑止方策の実施は困難である。

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(4) 船舶の横取り型

 1980年代の後半から、極東においては大量の「船舶の盗難」事件が発生している。被害者にとっては「ハイジャック」と呼ばれ、海賊の襲撃事件と同じであるが襲撃の目的は船舶の奪取であるため、積荷に左右されず、時には空船に対しても実施された。そして海賊は、船舶の証書類を偽造して「幽霊船」(Phantom Ship)」に仕立てあげ、アジア域内で貨物の輸送や詐欺の手段に利用した。
 乗組員が「無用の長物」と見做された場合は、救命ボートに乗せられて大洋に放棄されたり、最悪の場合は海中に投棄されたりした。

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(5) テロリスト/軍隊型

 政治的または軍が関与する特徴を有するタイプのもので、1985年に地中海の東部でテロリストに襲撃されたクルーズ船“Achill Lauro号”事件、1988年にギリシア水域でフェリー客船“City of Povos号”がテロリストに襲撃された事件が有名である。この種のテロリストによる襲撃は金品を目当てにした他の事件とは異なり、犯人は一定の目的達成の手段として船舶を襲撃する。事件解決のためには犯人の要求をのむか、あくまで法令に基づいて対応するかであるが、いずれにせよ、超法規的な別の解決のシナリオを用意せざるを得ない。
 1991年来、紅海のソマリア沖で沿岸国の内戦のため商船に対する襲撃が多発し、捕らえられた例がある。この種の事件は武力抗争が常態化している地域では予測可能な事件である。

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(6) ハイジャック型

 近年になって東南アジアで頻発しており、海賊は乗組員に暴力を振るい、積荷を略奪する。このケースは周到に計画され、陸上で糸を引いている一味がいる可能性が高い。アンナ・シエラ号事件もこの一例であり、1998年9月に行方不明になり、12月に中国で発見された、わが国船主が所有するパナマ船籍“TENYU号”事件もこのタイプの事件である。

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