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海賊事件に関する2000年前半期の報告について
 国際商業会議所(International Chamber of Commerce: ICC)の下部組織である国際海事局(International Maritime Bureau: IMB)の海賊情報センター(マレーシア、クアラルンプール)は2000年1月1日から6月30日の間に発生し同センターに連絡のあった海賊事件(未遂事件も含む)の報告書を発行しましたので、その概要をお知らせします。

 これによりますと、昨年同期が115件であったのに対し161件と報告件数が4割増加している他、インドネシア海域での発生は56件で全体の35%を占めておりアジア全体では102件で63%を占め相変わらず海賊多発海域であることが判明しました。また、実際に乗込まれた事例が112件、マラッカ海峡での襲撃件数が昨年同期は報告が無かったのに対し14件、油タンカーおよびケミカルタンカーへの襲撃が昨年同期30件あったものが35件報告されています。

 なお、1999年のIMB年次報告書(船主海第21号H.12年2月22日付 船舶通報12-2)では、同年の報告件数が285件となっておりましたが、最終的には300件の報告となったことが記されています。

「船舶に対する海賊および武装強盗 2000年前半期IMB年次報告」
からの抜粋(抄訳)

警戒を要する海域

・インドネシアのBelawan, Jakarta, Merak, Samarinda, Tanjong Priokでは停泊中や錨泊中の襲撃が数多く発生している他、Chittagong, Mongla, Chennaiでも事例が報告されている。また、Bangladeshで船体部や船尾の亜鉛アノードが盗まれている。

・過去2ヶ月の間にマラッカ海峡において襲撃が増加している。マレーシアおよびインドネシア当局は、このような状況からパトロールを強化していると言われている。

・Aden湾/Socotra/Somali沿岸では特別な警戒が強く求められる。高速ボートやガンボートに乗った武装海賊が船舶やヨットに発砲しこれを強奪しており、乗組員に死傷者がでている。特にソマリアに寄港する場合以外は、沿岸から50マイル以上離して航行すること。

・エクアドルでは、武装しているものとみられる海賊による襲撃(特に停泊中)が、多く報告されている。

・特別警戒を要する海域(港)
Indonesia全港、Gelasa Str、Bangka Str、Bangkok Bar、Manila Bay
Singapore Str、Philip Channel、 Malacca Str、Sprately Island、Chittagong Roads
Mongla Anchorage、Colombo Anchorage、Chennai Anchorage、Tuticorin Roads
Kandla、Gulf of Aden、Somali coast、Nigeria各港

主な事件の概要

2000.1.1〜6.30の間に発生した主要な事件の詳細は以下のとおり。

インドネシア:

 2000年4月24日2030、Bontangに停泊中のインド船に左舷錨から6名の海賊が侵入した。賊は海賊当直中の乗組員を縛り上げ脅迫した。他の当直乗組員が不審に思い船首に向かったところ賊を発見し当直士官に通報した。当直士官は警報を発したが、賊は拘束している乗組員の腹部を刺して逃走。 本船は直ちに当局に通報し、負傷を負った乗組員は病院に搬送された。

アンゴラ:

 2000年5月17日0330LT頃、Luandaにて錨泊中のセントビンセント籍の雑貨船が、武装海賊に襲撃され、船用品や機器が盗まれた。9名ほどの刀および鉄棒で武装する海賊がフックを使い本船に侵入した。当直士官が賊を発見し警報を発したが、賊は2名の乗組員を追い回した上、1名を意識不明になるほど激しく殴打し、もう1人に重傷を負わせた。また、賊は縛り上げた乗組員を海に投げ込もうとさえした。本船は当局に通報を試みたが、何の応答も無かった。

スリランカ:

 2000年6月26日 0200頃、Point Pedro(スリランカ東海岸)の東北東50マイル沖の船舶が、数隻の小型ボート(内一隻には爆発物が搭載されている)に乗る海賊に襲撃された。 爆発物を搭載した一隻が同船に衝突し、爆発の衝撃で船体には破口が生じ、機関室は浸水し火災が発生した。同日、ついには沈没し、27名の乗組員はライフジャケットを装着し退船したが22名がライフラフトに乗り移ることができたものの残りは捜索の甲斐なく行方不明となった。襲撃をしたグループはタミールの虎と呼ばれる過激派であり、行方不明の乗組員は彼らに引き上げられたものとみられている。

象牙海岸:

 2000年6月2日0125LT頃、バハマ籍船がAbidjanにて、2名の武装海賊に襲撃され、船用品を奪った上、木製のボートで逃走した。賊によりナイフで傷を負わされた乗組員は、傷が深かったため病院にて手当を受けた。

Piracy News

Global Mars号発見される

 IMBの海賊情報センターが5月30日に入手した情報によれば、香港近くの海域で、船名をBulawanとする船舶がGlobal Mars号であることが中国当局によって確認された。
 同号は4ヶ月前にマレーシアを出港後、ナイフと銃で武装する賊にハイジャックされた(2月23日)。 同号の8名の韓国人乗組員と10名のミャンマー人乗組員は目隠しされ、わずかの食料とともに小型漁船に移乗させられた後、放逐された。乗組員は何とかタイのスリン島にたどり着き生還した。
 同船は1985年建造のパナマ籍船で6千トンのパームオイルを積載していた。
海賊情報センターは関係先に警報を発するとともに、IMBは更なる調査を行い、ハイジャック船の追跡に至ったが、これは、海運界と法執行当局との協力の好例である。
ハイジャックされたタンカーに乗っていた比人11名ミャンマー人9名は、警察により取り調べを受けている。同船はホンジュラス籍でBulawan号と書き換えられていたが、ホンジュラス当局により該当船がいないことが確認された。
 同船の捕捉は、香港と中国の海難捜査救助当局の支援によるものであった。中国警察と国境警備当局はICC-IMBによってBulawanが偽名であることが確認された後、数時間以内に行動を起こし、双方の海難救助警備当局は航空機やパトロールボートによって船舶の位置等の確認を行った。
 およそ、2500トンのパームオイルが残っていた同船は、船体と積荷の持ち主の代理人がその返還に関し会合を持ったが、最近のAlondra Rainbowのケースでは、調査終了後、正規の持ち主に返還されている。

国境を越えた海賊犯罪に対する新しい法体系の必要性

(4月東京で開催された海賊対策国際会議)
 海賊が多発する国には、国境を越えた犯罪に十分対処するために、現行法の見直しが求められている。
 IMBによれば、海運が現在直面している主要な問題は、海賊や船舶を拘束した後の政府による犯人の取扱いである。海賊行為やハイジャックが発生した場所とは別の場所で犯人が拘束されるという事例が増加しているが、ほとんどの国が、そのような状況において犯人を裁判にかけるための法律を有していない。これには常に、他国間の管轄権の問題が係ってくる。
この種の犯罪をコントロールし、船舶や乗組員が貿易業務を安全に遂行できるような適切なメカニズムの構築が重要である。 1999年に報告された事例は前年の50%増しとなっており、現在の抑止戦略が機能していないことは明白となった。多国間タスクフォースなどの提案が海賊の逮捕に大きく寄与するかもしれない。しかし、犯した犯罪に対し海賊を罰する法律が不十分であれば、それらは無駄とも言える。
もし各国がそのような法律を有しないのであれば、IMBはそれらの国が1988 SUA(1988年の海上航行船舶の安全に対する不法な行為の防止に関する条約)を批准するよう進言する。 192の国連加盟国の内、わずか42ヶ国しか批准しておらず、世界で最も海賊が活動的なアジアで批准しているのは中国、日本、インドのみである。
 Alondra Rainbow号で証明されたように、国際間の協力が海賊対策に有効であることは明白である一方、その後の裁判において国が負う責任については依然不明確である。東京での海賊対策国際会議では、参加者が東京アピールに合意し、解決に向け更なる前進を決意した。この表明によって、海上警備機関と海事関係組織の協力が合意された他、現状を認識し、海賊に対抗するためのモデルアクションプランを実現することが決意された。

海賊対策に向けてのインドネシアの計画

 インドネシアの新戦略には、海峡に入る全船舶を監視することを目的としたBatamのモニタリングセンターが含まれている。同国は、海岸の総延長が900kmにもなる島々からなることで、海賊多発地域となっている。被害が報告された場合、センターは付近にいるパトロールボートに連絡することとしている。
 インドネシア海軍は増加する海賊問題に対処するため15隻のパトロールボートからなる特殊部隊を設立することを約した。
 軍の責任者は、インドネシアの西部艦隊が商船に対する不法行為を取締るための特殊部隊に任じられており、治安を確保するためには常時15隻が現場に張り付いていなければならないと語った。
 インドネシアはまた、海賊と密輸に焦点を当てたコーストガードの設立を望んでいると伝えられる。インドネシアは多くの島々が点在し、これをカバーするには239隻の艦船と114機の航空機を要する。現在はわずか114隻の船(多くは第二次世界大戦以前の船舶)と53機の航空機しかない。
ワヒド大統領は現在の海軍力を増強することを約したが、経済状況を考えると新しい装備の購入は困難とみられる。
過去40年において初めて実施された民主的な選挙でワヒドが大統領に選出されたが、この直前に課せられたアメリカによる武器禁輸措置にインドネシア政府は抗議している。
インドネシアの経済状態を考えるとBatamの海賊センターのように費用のかかる計画の実現性は疑問である。 予算不足の軍部に十分な対応が可能か公然と疑問が呈されている。にも拘わらず、この地域の国々が以前のような無気力な姿勢で望むのであれば、いかなる計画をもってしても積極的に海上安全の増進を図るべきである。

輻輳するマラッカ海峡での海賊事犯の増加

同海峡での襲撃事犯が増加している。
シンガポール海運筋は“大きな関心を持っている。地域の当局がパトロールを強化したとのニュースにも拘わらず事例は増加している。適切な機関による取締りのためのさらなる行動を求める”と語った。
 最近マラッカ海峡において事例が増加したことから、マレーシア、インドネシア、およびシンガポールが直ちに国際海域の巡回パトロールを強化した。
 3ヶ国の海上警察は共同パトロールを立ち上げ、マレーシアは空軍の航空機による偵察や、海軍のパトロール船によって、一日に何百という船舶が行き来するシーレーンを定期的にパトロールしている。また、LangkawiおよびPort Kelangの陸上レーダ局によって、不審船が監視される。
 Batu PahatのTanjung Tohor沖のマレーシア−インドネシア海域、MelakaのJohorおよびPulau Undanで多くの事例が報告されている。プライベート船や商船は、武装グループによる海上強盗に対抗するのに当局のみに頼ることなく、自主防衛を強化しなければならない。
 当局の業務は夜間輻輳する海域で漁船や小型サンパンまで大小の船から犯人を見つけ出すことである。被害を受けた場合には当局が迅速に行動をとれるよう直ちに通報を行うことが求められる。
 マレーシアの当局責任者はマラッカ海峡を航行する船舶を襲撃する海賊に対抗するのに軍事力を行使するであろうと述べた。“我々は海賊から深刻な脅威を受けている。国の領域に点在する多くの島々が海賊の格好の隠れ場所となっており、これが海賊対策を困難なものとしている。装備の問題を解決するために全力を尽くす。海賊に対抗するには多くの軍事資力を要する。”とも述べた。

Alondra Rainbow号の積荷

アメリカのFBIに相当するフィリピンのNational Bureau of Investigation(NBI)が、最近、アロンドラレインボーの盗品の一部であるアルミインゴット214束を押収した。
これは、フィリピンと中国の会社が所有するマニラの倉庫で発見されたものであるが、この会社はマレーシアに本拠を置く会社から間違いなく購入したものだと述べている。 NBIは、3000トン足らずの残りのアルミインゴットが地方のどこかにこっそり隠されている可能性を調査している。3000トンのアルミインゴットはハイジャックされた時のもともと7000トンあった貨物の一部である。インゴットには“INAL”と刻印され、製造者であるIndonesia Asaham Aluminiumと標示され、重さ50ポンド大きさは20cm x 81cm x 9.5cm。 隠されている可能性のあるその他の2つの倉庫にたいしても捜査令状が出状されたとのこと。
 記録によれば、容疑者はすべての荷役書類を偽造することによってまんまと貨物の受け取りに成功した。Subicから目的の倉庫に輸送するのに15台のトラックを要している。盗まれた貨物はアロンドラレインボー号がハイジャックされた10月22日から一ヶ月以内にSubicに到着している。更に、事件の起こる前からインゴットの輸送を請け負う受取人が手配されており、高度なシンジケートが関わっていることが判明している。

ブラジルにおける海賊対策

 5月に開催されたIMO第72回海上安全委員会においてブラジルに出入港する船舶に対する海賊対策計画が検討された。
 ブラジルにおける事例は減少したが、これは、すでにブラジル各港で実施されている諸対策によるものである。新しい実行対策にはいくつかの効果が期待できるものが含まれている。特定の港を対象とした指示が入港船に与えられるととなっている。これには海賊および武装強盗の防止に関する港の現状を通知する他、港湾警察によって24時間モニターされる特定のVHFチャンネルも記載されている。また、運航の遅延を最小にするため、武装強盗事件に関するいかなる調査も10時間以内で完了する旨船長に伝えることなっているとのことである。
 ブラジルでは、出港後でしか通報を行わない船主がいることから、船舶が襲撃に遭遇しなかったとの書類に船主が署名する義務を課すことを直ちに検討した。ブラジルの規則ではすべての海賊事犯は現地の警察に通報しなければならない。

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