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MSC回章第622号(仮約)

MSC/Circ.622 Rev.1

海賊及び船舶に対する武装強盗

海賊及び船舶に対する武装強盗と戦うための政府に対する勧告

前文略
附属書
海賊及び船舶に対する武装強盗の対抗措置に関する勧告
海賊及び船舶に対する武装強盗
1 一連の手法や勧告が整備される以前には、関係する政府その他の機関にとって海上における海賊及び強盗事件に関する正確な統計をとり、これらの統計を襲撃の種類や地域別にとりまとめ、攻撃攻撃の特性を分析し、並びにこれらの統計を海賊に関心を有する全ての者に、わかりやすく、使いやすい形で普及、公表することが急を要する課題であった。
2 海賊及び武装強盗に対する現在進行中のあらゆる反対行動は、可能な限り海賊及び武装強盗を制圧するものでなければならない。これらの者は、国際法及び国内法のいずれにおいても犯罪者であることから、この任務は、一般的には関係国の公安機関が実施することとなる。
3 船舶は、海賊や武装強盗に対する自衛手段を講じることができ、また、講じるべきである。その具体的な手段については、改正MSC回章第623号により勧告されている。一方、公安機関は自衛手段について助言することができる。旗国は、かかる手段を船主及び船長が自らの責務と受け入れることを担保することが求められる。最終的には、船舶が海賊発生海域とされる海域を航行する場合に船員として警戒することは、船舶の船主、船長及び船舶運航者の責務である。
4 船舶にとって、各船が襲撃を受けたときにとるべき対応を記載した行動計画を策定することもま た重要である。沿岸国/寄港国は、かかる襲撃を予防するために最初に何をするべきか、及び襲撃に当たってとるべき行動を詳細に記載した行動計画を策定すべきである。旗国は、襲撃の通報を受けた場合にとるべき行動を詳細に記載した行動計画を策定すべきである。襲撃の結果として、船舶の衝突や座礁の可能性もあることから、沿岸国/寄港国は、それにより引き起こされる油や危険物の流出の対策を策定しておく必要がある。このことは、航行の制限される海域において特に重要である。
5 海賊及び船舶に対する武装強盗の予防及び抑止に関係する全ての国の機関は、最大限の効果によりその被害を最小限にするために適当な措置を講じるべきである。また、沿岸国/寄港国は、海賊及び船舶に対する武装強盗の予防及び抑止のための必要な施設及び行動の調整を整備すべきである。
6 各種機関の間の連絡及び協力並びに事件が沿岸国に通報された後の応答時間に関しては、
1)共通の専門用語、統合通信、一元化された指揮組織、統合行動計画、処理しやすい管理、事件を簡易化するための指定及び臨機応変な指揮を提供することに関心を有する各国において、運用上のみならず戦術上の対応のための事件指揮システムをが採用されるべきである。

2)例えば密航、麻薬の密輸及びテロリズムといった、既存の海上の治安に関する問題を扱うしくみを事件の指揮系統に応用し、限られた資源を有効に活用するべきである。

3)通信センターの受けた警報を直ちに実際の対応をとる責任者に伝達するための手続を策定され、及びこれが既に確立されている場合には見直されるべきである。

7 全ての襲撃及び襲撃のおそれが、沿岸国/寄港国に知らされるよう、無線により直ちに最寄りの救難調整本部又は 沿岸無線局に通報され、さらに詳細な内容について文書で続報されることが極めて重要である。襲撃に関する無線通報及び文書による報告を受けた場合、救難調整本部及びその 他の関係機関は、直ちに次の行動をとらなければならない。
1)対応計画(対抗措置)が実施されるよう、地域の公安当局に連絡すること。

2)当該海域内にある他の船舶に、使用可能なあらゆる通信手段を用いて事件を警告し、注意を喚起すること。

8 海事当局が受け取った報告は、旗国の当該事件の発生した沿岸国政府に対する外交的働きかけに利用される。
9 沿岸国/寄港国は、その海域内におけるあらゆる海賊及び武装強盗事件をIMOに報告する。沿岸国/寄港国は、船舶から通報を受けた場合には直ちに呼出に応答し、及び対処するよう求められる。
10 通報内容の記録及び初動調査は、可能な限り、必要な技術と人材を有する中央機関により行われることが最も適当である。政府及び業者側の双方から求められる信頼性を維持するために、かかる当局は、その成果や他の事務において、正確で、権威があり、能率的で、かつ公平でなければならない。この責務を果たすのに最も適した機関は、IMOであると考えられる。その際、情報の提供 のために、マレーシア・クアラルンプールにあるIMBの海賊センターを補助的に利用することも 考慮されるべきである。
11 緻密な評価作業は、襲撃及びそれに対しとった対応の状況及び背景を明らかにするためのさらなる情報に接することのできる沿岸国の公安機関により行われるべきである。
12 修正及び照合の段階が完了すれば、その結果はそれを欲する全ての当局に送付される必要がある。これらの当局には、沿岸国の政府、旗国政府及びその他の政府の部局が含まれる。
13 船長が全ての海賊及び船舶に対する武装強盗の事件を通報することを促すために、沿岸国/寄港国は、船長及びその船舶の航行予定が不当に遅延されないこと、及び通報したことによって当該船舶が経費を負担させられることのないことを担保するようあらゆる努力を払う。
14 通報のあった事件の捜査並びに捕らえた海賊及び武装強盗の訴追について、
1)事件後の何時間もの混乱は、捜査の目的を果たすことができず、犯罪者を見失い、又は取り逃がす結果となることから、各国が襲撃後の捜査を実施する責任及び法的権限を有することを確立する。

2)指定された捜査機関は、標準的な捜査技術についての訓練を受けかつ自国の裁判に関する法的要件に精通した人材を有すべきである。なぜなら、襲撃者を訴追し、裁判にかけ、及び財産を没収することが、襲撃者を抑止する最も効果的な手段であることは、広く受け入れられているからである。

3)襲撃者は別の襲撃に関与しているおそれもあり、海賊及び船舶に対する武装強盗を独立したものと見てはならず、犯罪記録により有力な情報を確認するべきである。

4)システムは、有力な情報が、捜査当局を含む適当な全ての関係者に周知されることを確保するよう位置づけられる。

15 IMOは、沿岸国に対し、その沿岸国の領海内で発生したと認められる武装強盗に関する報告を定期的に送付するとともに、当該沿岸国が行った調査の結果に関する情報を要求する。沿岸国は、事件の通報がなかったり、通報が調査を実施するには遅すぎたりして調査を行うことができない場合であっても、これらの問い合わせに応じることが求められる。全てのかかる対応は、継続して委員会の会合に回章されるべきである。
管轄及び捜査
犯罪の管轄
16 海賊又は船舶に対する武装強盗行為により、いずれの国の管轄権にも属さない場所において逮捕 された者は、実質的な当時国との間の同意に基づいて捜査を行う国の法に基づき訴追される。

実質的当事国とは、次のものをいう。

1)捜査の対象となった船舶の旗国

2)その国の領海内で事件が発生した国(継続追跡権を含む。)

3)事件により、その国の環境に重大な危険、若しくはそのおそれを生じた国、又はその区域内において国際法のもとに当該国が管轄権を行使することが認められている国

4)事件により、その国又はその国が国際法に基づき管轄権を行使することが認められている人工島、設備、構築物に対する重大な危険又はそのおそれを生じた国

5)事件により、当該国の国民が死亡し又は重傷を負った国

6)捜査上重要と思われる情報を有している国

7)他の何らかの理由から、主導的に捜査を行っている国の判断により重大に関与が認められた国

8)他の国から、乗組員、旅客、船舶及び積荷に対する乱暴の抑止又は証拠の収集に関して協力を求められた国

9)国連海洋法条約第100条に基づき抑止し、同条約第110条に基づき臨検の権利を行使し、又は同条約第105条に基づき海賊船又は海賊航空機を拿捕した国

17 国は、自国がかかる攻撃を行った者を逮捕、訴追することを担保するための法律の整備を含む、海賊及び船舶の武装強盗の攻撃に対する管轄を確立するため必要な措置をとることが勧告される。
18 ある国の港に入港するためには、船舶は、支払いその他の必要のためにかなりの現金を持っておく必要がある。船内の現金が、襲撃者を引きつけるものとして働いている。為替管理による両替の制限があるため、多額の現金の持ち合わせが必要な国があり、そのような国は、早急により柔軟な対応をとるよう求められる。
19 旗国は、襲撃発生海域内で運航している全ての船舶が、船内保安計画を備えることを促進すべきである。船内保安計画は、遭遇する可能性のある危険、乗組員の役割、能力及び訓練、船内に安全な区画を確保する能力並びに船内に備えられている監視装置について明らかにしておかなければならない。
20 船舶は、可能な限り襲撃が発生している海域から離して航路を設定すべきであり、特に、狭水道を避けるべきである。錨泊中の船舶に対する襲撃が発生している港に入港しようとする場合には、船舶は港外に錨泊することや、速力を減じ、又は海岸線から十分に距離をおいて迂回航路をとることにより、錨泊時刻を遅らせ、危険にさらされる時間を短くすることを考慮する。かかる措置により、船舶の停泊の優先順位に影響が及ぼされるべきではない。用船契約に当たっては、船舶が襲撃が発生している海域から離れて航行することの必要な場合や、港で襲撃が発生し、使用可能な岸壁がなかったり、沖荷役が遅れて当該港への入港を遅らせる必要のある場合もあることを考慮する。
21 海賊及び船舶に対する武装強盗の影響を受ける海域の沿岸国は、
1)海賊及び船舶に対する武装強盗の襲撃に関するあらゆる通報にできる限り迅速に対応するために、海賊及び武装強盗の発生する全ての地域が、常時運用される沿岸地球局によりカバーされるようにする。その沿岸地球局は、当該区域を担当する沿岸国又は隣接する国に配置されることが望ましい。

2)海賊発生海域とされている区域において国境を接する国は、海賊及び武装強盗の抑止のための協力に関する協定を締結すべきである。かかる協定の例を本回章のAppendix 5に添付する。

3)地域協力の更なる推進のために、戦術面並びに運用面での対応の調整を簡易化することに関する地域協定が関係国間で締結されるべきである。

3-1. かかる協定は、情報の伝達方法、共同の指揮及び管理の手続(地域指揮系統)の策定、緊密な連絡の確保、共同作戦並びに入域及び追跡のための方針の統一、全ての海上治安関係者を含む当事者間の連携の確立、特別の合同訓練及び捜査官相互の意見交換の実施、並びに戦術及び運用実務者の共同演習の実施について詳細に記載する。

3-2. 既存の(二国間又は地域間の)協定は、必要な場合には、自国の領海から当該協定を締結している他の国の領海への追跡の延長を認め、及び被害船からの通報を受けたら直ちに他国の管轄の中への追跡の延長の承認を与えることを確保するための詳細な運用手続を認めるよう見直されるべきである。

4)全ての国は、他国のRCCから連絡を受ける場合に備え、自国のRCCが常時英語による通信が可能なことを担保することを求められる。このため、英語の記述及び会話の両方に堪能な者を常時少なくとも1名配置する。

5)特定の地域に関する緊急通報及び安全通報を国の指揮下にある沿岸地球局及びRCCが受けた場合に、調整すべき問題及び予想される遅延をできるだけ少なくするため、各地域の主だった者による意見交換のための定期的な会合やセミナーを開催し、様々な状況に応じた適切な手段や行動を確立することが求められる。当該手続や行動が有効に機能するよう、定期的な訓練を行うことも検討する。

6)NAVTEX放送で網羅されている区域において襲撃が報告された場合には、「重要」又は「至急」の範疇の適切な海賊/武装強盗襲撃警報を送信されるべきである。かかる警報ができる限り早期に送信されることにより、船舶は予め襲撃を防止するための適当な措置を講じることができる。NAVTEX放送で網羅されていない区域において襲撃が報告された場合には、海賊/武装強盗襲撃警報は、インマルサットシステムを通じ、EGCセーフティー・ネットのメッセージとして発信されるべきである。この目的のために、関係当局は、関係地域を網羅する1又はそれ以上の沿岸地球局を整備し、「情報提供者」として登録されることが求められる。(MSC回章第805号参照)

7)レーダー探知システム又はVHF方位探知システムを整備し、又は整備を計画している国は、このような施設の海賊/武装強盗対策に対する潜在的適合性を調査することを求められる。このような施設が当該目的にふさわしいものであると判断されれば、これらの施設及びこれらを素早く効果的に使用する手続が確立されなければならない。

22 事件への対応は、十分に計画され、訓練されること、及びその関係者ができる限り船舶の状況に精通していることが重要である。したがって、海賊及び船舶の武装強盗行為への対応に責任を有する者は、外洋か港内かを問わず、最も遭遇しそうな船種の一般配置及び特徴について訓練されるべきである。船舶所有者は、必要な習熟のために船舶と接触する機会を準備することによりな公安機関との協力を促進すべきである。
23 沿岸国は、海賊及び武装強盗に対処するための適当な装備を備えたヘリコプターの使用を検討ずべきである。
24 通航規則を改正し、海賊がしばしば発生する海域においては、襲撃を受けている船舶が法定以外の灯火の閃光又は明滅を行うことを認めるべきである。
25 海賊及び武装強盗の影響を受ける沿岸水域の周辺国は、相互の船舶及び航空機による合同パトロールを創設し、又は維持して行くべきである。
26 公安機関及び政府は、このような違法行為を含む犯罪を容易に発見、確認するために近隣国の対応する組織と緊密な連絡を維持すべきである。既に海賊及び武装強盗と戦うための良好な協力体制を確立している国もある。
27 RCCの要員は、彼らが遭遇した海賊及び武装強盗に関する報告を最も効率的に伝達する方法を訓練されていなければならない。このためには、場合によっては、他のRCCや海岸無線局への通報、当該海域の公安機関や監視船への周知及び警報放送の発出その他の適当な手段をとるための段階を踏むことを促進させる必要がある。
※MSC : IMO海上安全委員会
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