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アフリカが東南アジアを抜いて世界一の海賊多発地域に
―2007年の海賊事件発生状況―
 国際商業会議所(ICC)の下部組織である国際海事局(IMB)は、2007年に世界で発生した海賊等事案について報告書を発行しました。
 また、国土交通省海事局外航課は、2007年に日本関係船舶が受けた海賊行為等による被害状況について調査結果を公表しました。
 これらの概要については以下のとおりです。
 政府等関係機関に対して、防止対策の強化を要請する上で実態把握が重要となりますので、関係各社におかれましては、事件に巻き込まれた際には、関係先への通報をお願いいたします。

1.2007年IMB海賊レポート概要
 2007年に報告のあった海賊事件は、昨年より24件多い263件(約10%増)であった。この数年減少傾向であったが4年ぶりに増加に転じた。世界各地域をみると、かつて海賊多発地域であった東南アジアは年々減少しているものの、アフリカでの発生件数が急増しており、ついに東南アジアを抜いて世界で最も海賊発生件数の多い地域となった。
 かつて世界全体の1/3以上を占めた東南アジア地域での発生件数は、昨年の83件から70件に減った。インドネシアでは昨年の50件から43件に、マラッカ海峡でも11件から7件にと、東南アジアの主要国では軒並み海賊発生件数が減っている。この減少傾向は2003年より続いており、これは沿岸地域各国の協力体制が確立され、警備が強化されたことによる効果の表れであると報告書では歓迎している。
 また、昨年増加の著しかったインド亜大陸地域のバングラデシュ(チッタゴン港)も47件から15件の大幅減少となった。バングラデシュ当局の努力に対する評価はあるものの、錨地への進入時および錨泊時にはまだ警戒が必要であるとしている。
 主要な多発地域の事件が減少する一方、世界全体での海賊発生件数を押し上げた要因は、アフリカ地域、特にナイジェリアおよびソマリアでの急増であった。ナイジェリアでは昨年の12件から42件に激増しており、これはインドネシアの43件に次ぎ世界で2番目の多発国となる。ナイジェリアでは、停泊中に船舶に乗り込まれ、襲撃、人質となるケースが多い。同国の政情不安から、海賊達はこれらの行為を政治的要求として正当化しており、軍服を着て海賊行為に及ぶ者が多く見受けられる。
 一方ソマリアでは、沿岸を航行中にハイジャックされ、船舶ごと人質に取られるケースがほとんどである。2007年に11件の事件が発生しているが、人質となった乗組員は154名と世界で最も多かった。報告書では、ソマリアは内戦が続き無政府状態であることから、海賊の抑制には国際的な合同艦隊の介入が唯一有効な手段であるとしている。
 また、アフリカ地域では、紅海/アデン湾、タンザニア(ダル・エス・サラーム港)でも事件が増加しており、航行の際は注意が必要である。 ([表1〜3]参照)

[主な事件の概要]
(1) 2007年9月22日、パーム油を積載したインドネシア籍プロダクトタンカー“Kraton”号がCilacapへ向けPalembang出港後、武装した海賊にハイジャックされた。同船は航路からはずれ、マレーシア/シンガポール方面へ進路を変更させられた。同船の船主がこの件をIMB Piracy Reporting Centre (PRC) に報告し、PRCが各国関係機関に捜索を要請した。2日後の9月24日、インドネシア海軍が Tanjun Ayamの南で同船を発見。ただちに14人の海賊全員を取り調べのため抑留した。乗組員は全員無事であった。
(2)  2007年10月28日、パナマ籍(運航会社:日本)のケミカルタンカー “Golden Nori”号がアデン湾を航行中にソマリアの武装海賊にハイジャックされた。同船は遭難警報を発報し、これを受信したIMB PRCは周辺海域の合同艦隊へ救助を要請したが、同船を捕獲するには至らなかった。海賊は乗組員の解放と引き換えに身代金を要求し、応じない場合は人質を殺害すると脅迫してきた。1ヵ月半に及ぶ交渉の末、12月12日に船舶、乗組員ともに解放された。この為に海賊側に身代金が支払われたものと見られている。後日、ソマリアPuntland地方の自治警察が同船のハイジャックに関わった海賊のうち2名を逮捕したと伝えている。
(3)  2007年11月28日、マーシャル諸島籍のプロダクトタンカー“Athlos”号 がナイジェリア のLagos Roadsで錨泊中に武装した海賊に襲撃された。軍服を着用した12人の海賊は、軍用ボートで同船に近づき、内9人が乗り込んできた。船長は海賊のボートに乗り移るように強制されたが、これを拒み、船の居住区域へ逃げ込んだ。この時発砲があったが、船長に怪我は無かった。海賊は居住区域で物色や略奪を行なう一方、二等航海士、甲板手および司厨員の3人を人質に取った。90分後、現金およびタバコと引き換えに人質を解放し去っていった。翌日、船長に対し昨夜の海賊から、次に入港するHarcourt港(ナイジェリア)で再び同船を襲撃するという脅しの電話があった。

[表1]海賊発生件数推移
表1海賊発生件数推移
[表2]世界各地域の海賊発生件数の比較
表2世界各地域毎の海賊発生件数の比較

[表3]主要9か国・地域の海賊発生件数(過去3年同期比較)
海賊発生件数2007上半期
海賊発生件数2006上半期 海賊発生件数2005上半期


2.2007年日本関係船舶における海賊等被害状況
 わが国外航海運事業者等からの報告を基に、2007年の1年間に日本関係船舶(日本籍船および日本の事業者が運航する外航船舶)が海賊等から受けた被害の状況について取りまとめられた。

(1) 被害件数
 2007年において、日本関係船舶が海賊に襲われた件数は10件で、昨年の8件から増加した([表4]参照)。被害船の船籍別内訳は、パナマ籍6隻、香港籍2隻、アンティグア・バーブーダ籍、日本籍が各1隻であった。また、被害船舶のうち、日本人が乗船していた船舶は1隻であった。
わが国関係船舶における海賊行為等による被害発生件数の推移

(2) 発生海域
 地域別に見ると、東南アジア5件(インドネシア4件、マレーシア1件)、インド2件、アフリカで3件(ソマリア、ナイジェリア、タンザニア各1件)発生している。
(3) 被害状況
 ソマリアでのハイジャックにより、現在も1名(フィリピン人)が行方不明となっている。海賊に縛り上げられ負傷したり、船用品等が盗難される被害が多くみられる。