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アデン湾での海賊事件が激増
―2008年の海賊事件発生状況―
 国際商業会議所(ICC)の下部組織である国際海事局(IMB)は、2008年に世界で発生した海賊等事案について報告書を発行しました。
 また、国土交通省海事局外航課は、2008年に日本関係船舶が受けた海賊行為等による被害状況について調査結果を公表しました。
 これらの概要については以下のとおりです。
 なお、政府等関係機関に対して、防止対策の強化を要請する上で実態把握が重要となりますので、関係各社におかれましては、事件に巻き込まれた際には、関係先への通報をお願いいたします。

1.2008年IMB海賊レポート概要
 2008年に報告のあった海賊事件は、昨年より30件多い293件(約11%増)となり、2年連続して増加した。地域別にみると、アフリカを除く地域は減少または横ばいであるのに対し、アフリカ地域は昨年比約58%増の189件となり、発生件数全体の64%を占めた。
 アフリカ地域での最多発地域はアデン湾/紅海(92件)である。ソマリア東海岸での事件(19件)も含め、ソマリアの海賊が関係する事件は合わせて111件に上る。昨年、同地域での発生件数が43件であったことから比べると、約158%の激増である。2008年、同地では42隻がハイジャックされ、815名が人質となり、殺害(4名)、行方不明(14名)も出ている。2008年12月31日現在、13隻の船舶と242名の人質が未だ解放されずにいる。2008年6月以降、国連・安全保障理事会で、ソマリアの海賊に対し連合国軍が積極的な対応を取れるよう決議が採択されており、今後、その成果が期待される。
 また、アフリカでは、アデン湾、ソマリア沖だけでなく、ナイジェリアでも依然深刻な事件が続いている。2008年、ナイジェリアはアデン湾に次ぐ世界第2の海賊多発地域となった(40件)。ナイジェリア南東部の石油生産地域であるニジェールデルタでは、政治的目的から石油産業を狙った乗組員の誘拐が39件も発生しており、全世界の誘拐件数42件のほとんどがこの地域での発生となっている。また、2004年以降、タンザニアでも海賊事件が増加しており、アデン湾以外のアフリカ地域も警戒する必要がある。
 一方、これ以外の地域では、昨年より海賊事件の発生件数が減少している。
 東南アジア地域の発生件数は、昨年の70件から54件に減少し(約23%減)、特にインドネシアでは43件から28件へと減少した。沿岸地域各国の協力体制が確立され、警備が強化されたことにより、同地域では2003年より減少傾向が続いている。
 また、インド亜大陸地域のバングラデシュ(チッタゴン港)も、停泊・錨泊中の警戒が未だ必要である状況だが、2年連続して発生件数が減っている(12件)。 ([表1〜4参照)

[主な事件の概要]
(1) 2008年7月20日、パナマ籍ばら積み船がアデン湾のイエメンAl Mukalla南東沖を航行中にソマリアの武装海賊にハイジャックされた。同船は船舶保安警報装置(SSAS)を作動させるとともに、海賊に乗り込まれたことを有志連合軍へ通報した。海賊は乗組員21名を人質に取り、同船をEyl(ソマリア東海岸)へ回航し抑留した。10月9日、人質、船舶共に解放された。
(2) 2008年8月21日、パナマ籍ケミカルタンカーがアデン湾を航行中に自動小銃等で武装した海賊に攻撃されハイジャックされた。船主および付近を航行していた船舶がIMB Piracy Reporting Centre (PRC)に連絡を取り、IMB PRCより有志連合軍へ直ちに救援要請が行われたものの、同船の乗組員19名が人質に取られた。同タンカーは可燃性の化学品を積載し、フランスのFosからインドに向けて航行中であった。有志連合軍は、同船がハイジャックされた後も監視を続け、Eyl(ソマリア東海岸)に停泊させられていることをつかんでいた。10月9日、人質、船舶共に解放された。
(3) 2008年9月25日の現地時間16時ごろ、戦車や軍用車輌等を積載したベリーズ籍Ro-Ro船“Faina”号 がソマリアの東岸沖を航行中に海賊にハイジャックされた。同船はHobyo(ソマリア東海岸)に現在も停泊させられている。乗組員21名が人質となったが、その内ロシア人船長が心臓発作のため死亡したと伝えられている。現在も解放に向けて交渉中である。

(4) 2008年11月15日、リベリア籍大型原油タンカー“Sirius Star”が、アデン湾を避け喜望峰へ向けケニア南東450マイル沖を航行中、武装海賊によりハイジャックされ、乗組員25人と共に抑留された。(後に2009年1月9日に解放された)

(5) 2008年11月16日、香港籍の貨物船 ”Thor Galaxy” がナイジェリアのWarri Riverを航行中に武装海賊に襲撃された。海賊は数隻のスピードボートで接近し、警告の空砲を1発発射して船舶を停止させ、梯子を下ろすよう要求した。同船は海賊にハイジャックされ、彼らのベース基地において、19名の乗組員とともに抑留された。後に船舶と共に解放された。

[表1]海賊発生件数推移
表1海賊発生件数推移

[表2]世界各地域の海賊発生件数の比較
表2世界各地域毎の海賊発生件数の比較

[表3]主要7か国・地域の海賊発生件数(過去3年同期比較)
海賊発生件数2006 海賊発生件数2007
海賊発生件数2008
[表4] 乗組員・乗客の被害状況(過去3年比較)
被害状況2006 被害状況2007
被害状況2008


2.2008年日本関係船舶における海賊等被害状況
 国土交通省海事局において、わが国外航海運事業者等からの報告を基に、2008年の1年間に日本関係船舶(日本籍船および日本の事業者が運航する外国籍船)が海賊等から受けた被害の状況が概要以下のとおりまとめられた。

(1) 被害件数
2008年において、日本関係船舶が海賊に襲われた件数は12件で、昨年の10件から増加した([表5]、[表6]参照)。被害船の船籍別内訳は、パナマ籍7隻、香港籍、アンティグア・バーブーダ籍、ドイツ籍が各1隻、日本籍が2隻であった。また、被害船舶のうち、日本人が乗船していた船舶は1隻であった。
(2) 発生海域
地域別に見ると、東南アジア周辺5件、インド周辺2件、アフリカ周辺5件(うちアデン湾3件)発生している。
(3) 被害状況
アデン湾では発砲、追跡等の被害が3件発生しているが、いずれも回避操船等で海賊を振り切っている。その他の被害は窃盗が主であり、乗組員への被害はなかった。

[表5]わが国関係船舶における海賊行為等による被害発生件数の推移
わが国関係船舶における海賊行為等による被害発生件数の推移

[表6]
日本関係船舶における海賊等事業案について
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