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ソマリア、アデン湾において身代金要求の人質事件急増
―2009年上半期の海賊事件発生状況―
 国際商工会議所(International Chamber of Commerce=ICC)の下部組織である国際海事局(International Maritime Bureau=IMB)より、2009年上半期に同海賊情報センター(クアラルンプール)に連絡のあった海賊事件(未遂事件も含む)の報告書が発行されました。
 概要は以下のとおりですが、政府等関係機関に対する防止対策強化の要請に資するため、関係各社におかれましても、事件に巻き込まれた際には、関係先への通報をお願いいたします。

[2009年上半期IMB海賊レポート概要]
 全世界における2009年上半期の海賊事件報告件数は240件で、昨年同期114件と比べ111%増と大幅な増加となった。また、乗客・乗員等の被害者数も昨年同期の238人から610人と増え、特に人質となった人数は昨年同期の190人から561人と急増している。
 
 発生地域別に見ると、依然アフリカ地域での増加が世界全体の発生件数を引き上げており、同地域での発生件数は172件で昨年に続き最多発生地域となった。特にソマリアの海賊が関係すると思われる事件が148件(ソマリア44件、アデン湾86件、紅海14件、アラビア海1件、インド洋1件、オマーン2件)と、全世界の約62%にものぼる。
 また、ソマリア海賊によってハイジャックされた船舶は30隻、人質は495人にのぼり、襲撃によって4人が殺害され、6人が負傷した。2009年6月末現在、11隻の船舶と人質178人が未だ解放されずにいる。
 一方、東南アジア地域は19件と昨年同期の28件から大幅な減少となった。同地域は年々減少傾向にあり、2005年7月からのパトロールが効果をあげていると思われる。([表1〜4]参照)



[主な事件の概要]
(1) 2009年1月17日22:00頃(現地時間)、バハマ籍のタンカー “Front Chief” がナイジェリア・ボニー湾沖で錨泊中に武装海賊に襲撃された。同船にはタグ船が繋がれており、先ずタグ船が攻撃され船長が殺害された。タグ船襲撃の後、海賊のモーターボートはタンカーに向けて手榴弾を投げてきたが、幸いにも大事には至らなかった。海賊は発砲しながらタンカーに乗込み、乗組員の居住区に侵入してきたため、乗組員は施錠したエンジンルームに隠れた。海賊は同船を物色し、船舶および乗組員の物品を強奪し、約1時間後に去っていった。同船から救難信号が発信されたが、港湾事務所はそれを知りながら何も行動を起こさなかった。
(2) 2009年2月19日現地時間14:30頃、シンガポール籍のバージ ”Miclyn3316” を曳航していたタグ船 ”Nancy5” が、マラッカ海峡を航行中にボートに乗った12人の武装海賊に襲われた。海賊はタグ船に乗込みナビゲーションと通信機器の全てと乗組員の私物を盗んでいった。また海賊は船長と1等航海士を連れ去り、身代金を要求した。海賊が去った後、2等航海士がタグ船を近くの港に入港させ、直ちに当局に事件を通報した。後日、誘拐された船長と1等航海士は無事解放されたが、2人の解放に当たり身代金が支払われたと思われる。

(3) ソマリア東岸沖を航行中のコンテナ船 “Maersk Alabama” (米国籍)が、2009年4月7日11:40頃(世界時)海賊に襲われた。小型船に乗った海賊は自動小銃を携帯しており、発砲しながら同船を追いかけてきた。海賊は本船に乗込みハイジャックした。翌4月8日、乗組員は同船を何とか取り戻すことができたが、海賊は船長を人質に取り、救命ボートで逃げ去った。このため、4月12日に海軍が船長救出のため出動し、銃撃戦の末、船長を無事救出した。その際、海賊1人を拘束したが、残りの海賊は死亡した。

(4) 2009年4月26日11:30頃(世界時)、アデン湾を航行中のイエメン籍のプロダクトタンカー “GNA” が武装海賊に襲撃された。海賊は同船をハイジャックし、乗組員全員を人質に取った。4月27日、イエメン海軍が乗組員と船舶の救出に現地へ向かった。そこで銃撃戦となり、乗組員1人が死亡、1人が行方不明となったが、残った乗組員は無事救出された。海賊2人も死亡し、残りの海賊は全員拘束された。

[表1]海賊発生件数推移
表1海賊発生件数推移
[表2]世界各地域の海賊発生件数の比較
表2世界各地域毎の海賊発生件数の比較

[表3] 乗組員の被害状況(過去3年同期比較)
被害状況2009上半期
被害状況2008上半期 被害状況2007上半期
ソマリア海賊が関係しているとみられる事件
ソマリア海賊が関係しているとみられる事件発生件数