1・6 TAJIMA号事件の公判結果について

 

TAJIMA号事件のフィリピン人被告2名に対する公判が2005518日よりパナマ裁判所で行われ、審理の結果、520日に陪審が無罪の評決を下した、との情報を外務省より得た。

これに関し当協会は、このような結果となったことは遺憾である旨の会長コメントを発表した。

 

(1)事件の概要及び当時の対応等

200247日、台湾沖公海上を航行中の当協会メンバー会社が管理するパナマ籍大型原油タンカー「TAJIMA」の船上にて日本人二等航海士が同乗のフィリピン人2名に殺害されるという事件が発生した。

事件発生後、本船は同年412日に姫路港に入港したが、本事件が、「公海上」の「外国籍船」(パナマ籍船)上における「外国人」(フィリピン人)による事件であったために、わが国には刑事管轄権がなく、被疑者2名は、唯一管轄権を有するパナマ国政府からの仮拘禁の請求により下船した515日まで1ヶ月以上にわたり本船内に留め置くことを余儀なくされた。その間、本船船長の指揮下、民間人である本船乗組員が被疑者を拘束・監視するという極めて異常な事態となった。

当協会は、同事件が包含する問題は業界全体の問題であるとの認識から、刑事裁判管轄権を有するパナマ政府当局に対して事件の早期解決を要望するとともに、法務大臣を始めとする各関係大臣に対し被疑者を一刻も早く上陸させる等の措置を講じるよう要望したが、わが国現行法制上は当該措置をとることは困難であるとして認められなかった。

また当協会は、同事件で浮き彫りとなった諸問題について検討するため、同年5月、「外国籍船上での犯罪等検討タスクフォース」を設置し、同年8月、同タスクフォースは問題点等を整理した報告書を取りまとめるとともに、二度とこのような異常な事態が招来することのないよう、立法措置を含む適切な措置の実現について関係方面に強力に要望した。

その結果、超党派の国会議員等で構成する海事振興連盟の全面的バックアップを受け、また関係当局の尽力により、「日本国外において日本国民が被害者となった犯罪に対処するための刑法の一部改正法案」が取りまとめられ、同法案は2003221日、第156回通常国会に提出され、同年718日の参議院本会議において全会一致で可決・成立し、200387日に施行された。

これにより、公海上で日本人船員に係わる類似の事件が不幸にして発生しても、不安なく対応することが可能となった。【船協海運年報2003参照】

 

(2)公判の概要

外務省より得た公判の大まかな概要は以下の通り。

@    518日の模様(0930開廷、2000まで審理)

    本件公判が予定通りパナマの第二高等裁判所にて開始。

    先ず8 名の陪審員が選定され、同日、午後4 時から審理開始。

    裁判長、検事、弁護人、被告2 名、及び8 名の陪審員(男女夫々4 名)が出廷。

    弁護人より、通訳をつけたい旨の要望が出され、比国名誉領事により確保されたスペイン語⇔英語、及び英語⇔タガログ語の2 名の通訳がつくこととなった。

    検察側より、日本で行われた調書等に基づいて被告の容疑について説明。

    弁護人は、「日本での取り調べは英語で行われたため、被告は良く理解できないまま、犯行を認める調害に署名してしまった、被告の犯行を確認できる十分な証拠はない。」等を主張。

 

A    519日の模様(0930開廷、2100まで審理)

    検察側証人の精神科医が出廷し、被告人2名は刑事責任能力を有している旨証言。

    その後、罪状認否があり、両被告は無罪を主張。

 

B    520日の模様(1000開廷、2358評決が下る)

    はじめに検察側の陳述があり、目撃者の証言や両被告は十分な英語能力を有していること等を説明する等して両被告による犯行であることは明白である旨主張。

    続いて両被告が改めて犯行を否認。

    続いて弁護人の陳述があり、日本の尋問では、両被告は英語がよくわからないのにタガログ語の通訳がいなかった等を説明し、パナマの法律に照らし無効であるので、両被告は釈放されるべきであると主張。

    最後に改めて検察側/弁護側が夫々最終陳述を行い、22時、裁判長は陪審に対し評決のための協議を行うよう求め、陪審は退廷。

    23 58 分、陪審が再び入廷し、裁判官が評決を朗読、「無罪」の評決が下された。

 

(3)当協会の対応等

当協会は、20039月頃に外務省より、日本からパナマに移送されパナマに拘留中されているフィリピン人被告2名の公判開始日は2005518日と決定された旨の情報を得ていた。

このため当協会は、20054月頃より、外務省および国交省に対して、本公判に関する情報提供を要請するとともに、当該メンバー会社とも連絡を密にしてきた。

当協会は、残念ながらこのような公判結果となったことを受け、527日付で、遺憾であること、またご遺族の方のお気持ちを思うと残念でならないこと等の会長コメントを発表した。【資料1参照】

今後については、わが国関係当局とも連携のうえ、裁判の詳細な情報について収集し対応等について検討していくこととしている。

 

【資料1

 

平成17527

 

TAJIMA号事件の公判結果について

 

社団法人 日本船主協会

長 草  

 

TAJIMA号事件のフィリピン人被告人2名に対する裁判が、今月518日よりパナマ裁判所で行われ、審理の結果、520日に、陪審が無罪の評決を下した、との情報を外務省より得た。

裁判の詳細な情報は未だ得ていないので、今後も情報収集していくこととしているが、当協会メンバーである共栄タンカー所属の船員が殺害された事件でもあり、ご遺族の方のお気持ちを思うと誠に残念でならない。

報道によれば、「被告人の弁護人は今月1820日の公判で、日本の当局が日本語で作成した供述調書を両被告人は理解できず、被告人の権利が守られていないなどと主張、裁判所は20日、無罪を言い渡した。」とある。

このような異例な事件発生の当時、わが国政府およびパナマ在日大使館から相応の協力をいただいたことには感謝している。

一方で、これはわが国司法当局が捜査にあたり、被告人等の人権に意を払わなかったと言っているに等しく、国家の信用に関わる由々しき事態であると考える。わが国政府としての適切な対応を求めたい。

今回の評決を見るに、船社の立場として保有船舶をどこに置籍するかをよく考えなければならないことを痛感するが、わが国政府においても早急に第二船籍制度など魅力ある適切な船籍制度を創設すべし、と思料する。

TAJIMA号事件が起きたとき、当協会として法務省等にいろいろな問題提起をさせていただき、刑法の改正など一部実現を見たものもあるが、船内の犯罪に関する船員供給国における国内法の整備および国際的なルールの制定について未だ進展が見られないものもあり残念に思う。今後の進展を強く期待するものである。

以上