2・2  大気汚染防止関連

 

221 IMOの動向

船舶からの排気ガス等による大気汚染の防止を目的とする海洋汚染防止(MARPOL)条約附属書Yが2005519日に発効した。同附属書では、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、揮発性有機化合物(VOCs)、オゾン層破壊物質等について、その排出基準を定めている。

同年7月の第53回海洋環境保護委員会(MEPC53)では、NOxSOxの排出基準の見直しを含め同附属書に関する審議が行われた。

審議概要は以下のとおりである。

 

(1)MARPOL条約附属書VIの改正

同附属書は発効したばかりであるが、現行規則では環境への影響が改善されず、また、新たな技術の開発を促進するためにも、規則の見直しが必要であるとの提案があった。

審議において、NOxに対する規制については200011日から行われているものの、SOxに対する規制は本年5月から開始されたばかりであり、見直しは時期尚早であるとの意見があったが、審議の結果、同附属書Yの見直しを行うことが合意された。

また、同見直しについては、NOxおよびSOxの排出基準の他に、粒子状物質(PM)および揮発性有機化合物(VOCs)の具体的な規制値などの検討も含まれることとなった。

通常であればMEPCで設置される作業部会(WG)においてMARPOL条約関連規則の見直しが行なわれることとなるが、MEPCにおける大気汚染防止に関するWGは、すでに検討事項が多数あり、これ以上検討事項を増やすことが困難なことから、ばら積み液体およびガス小委員会(BLG)において検討することとなった。そのため、今次会合において、同附属書見直しに関するBLGへの付託事項を検討し、次のとおりとなった。

@    大気汚染防止に関する開発中の技術の調査

A    NOx排出削減技術の調査および現行基準の見直し

B    SOx排出削減技術の調査および現行基準の見直し

C    VOCs排出規制の見直し

D    船舶からのPM排出規制に関する検討

E    NOxおよびPM排出規制の現存船への適用に関する検討

F    ディーゼル機関以外への規制の拡大の可能性に関する検討

なお、PMに関する規則の策定には長時間を要すると予想されるが、NOxSOxなどの改正規則発効時期と時間的ずれを生じることは混乱を招くことから、附属書VI全体を一括して改正することとなった。

 

(2)寄港国による監督(PSC)に関するガイドライン

MARPOL条約附属書Yでは、硫黄酸化物(SOx)の排出を抑制するために、船舶で使用される燃料油に含まれる硫黄分の制限に関する規定が設けられている。また、燃料補油時において、燃料補給業者は当該燃料油の性状等を記載した燃料油記録簿(BDNBunker Delivery Note)および燃料油サンプルを船舶に提供することとなっている。

しかしながら、附属書Y未締約国で補油をした場合、適切なBDNあるいはサンプルが受領できないことがあり、当該船舶が同条約締約国に入港した際のPSC検査等において、不適合事項として指摘された事例が報告されたことから、船舶が要求しているにもかかわらず適切なBDNあるいはサンプルが受領できない場合における対処について検討が行われた。

 審議の結果、燃料補給業者から適切なBDNあるいはサンプルが提供されない場合、船長は旗国に対し、その事実を明記した書類を送付し、同時に補油を行った寄港国に対しても写しを送付することとなった。また、同書類の写しを本船上にも保存し、他の港におけるPSC 検査において、BDNの提示が要求された場合は、同書類を提示することとされた。

 なお、附属書 VI未締約国に対し、適切なBDNおよびサンプルを船舶に提供するよう促す文章を回章することとなった。

 

(3)SOx排出特別海域(SECASOx Emission Control Area

北海をSECAに指定するMARPOL条約附属書Yの改正案が採択され、20061122日に発効することとなった。同附属書Yの規定により、発効1年後の20071122日から北海を航行する船舶は硫黄分1.5%を超える燃料油は使用できなくなることとなった。

 

222 東京都による船舶排ガス規制の動きへの対応

東京都環境局は、平成166月、既存船の排出ガスに含まれるNOx及びSPMSuspended Particulate Matter:浮遊粒子状物質)を中心に、それらが何らかの形で実質的に軽減されるような措置を検討するため、「船舶等による大気汚染対策検討委員会(会長:平田賢 芝浦工業大学先端工学研究機構客員教授)」を設置した。この動きを受け当協会は、平成165月、安全環境委員会のなかに「船舶排ガス問題検討小委員会」を設置して対応を検討し、都の検討委員会に委員として参画することとした。【船協海運年報2004参照】

都の検討委員会は、船舶排ガス実測調査および関係事業者へのアンケート調査を行うとともに、計4回の会合を開催し議論を重ね、173月、報告書を取りまとめた。

同検討委員会における審議の過程で、都は当面の対策として、平成17年度中に、各船社が自発的に、東京港に着桟した船舶の発電機について、所謂C重油からA重油へ切替えることを求めたため、当協会は、この重油の切替えによるコストアップについて試算し、各事業者に対する影響の大きさの把握に努めた。また、仮に都が実施すれば、近隣だけでなく日本全国の他の港にも波及する可能性は高いと思われるため、都に対して慎重な対応を求めた。しかし既にディーゼルトラックへの排ガス規制により環境改善効果をあげている都は、重油切替えというスタンスを変えなかったため、当協会は、重油の切替えのコストアップ分については当該事業者のみならず行政(都)側も何らかのインセンティブという形で負担すべきである、という考え方も併せ主張した。

その結果、都側もこれに応じて港湾使用料の免除・減免等のインセンティブについて前向きに検討し、報告書においては、「排ガス対策に伴うインセンティブ」のなかの東京都の役割として、「船舶事業者の積極的な取り組みを誘導するための措置として、行政による経費の負担軽減等の措置を含めたインセンティブが不可欠であると認識し、その実現に向け都の積極的な検討が必要であると考える。」旨言及されている。

今後は、関係者間で「船舶等による大気汚染対策推進協議会」(仮称)を設置するとともに内航船、外航船等の特性を踏まえた検討を行うために、それぞれの部会を設置し、より具体的な取り組みについて協議することとなった。

当協会は、この新たに設置される協議会等において、インセンティブの具体策について、引き続き検討していくこととしている。