2.3 油汚染事故および海上災害防止への対応

 

231 官民合同流出油防除訓練の実施

 19977月に東京湾中ノ瀬で発生した大型原油タンカーの底触による原油の流出事故を契機に、東京湾における大規模な油流出事故に即時に対応できるよう、官民で構成する東京湾排出油防除協議会が設立された。当協会は同協議会に加盟し、毎年1回実施される大規模な油流出事故を想定した訓練に参加している。

 2004年度は123日、横浜海上防災基地において机上訓練が実施された。

 今回の訓練では「東京湾中ノ瀬西海域を北上中のVLCCが浅瀬に底触、貨物タンクの一部が破損し、積荷の原油が流出した」との事故を想定し、東京湾内各地区の流出油防除協議会との連絡体制の確認を中心に約2時間にわたり机上訓練が実施された。

 

232 海上災害防止センターへの対応

(1)基地資材備付証明書と油回収船等配備証明書の発行料金の値下げ

(独)海上災害防止センター(センター)は、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)で船主に義務付けられている油防除資材および油回収船の配備を代行し、関係船主に対しこれら資機材を利用できる内容の「基地資材備付証明書」および「油回収船等配備証明書」を有料で発行し、その業務費用のを賄っている。2004(平成16)年度のセンター機材部事業の決算において、税引前当期利益7,000万円、支払い法人税2,500万円、税引き後当期利益4,500万円が計上されたため、20058月に開催されたセンターの機材専門委員会において、2005(平成17)年度の証明書発行料金について検討が行われ、同年91日より料金単価が4万円値下げされることとなった。

(2)海上防災事業に係る検討委員会について 

(独)海上災害防止センター(以下「センター」)防災部は、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(旧 石油公団)からの受託事業(年間2億円)が2007(平成19)年度で終了し、2010(平成22)年度からは赤字を計上することが見込まれている。そのためセンターは、防災部の財政基盤強化策を検討することを目的として、各方面の有識者で構成する「海上防災事業に係る検討委員会」(以下「委員会」。委員長:谷川 久 成蹊大学名誉教授。当協会からは、川崎汽船 大津 明 取締役・油槽船グループ長が委員として参加。)を設置し、20056月に初会合が開催された。(委員会メンバーは、資料2-3-2-1参照)初会合では、センター防災部の現状等が報告されるとともに、3回に亘り委員会を開催し、防災部の財政基盤強化の方策を取り纏めていくことが確認された。

 同年10月に第2回委員会が開催され、センターより、@HNS対応業務(以下2.3.3参照)、A陸上に起因する油流出/火災への対応業務、などの新たな事業を展開するなどの方策により、防災部の財政基盤強化を図っていきたいとの説明があった。第3回委員会は、20061月下旬に開催することとし、第2回委員会でのセンターの説明を基に、財政基盤強化策の方針を固めることとなった。

 

233 OPRC-HNS議定書の批准に向けた動きについて

 海上保安庁は、20063月にも発効要件が満たされるOPRC-HNS議定書(注1)の批准に向けたわが国の体制を整備するため、2005年内にも海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)の改正案を纏めるほか、2006年明けには整備すべきHNS防除資機材の詳細等について利害関係者を交えた検討を行うこととした。

当協会は、HNS問題については、200511月末までは政策委員会の下部組織である「海上防災問題WG」および海上安全・環境委員会の下部組織である「海務幹事会」で対応してきたが、よりHNS問題に特化した検討を行うため、同年12月に政策委員会/環境安全・環境委員会共管の下部組織として「HNS問題WG」を設置して対応することとした。なお、HNS問題に関する2005年内の動きは以下のとおりである。

 

(注1OPRCHNS議定書:正式名称は、「2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書」。エクソン・バルディス号事故を契機に1990年に制定、1995年に発効した「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)の対象を有害危険物質(HNS: Hazardous and Noxious Substance)に拡大するもの。締約国に対する海洋汚染事故への準備・対応に関する措置や緊急時計画の策定の義務付け等を内容とする。発効要件は15ヶ国。200512月現在13ヶ国が批准しているのに加え、アイルランドと英国が近々に批准する見込みとなっている。

 

(1) HNS汚染事故への準備及び対応に関する調査研究委員会について

海上保安庁は、20058月、OPRC-HNS議定書の批准に向けて、同議定書に基づきわが国が整備すべきHNS汚染事故への準備対応体制について「提言」を得ることを目的とし、藤野 正隆 東京大学名誉教授を委員長、各方面の有識者を委員、関係業界をオブザーバーとする「HNS汚染事故への準備及び対応に関する調査研究委員会」(以下「HNS委員会」)を設置した。(資料2-3-3-1参照

 同委員会は、8月、9月、10月に開催され、資料2-3-3-2の提言が取り纏められた。同提言では、「原因者等が構ずべき措置の明確化」として「有害液体物質や危険物による汚染事故に対処するためには、船長や船舶所有者等が構ずべき措置をあらかじめ明確化すること」が望まれ、また「専門的な能力を有する防災機関を有効活用する必要がある」との内容が含まれている。当協会は、オブザーバーとしてHNS委員会に対し海運業界の意見を提出した。当協会意見に基づいた提言の修正はなされなかったものの、当協会意見により、関係者が一体となって取り組むことを前提とし、議定書が定める「国家緊急時計画」(注2)をわが国として策定することが確認された。

 海上保安庁は、同提言に基づき、OPRC-HNS議定書の批准に向けたわが国の体制の整備に着手することとし、その過程において関係業界との調整を図っていくことととしている。

 

(2) OPRC-HNS議定書(第4条)では、「準備及び対応のための国家的な緊急時計画(機関が作成した指針を考慮に入れたもの)であって、関係を有する各種の団体(公的なものであるか私的なものであるかを問わない。)の相互の関係について定めるものを有すること」を規定。OPRC条約に基づく油汚染に係るわが国の国家緊急時計画では、関係者の役割も言及されており、船舶所有者等が油防除資機材を備え付けることが記されている。

 

(2) 海上保安庁による海防法改正に関する説明会について

当協会は、OPRCHNS議定書の批准に向けた海防法改正案の概要について海上保安庁より説明を受けることとし、200510月に説明会を開催、海上防災問題WGおよび海務幹事会の関係者が出席した。保安庁説明の概要は以下のとおり。

  ・HNS委員会の提言に基づき、海防法を改正する予定。

・船主に関連が深い項目としては、東京湾、伊勢湾、大阪湾および瀬戸内海を有害危険物質および石油製品を搭載して航行する150総トン以上のタンカーの所有者に対し、防除資機材の備え付け等および要員の確保を義務付ける。

要員の確保については、一定の有資格者との契約に取って代えることができるものとする。有資格者は、現在のところ海上災害防止センターを想定しているが、それ以外にも能力を有するものには資格を与えていく。

備え付ける資機材の種類、地域については合理的なものとなるよう、海運業界を始めとする利害関係者で2006年明けにも検討を開始したい。

海上保安庁は、海防法改正内容を更に固めていく際に関係業界との調整を図ることとしている。