2. 4 バラスト水排出規制問題への対応

 

船舶から排出されるバラスト水に含まれるプランクトンなどの水生生物の移動を防止し、生態系を保護することを目的に、IMOにおいてバラスト水管理条約が20042月に採択された。

また、同年4月のIMO51回海洋環境委員会では、同条約の具体的な規定となる13のガイドライン(船協海運年報2004ご参照)を策定することが合意され、同年10月のMEPC52から検討を開始し、200610月のMEPC55までに最終化することとなった。

 

(1) MEPC52の審議概要(20041011日〜15日)

MEPC51において、13のガイドラインのうち、バラスト水管理の根幹となるバラスト水処理装置の型式承認に関するガイドライン(G8)および病原菌等のバクテリアを殺滅するための処理剤(活性物質)1を使用した処理装置承認ガイドライン(G9)を優先的に策定することが合意されたことから、MEPC52においては、主にこの2つのガイドラインの検討が行われた。

1 活性物質:水生生物あるいは病原菌を特定の作用によって殺滅する、ウィルス又は菌類を含む物質または生物

 

@バラスト水処理装置型式承認ガイドライン(G8)の審議概要

(a) 船上試験について

船舶に設置するバラスト水処理装置は、バラスト水管理条約(以下、条約という)上、主管庁の承認が必要とされていることから、今次会合ではその承認のための試験方法などについて審議が行われた。

 現在のガイドライン案では、処理装置の承認試験は、陸上における試験(陸上試験)と本船上に装置を備え付けて行う試験(船上試験)があり、それぞれの試験について装置の作動試験および生物処理効果を実証するための生物試験を行うこととされている。

 しかしながら、船上において生物試験を行うことは、その信頼性が低いこと、また試験を行う海域によって条件が大きく異なることなどから反対する意見が出され、合意が得られなかったため、20057月のMEPC53に向けてさらに検討を行うこととなった。

(b)       プランクトンおよびバクテリアの分析方法について

排出されるバラスト水中に含まれるプランクトンおよび病原菌の分析方法については、日本、米国等の締約国政府が定める方法もしくは国際標準化機構(ISO)などによる国際規格を選択できることとし、病原菌については、研究用に市販されている代用細菌の使用を認めることとなった。

(c)       試験水に含まれるべき生物種と生物量について

 以下のとおり合意された。

1)50μm以上の試験生物は、最低異なる3生物門から最低5種が含まれた106/m3以上の合計密度とする。

2)10μm以上50μm未満の試験生物は、最低異なる3生物門から最低5種が含まれた104/ml以上の合計密度とする。

3)これら生物濃度は、自然水中に加えることで達成しても良い。

(d) 試験方法について

 以下のとおり合意された。

l        試験は、処理水と非処理水の比較で評価する。

l        サンプルは、処理前、処理直後、排出時の3回実施し、それぞれにおいて3サンプル採取する。

l        50μm以上の試験生物は開口部対角線長50μmのメッシュ、10μm以上50μm未満の試験生物は開口部対角線長10μmのメッシュで濃縮し、計数する。

l        分析は、サンプリング後6時間以内に行う。

l        分析方法に関しては、主管庁の認める方法で行う。

 

A活性物質を使用した処理システム承認ガイドライン(G9)の審議概要

 バラスト水管理条約では、バラスト水中のプランクトンおよび病原菌の個数を規定した排出基準(D-2基準)を設けているが、現在の処理装置技術では病原菌を殺滅することができない。病原菌を殺滅するためには、活性物質の使用が必要となってくるが、使用した活性物質を注入濃度のまま船外に排出すれば、その海域の水生生物をも死滅させる恐れがある。

そのため、活性物質については、IMOによる承認が必要となっており、毒性の評価方法、承認手続き等をG9にて規定することとなっている。

 今次会合において、活性物質の評価基準および承認方法について審議が行われ、G9は原則承認された。

 なお、承認方法については、活性物質が処理装置を通して排出されることから、物質のみの承認だけではなく活性物質を使用する装置としての承認を行う必要性が合意され、2段階での承認を行うこととなった。

 本ガイドラインの概要は以下のとおり。

(a)評価対象物質

活性物質として助剤、副生成物を含むこととし、船上の発生装置からタンク内に注入される物質も対象とする。

(b)評価項目

副生成物も含む全物質のデータセット

・各物質の文献値からの有害性

・安全性

・物性情報

(c)PBT評価

データセットの情報から難分解性(P: Persistence)、生物蓄積性(B: Bioaccumulation)、毒性(T: Toxicity)(PBT)に関して評価を行う。PBT三項目に該当する物質は「PBT物質」とされ、活性物質として使用することができない。

判断基準1:難分解性

 海水中における半減期[>60]※、清水中における半減期[>40]※、

海洋沈殿物における半減期[>180]※、清水沈殿物での半減期[>120]

[ ]内の数字は未決定

判断基準2:生物蓄積性

 BCF2 >2000, LogPoctanol/water3 3

判断基準2:毒性

 慢性毒性 NOEC4 <0.01mg/l、発ガン性、変異原性あるいは副産毒物質(Reprotoxic qualities)あるいは内分泌攪乱影響が観察されないこと

2 BCF:生物濃縮係数、食物からの摂取を考慮せずに環境(水)中の汚染物質濃度と生物体内の濃度により算出される濃縮濃度の度合い

生物濃縮係数(BCF)=(体全体あるいは臓器・組織内の濃度)/(その生物が住む環境中の濃度)

3 LogPoctanol/water:化学物質が親油性物質であるn-オクタノールと水との間で分配されたそれぞれの濃度の比数。値が高い場合は生体内の脂肪分に化学物質が累積しやすく、生物濃縮性が高いと考えられる。

4 NOEC:無影響濃度(NOECNo Observed Effect Concentration)、実験で求められた水生生物に悪影響を及ぼさない最高濃度のこと

 

(d)バラスト水処理装置排出水の毒性試験

タンク内の保持時間を考慮し、活性物質注入24時間後、一定間隔で排出水のサンプリングを行い、毒性試験を実施する。試験は、複数の試験種(魚、無脊椎動物、植物)で行い、排出時における単純希釈を考慮することができる。なお、湾内の特定場所への排出による累積効果も考慮する必要がある。

(d)リスク特性、分析

化学物質の特性と排出水の毒性試験結果から、製造者がリスクアセスメントを実施。リスクアセスメントの結果は専門家による総合判定が行われる。

(d)       承認手順

1段階:基本承認(バラスト水管理システムに使用する活性物質の承認)

@活性物質製造者による実験室レベルでのPBT評価データおよび排出時の環境影響予想データ作成 → AIMO締約国 → BMEPC → CIMO専門家グループでの評価・承認 → DMEPC → EIMO締約国

ステップ2:最終承認

@活性物質製造者またはバラスト水処理装置製造者による陸上試験でのPBT評価データ作成 → AIMO締約国 → BMEPC  → CIMO専門家グループでの評価・承認 → DMEPC(活性物質を使用するバラスト水管理システム全体の承認) → EIMO締約国(最終型式承認)

 

 Bその他のガイドライン等に関する審議概要

 夜間や浅水域でのバラスト水の漲水を制限するなど船舶の運航に直接影響を及ぼす規定や、ガイドライン間における内容の重複など、問題のあるガイドラインがあったことから、わが国政府は当該ガイドラインについて修正を求めることとしていた。

 しかしながら、これらガイドラインについては、本会合では審議の時間がなかったことから、次回MEPC53に向けて引き続き検討することとなった。

 また、処理装置により処理されたバラスト水は、条約で定められた排出基準(水中に含まれるプランクトン等の数)を満たす必要があるが、一方で、条約では排出基準を最新の処理技術に見合ったものとするため、最初の適用船が発生する2009年の3年前までに基準の見直しを行うことも規定している。

 このため基準の見直しを2006年までに行う必要があることから、本会合では次回MEPC53において、この見直しを行うことが承認された。

 なお、基準の見直しに関し、各国はMEPC53までに最新の処理技術に関する情報をIMOに提出するよう要請された。

 

C今後の予定

 今次会合において、G8およびG9は原則承認されたものの、更に検討を要する部分があり、またその他のガイドラインについてもMEPC53までに最終化する必要があるため、20054月のIMO9回ばら積み液体及びガス小委員会(BLG9)およびMEPC531週間前にバラスト水WG中間会合を開催し、各ガイドラインを審議することとなった。

 

(2)BLG9の審議概要(200544日〜8日)

 BLG9においては、次の8つのガイドラインに関する検討が行われた。

l        G1沈殿物受け入れ施設に関するガイドライン

l        G2PSCのためのバラスト水サンプリングに関するガイドライン

l        G3:プレジャーボート、救助艇に関するガイドライン

l        G4:バラスト水管理およびバラスト水管理計画作成に関するガイドライン

l        G5:バラスト水受け入れ施設に関するガイドライン

l        G6:バラスト水交換ガイドライン

l        G11:バラスト水交換のための設計および構造に関するガイドライン

l        G12:船舶の沈殿物管理に関するガイドライン

  (今次会合において「船舶の沈殿物管理設備の設計および構造に関するガイドライン」

   に名称変更)

 

各ガイドラインの主な審議結果は以下のとおりである。

 

@ バラスト水管理およびバラスト水管理計画作成に関するガイドライン

(a) バラストタンク内の沈殿物には高濃度の水生生物を含むことが予想されることから、同沈殿物を船上から投棄する場合は、陸岸より200海里以遠および水深200m以上の水域とすることとなった。

 また、沈殿物管理に関する運用手順については「船舶の沈殿物管理に関するガイドライン」にも記載があり、本ガイドラインと重複するため、同手順については本ガイドラインに集約することとなった。

(b) バラスト水管理に関する情報を船舶から寄港国に報告することが要求されていたが、バラスト水管理条約では報告要件についての規定がないことから、同要求を削除することとなった。

(c) 本ガイドラインは、20057月のMEPC531週間前に開催される第4回バラスト水中間会合(IBWWG4)にて更に審議され、MEPC53にて採択される予定。

 

 A  バラスト水交換のための設計および構造に関するガイドライン

(a) 水生生物および沈殿物等のバラストタンク内への取入れを防止するため、バラスト水取入れ口(シーチェスト)、 バラスト水関連配管(吸入/排出ライン)などに関する設備構造要件が規定されていたが、他のガイドラインと重複し、また非現実的な要件であることからその多くが削除されることとなった。

(b) 本ガイドラインの審議は、今次会合において終了しなかったことから、IBWWG4において継続審議されることとなった。

 

B 船舶の沈殿物管理に関するガイドライン

(a) 沈殿物の堆積を少なくするためのバラストタンクに関する設備構造要件が規定されていたが、設備構造の専門家のいない当小委員会では審議が出来ないとし、IMO設計設備小委員会(DE)で審議されることとなった。

(b) 沈殿物処理の運用要件については、「バラスト水管理およびバラスト水管理計画作成に関するガイドライン」でも規定していることから、本ガイドラインについては設備構造要件のみを規定することとなり、この結果、ガイドラインの名称が「船舶の沈殿物管理設備の設計および構造のためのガイドライン」に変更されることとなった。

(c) 本ガイドラインについては、DEにおいて審議することをMEPC53に対して求めることとし、200610月のMEPC55において採択される予定。

 

C  PSCのためのバラスト水サンプリングのためのガイドライン

(a) 本ガイドラインに関しては、審議のための十分な時間がなかったことから詳細な検討は行われず、今後、本ガイドラインを最終化するにあたって考慮すべき事項として以下を確認した。

ü       サンプリングは、排出されるバラスト水がD-1基準(バラスト水交換基準)あるいはD-2基準(バラスト水排出基準)に適合しているかを確認するためのものであるが、D-1基準とD-2基準は全く異なる基準であることから、それぞれの基準に対するサンプリング方法を明確にすること。

ü       サンプリング・ポイントはD-1基準の場合バラストタンク・マンホールあるいはバラスト水排出ライン、D-2基準の場合は原則排出ラインとすること。

ü       生物分析結果は、平均値ではなく瞬間値で評価すること。

(b) 本ガイドラインについては、ガイドライン案策定国であるドイツが上記事項を踏まえ、修正案を作成することとなった。

 

D その他のガイドライン

 バラスト水交換ガイドライン、沈殿物受け入れ施設に関するガイドライン、バラスト水受け入れ施設に関するガイドラインおよびプレジャーボート/救助艇のためのガイドラインについては、修文を行った上、合意された。

 バラスト水交換ガイドラインおよびプレジャーボート/救助艇のためのガイドラインについては、20057月のMEPC53にて採択、沈殿物およびバラスト水受け入れ施設に関するガイドラインについては、IMO旗国小委員会(FSI)にて更に審議を行い、200610月のMEPC55において採択される予定。