3・1 外航船社間協定に対する独禁法適用除外制度
外航定期船社によって結成されている運賃同盟や協議協定などについては、日米欧をはじめ各国で独占禁止法の適用除外がかねてより認められており、一定の条件下での協定の締結と活動が行われてきた。
このような中、2002年4月に公表されたOECD事務局報告書(船社間協定への独禁法適用除外制度廃止を推奨)を契機の一つとして、2003年よりEUで同制度の見直しが開始され、その動きは豪州などに拡大しつつある。
当協会は、独禁法適用除外制度の下で認められている外航船社間協定の活動は、良質な定期船サービスを提供し、安定した運賃を維持していく上で通商、貿易そのものに不可欠であり、同制度は海運・貿易両業界全体にとって必要であるとの基本的考え方に基づき、同制度の存続に向け対応している。
最近の主な動向は以下の通りである。
3・1・1 EU
欧州連合(EU)における、競争に関する基本的ルール(実体法)はEC条約(ローマ条約)第81条、82条に規定されており、関係する事業者等を直接規律している。81条は事業者/事業者団体による競争制限的な協定、協調行為等を禁止し、82条は市場支配的地位の濫用を禁止している。また、欧州委員会と加盟国の権限や罰金額等前記2条に関する施行手続は欧州理事会規則No.1/2003(以降「1/2003」と略)で定められている。
定期船分野に関しては、81条、82条に関する細則(欧州理事会規則No.4056/ 86、別名同盟規則、以降「4056/86」と略)が制定されており、これにより海運同盟に対する競争法の一括適用除外が認められている。また、定期船社が配船の合理化を図り高品質のサービスを提供する目的で、船腹の共有および船隊の共同運航、ターミナルの共同使用など比較的緩やかな提携を行うコンソーシアムに対しても、市場占有率に応じた条件はあるものの、同じく細則(欧州委員会規則 No.823/2000、別名コンソーシアム規則、以降「823/2000」と略)により、包括適用除外が認められている。
一方、不定期船部門に関しては、4056/86と同様の規則はないため、同部門には、81・82条が直接に適用されることとなる。ところが、前記2条の手続法である1/2003は、外航不定期船サービスには同規則を適用しないと規定している。(第32条)
このため、不定期船部門に関しては、手続法(EU当局による調査権限や罰金課徴等を定める規則)が存在しないまま、実体法(ローマ条約81・82条)は適用されることとなる。(この理由については、市場が高度に細分化され、多くのプレイヤー(船社)が存在する不定期船分野は、そもそも競争法で規制する必要がなかったから、と説明されることもある)
このため、不定期船に関する調査・罰金課徴等はローマ条約84条(理事会が81条・82条に定める原則適用のため必要な規則・指令を制定するまでの間、加盟国に対し必要な決定を行う権限を付与する規定)に基づき加盟国が権限を持つ、との説が有力である。
3・1・1・1 4056/86見直し問題
(1) 定期船部門
2003年3月27日、欧州委員会は4056/86見直し作業を開始し、関係者に対する21項目の質問を含むConsultation Paperを発表した。
その後、関係者のコメントやデータの提出、公聴会などを経て、2004年6月、欧州委は4056/86廃止提案を盛り込んだDiscussion Paperを公表した。(詳細は船協海運年報2003ご参照)
同ペーパーに対し、ESC*1は直ちにこれを歓迎するコメントを発表する一方、ELAA*2は2004年8月、以下の同盟代替案(以下「ELAA提案」、公表は04年9月)を欧州委に提出した。このなかでは、同盟制度は安定した定期船サービス提供において必要不可欠であり、現在の枠組みを維持すべであるとのこれまでのELAAの立場は不変としつつも、制度の抜本的改正が不可避なのであれば特に下掲の共同行為を船社側に認めるよう主張している。
@ 荷動きや需給状況等に関するデータの分析や公表
A 運賃水準(指標)の推移の公表
B サーチャージ(BAF*3/CAF*4/THC*5等)の共通フォーミュラ設定
ELAA提案には、同盟の根幹機能である共同運賃設定機能が盛り込まれなかった点が特筆され、マスコミに大きく取り上げられるところとなった。ELAAとしては、共同運賃設定機能を一部でも新提案に盛り込んだ場合、これに極端に否定的な欧州委競争総局が一切の船社間協定活動を禁止するおそれが高いため、現実的な策として、欧州航路においては共同運賃設定を特に求めないことにしたものと理解されている。
*1 ESC: European Shippers’ Council(欧州荷主協議会)
欧州16カ国の荷主協会によって構成される荷主団体。本部:ブラッセル
*2 ELAA: European Liner Affairs Association
EU競争法適用除外制度見直しを契機に、欧州発着の定航船社24社(現在は25社)が組織した対EUロビイング団体。本部:ブラッセル
*3 BAF: Bunker Adjustment Factors(燃料費調整料率)
船社間協定で、船舶用燃料油の価格変動を補填するために設定する割増料率。
*4 CAF: Currency Adjustment Factors(通貨調整課徴金)
通貨変動による海上運賃の為替差損を調整する料率。各船社間協定は独自の算出方式により、定期的に実勢レートを反映した見直しを行っている。
*5 THC: Terminal Handling Charges
積み地あるいは揚げ地のコンテナターミナルで発生するコンテナの取り扱い費用の一部を補填する目的で設定された料金。
2004年10月、欧州委は上記ELAA提案をも踏まえ、4056/86見直しに関する基本的な考え方を示すホワイト・ペーパーを公表し、同年12月を期限として改めて関係者にコメントを求めた。また、この際、欧州委は個別船社・荷主等に同盟制度および代替案の必要性などを問う質問状を別途送付している。
ホワイト・ペーパーは、ディスカッション・ペーパーと同じく、海運同盟に対する現行の競争法包括適用除外制度の廃止を提案する一方、代替制度に関してはELAA提案や、官民の関係者から今後得られるコメントを精査した上、検討するとしている。
本ホワイト・ペーパーに対しては、船社側、荷主側、各国政府等から計47通のコメントが寄せられた。このうち船社側は、一致して現行制度維持を志向するものの、欧州委がこれを受け入れない場合はELAA提案を最低限とする代替案を支持することを表明している。また、多くの船社側コメントが、欧州委が同盟制度を廃止する証拠を示していない点を批判し、制度を廃止した場合の影響調査の必要性を強調している。当協会は、原則、現行制度の維持を求めた上で、日本では荷主との対話によって、船社間協定に対する荷主側からの一定の理解が得られている点を紹介し、EUにおいても4056/86の既存条項の活用等により、船社/荷主間の対話促進を図るべきとするコメントを提出した。【資料3-1参照】一方、荷主側はESCをはじめとする団体と、Volkswagen、Wal-Mart等個別企業の大多数が同盟制度および代替案の必要性を否定したが、一部フォワーダー団体は、同盟制度廃止による利用者への影響を調査すべき点を強調した。また、各国政府コメントでは、ベルギー、フランス、ギリシャが少なくとも当面の間4056/86維持を支持した一方、英国は同盟制度廃止を主張しつつ、代替制度を1つに絞るのは時期尚早との見方を示した。また、EU域外の政府としては唯一、我が国国土交通省がコメントを提出し、日本では、同盟や協議協定と荷主団体間で相互に尊重しつつ建設的な関係に発展させようとの意向が双方に存在しており、両者間で共通の認識を形成する努力と率直な意見交換を行っているとの認識を示した上で、4056/86見直しに関し、日本をはじめとする貿易相手国との政策調整が必要との主張を行った。
また、2004年12月、欧州委をはじめとするEU諸機関に対する諮問機関であるEESC*6が、性急な同盟制度廃止による競争への悪影響を懸念し、制度廃止のもたらす影響の慎重な検討を求める意見書を公表・欧州委に提出している。具体的には、現行制度廃止による法の空白を回避するため、一定の移行期間を設け、その間は4056/86の代替となる委員会規則の下、引き続き同盟に対する包括適用除外を認めることを提言している。この委員会規則には、TACA(大西洋同盟協定)に関する欧州委の決定や欧州裁判所のこれまでの判断(=内陸運賃共同設定の禁止、同盟による非公開サービスコントラクト締結制限の禁止、共同船腹調整は短期的かつ運賃上昇に直接結びつかないものに限る、等)を盛り込むことを提案している。また、EU機関としての立場から、性急な同盟制度廃止が、非欧州(主にアジア)船社と激しい競争に晒されている欧州船社に大きな損失を与える可能性があることや、欧州中小船社の市場(主に南北航路)からの撤退につながることなどを強く懸念している。
*6 EESC: European Economic and Social Committee(経済社会評議会)
欧州委員会、理事会に対する諮問機関。企業経営者団体や労働組合、農業、医療、消費者等に関する団体の代表者(評議員)317名で構成される。
その後、2005年4月には、EESC同様のEUの諮問機関であるCoR*7が、4056/86見直し(および港湾サービス自由化:この部分は本稿では内容割愛)に関する意見書を採択した。同意見書は、競争制限的な運賃協定および船腹調整に対する競争法適用除外制度廃止を支持する一方で、制度変更にあたっては、船社が新制度に適応するまでの間、移行期間を設けることや、4056/86廃止が貿易/投資/市場シェア/消費者価格/雇用/海外法制に与える影響に関する調査を行うことなどを要求した。また、ホワイト・ペーパーが廃止を提言している4056/86第2条(技術協定に対して競争法適用除外を認める条項)に関しては、慎重な検討を求めており、同じく廃止提案がなされている同第9条(EU域外の法制と衝突した場合の取扱いを定める条項)に関しては、期限(数年間)付き条項(更新可能)として維持することを求めた。
*7 CoR: Committee of the Regions(地域委員会)
欧州委員会、理事会に対する諮問機関。自治体、地域当局を代表する317名の委員によって構成される。
上記の通り、複数のEU加盟国政府から性急な4056/86廃止を懸念する声が上げられ、また2つの諮問機関から4056/86廃止による影響を慎重に検討すべきとの意見が出されたことから、欧州委競争総局と運輸・エネルギー総局は夫々4056/86廃止の影響やELAA提案の分析に関するstudyを行うこととなった。
2005年6月に公表された運輸・エネルギー総局がICF Consulting社に依頼した報告書の主要点は以下の通り。
- 定期船同盟廃止後は、全体的な経済的利益は増加すると思われる。但し、この結論は部分的なデータと理論経済学に基づいて導き出したものであり、根拠として若干堅牢さに欠ける面があることを認めざるを得ない。結論が定期船の全分野に等しくあてはまっていくとは思われず、移行に伴う負担が生じるであろう。
- 同盟に対しての包括適用除外廃止による競争・集中・船腹供給に対する影響は、大規模なトレードにおいては大きくないと思われる。しかしながら小規模トレードにおいては、特に新しい制度に適応するまでの短い間、著しい影響を与える可能性がある。
- 制度廃止が小規模荷主に対して過剰な影響を与えるかどうかについては関係者間で意見は一致しなかった。業界の自由化が小規模荷主を犠牲にする略奪的価格形成へと繋がる可能性はある。また、小規模船主は同盟の廃止に対する迅速な適応力が低い可能性もある。
- 同盟は運賃の乱高下を緩和するものとは思われず、また、同盟廃止が総じて運賃乱高下を減少させる可能性がある。しかしながら、小規模なトレードでは、とりわけ短期間は(同盟廃止が)反対の作用を起こす可能性がある。
- 制度廃止はEUの定期船事業の競争力もしくは貿易競争力に大きな影響を与えるとは思わない。
- 初期評価における時間とリソースが非常に限定されていたことを考えれば、レポート内で扱われているいくつかの項目については更なる調査が必要かもしれない。関係者間で意見が異なる4056/86の廃止による経済的影響については更なる調査が担保されるかもしれない。
- 特にEUに拠点のある海運業の競争力の問題について追加の見識を得るために、更なる調査はEU域内及び近海航路の小規模同盟に焦点を当てるべき。これまでのstudyの大半は、情報が得やすいこともあり、大規模同盟に集中している。
一方、欧州委競争総局による報告書は現時点では公表されていない。
(2) 不定期船部門
前述(1)の欧州委Consultation Paperには、4056/86の対象を不定期船部門に拡大するべきかという質問が含まれており、4056/86見直しに伴い、不定期船部門に関してもEU競争法の適用のあり方が見直されることとなった。
同じく前述の欧州委ホワイト・ペーパーでは、欧州委は、外航不定期船部門に与えられてきたEU競争法手続法(1/2003)からの適用除外(32条)を廃止し、他産業分野と同様に、1/2003に基づき欧州委に調査や罰金課徴の権限を与えるべきとの考え方を示した。
不定期船分野に関しては、欧州ではプール運航*8の形態が多く見られるが、これまで1/2003の適用が除外されていたため、プール運航をはじめとする不定期船社間の協力体制がEU競争法に抵触するか否かについての欧州委の決定や欧州裁判所の判例はない。このため、ECSA*9は、32条が廃止される前に、プール協定等不定期船分野へのEU競争法適用に関する欧州委のガイドライン発行が必要であるとして、欧州委と話し合いを続けている。
現在のところ、欧州委は実際に32条が廃止になった後でなければ、ガイドライン発行は不可能との見解である旨伝えられているが、ECSAは、既存のプール協定等に関する法的安定性確保のため、32条廃止前にガイダンスを発行することを要請している。
*8 プール運航:バルク船やタンカーなどの不定期船の船主やオペレーターが、自社の船隊の全体または一部を他社との船隊プールに投入することにより、荷主の要請に応じた幅広いサービス提供を図るとともに、船舶の稼働率の向上、運航費用の削減などを目指すもの。欧州船社の主導によるものが多いとされる。
*9 ECSA:European Community Shiponwers’ Associations
EU加盟国中の18ヶ国およびノルウェーの19ヶ国の船協で構成する船主協会で、欧州委員会に対する欧州船主の意見反映を主な目的としている。本部:ブラッセル
3・1・1・2 コンソーシアム規則更改
2000年に施行された規則823/2000は5年毎に全面見直しを行うことが定められており、この期限が05年4月25日となることから、04年5月27日、欧州委はConsultation Paperを公表し、今後の選択肢として@規則廃止、A無修正更改、B主として技術的な修正を行った上で更改、の3つを挙げた。なお、同Paperでは、欧州委は選択肢@に関しては「コンソーシアムに対する包括適用除外の正当性は未だ有効と思われる」とコメントし、規則を廃止する考えのないことを明らかにした。
本件に関しては、荷主側(ESC)も制度存続に原則賛成する立場を表明したほか、船社側も、ECSAやELAAが中心となって制度の維持・改善を求めて対応した。この結果、05年4月20日、規則823/2000は一部改訂の上、2010年4月25日まで延長されることとなった。
成立したと改訂規則(823/2000を改訂する欧州委員会規則611/2005)による823/2000の主な修正点と、ECSAが提出した意見の要旨は以下の通り。
@ Lock-In Period(コンソーシアム)からの脱退を制限できる期間、以下「LP」)の実質的拡大(「サービス開始」に関する修正と、相当の新規投資(substantial new investment)概念の導入)
<823/2000 第8条(b)>
協定発効後、18[30]ヶ月のLPを経れば、6ヶ月前予告にて脱退可能
([ ]内の数字は、運賃プール制採用若しくはコンソーシアム結成のためにメンバーが船を購入・用船する等の大型投資を伴う結合度の高いコンソーシアムの場合の例外規定)
<611/2005 による改正第8条(b)>
以下(a)、(b)いずれかを起算日として、18[30]ヶ月のLPを経れば、6ヶ月前予告にて脱退可能
(a) コンソーシアム協定発効
(b) 共同運航を行う為の相当の新規投資(substantial new investment)*を行う合意
* 船舶建造、購入若しくは長期用船を伴う投資であり、コンソーシアムサービス実施に要するメンバーの総投資額の半額を超えるもの
但し、協定発効日がサービス開始日**に先立つ場合は、LPは上記(a)、(b)いずれかの後、24[36]ヶ月を超えてはならない。
** 第1船の就航日。但し、相当の新規投資が行われた際は、当該投資によって就航した第1船の就航日
<新規則の主な効果>
・ 新コンソーシアム結成の際、サービス開始日を協定署名日以降に定めれば、LPは従来の18[30]ヶ月から24[36]ヶ月に拡大(起算日:協定署名日)
・ 既存コンソーシアムにおいて、投入船入れ替え等の相当の新規投資を行う場合は、新たに24[36]ヶ月のLPを設定可能(投入船入れ替え後のサービス開始日は、常にコンソーシアム協定発効(=署名日)以降となるため、18[30]ヶ月ではなく、24[36]ヶ月のLPが適用)
A 対外秘サービスコントラクト(Confidential SC)の競争促進効果の追認
<823/2000 第5条(a)>
コンソーシアム協定に対する包括適用除外の要件の一つは、コンソーシアムを結成している同盟メンバー間での有効な運賃競争の存在である。かかる競争は、コンソーシアム加盟の同盟船社がインディペンデントアクション(IA)を認められていることにより担保される。
<611/2005 による改正第5条(a)>
コンソーシアム協定に対する包括適用除外の要件の一つは、コンソーシアムを結成している同盟メンバー間での有効な運賃競争の存在である。かかる競争は、コンソーシアム加盟の同盟船社がIAを認められていること、かつ/若しくは個別対外秘サービスコントラクト締結を認められていることにより担保される。
[参考]ECSAの主張(ECSA意見書)
・ 823/2000を廃止ではなく、延長するとの欧州委の提案を歓迎する。
・ (投資額に関する船社間の情報交換は競争法上禁止されている為)相当な新規投資を定義するのは困難ではあるが、総投資額の半額を超えなければ相当な新規投資と認めないのは厳格過ぎる。半額ではなく、1/3として頂きたい。
・ マーケットによる取扱い区分(market thresholds:第6条に規定)の廃止もしくは大幅緩和を求める。
・ 船腹調整規定(第3条2、第4条)において、「船腹調整は需給状況等、通常の経済基準に則って行う」旨を明記することを求める。
・ 第2条1の"chiefly by container"の文言削除による規則の不定期船輸送への拡大余地の確保を求める。
3・1・1・3 その他船社と競争当局間の要解決事項
(1) FETTCSA罰金訴訟
旧FETTCSA(Far East Trade Tariff Charges and Surcharges Agreement、1991年〜1994年に活動。邦船社では商船三井、日本郵船、川崎汽船が加盟)において、同盟船社と盟外船社が諸サーチャージの算出方法を合意していたことが反競争的として、2000年に欧州委員会が加盟船社に課徴した総額約680万ユーロの罰金に関し、2003年3月19日、欧州初審裁判所は罰金支払命令を無効とする判決を出した。(詳細は『船協海運年報2003』参照)
これを不服とした欧州委は、03年6月に上級審(欧州裁判所)に控訴を行ったものの、04年12月、欧州裁判所は、欧州委の主張は明らかに受け入れられない、若しくは根拠に欠けるものとして控訴を棄却する判決を行い、これにより本件は最終決着が図られた。
3・1・2 米国
(1) 米国反トラスト法見直しの動きと、適用除外制度を巡る動向
米国においては、1999年5月に施行されたOSRA(Ocean Shipping Reform Act:1998年改正海事法、正確には1998年外航海運改革法によって修正された1984年海事法)によって定期船社間協定に対する反トラスト法適用除外制度が確認されている。
2002年、米国議会は反トラスト法(全体)の見直し作業を行う独禁改革委員会設置法案を可決し、2003年に同委員会が発足した。(詳細は『船協海運年報2004』参照)同委員会の検討対象は全産業とされており、定期船社間協定に対する適用除外措置もこれに含まれている。
2004年10月20日には公聴会が開催され、同委員会2006年を目途に取り纏める報告書の特性等につき、検討が行われた。
その後、05年5月に同委員会から関係者に、3倍賠償制度や合併に関する手続き、各種適用除外措置等反トラスト法に関わる広範な論点に関するコメントが求められ、コメント期限はテーマによって6月中旬〜7月中旬とされた。同委員会が特に集中した検討を行うとした8項目の適用除外制度の一つにOSRAが挙げられており、これに関するコメント期限は7月15日とされている。
本件に関しては、船社はWSC*1が中心となって対応することとしているが、当協会としても動向を注視していくこととしている。
*1 WSC: World Shipping Council(世界海運評議会)
米国ワシントンに本部を置き、米国海運政策問題への対応を主な目的とする世界主要船社約30社の団体。
(2)OSRA改訂(非公開SC権の拡大等)を求める動き
OSRA下では、NVOCC(複合運送事業者)には荷主との非公開サービスコントラクト(SC)締結が認められていない。2003年7月以降、UPSをはじめとするNVO業者や団体が、非公開SC締結権付与やFMCへのタリフ提出義務の免除を求めてFMCに相次いで要請を提出した。(詳細は『船協海運年報2004』参照)
これに対し、WSCはFMCに慎重な検討を求めるコメントを提出(一定の条件が満たされれば、絶対半地の立場は取らない)している一方、DOT(米国運輸省)はNVOにも船社同様の権利を認めるべきとの立場に立ち、ILWU(北米西岸港湾労働者組合)はNVOの主張に反対する立場を明らかにしてきた。
FMCは関係者の意見を踏まえ、検討を続けていたが、検討の遅れを懸念したUPSらのNVO業者はNITL(National Industrial Transportation League:米国最大の荷主団体の一つ。1,300社が加盟)らと連名で04年7月、FMCに早期の指針決定を督促する書簡を提出した。
その後も、8月〜9月上旬にかけて、UPSを含むNVO関係者や関連団体、DOT、WSC、NBCFAA(National Customs Brokers & Forwarders Association)などがそれぞれの立場から再度FMCに意見書を提出したものの、FMCは態度を明確化しなかった。このため、議会で強力なロビイング力を有するUPSなどの要請を却下すると、OSRA廃止論が再燃するとの指摘も一部からなされるようになった。
このような状況下、9月30日、WSCは8月にNVO関係者の連名で提出された意見書を評価した形でNVOへの非公開SC締結権を支持する意見書をFMCに提出し、事態はNVOの主張を認める方向で急速に動き出した。
10月27日、FMCは公開のコミッショナー会議を開催し、5名のコミッショナーは全会一致でNVOへの非公開SC締結権を認めることを決定した。
翌28日には本件に関する新規則(NSA規則)案が公表され、関係者からの意見提出を経て、12月14日に開催されたFMC公開会議で賛成3、反対1、棄権1でほぼ原案通り採択され、その後若干の修正を経て05年1月19日に発効した。
NSA(Non-Vessel Operating Common Carrier Service Arrengements)規則の要旨は以下の通り。
- NVOCCは、運送人として、NSA ShipperとのSC(NSA)締結を認める。
- NSA Shipperとは、@Beneficial Cargo Owner若しくはA NVOCCをメンバーとしない荷主の団体を指す。
- NSA締結にあたっては、船社/荷主間のSC同様、FMCへの届出が必要であり、非公開NSAの締結も可能。
- 但しNVOCC同士のNSA締結や、NVOCCとNVOCCをメンバーとする荷主団体と間のNSA締結は禁止する。
(FMCがNVOCC同士のNSA締結を禁止する理由:
NVOCC同士のNSA締結を是認した場合、NSA規則が非公開NSA締結(=タリフ公開義務の免除)を認めているため、OSRA第7条(a)2(B)(=タリフ公開義務を免除されている活動には反トラスト法適用除外を認める規定)により、NVOCC間の行為に反トラスト法適用除外を認める結果につながる。しかしながら、FMCはNVOCCに反トラスト法適用除外は与えない方針であり、このような結果は受け入れられない)
同規則に対しては、UPS、NITLは歓迎の意向を示したものの、中小荷主などで構成されるISA*2とAISA*3は中小NVOCCの競争力低下につながり、行政手続法にも違反しているとして、規則発効日である1月19日、FMCに再考を求める請願書を提出するとともに、ワシントンDC地区連邦控訴裁判所にFMCを提訴した。
*2 ISA(International Shippers’ Association)
米国の家庭用品輸入荷主・フォワーダーなどで構成する団体。
*3 AISA(American Import Shippers Association)
繊維、玩具、靴、ハンドバックなどを扱う米国中小輸入荷主の団体。会員数約500社
このようなISAの動きに対し、大手NVOCC・荷主ら7社(UPS、BAX Globe、FedEX TNTB Inc.、C.H. Robinson Worldwide Inc.、NITLら)は、1月24日、ISAの訴状はNSA規則により被害を受ける具体的事実根拠を提示していないとして、NSA規則を現行通り維持することを求める意見書をFMCに提出した。
この後、2月2日、ISA/AISAは、1月19日付請願書に対するFMCの最終判断が示されていないとして、連邦控訴審への提訴を一時取り下げた。
2月8日、FMCは、ISA/AISAの請願書はFMC規則で定める再考条件を充足しないとしてこれを否認する決定を行った。これを受けてISA/AISAは2月10日、ワシントンDC地区連邦控訴裁判所に再度提訴を行った。
この後、05年6月までの間に本件に関する大きな動きは見られないが、引き続き動向が注目される。
(3)協議規定規則の改定について
2003年11月にFMCから公表された協議協定に関する提出書類の拡大と、諸手続きの一部簡素化を主な目的とするFMC規則(46 C.F.R. Part 535)改訂案(詳細は『船協海運年報2004』ご参照)については、関係者からのコメントを踏まえ、04年11月に最終案が公示され、05年1月3日に発効した。
3・1・2 豪州
(1) AADAに対する競争当局調査について
豪州における競争法(日本の独占禁止法に相当)は、1974年取引慣行法(Trade Practices Act 1974、以降TPA)で定められており、外航定期船社間協定については、TPAのPart X(第10章)により、TPAからの適用除外が認められている
豪州競争当局(ACCC:競争・消費者委員会)は、03年10月、同国輸入業者らの苦情を受けて、アジア発豪州向け航路の協議協定であるAADA(Asia-Australia Discussion Agreement)が2003年7月、8月、10月に行った運賃修復に対し、調査を開始した。
調査の結果、04年4月、ACCCはAADAへの競争法適用除外を取り消す可能性を強く示唆した中間報告書(Position Paper)を公表した。(詳細は『船協海運年報2004』ご参照)
これに対し、AADA側はACCCの中間報告書の内容を批判する声明を発表していた。
その後のACCCでの最終検討の結果、04年7月19日、ACCCは中間報告書の方針から一転、最終的に「AADA解散は求めない」旨の報告書を公表した。概要は以下の通りである。
- ACCCは、調査開始当初、AADAの高い市場シェアと十分な予告期間を経ない大幅な運賃値上げ、及び明らかな船腹供給不足に関する荷主(豪輸入業者)の苦情を懸念した。
- 調査の結果、AADAが高度な公益性を持っているとの結果は得られなかった。
- しかしながら、上記運賃上昇/船腹不足は多くの要因があり、ACCCはAADAの競争制限的な面に起因する影響と市場要因による影響を峻別することはできなかった。
- AADAは、メンバーの船腹供給増に向けた意思決定に影響を与えたようであり、AADA外の新規参入船社と相俟って船腹は増加した。
- よって運賃上昇と、追加船腹提供の遅れがAADAメンバーの行動に起因するとは言い切れず、ACCCはAADA解散を運輸大臣に諮問することは不可能である。
(2) 豪州競争法適用除外制度(TPA Part X)見直しについて
TPA Part Xについては、前回見直し(1999年)の際、次回見直し期限を2005年と定めていたものの、豪州政府は2004年6月23日、関係者の要望などを受ける形でこの見直し期限を1年間繰り上げて、2004年末までに結論をまとめることを発表した。繰上げの背景には、前項に記載した荷主業界からの要望やEUでの適用除外制度見直しの動きが影響しているものと見られている。
7月には、見直しを諮問された生産性委員会(Productivity Commission、豪州政府の調査・諮問機関)から関係者への質問事項等を含んだ論点ペーパー(概要下掲)が公表され、8月13日を期限にコメント提出が求められた。
<論点ペーパーの主なポイントと関係者に対する質問事項>
@生産性委員会の立場
- 豪州政府の法制見直しに関する原則(guiding principle)によると、挙証責任は反競争的効果等を持つ法制の維持を推奨する側にある。
- 今回の見直しに関しては、TPA Part X維持派が証拠を示さなければ、Part Xは廃止される。
APart Xは維持されるべきか?
- WSC、ESC、OECD、ACCCの従来の見解を紹介。ACCCはPart Xに否定的見解。
- Part Xの論拠、現在の市場への適合性、競争制限性などにつき、9項目の質問。
BPart Xを廃止した場合の代替策は?
- 現行包括適用除外制度にかわり、個別適用除外制度を適用した場合の影響等につき、7項目の質問。
CPart Xを維持する場合、要改善点は?
- 荷主から見たPart Xの問題点、協議協定を包括適用除外の対象に含むことの是非、市場シェアに応じた取扱いを行う必要性、対外秘サービスコントラクトに関する保護規定整備の要否、主要貿易相手国・地域の法令との整合性等につき、18項目の質問。
本件については、船社側はSAL*1を中心に現行制度維持を求めて対応し、当協会は、SALをサポートするため、制度維持に向けた原則的な立場と我が国での荷主との協議慣行などを紹介するコメント【資料3-2参照】を作成し、8月13日、生産性委員会に提出した。この中では、豪州の代表的な輸出荷主団体であるAPSA(Australian Peak Shippers Association)が、Part Xの認める協議協定とサーチャージの共同設定には反対しているものの、Part X全体は海運サービスの不安定化をもたらし、荷主に悪影響を及ぼすと主張している点が特筆される。
この他生産性委員会には、最終的に豪州内外の計16の団体からコメントが提出され、そのうち約8割のコメントはPart Xの存続(一部修正を含む)を支持した。
しかしながら、04年10月、生産性委員会は、Part Xの全廃が好ましい選択肢とするDraft Reportを公表し、12月17日を期限として再び関係者にコメント提出を求めた。同Reportの要旨は以下の通り。
*1 SAL:Shipping Australia Limited
豪州発着船社(邦船社現地法人3社も含む)・代理店等26社を正会員とし、港湾管理者等を賛助会員とする海運団体。豪州発着の船社間協定の事務局業務も行う。
<Draft Report要旨>
- Part Xは米国の除外制度およびEUの除外制度・最近の運用と比較しても寛大な制度である。
- 定期船業界は多くの特徴を持つが、それらは海運に特有のものではなく、海運業だけに特別な制度を設ける必要は認められない。
- 船社間協定による共同運賃設定と船腹コントロールは、反競争性を最も大きく孕んでおり、海外の実例では、この種の協定がサービス提供の安定性のため必ずしも必要とは言えないことが示されている。
- Part Xにおける豪州の荷主の船社に対する対抗力は効果的ではなく、船社間の競争を促進した方が荷主の利益となる。
- 生産性委員会は上述の事態改善のため、以下の方法を提案する。なお、本委員会は以下(a)を最も望ましい選択肢と考える。
(a) Part Xは全廃。同盟、協議協定、コンソーシアムとも個別適用除外の対象とする。
(b) Part Xを存続。コンソーシアムはPart Xを適用し、同盟、協議協定は個別適用除外の対象とする。
(c) Part Xを存続。同盟、コンソーシアムはPart Xを適用し、協議協定は個別適用除外の対象とする。
同Reportに対し、当協会は12月17日、同時期に提出した欧州委宛コメント(3.1.1ご参照)の内容に加え、豪州の貿易相手国としての日本の重要性を強調したコメントを提出した。また、我が国国土交通省も欧州委宛(3.1.1ご参照)と同様の趣旨のコメントを提出したほか、計30の団体・個人からコメントが提出された。
また、04年12月1日にシドニー、12月6日にメルボルンにて関係者公聴会が開催され、SAL、
APSAなど計8団体が意見表明を行った。
これらを踏まえ、生産性委員会は05年2月23日に最終報告書を財務大臣に答申したものの、05年6月現在、報告書の内容は公表されていない。
また、05年3月16日には、SAL代表団がキャンベラの豪州政府首脳を訪問、Part X維持の立場から働きかけを行い、当協会もこれに参加した。訪問先と代表団メンバーは以下の通り。
<訪問先>
・ John Anderson副首相 兼 運輸・地域サービス大臣
・ Philip Ruddock司法長官
・ Ian FacFarlane産業・観光・資源大臣代理Robert Underdown大臣産業顧問
<SAL代表団メンバー>
・ Michael Phillips SAL会長
・ 宮地 譲 MD/CEO, “K” Line (Australia) Pty. Ltd
・ 城川三次郎MD/CEO, Mitusi O.S.K. (Australia) Pty. Ltd
・ 菊池 力NYK Line Australia社長
・ 園田裕一 当協会企画部長
・ その他SALメンバー(ANL, CP Ships、OOCL、P&O Nedlloyd等)6名
現在、Part X見直しについては生産性委員会の最終報告書を踏まえ、豪州政府内部で検討が行われているものと思われるが、05年3月以降表立った動きは伝えられておらず、同政府はEUなど諸外国の除外制度見直しの動きを見極めた上で判断するものと見られている。
3・1・4 シンガポール
シンガポールでは、2004年10月、日本の独占禁止法にあたる「2004年競争法(The Competition Act 2004)」が国会で成立し、2006年1月1日より大半の規定が施行されることとなった。
同法に基づき新たに設置されたシンガポール競争法委員会(Competition Commission of Singapore: CCS)は、同法に関するガイドライン策定を行うことになり、これに対する関係者のコメントが05年5月13日を期限として求められていた。
同法34条では、価格協定をはじめとする競争制限的な事業者間協定の禁止が定められている一方、同法、同法適用免除規定および上記ガイドライン案には、船社間協定に対する適用除外制度に関する具体的規定が盛り込まれていない。
このため、当協会はシンガポール船主協会と情報交換し、5月10日に豪州で開催されたASF総会のSERC会合でも問題提起した上、日米欧同様の船社間協定に対する適用除外措置を求めるコメントを香港船主協会との連名で提出した。【要旨:資料3-3参照】
なお、シンガポール船主協会、ICS(国際海運会議所)、NOL/APLも当協会と同様に適用除外措置を求めるコメントを提出した。
現在、シンガポール政府内で検討が行われており、05年内には結論が出されるものと見られている。
3・1・5 その他諸国
(1) 中国
中国では、独占禁止に関する法令として「不正競争防止法」「価格法」「入札募集及び入札法」「地域間封鎖の打破に関する規定」があり、価格カルテルに関しては、「価格法」で規定されている。また、地方政府レベルでは、更に細かい規定が存在する。
一方で、包括的な独占禁止法は未制定であり、独禁当局も設置されていない。このため、1994年に独占禁止法の起草が開始され、04年9月には商務省による草案が完成し、現在国務院(内閣)による検討が行われている。現在のところ、全国人民代表大会(国会)での法案成立は2005年末〜2006年初になるものと見られている。
(2) ブラジル
ブラジル政府は、2004年、外航海運に対する適用除外制度を見直す方向で検討を開始したとされる。見直しの方向性が不透明なため、これを見極めるまでの間、04年4月、日本・極東/ブラジル・リバープレート海運協議協定は活動を停止(解散)することとなった。
3・1・6 日本
我が国では、船社間協定に対する独占禁止法の適用除外制度は、海上運送法に規定されている。同法は最近では1998年に見直しが実施(成立・施行は1999年)され、審査手続きの一部を修正(利用者利益の概念を新たに挿入)した上、制度自体は維持されている。
2004年2月、国土交通交通省海事局は、EUなどの除外制度見直しの動きも踏まえ、学識経験者、海事局外航課、日本荷主協会、当協会による委員会(日本海運振興会海運問題研究会海運経済委員会、委員長:杉山武彦一橋大学教授(現学長))を発足させた。04年5月に第1回会合が開催されて以来、05年6月までの間に7回の会合が開催され、除外制度を巡る諸外国の動きや外航船社間協定によるメリット・デメリットなどに関し、率直な意見交換が行われた。
当協会はかねてより、外航船社間協定は海運業界のみならず荷主を含む貿易業界全体にとって有益なものであるとの考え方に基づき、こうした協定に対する独禁法適用除外制度の維持を主張してきており、本委員会でもこの立場に基づき対応することとしている。
また、日本における船社と荷主の間の対話に関し、当協会は04年11月、05年6月に開催されたコンテナ・シッピング・フォーラム(主催:日本海事新聞社)に日本荷主協会とともに協力した。各フォーラムでは、国土交通省海事局外航課による基調講演の後、荷主から見た定航業界に関する諸問題や中国のコンテナ物流、北米・欧州航路の現状などについて、船社と荷主夫々の代表による講演と意見交換が行われた。