3・2 WTO
WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)は1995年に設立され、本部をジュネーブに置き、モノやサービスの貿易の自由化を図る多国間協定を実施するための国際機関である。
WTOが管轄している協定には、関税の引下げなどによってモノ(物品)の自由貿易を促進するためのGATT(関税及び貿易に関する一般協定)やサービス産業における自由化を促進するためのGATS(サービス貿易に関する一般協定)などが含まれており、海運はGATS適用を目指す業種の一つとして自由化交渉が進められてきた。
しかしながら海運は1995年までのウルグアイラウンドや、その後1996年まで続けられた継続交渉(NGMTS)にもかかわらず、サービス産業の中で唯一自由化に関する合意が成立しておらず、GATSの対象外業種となっている。
1999年11月に米国シアトルで開催された第3回WTO閣僚会合では新多角的通商交渉(新ラウンド)は立ち上がらなかったが、2001年11月にカタールのドーハで開催された第4回閣僚会合において新ラウンドの立ち上げを謳った閣僚宣言が採択され、新ラウンド(正式には「ドーハ開発アジェンダ(DDA)」と称するが本稿では便宜的に「ドーハ・ラウンド」とする)が立ち上げられた。なお、交渉期限は2004年末とされた。
2003年9月には、期限内の妥結に向けた基本事項の合意を目指し第5回閣僚会合がメキシコのカンクンで開催されたが、交渉は決裂し、所期の目的は達成できなかった。
その後WTO交渉は停滞していたが、2004年7月、WTO一般理事会で交渉の「枠組み合意」が採択され、交渉が再び軌道に乗ることとなった。2005年12月に香港において第6回閣僚会合を開催することが合意され、2004年末とされていた当初の交渉期限の延長が決定された。「枠組み合意」には農業交渉などの枠組み合意が盛り込まれた他、サービス分野に関しては、交渉の促進が示されるとともに、2005年5月末を期限に改訂オファーを提出することが盛り込まれた。
一方、日本政府は、WTOを中心とする多角的な自由貿易体制を補完するものとして経済連携協定(EPA)を推進している状況にある。
外航海運業はかねてより海運自由の原則の下で自由化が進展している分野ではあるが、一層の自由化が望まれる国々も依然として存在している。外航海運が世界貿易の持続的発展を支援していく上でも、最恵国待遇や内国民待遇などのGATS諸原則が早期に外航海運分野に適用され、公正な市場開放が多角的枠組みの下で保証されていくことが重要である。
3・2・1 WTO第3回閣僚会合後の動き
1999年11月に米国シアトルで行われた第3回WTO閣僚会合では、アンチダンピング等の問題で各国の意見が対立し、新多角的通商交渉(新ラウンド)は立ち上がらなかった。(「船協海運年報2000」参照)
しかしながら、海運を含むサービスと農業については、ウルグアイラウンド終結時の決定事項に基づき、2000年1月からサービス貿易理事会(以降サ貿理)特別会合で自由化交渉が開始され、暫定作業計画に基づいて各国から分野別交渉提案が行われた後、2001年3月には各国提案を元に「交渉ガイドライン」が合意された。
一方、日本、EC等海運交渉に関心のある国/地域は、サ貿理特別会合での交渉開始を受けて海運関心国非公式会合(いわゆる“海運フレンズ会合”)を2000年7月に結成し、早期に海運交渉を本格化すべく、同特別会合に海運交渉に関する共同声明を提出するなど各国に対する働きかけを行った。
その後、サ貿理特別会合では、2001年11月に開催される第4回閣僚会合後の本格交渉開始を視野に入れ、各国の分野別交渉提案の論点整理を行った。
(「船協海運年報2001」参照)
3・2・2 WTO第4回閣僚会合後の動き
WTOは新ラウンド立ち上げを目指し、2001年11月9日から14日までカタールのドーハで第4回閣僚会合を開催した。
(1)中国、台湾の加盟
第4回閣僚会合期間中に中国および台湾のWTO加盟が正式承認された。
中国は加盟承認直後に、加盟受諾文書をWTO事務局に寄託したため、WTOルールに基づき文書提出から30日後の2001年12月11日に加盟が発効した。
また、台湾は12月2日に加盟受諾文書を寄託したため、2002年1月1日に加盟が発効した。
(2)新ラウンドの立ち上げ
米国同時多発テロによって強まった世界景気減速への危機感を背景に開催されたドーハ閣僚会合では、新ラウンド立ち上げが決裂した第3回閣僚会合の反省に立ち、WTO体制の恩恵が乏しいとする途上国に配慮して議論が進められ、新ラウンドの立ち上げを謳った閣僚宣言が採択され、「ドーハ開発アジェンダ」、通称「ドーハ・ラウンド」が立ち上げられた。
閣僚宣言では、新ラウンドの期限を2004年末までとしており、加盟144カ国/地域は今後約3年間の交渉で鉱工業品の関税引き下げや農業自由化などを含め、新たな通商ルールを作ることになった。
これにより2001年1月から交渉が開始されているサービス分野についても、新ラウンドの枠内で交渉が行われることになり、海運を含むサービス分野について以下日程が定められた。
● 他国に対する1回目の自由化要望(リクエスト)提出期限:2002年6月30日
● 同要望に対する1回目の回答(オファー)提出期限:2003年3月31日
(「船協海運年報2002」参照)
3・2・3 WTO第4回閣僚会合後のサービス交渉の動き
新ラウンドの立ち上げに伴い、海運を含むサービス分野については各国の1回目の自由化要望(リクエスト)を2002年6月30日までに提出することが定められていたため、わが国政府も海運関係要望事項を含む各サービス産業横断的な自由化要望を各国に送付した。(海運分野に関する自由化要望事項は87カ国に提出)
各国の自由化要望に対する1回目の回答(オファー)期限は、2003年3月31日までとされていたが、2004年7月末までに、日本を含め44カ国がオファーを提出し、そのうち23カ国が海運分野についての何らかのオファーを行っている。オファー提出を受け、各国は内容確認などのための二国間協議を進めている。米国は海運分野についてはリクエストもオファーも提出しておらず、交渉の進捗状況を見守る姿勢をとっている。
なお、2003年3月のサ貿理特別会合において、日本政府が中心となり、52カ国共同で海運分野の交渉への各国の積極的な参加を求める共同ステートメントを提出した。
リクエスト・オファー方式 WTO サービス交渉においては、各国が相互に自由化の要求を行い(リクエスト)、各国は要求に応じることが可能な案件を提示し(オファー)、最終的に最恵国待遇原則の下、二国間の合意内容が全加盟国に適用される方式(リクエスト・オファー方式)を採用している。 |
3・2・4 WTO第5回閣僚会合
WTOは、2003年9月10日から14日までメキシコのカンクンで第5回閣僚会合を開催した。この閣僚会合は、2005年1月1日の交渉妥結に向け、農業分野でのモダリティ(注1)確立・非農産品アクセス交渉のモダリティ合意・シンガポール・イシュー(注2)の交渉立ち上げ合意などを目指したものだが、先進国・途上国間の対立の激化により交渉は決裂し、所期の目的を達成できなかった。
なお、第5回閣僚会合までにWTO加盟国は148カ国・地域となった。
(注1)モダリティ:関税の引き下げや国内保護の削減などについて、各国に共通して適用される取り決め。
(注2)シンガポール・イシュー:@投資、A競争、B貿易円滑化、C政府調達透明性の4つの案件(イシュー)を指す。1996年のシンガポール閣僚会合でこれらイシューのルールについて検討が開始されたのでこう呼ばれる。
3・2・5 WTO第5回閣僚会合後の動き
カンクン閣僚会合決裂以降WTO交渉は停滞していたが、2004年7月、WTO一般理事会で交渉の「枠組み合意」が採択され、交渉が再び軌道に乗ることとなった。2005年12月に香港において閣僚会合を開催することが合意され、2004年末とされていた当初の交渉期限の延長が決定された。「枠組み合意」には農業交渉などの枠組み合意が盛り込まれた他、サービス分野に関しては、交渉の促進が示されるとともに、2005年5月末を期限に改訂オファーを提出することが盛り込まれた。
「枠組み合意」の概要:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/wto_gh_0408.html
日本政府は、2006年6月中旬に改訂オファーを提出した。その中で、海運関連分野については、新たに船舶の保守及び修理サービスに関してオファーを行った。(概要は資料3-2-5参照)
3・2・6 WTO第6回閣僚会合(2005年12月於香港)に向けて
2005年1月から5月にかけて断続的に非公式閣僚会合が開催されたが、2005年1月にスイスのダボスで開催された非公式閣僚会合において、2006年末までに交渉を終結させることが確認された。
2005年2月のサ貿理特別会合において、わが国を含む41カ国は、海運分野における自由化は加盟国全体の利益になるとの観点から、各国がより質の高い自由化約束をするよう求める「海運交渉推進のための共同声明」を採択した。
加盟各国は、「2006年中に新ラウンド交渉を終結させるために、2005年12月の香港閣僚会合における合意が重要であり、その合意のFirst Approximation『たたき台』を2005年7月末までに作成する」との共通認識が形成されており、各国は『たたき台』作成のための作業を進めている。
3・2・7 WTOサービス自由化交渉に対する民間の対応
(1)当協会の対応
他国に対するわが国要望事項に当協会意見を反映すべく、国際幹事会において20カ国/地域に対する当協会としての海運関係要望事項を取り纏め、2001年1月に国土交通省に提出した。
その後、2003年3月が期限とされていた各国からの1回目の回答(オファー)の提出を受け、日本政府はサ貿理特別会合において各国政府とオファーの内容について確認のための二国間協議を進めているが、この円滑な交渉の進展に資するため、当協会は、国際幹事の意見・要望を踏まえ、必要な情報を国土交通省に提供している。
今後も、同省や関係機関を通じてサ貿理特別会合や2国間協議等の情報収集に努めると共に、今次交渉でGATS諸原則の海運分野への適用が実現し、海運市場の自由化が促進されるよう意見反映を図ることとしている。
(2)日本経団連の活動
@新ラウンド交渉の実質的進展に向けたポジションペーパー
日本経団連はわが国産業界の意見を集約した提言を例年取り纏めており、2005年6月には、第6回香港閣僚会合に向けて同7月末までに作成することとされている“First Approximation”(『たたき台』)にわが国経済界の意見が反映されるようポジションペーパーを取り纏め、内外の関係方面に提言を行った。
A 日本経団連貿易投資委員会ミッション
日本経団連は、日本の経済界の意見を反映させることを目的に、2000年以降、毎年、ジュネーブ等にミッションを派遣している。2005年は、秋にジュネーブおよびワシントンDC)にそれぞれミッションを派遣、WTO事務局首脳他と会談し、WTO新ラウンド交渉の活性化をめぐり率直な意見交換を行う予定となっている。
(3)国際海運団体の活動
各国の船主協会で構成するICS(国際海運会議所)でもWTO問題を取り上げており、海運業界としての意見をOECDの会合等に反映している。
3・2・8 FTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)
日本政府は、WTOを中心とする多角的な自由貿易体制を補完するものとして経済連携協定(EPA)を推進している。(「今後の経済連携協定の推進についての基本方針」については資料3-2-8参照。)
わが国と主要国とのEPAの交渉等の状況は資料◎のとおりである。
これら交渉において、当協会は、国土交通省を通じ海運分野の規制撤廃・緩和等改善を求めているが、モノの貿易が交渉の中心となっていることは否めず、海運を含むサービス貿易分野における捗々しい改善は見られていないのが現状である。
※FTAとEPA
FTA…FTA(自由貿易協定)とは、ある国や地域間だけで輸出入に係る関税や外資規制などを取り払い、それら国や地域の間でモノやサービスの行き来(貿易)を自由にすることを目的とした協定。
EPA…EPA(経済連携協定)とは、FTAの内容を基礎にしながら投資・人の移動・知的財産権・競争政策のルール等より幅広く経済的な関係を強化することを目的とした協定。
WTOとの関係…FTA/EPAは限られた相手との間で、WTOのもとで実現できる水準を超えて貿易を自由にすることや、WTOでは扱われていない分野での経済関係を強化することが可能であり、WTOを補完する役割を持つ。
以上