3.6 コンテナ保安問題への対応
3・6・1 米国の対応
1 Container Security Initiative(CSI)
米国関税庁(Customs & Border Protection、以下「CBP」)はコンテナ貨物積出港での安全検査の強化を目的に、米国向けコンテナ取扱量上位20港(資料3-6-1参照)を主な対象としたCSIを2002年1月に考案した。
CSIは、米国と対象港湾を有する国との間で参加合意文書を交わし、米国が各港湾に派遣するCBP職員と現地当局が連携して以下の対策を行うプログラムである。
a) 危険度の高いコンテナの特定
b) 危険度が高いと特定されたコンテナの積出港での内容物検査
c) 迅速にコンテナ検査を行う技術の導入
d) 高機能で安全なコンテナの開発と導入
わが国(東京・名古屋・神戸・横浜港)は2002年9月26日に同プログラムの合意文書に署名した。その後2005年6月までに米国向けコンテナ取扱量上位20港中の18港を含む37港が試行を含めCSIの運用を開始(資料3-6-1参照)、わが国では横浜・東京・名古屋・神戸各港が運用(試行)を開始している。CSIの運用開始後、CBP職員が東京・横浜・名古屋・神戸各港に駐在する一方、わが国の税関職員が米国ロサンゼルス・ロングビーチ港に派遣されている。
2 Cargo Manifest情報24時間前提出に関する米国関税庁規則
2002年8月、CBPはCSIの補完を目的として、通商法に基づき、船社及びNVOCC(Non Vessel Operating Common Carrier:非船舶運航業者)に対し、米国向け貨物及び米国経由で輸送される貨物の船積み24時間前までのCargo Manifest情報提出を義務付ける規則を策定し、2002年10月31日に最終規則を発表した。最終規則は、60日後の12月2日に施行、さらに60日間の猶予期間を経て2003年2月2日に完全施行された。(船協海運年報2003 P.73参照)
この間、2002年12月には、当協会の協力のもと、CBPによる同規則の説明会が当協会において開催され、当協会会員はじめ関係者が参加した。
2003年2月2日の完全施行後、大きな混乱は生じていないが、同規則は船社・荷主等関係者に追加の負担を強いるものとなっている。
3 C-TPAT(Customs-Partnership Against Terrorism)
米国輸入貿易過程における保安対策を民間と連携して徹底することを目的に、CBPは輸入貿易関係者(輸入業者、運送業者、仲立業者、倉庫業者、製造業者)を対象としたCustoms-Partnership Against Terrorism (C-TPAT)を2002年4月に発表した。
C-TPATは、輸入貿易関係者がそれぞれ担当する貿易過程での保安対策の徹底及び向上に関する協定をCBPと締結するプログラムで、C-TPAT参加者については、通関関連手続きが一部軽減される等の優遇措置が与えられることになっている。(協定内容に違反した場合は、同優遇措置を取り上げられる)本プログラムへの参加はあくまで各業者の自由意志とされている。
2005年4月中旬までに、C-TPATの申請総数は9,080件(輸入者5,020件、運送人2,208件、フォワーダー/ブローカー1,412件、外国製造者440件)となっており、その内の10%については認証済み、20%については認証作業が進行中、認証作業で否認された件数は100件以上に上ると報告されている。邦船定航3社は初期の段階から参加している。
2005年3月、CBPは輸入者向けのセキュリティガイドラインを改正した。これは、テロの脅威と貿易のグローバル化が進行している現在、C-TPATがその実行可能性、有効性および妥当性を維持するためには、常にそのプログラムを進化させ続けなければならない、とのCBPの方針によるものである。CBPは、2005年を通じて、貿易業界と協力し、運送人を含むすべてのC-TPAT対象セクターに関する新たなセキュリティ基準を策定していく予定である、としている。
4 2002年通商法事前申告規則
2002年8月に成立した通商法は、米国全輸出入貨物(航空/トラック/鉄道/海上貨物)通関について、電子データによる事前申告を義務付ける規則の策定を定めている。海上コンテナ貨物については先行して2003年2月からCargo Manifest情報の船積24時間前提出に関する米国関税庁規則が施行されているが(4.3.2参照)、海上ばら積み貨物および他の輸送モードを含めた事前申告規則案が2003年7月に発表された。
その後、2003年12月に発表された最終規則では、海上ばら積貨物は、船舶の米国到着24時間前までに貨物情報をAMS(Automated Manifest System 米国自動マニフェストシステム)によって電子的に方法で米国税関に提出することが義務付けられ、同最終規則は2004年4月から完全実施された。
本規則に基づく電子的貨物情報提出は船社に新たな負担を強いるものであり、実施を前に一部に混乱も見られたが、実施後は特に大きな混乱等の報告はない。
3.6.2 その他諸国・地域の対応
1 EU
CSIや米国24時間規則といった米国独自のコンテナ貨物保安対策導入を進める米国に対し、欧州委員会は2004年2月米国との間で、相互主義による貨物保安の向上を目的とした税関協力協定を締結した。欧州議会は、同協定を受け、2005年2月欧州委員会が提案した税関規則改正案を承認し、同規則は2005年4月から貨物情報事前提出期限等一部詳細を除き、欧州委員会規則648/2005として発効した。但し、貨物情報事前提出期限や例外規定等については、欧州委員会手続規則として、今後1年程度かけて検討されることとしている。同規則の概要は以下のとおり。
・現在通関時に求めている輸入貨物情報を、域内に貨物が到着する前に電子情報により提出することを義務付け。
・輸出貨物情報の事前提出を義務付け。但し、輸入貨物と同様に提出期限については今後検討される。
・AEO(Authorized Economic Operator)制度(欧州版C-TPAT)の導入。
・EU加盟国税関当局間における貨物動向情報の電子的交換制度の導入。域内貨物に対するセキュリティ対策の向上を図るとともに通関場所の集中管理を図る。
・EU域内における関税法違反に対する罰則の調和。
但し、上述のとおり、欧州委員会規則648/2005はセキュリティ対策のための基本的考え方を纏めたものであり、貨物情報提出期限は米国同様船積前24時間前かあるいはEU域内入港24時間前か、対象貨物はコンテナだけで他の貨物は含まれるのか、EU国間や近海輸送に従事する船舶は含まれるのか等詳細は今後検討されることとなっている。
そのため、ECSA(欧州共同体船主協会)は、米欧における制度上の相違点は船社等関係者に過度の負担を強いるものとなり混乱を招く恐れもあることから、米国等の制度との整合性が図られるよう求めるとともに、バルク貨物は適用除外とすること、EU国間や近海輸送に従事する船舶には特別な制度を導入すべき等としている。
2 カナダ
カナダ税関・歳入庁(Canada Customs and Revenue Agency: CCRA)は、2004年4月19日から海上貨物情報の事前申告制度を実施した。同制度は、米国が既に導入している24時間前申告制度と類似のもので、貨物の種類によって以下のタイムフレームとなっている。
・コンテナ貨物:外国港での船積みの24時間前
・バルク貨物:カナダ到着の24時間前
・上記以外の貨物:外国港での船積みの24時間前(但し、当局の許可があればカナダ到着の24時間前)
3 日本
・安全かつ効率的な国際物流の実現に関する検討委員会
2003年12月に閣議決定された“平成16年度予算編成の基本方針”において、予算配分の重点化・効率化に当たり、政策目標の実現に向け、制度改革、規制改革等と予算措置を組み合わせることにより、構造改革と予算の連携を強めることを目的として、10の政策群が位置付けられたが、2004年3月の平成16年度予算案の国会承認を受け、政策群の一つである『安全かつ効率的な国際物流の実現』を着実に遂行するため、国土交通省等関係省庁は2004年6月、「安全かつ効率的な国際物流の実現に関する検討委員会」を設置した。
同検討委員会は、米国での同時多発テロ以降、特に国際コンテナ貨物を中心に物流セキュリティの強化が要求されていることを受け、物流の効率性にも配慮しつつ、国際的に競争力のある物流環境の構築に向けた検討を行うこととし、その下部に企画調整部会およびIT部会を設置、2004年6月から2005年3月までに、検討委員会3回、企画調整部会5回、IT部会4回を開催し「安全かつ効率的な国際物流の実現の施策パッケージ」を取り纏めた。(施策パッケージ概要について資料3-6-2-1参照。)
当協会は、検討委員会および各部会に委員が参画し、船主意見の反映に努めた。(検討委員会および各部会の委員名簿は資料3-6-2-2参照。)
4 世界税関機構(WCO)における検討
WCO(166カ国の税関当局で構成)は、国際海事機関(IMO)の要請を受けて、2004年6月に15カ国の税関当局で構成するHigh Level Strategic Group(HLSG)を結成し、貨物保安問題に関するガイドラインを検討してきていたが、2005年6月に開催されたWCO理事会において、WCO Framework of Standards to Secure and Facilitate Global Tradeとするガイドラインを採択した。同ガイドラインの概要は以下のとおり。
・税関当局は異なる貿易保安及び円滑化要件を導入することにより国際貿易関係者に負担をかけるべきではない。
・税関当局は、以下の基準を超える貨物情報提出期限を設定すべきではない。
コンテナ貨物は、出港地における船積24時間前。
バルク貨物は、第一寄港地到着24時間前。
・Authorized Economic Operator(AEO)制度(WCO版C-TPAT)の導入。
WCOでは同ガイドラインの施行を促進すべきとしているが、同ガイドラインは強制要件ではなくあくまでボランタリーなものであり、その実施は各国の判断に委ねることとされている。
以上
米国CSIの対象とされている米国向けコンテナ貨物取扱量世界上位20港
CSI* |
順位 |
港名 |
CSI* |
順位 |
港名 |
○ |
1 |
香港 |
○ |
11 |
アントワープ(ベルギー) |
○ |
2 |
上海(中国) |
○ |
12 |
名古屋(日本) |
○ |
3 |
シンガポール |
○ |
13 |
ル・アーブル(仏) |
|
4 |
高雄(台湾) |
○ |
14 |
ハンブルク(独) |
○ |
5 |
ロッテルダム(蘭) |
○ |
15 |
ラ・スペッツィア(伊) |
○ |
6 |
釜山(韓国) |
○ |
16 |
フェリックストゥ(英) |
○ |
7 |
ブレーマーハーフェン(独) |
○ |
17 |
アルヘシラス(スペイン) |
○ |
8 |
東京(日本) |
○ |
18 |
神戸(日本) |
○ |
9 |
ジェノバ(伊) |
○ |
19 |
横浜(日本) |
|
10 |
塩田(中国) |
○ |
20 |
ラムチャバン(タイ) |
米国向けコンテナ貨物取扱量世界上位20港以外でCSIに参加を表明している港
CSI* |
港名 |
CSI* |
港名 |
○ |
モントリオール(カナダ) |
○ |
ゼーブルージュ(ベルギー) |
○ |
バンクーバー(カナダ) |
○ |
リバプール(英) |
○ |
ハリファクス(カナダ) |
○ |
サウサンプトン(英) |
○ |
イェーテボリ(スウェーデン) |
○ |
テムズポート(英) |
○ |
タンジュンぺラパス(マレーシア) |
○ |
ティルブリー(英) |
○ |
ポートケラン(マレーシア) |
○ |
ナポリ(伊) |
|
コロンボ(スリランカ) |
○ |
ジオイア・タウロ(伊) |
○ |
ダーバン(南アフリカ) |
○ |
リボルノ(伊) |
○ |
ピレウス(ギリシャ) |
○ |
ドバイ(UAE) |
○ |
マルセイユ(仏) |
○ |
深セン(中国) |
* ○は2005年6月24日までにCSIの運用を開始した港
** ( )内は国名