41 国際条約関連 

4・1・1  国際油濁補償体制に関する検討等
4・1・2  IMO法律委員会における条約案等の検討
4・1・3  新国際海上物品運送条約
4・1・4  信用状統一規則(UCP500)の改正



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11 国際油濁補償体制に関する検討等

タンカー事故等で油濁による海洋汚染が発生した場合、その損害や清掃費用については、海運業界と荷主である石油業界が協力して補償する体制が国際条約によって整備されている。すなわち、一定の責任限度額を設けて、はじめに船主による補償を行い、不足する部分を荷主が補償するもので、いわゆる油濁二条約と呼ばれる国際条約によって補償体制が確立している。(油濁二条約:「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(CLCInternational Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage)」および「油による汚染損害の補償のための国際基金設立に関する国際条約(FCInternational Convention on the Establishment of an International Fund for Oil Pollution Damage)」)

この油濁二条約のうち、CLCは船舶(タンカー)の貨物である重油等の流出によって生じた油濁損害について船主の無過失責任、責任限度額、強制保険の付保を定めた条約である。一方、FCは荷主の責任負担についての条約で、タンカーから油を受け取った荷主の拠出金を基に設立された国際油濁補償基金(IOPCFInternational Oil Pollution Fund)による被害者に対する補償を行うことを定めたもので、1969CLC1975年に、また1971FC1978年にそれぞれ発効し、1992年には、両条約の限度額引上げを主な内容とする改定議定書(1992CLCおよび1992FC)が採択され、19965月にそれぞれ発効した。

199912月には、マルタ籍タンカー「エリカ号」がフランスのブルターニュ沖で重大な油濁損害事故を引き起こしことを契機として200010月開催のIMO法律委員会において、油濁二条約の補償限度額を約50%引上げることが合意され、200311月から船主の責任限度額は8,977SDR(約140億円)、92FCの補償限度額は2300SDR(約316億円)となることとなった。

更に、二条約の50%引上げでは将来起こり得る巨大油濁事故の補償には不十分であるとしてFC条約の限度額を超える補償に対する第三層としての追加基金が作業部会、および20024月のIMO84回法律委員会での検討を経て、荷主負担という形で20035月の追加基金設立外交会議で採択された。また、この追加基金設立に当たっては、現行の92CLCFC体制の見直しについて優先的に作業を進めるべしとの決議が併せて採択された。

これにより、被害者救済という点では充分な補償が可能となった一方、欧州諸国および石油業界を中心に、これまでバランスが取れてきたとされる船主/荷主間の負担割合について見直しを求める声が高まる結果となった。

上記決議に基づき、国際油濁補償制度の見直しが基金作業部会で検討されることとなり、船主負担見直しに関する条約改正の是非について議論が行われた。同作業部会を含む国際油濁補償基金の会合の模様は次の通りである。

 

1.国際油濁補償基金第9回総会等の模様

国際油濁補償基金第9回総会等が20041018日から22日の間ロンドンにおいて開催され、92年基金理事会ではプレスティージ号、エリカ号等の事故に関する現状報告およびそれに伴う議論が行われた他、92基金総会では追加基金の加入状況に関する報告、次期事務局長の選任手続など基金の運営面等について議論が行われた。

 

(1) 92年基金総会

追加基金の加入については、現在まで日本を含め6カ国が批准済で、更に批准を予定しているドイツ、スペインの加入により、発効要件(8カ国、受取量4.5億トンの要件充足後3カ月を経て)を満たし、20052月頃に発効する見込みである。

次期事務局長の選任手続については、選定委員会の設置の是非、適格性について議論され、次回会合での検討に向けて、監査委員会に対し選任までのスケジュール及びjob description(事務局長職務明細書)の作成を要請した。

また、今次会合では現行油濁補償制度(92年民事責任条約および92年基金条約)の見直しについての議論は予定されていなかったが、本年2月と5月に開催された作業部会報告に関連し、現在の見直し議論の進行に異議を唱える国からの発言が相次いだことから議論が行われる運びとなった。とりわけ、見直し問題の検討を継続すること、サブスタンダード船問題を絡めること等について議論が噴出したほか、複数の国より次回作業部会で区切りをつけるべきとの提案があった。

この結果、20052月開催予定の作業部会で条約の見直しを継続するか、及びもし継続するならどの案件を見直すかといったことについて取り纏め、同年10月開催予定の基金総会へ最終勧告することとなった。

 

2.国際油濁補償基金第9回作業部会等の模様

92年国際油濁補償基金条約の第9回作業部会等が2005314日から23日までIMO本部において開催された。

 

(1) 92年基金作業部会

作業部会では、これまでも船主/油受取人の負担割合、油のサブスタンダード輸送など現行油濁補償制度(92CLCおよび92FC)の見直しについて審議が行われてきたが、今次会合では、条約改正の是非、及び改正する場合はどの案件を改正するかといったことについて最終勧告(Final Recommendation)を取り纏め、200510月開催の同基金総会に諮ることが決定されていた。

主要項目についての審議は以下のとおり。

@ 船主責任限度額のレベルと油受取人の補償

条約改正による船主責任限度額の見直しが必要か否かについては、大きく分けて条約改正による見直しを支持する側と、条約改正によらず業界の自主的負担(国際P&IグループのVoluntary Scheme)による解決に委ねるべきとする側で激しい議論が交わされたが、これまでの作業部会と同様に意見はほぼ互角に分かれる結果となった。

改正支持派の意見のなかでも全面的な改正を求める意見は少数で、限定的な改正(limited revision)が必要との意見が多く、また、業界の自主的負担のような一方的な行為(unilateral action)では国際補償体制の安定性上から問題があるとする意見も数多く見られた。一方、改正反対派の意見のなかには、IG提案への支持とともに、今しばらく現状で様子をみるべきとするもの、責任限度額引上げに伴う途上国への影響を考慮すべきとする意見などがみられた。なお、日本からはこれまでの考え方に基づき、特定船舶に対するディスインセンティヴは負担割合問題の解消に資するものであるとする意見が述べられた。

議論は両者の間で平行線をたどり、最終的には、このように意見が分かれた状況で最終的な結論を出すことは困難であるとして、今次会合では議論の結果を正確に基金総会に報告することを決定するまでに留め、最終的な結論は200510月開催の基金総会まで持ち越すこととなった。

A 油のサブスタンダード輸送

サブスタンダード船問題については、日本より上記同様に特定船舶に対する船主責任負担増について言及したほか、国際P&Iグループからは保険の立場からサブスタ船問題を検討するための非公式作業部会を基金作業部会のなかに設置するとした提案があった。本件についても基金会合がサブスタンダード船問題を扱うことへの賛否は大きく分かれたままで、この問題はIMOの関係委員会で検討することが適当とする意見がある一方で、テクニカルな部分以外で取扱う余地がありサブスタンダード船対策としても有効であるとする意見があるなど、最終的な結論を出すまでにはいたらなかった。特に国際P&Iグループについては、これまでの作業部会のスコープを超えるものであるため、今後作業部会で検討する事項とするか否かについて10月開催の基金総会で結論を出すこととした。

B その他

このほか、上記船主責任限度額に関する条約改正が行われる場合には、次についても改正を行う方向で基金総会に諮ることとなった。

) 限度額改正手続の簡易化

) 強制保険の対象を2,000トン未満に拡大

) 油受取量未提出国への対応

) 92年基金総会の定足数

) 船舶の定義

また、作業部会の検討項目から削除する事項についても検討が行われ、引き続き作業部会での検討を要するとの意見等も一部に見られたが大勢の支持を得ることとはならず、次については検討項目から削除することとなった。

) 船主責任制限阻却事由の変更

) 油備蓄会社(一時的貯蔵)への対応

) サブスタ船を利用する荷主への責任付加

) サブスタ船を利用する荷主への責任付加

) 92年基金への最低年次拠出金

) CLCFC、追加基金3条約の統合

 

(2) 92年基金総会、理事会および追加基金総会

92年基金総会では基金の運営面での問題、特に次期事務局長の選出について詳細な検討が行われたほか、国際P&Iグループより追加基金の発効に併せ小型タンカー油濁補償協定(STOPIA)を200533日より実施にした旨紹介があるとともに、これに伴い基金との間の覚書の修正について提案があった。

STOPIAに対しては各国から歓迎を受けたが、一方で本件は作業部会の議論とも深くリンクするため、STOPIAの議論は作業部会で取扱うべきとの意見も多くみられた。結果として、STOPIAは業界によるオファー(unilateral offer)であることに鑑み、基金として了承する類いのものではなく、留意することにとどめ、また覚書についても同様の理由から変更は要しないこととなった。

このほか、理事会では、エリカ、プレスティージを始めとする事故処理案件について審議、情報提供が行われ、追加基金総会では、追加基金の設立にあたり運営面での問題を中心に検討が行われた。

 

 

412 IMO法律委員会における条約案等の検討

 

IMO法律委員会では、海事法務に関する条約の策定および見直し等について審議が行われている。近年の同委員会における主要議題としては、海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約、所謂、SUA条約の改正、海難残骸物に関する条約案、その他、TAJIMA号事件に関連してわが国より問題提起をした、船舶における犯罪から船員および乗客を守る手段の検討などがあげられる。

こうした議題を含め、第89回および第90回法律委員会における審議概要は以下の通りである。

 

IMO89回法律委員会の模様〕

IMO89回法律委員会が20041025日から1029日までの間、ロンドンのIMO本部で開催された。今会合では、日本が問題提起していた「船舶における犯罪から船員および乗客を守る手段の検討」(TAJIMA号事件関係)をはじめ、「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約等(SUA条約)」、「海難残骸物除去に関する条約案」および「トレス海峡への強制水先制度(PSSA)」等に関しての審議が行われた。主要議題についての結果は以下の通り。

 

1.船舶における犯罪から船員および乗客を守る手段

本件は、TAJIMA号事件を受け、日本から外国籍船での犯罪事件の被疑者を速やかに引き渡す方策の必要性を訴えてきたものであり、第85回法律委員会(200210月)より独立した議題として検討されている。

因みに、日本はこれまで解決のオプションとして、国際的な法的枠組みの策定、法的拘束力のないガイドラインの策定、各国による自主的国内法の改正を提示してきた。

今会合でCMI20046月に開催したCMI総会において、本件の解決策としてモデル国内法案を策定する国際合同作業部会を創設する決議を採択した旨紹介があり、日本も現実的なオプションとしてこの決議を支持するとともに、作業部会への協力を行うことを表明した。

これにより今後当分の間は、議論の場をIMO法律委員会からCMIの作業部会へ移すこととなった。

 

2.海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約等(SUA条約)

IMO20019月の米国同時多発テロ事件を受けて、海上航行における国際テロリズム防止の観点からSUA条約の改正を行うこととし、犯罪化条項および臨検条項を中心に議論が行われている。

今会合では本会議に加え作業部会での検討が行われたが、犯罪化条項については輸送の定義、汎用品輸送をはじめ依然として更なる検討を要する項目が多く残された。

また、臨検条項ではICS等が指摘していた公海上での乗船の危険性が認識されたほか、臨検の際は船長にその意図を知らしめることや、船長が船主や旗国とのコンタクトを妨げられないことが合意された。

さらに臨検により輸送に遅延が発生した場合の補償協定を挿入することで合意されたが、誰を責任当事者および補償請求者するかなどについて見解が分かれた。

なお、本件については、20051月に作業部会を開催し、更に同年4月の法律委員会を経て、10月に条約改正の外交会議が開催されることとなった。

 

3.海難残骸物の除去に関する条約案

本条約案は、海難残骸物の除去に係る船主の義務および金銭的保障の義務付け、沿岸国による除去の権利などを目的とするもので、これまでの議論を踏まえコレスポンデンスグループにより修正されたドラフトを基に議論が行われた。今会合では、沿岸国と救助業者との関係、テロ行為により発生した残骸物関する船主免責などについて議論されたが、時間の関係もあり大きな進展は見られなかった。

@救助業者等との関係

CMIは委員会の要請に基づき、本条約案と海難救助条約をはじめとする海運関係条約との両立性について検討を行ったところ、沿岸国の介入により海難救助条約に伴う救助作業の遂行を侵害する場合も考えられることから、救助業者との協議規定および保障規定を検討する必要があると報告した。これに対し各国からは多くの賛同を得るところとはならなかったが、更なる検討を要することとなった。また、保障規定に関連し日本からも残骸物であるか否かの判断について沿岸国の判断が優先し、船主の権利が侵害されるおそれがあるため、船主に対しても同様の検討する必要がある旨指摘した。

Aテロ被害に対する免責

テロ行為による海難残骸物の発生に係る船主責任の免責について、(a)「戦争、敵対行為〜」、(b)「もっぱら、損害をもたらすことを意図した第三者の作為又は不作為〜」、のいずれでカバーされているか各国により見解が分かれるとともに、日本からは本条約にのみテロ免責の規定を挿入すると、同様の規定を置く他の条約でテロは免責されないと解釈される恐れが生じると指摘し、議長はテロ免責については他の条約を含めた包括的な解決策が必要との見解を示すにとどまった。

 

4.避難場所

CMIは委員会の要請に基づき、援助を求めている船舶に避難場所を提供した沿岸国で出費や事故が生じた際の補償と責任について検討を行い、現行の各種条約(CLCFCLLMC等)では全てのケースをカバーできないとして新たな条約が必要との見解を示した。これに対し、多くの国からは本件に関する補償は現行条約で十分カバーできるのではないかとの疑問が寄せられるとともに、新たな条約作成よりもいまだ発効に至っていない条約(バンカー条約、HNS条約等)の批准を進めるべきとする発言が相次いだ。また、P&Iクラブは条約化に反対するとともに、クラブが本件に関する金銭的保障を行う場合の保障書ドラフトを策定した。

しかしながら、一部に条約化を支持する国、業界団体もあったことから、次回法律委員会で更に検討を行うこととなった。

 

5.トレス海峡への強制水先制度の設置

20047月に開催された第50回航行安全小委員会(NAV)において、豪及びパプアニューギニアが国際海峡であるトレス海峡への強制水先制度導入を提案し、環境保護推進の観点からは各国の理解を得られたが、国連海洋法条約(UNCLOS)との関係で疑問が示されたことから、法的な観点から同制度の導入の可否について法律委員会で検討を行うこととされた。

法律委員会では、UNCLOSで強制水先を禁止する規定がないことから、同制度の導入を支持する国がある一方、日本をはじめとして、国際海峡での強制水先制度導入を認める法的根拠がUNCLOSにはなく、また条約上認められている国際海峡の通過通行権を妨げる恐れがあるとして反対する国も多く、その解釈は大きく二分され委員会としての結論には達しなかった。このためIMOの技術系委員会で更なる検討することが相応しいのではないかとの提案もあり、11月に開催される海上安全委員会(MSC)へ法律委員会の議論を正確に報告することを決定するにとどまった。

 

IMO90回法律委員会の模様〕

IMO90回法律委員会が2005418日から29日までの間、ロンドンのIMO本部で開催された。今次会合では前半に「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約等(SUA条約:Suppression of Unlawful Acts against the Safety of Maritime Navigation)」を集中的に審議し、後半で「海難残骸物の除去に関する条約案」、「2002年アテネ条約改定議定書のフォローアップ」等に関しての審議が行われた。主要議題の結果は以下のとおり。

 

1.海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約等(SUA条約)

IMOはテロに関連した船舶の利用を抑止すべく、2002年以降、法律委員会でSUA条約の改正作業を進めてきたが、改正案を採択する外交会議を200510月に控え、今次会合は最終審議の場となった。

今次会合では、「犯罪化条項」に核及び大量破壊兵器関連物質の輸送を含めることについて、複数国が強く異論を唱えた他、テロ関与の疑いがある公海上の船舶に対して旗国以外の官憲立入りを認める「臨検条項」に関連し、旗国から臨検要請に対する応答がない場合、要請国が関係国に警告を発信できるようにする条文の導入について賛否が真っ二つに割れるなど、改正案の一部について審議が難航したため、現段階で意見集約が困難な部分については外交会議で議論する余地を残した上で、法律委員会としての最終改正案が取り纏められた。

今回の条約改正にあたり、臨検については旗国通報後一定時間を経て、旗国の了承を得なくとも旗国以外の官憲の乗船を可能とする案が削除され、あくまでも旗国同意を前提とした内容となった他、容疑船舶の船長が旗国・船主と早期にコンタクトする機会を担保する条文が設けられた。補償問題については、臨検の結果、テロ行為関与の根拠が見つからなかった場合、条約締約国は臨検措置に伴う損害、障害または損失に対する責任を負うことが規定された。

 今次会合における審議の主要点は以下の通り。

@本条約における「輸送」の定義

輸送実行過程全体をカバーする観点から、「(輸送とは)人、または物品の移動について、効果的な管理または意思決定権限を開始・準備・行使することをいう」との内容となったが、テロとの関連もしくはその意図がない場合は犯罪化されないよう別項で犯罪化の範囲を明確化されている。なお、準備には事前準備は含まれないとの認識で各国が一致したため、港湾労働者等は輸送主体から排除されるものと見られる。

A環境損害

本条約が犯罪化とする範囲には、船舶を用いて故意に環境に対して有害な物質を排出することも含まれているが、これについて、日本から現在、国際的に油、液化天然ガス以外に有害汚染物質として排出を禁止されているものは、MARPOL条約付属書II附表IIで言及の物質であるという理解を表明したところ、特段の異論は出なかった。

B核関連物質輸送の犯罪化

核関連物質の輸送を犯罪化対象とする条文については、核拡散防止条約(NPT)未加盟国であるインド、パキスタンの他、ロシア、中国等が強い留保を表明したものの、同条文は維持された。また、平和目的のための核関連物質が犯罪化されないことは別項で担保されている。

C大量破壊兵器の設計・生産に繋がる汎用品輸送の犯罪化

インド、中国等から、犯罪化対象となる関連輸送品目を明確化するため、リストを導入すべきとの主張が為され、ICSも輸送実行者としては規制対象が予め明確化されている方が好ましいため、リスト導入を支持する旨発言したが、多くの支持を集めるまでには至らず、リスト導入は現段階では見送られた。

D臨検条項

旗国以外の締約国官憲による公海上の臨検については、あくまで旗国の同意を前提とすることは既に大筋で合意されているが、乗船要請に対する旗国からの応答がない場合、乗船要請国が関係国に警告を発信できるようにする条文が争点となり、本条文導入については賛否が真っ二つに割れたため、外交会議に審議を委ねることとなった。

 

2.海難残骸物の除去に関する条約案(Wreck Removal

本条約案は、海難残骸物の除去に係る船主の義務および金銭的保障の義務付け、沿岸国による除去の権利などを目的とするもので、今次会合ではこれまでの議論を踏まえオランダより修正ドラフトが提出され、それを基に逐条ごとに議論が行われた。

 今次会合における審議の主要点は以下の通り。

@条約の適用範囲

 領海内にある海難残骸物への条約の適用に関する規定について、英国より条約にある強制保険と直接請求を可能とすることから有用であるとの主張があり、複数の国より支持を得たが、一方で敢えて規定を設ける必要はないとする意見や、問題を複雑化するとの意見も多く見られたことから、次回会合で再度提起する余地は残しながらも当該規定は削除されることとなった。

A救助業者等との関係

CMIより、救助業者に対する沿岸国の介入により海難救助条約に伴う救助作業の遂行を侵害する場合も考えられることから、救助業者との協議規定および補償規定を盛り込む提案があったものの、両規定とも多くの支持を集めるまでには至らず採用は見送られた。

Bテロ被害に対する免責

テロ行為による海難残骸物の発生に係る船主責任の免責については、前回会合同様に議長から他の条約を含めた包括的な検討が必要との見解を示すにとどめ、今次会合では議論は行われなかった。

 

32002年アテネ条約改定議定書のフォローアップ

船客及びその手荷物の死傷・損害に対する運送人の責任を定めた1974年アテネ条約を改定する2002年議定書は未だ発効に至っていないが、その原因とされる改定議定書が定める金銭的保障の実効性について、ノルウェーのRøsæg教授を中心に非公式な協議が行われてきている。海運業界および保険業界は、従前より改定議定書の高額な補償限度額に対し保険市場の引き受けが困難なこと、および“テロリスク”が明確に免責されていない問題点を指摘していた。

今次会合では、議定書の早期発効を目指す欧州各国を中心に実効上の問題点の一つである“テロリスク”の解決に向けて、非公式会合が連日に渡り開催された。この結果、保険証書がテロリスクおよびバイオ・ケミカルリスクを免責としていても、締約国はこれを認める権利を留保するとしたIMO総会決議案を取り纏め、本年11月開催の総会での採択を得るべく法律委員会へ提出された。

委員会での審議において、日本は、十分な議論がないまま性急な結論を急ぐことに懸念を示し、他の条約に及ぼす影響も考慮し慎重な検討が必要として、今次会合での決定に難色を示したが、他に反対意見もみられずこのまま総会へ提出される運びとなった。

なお、国際P&Iグループは決議案が議定書の他の問題点(補償限度額と運送人の責任)には着手していないとして、これをもって批准への障害が全て取り除かれた訳ではない旨指摘した。

なお、決議案に基づくガイダンスの策定および補償限度額の問題等については、引き続きコレスポンデンス・グループで検討が行うこととされた。

 

4避難場所Place of Refugee

前回第89回法律委員会援に引き続き、万国海法会(CMI)および国際港湾協会(IAPH)より、援助を求めている船舶に避難場所を提供した沿岸国で出費や事故が生じた際の責任と補償について、既存の条約ではカバーできない範囲があるとして新たな条約の制定について改めて提案があった。

これに対し、一部の国及び国際救助者連盟(ISU)より条約制定を支持または更なる検討が必要であるとの意見があったものの、日本をはじめ多数の国は新たな条約制定には懐疑的であり、それよりも批准されたまま発効に至っていない条約(バンカー条約、HNS条約等)および現在審議中の海難残骸物の除去に関する条約の発効に傾注すべきである旨主張した。

審議の結果、多数の国が現時点での条約制定は不要としていることに鑑み、未発効又は審議中の条約が発効してその効果を検証するに十分な時間を経た上で、それでも本件の条約化が必要と判断されたならば改めて検討を行うこととなった。

 

 

413 新国際海上物品運送条約

 

国際海上物品運送法の分野においては、ヘーグ・ルール、ヘーグ・ウィスビー・ルール、ハンブルグ・ルールなどが併存するとともに、各国が国内法として国際海上物品運送法を定めるなど、国際的な統一ルールが無かったことから、19966月のUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)第29回総会において、統一的なルールの作成について検討を開始するとともに、本件について専門機関の助力を仰ぐことが決定された。これを受けてCMI(万国海法会)が新国際海上物品運送条約の草案作成にあたってきたが、200112月、最終草案が完成し、UNCITRALに送付された。UNCITRALでは、運送法を扱う第3作業部会(Working Group V)で本草案の検討が行われることとなり、20024月以降本件に関する作業部会が開催されているほか、非公式ラウンドテーブル、CMI会合でも検討が行われている。

これらUNCITRALWG等における審議に対応するため、わが国では、学識経験者、法務省、国土交通省、および船社・フォワーダ−・保険会社等産業界をメンバーとして、日本海法会に設置された運送法小委員会(委員長:谷川久 成蹊大学名誉教授)で検討が行われている。当協会もオブザーバーとして参加するとともに、各会合への対処方針について国交省を通じて船主意見の反映に努めている。

ここでの議論はわが国の対処方針に反映され、藤田友敬 東京大学助教授を中心とする代表団がUNCITRALWG等に出席し対応している。

同作業部会を含む審議の模様は次の通りである。

 

1.第14UNCITRAL運送法作業部会

国際海上物品運送法の改訂草案を審議するUNCITRAL作業部会が20041129日から1210日の間にウィーンにおいて開催され、責任原則(basis of liability)、契約の自由(freedom of contract)、裁判管轄と仲裁(jurisdiction and arbitration)を中心に審議されたほか、電子商取引(e-commerce)に関するショートレポートが行われた。

特に新体制の中心となる責任に関する条文についてかなりの進展がみられた。過失責任の原則は維持されたものの、航海過失免責の廃止、および耐航能力の保持義務が航海中も継続するとされたことにより運送人へかなりのリスクがシフトされる。概して、ヘーグ/ヘーグヴィスビー体制から外れるものが多くなったことは業界にとっては残念なことである。但し、現時点でこの草案が幅広く各国政府や業界から支持を得て進められていくかを判断するには時期尚早であろう。

本件については、引き続き非公式会合が行われるとともに、4月にはWGを開催する予定となっている。

なお、各項目については以下のとおり

@責任原則(basis of liability
・添付の改正ドラフト(revised versionn of article 14)が広く受け入れられた。

・免責事由(パラ3)については、@航海過失免責が削除、A火災免責は“fire on the ship”に限定、B戦争は海賊行為、テロリズム、他の関連する危険にまで拡大など

A契約の自由(freedom of contract

・適用範囲について、B/L、ウェイビル、同等の電子式書類は適用範囲とし、CP、ノンライナーの数量契約、スロットチャーター、曳船とヘビーリフト契約の類いは適用外とすることでWG内で大まかなコンセンサスが得られた。

・サードパーティーの保護について、原則この改正草案の下で保護されることが合意された。

OLSAs(サービス・コントラクト)については、小規模な荷主を害することに成りかねない、定義が細かすぎる、米国独自の語句などが明確でない、などの懸念も出されたが、大方米国のポジションが支持された。

B裁判管轄と仲裁(jurisdiction and arbitration

WGで塾考されたのは初めてといってもいいが、はっきりとした結論にまでは至らなかった。

・裁判管轄を挿入することに原則支持はあったが、仲裁についてはさほど強い支持はなかった。

C電子商取引(e-commerce

UNCITRAL電子商取引WGから、国際契約での電子的通信の使用に関する条約案(仮称)についてレポートがあったが、運送法WGでは改正草案の電子的通信の条文についてまだ議論されたことはない。

D今後の予定

・作業部会 418日〜29日(ニューヨーク)、1128日〜129日(ウィーン)

・非公式ラウンドテーブル 224日、25日(ロンドン)

・非公式コンサルテーショングループ 125日〜  

 

2.第15UNCITRAL運送法作業部会

UNCITRAL作業部会が2005418日から428日の間にニューヨークにおいて開催され、契約の自由(freedom of contract)、裁判管轄と仲裁(jurisdiction and arbitration)の二つを中心に審議された。

なお、各項目については以下のとおり。

@契約の自由(freedom of contract

CPおよび不定期船関係の契約は適用外とするとともに、OLSAs(サービス・コントラクト)には特別な配慮をするとした前回会合(200411月末開催)の合意を反映させたテキストが提出された。

・しかし、米国独自の取決めへの言及を避けるため、OLSAsは数量契約(volume contract)の一つの類型として取扱うこととなった。(業界出席者は単独の規定とすることを主張したが、支持を得なかった)

・上記に伴い、業界出席者は不定期船と定期船での数量契約の区別が失われることを懸念。

・激しい議論の後、改正草案から除外またはカバーする契約の類型、およびどのような条件に基づくかを識別したテキストが提出された。

・テキストは今後のWGに向けて非公式なかたちで更に検討されることになる。

A裁判管轄(jurisdiction

・ハンブルグ・ルールに沿って請求者に法廷の選択権(choice of forum)を与えたテキストを中心に議論が行われた。

・業界はこれまで裁判管轄規定の削除を求めてきたが支持を得なかったため、今回は方針を変え、法廷の選択は運送書類にある“exclusive jurisdiction clause”に委ね、それがサードパーティーをも拘束することを主張した。

・上記はWGのマジョリティーから支持を得たが、反対の意見も依然残っており、サードパーティーの件についても結論ははっきりしなかった。

B仲裁(arbitration

・前回会合と同様に関係者間で仲裁に関する規定を置くことは全く自由であるとの見解には理解が寄せられた。

・今回の議論を踏まえ次回WGでの検討に向けて新たなドラフトが用意される模様。

C電子商取引(e-commerce

・今年初めに開催された電子商取引に関する専門家会合の議論に基づき修正されたドラフトが出席者より広い支持を受けた。

Dその他(今後の予定)

・運送品処分権(right of control)、権利の譲渡(transfer of right)は詳細な議論をする時間がなかったことから次回WGへ持ち越しとなった。

・次回作業部会(1128日〜129日、ウィーン)の議題

裁判管轄と仲裁に関する更なる検討、物品の引渡、責任期間、荷送人の義務

・次々回作業部会(2006年春、ニューヨーク)の仮議題

適用範囲と契約の自由、訴訟を提起する権利と時効、責任制限のレベル、運送書類etc.

 

 

414 信用状統一規則(UCP500)の改正

 

信用状統一規則は、信用状取引に関する当事者の権利、義務、解釈などを国際的に統一した規則(以下、UCP)で、現在発行されている信用状の大半がUCPに準拠している。UCP1933年に国際商業会議所(ICC)により制定され、その後幾度かの改定が行われ、現在は1993年改定規則(UCP500)が用いられている。

ICC日本委員会では次期改定(ICC本部の銀行委員会で実質的な改正作業を行う)に対応するため、銀行技術実務委員会のなかに「UCP改定拡大委員会」を設置し、海運、商社、保険、製造業等の関係業界も交えた検討体制を整えることととした。

当協会も同委員会へ参画するとともに、運送書類に関する条文(海上船荷証券、流通性のない海上運送状、傭船契約船荷証券、複合運送書類)について、海運業界としての意見反映に努めた。

なお、これまでのICC本部での作業ペースから勘案すると、次期UCP改正は2007年以降になるものとみられている。