5・1 港湾構造改革問題

 

511 水先制度の抜本的な見直しについて

 

 当協会は、わが国港湾の国際競争力強化を図るため、港湾の高コスト構造の一因である「水先・タグ」について、料金面だけではなく、その制度面も含めたあるべき姿の実現を求めることとし、20037月、構造改革委員会の下「港湾関連業務構造改革小委員会」を設置して検討を開始した。

 その後、10月、同小委員会において、水先制度の抜本改革に係わる報告書(水先白書)を取りまとめ、この報告書の提言に基づいて、1021日、草刈会長をはじめとする当協会首脳より、国土交通省海事局長に対し、「水先制度の抜本改革に係わる申し入れ」を行った。

これを受け20042月および3月、当協会会長/海事局長会談が開催され、

水先料金の引き下げの一貫として、至急実施すべき事項として申し入れた特別会費制度の廃止については、2006年度中に廃止されることとなるとともに、同じく廃止を求めた乗下船実費についても、後述(本誌512参照)の引き下げ等の改善措置が図られることとなった。

さらに、第二段階として当協会が求めた水先制度の抜本改革に関して、国土交通省は昭和24年に制定された水先制度については、船舶交通の安全確保、海洋環境の保全、水先人後継者の確保・育成、利用者サービスに相応しい水先業務運営の確保及び規制の合理化等の観点から、その抜本的な見直しを行うことが求められているとし、海事局長の私的諮問機関である「水先制度のあり方に関する懇談会」(座長:杉山武彦一橋大学学長 以下、懇談会と略)を設置し、水先制度全般についてそのあり方を検討することとした(船協海運年報2004参照)。

懇談会は、2004315日に第1回会合を開催し、のべ11回にわたる審議と水先区に係わる問題等を専門的に検討するために懇談会の下部機構として設置された「水先区・強制対象船舶の範囲のあり方部会」(以下、部会)の7回の審議、さらには、部会の審議を円滑に進めるために日本海難防止協会に設置された「水先区・強制水先の範囲に関する調査検討会」での検討を経て、水先制度のあり方に関する報告書を取りまとめた。

この間のこれら水先制度全般についての検討状況等は以下の通りである。(資料A参照

なお、懇談会および部会には、当協会 港湾関連業務構造改革小委員会から、日本郵船梶@萬治隆生専務取締役、鰹、船三井 原田英博常務取締役が委員として参画し、船主意見の反映に努めた。

 

1.「水先制度のあり方に関する懇談会」の審議模様

 2004315日、第1回懇談会が開催され、懇談会で今後議論していくべき論点が以下の通り整理された。

(1) 水先区・強制対象船舶の範囲のあり方  

@強制水域・水先区の範囲のあり方、A現行の任意水先区の取扱い、B強制水先対象船舶の範囲、C強制水先の免除制度のあり方

(2) 水先人免許制度・水先人の養成・懲戒等             

@水先人の供給源の多様化、A養成のあり方、B研修のあり方、C免許制度のあり方、D懲戒のあり方、E水先人と船長との関係、F民事責任のあり方、G水先隻数が少ない水先区の水先人の確保策

(3) 水先人会・水先業務の運営のあり方      

@業務運営主体のあり方、A水先人会のあり方    

(4)水先に対する国の関与のあり方

@水先料金規制、A約款規制、B実施主体、業界団体に対する関与

 

また、当協会が200310月に国土交通省に申し入れた以下の水先制度の抜本改革に関わる申し入れ事項についても、全て上記の論点に盛り込まれた上で、水先制度全般について細部にわたる審議が開始された。

(1)水先料金の「非」省令化、(2)水先人養成機関の設立、(3)水先人会の第三者機関への移管、(4)水先区の統合、(5) 水先業務の品質管理と責任の厳格化

 

その後、懇談会において、当協会から水先料金の半減化、水先区を見直す仕組等を提案、また、日本パイロット協会からは、小水先区対策や自主自律的な仕組等をはじめとする各種提案が行われる等、関係者による積極的な提案等が行われた。水先制度全般に関わるこれら提案を鋭意審議した後、関係者の合意の下、2005624日、水先制度のあり方に関する懇談会報告が取りまとめられた。報告書の要旨は資料Bの通りである。

なお、同報告書においては、当協会が申し入れた5つの事項について次の通り整理されている。

 

[当協会申し入れ事項/懇談会報告書概要]

(1) 水先料金の「非」省令化:

全国一律の省令料金を廃し、届出料金とし、水先区の実情に応じて、料金の設定を可能とすること。

【報告書の概要】水先料金規制の緩和(省令料金の廃止)

@国が一律に定める現行の省令料金制度を廃止し、国が認可するシステムへ移行することが適当。

Aコストを適確に反映した料金制度とする。

B水先料金の設定に当たっては、ヤードスティック査定等他の公益事業におけるコスト算定方式をも参考にしつつ、効率化への意欲が自ずと働くような料金制度とする。

C料金設定について公正、公平なものとなるよう制度上確保しなければならない。特に、強制水先区においては公共料金に等しいものとも言え、具体的な料金設定に当たっては、不当な超過利潤を認めないこととする等、業務の公益性に相応しい料金設定とする必要がある。

 

(2) 水先人養成機関の設立:

水先人を専門に養成する機関を設立し、20代で水先人を輩出できるように免許制度を改革すること。

【報告書の概要】水先を適確に実施するための人材確保について

@水先人資格要件の緩和及び等級免許制の導入

・水先人の安定的かつ継続的な供給の確保を図るため、水先人の供給源については、船長経験を有しない若年者等にも拡大・多様化を図る。

・水先人の資格要件の緩和に際しては、経歴等を勘案した13級までの等級免許制を導入する。なお、等級に応じて業務範囲の制限をする。

A養成教育の充実強化

・新たな養成教育の仕組みを創設しその充実を図る。

・養成教育実施主体については、全国一元的に養成教育を実施することのできる主体であることが必要。

・全国一元的な養成教育機関における養成教育計画の策定と関係機関(船社、水先人会等)との調整の仕組みを検討する。

B養成教育に要する経費負担のあり方

・養成教育システムに係る費用についても、これまでと同様、水先料金としてコストに組み込まれることが適当。

・受益者たる利用者が水先料金として支払うことは合理的であると考えられる。

 

(3) 水先人会の第三者機関への移管:

水先人会の運営を第三者機関に移管し、水先人はこの法人が雇用するシステムとすること。

【報告書の概要】水先業務引受主体の法人化等について

@水先人が法人を設立して船社との関係で当該法人が契約主体となり、法人形態による業務の遂行を制度として認めることが適当であると考えられる。

・但し、免許の対象は、制度上個人が前提となる。

A水先業務実施主体の法人化等について

・各水先人が任意で法人を設立し、引受主体となることを一定の条件下で認める。但し、引受主体の法人化の義務付けは困難であると考えられる。

・当該引受法人を1個に限定はしないこととすることが適当であると考えられる。

B法人化を認める場合の法人形態等

・水先人を構成員(社員)とする人的組織体でなければならない。

・第三者に対する賠償責任は有限責任を主張できること、または、保険等でカバーすることにより法人全体の   業務停止が避けられるものであること。

・水先を引き受ける法人を認める場合、水先人の責任を有限とする等水先人の責任を一定範囲にとどめる方 策を講じることが不可欠。

C取次ぎ窓口機能の確保

・水先業務引受主体の法人化を認め、業務実施共同体機能を各水先引受法人に移管することは可能であるが、引き続き複数の引受主体が制度上存在し得ることから、取次窓口機能は、水先区毎に一個に限って引き続き置くことが不可欠である。

 

(4) 水先区の統合:

水先区を統合するとともに複数の水先人会の設立を可能とすること。

【報告書の概要】一湾内複数水先区のあり方(三大湾における水先業務の一元化)

@東京湾内、伊勢三河湾内及び大阪湾内のいわゆる三大湾における複数水先区については、ベイとハーバーの水先区を統合する。

   東京湾内     : 東京水先区、東京湾水先区及び横須賀水先区

   伊勢三河湾内 : 伊勢湾水先区及び伊良湖三河湾水先区

   大阪湾内     : 阪神水先区及び大阪湾水先区

 

(5) 水先業務の品質管理と責任の厳格化:

水先人乗船時の事故については、大小を問わず事故調査委員会(仮称)に諮り、原因究明と再発防止を徹底すること。水先人の免許取り消しを含む行政処分について、海難審判によらず、水先法に基づき厳格且つ詳細を規定し、責任を明確にすること。また、水先人の責任についても監督責任を追加すること。

【報告書の概要】水先業務品質管理の向上に向けた仕組みの導入

@水先行為の性質については、引き続き、船長に対する「助言」と整理することが適切であると考えられる。 

A水先人の関連する海難についての迅速な審判が実施されるよう、海難審判庁に対して、その努力を促して行くことが適切であると考えられる。

B適正化団体による機動的な処分

・海難審判手続きと併行して、水先人の全国的な適正化団体における自主・自律的な機能として、他の資格者制度を参考にしつつ、海難を起こした水先人及びその所属する引受法人に対して、迅速かつ機動的に、免許制度上の制約に支障のない範囲内において業務範囲の制限や一定期間の業務停止等の処分を講じることができるよう、その実施体制を構築することが適当である。

・また、こうした海難発生事案についての再発防止策を講じるため、当該適正化団体において研修等によりフィードバックするような仕組みを併せ講じることが肝要である。

 

2.交通政策審議会に対する諮問について

懇談会報告を受けて、更に幅広い関係者等からの意見を聴きつつ、水先制度改革の具体化に向けた検討を深度化させることを目的として、国土交通大臣は2005714日、交通政策審議会(会長:奥田碩 日本経済団体連合会会長)に対し、「水先制度の抜本改革のあり方について」を諮問した(資料C参照)。

その後、この諮問は、交通政策審議会の下部機構である海事分科会(分科会長:三村明夫 日本鉄鋼連盟会長)に審議が付託された。さらに、722日に開催された同分科会においては、その下部機構として「水先制度部会」(座長 杉山雅洋 早稲田大学教授)が設置され、同部会が本年の9月下旬を目途とし、答申案策定のための具体的な検討を行っていくこととなった。

なお、同海事分科会および同部会には、当協会 鈴木会長が委員として参画し、水先制度の抜本改革の実現に向けて、引き続き精力的に意見反映を行うこととしている。

 同分科会・部会名簿は資料Dのとおりである。

 

 

512 パイロットの乗下船実費問題等

 

511の通り200310月、草刈会長を始めとする当協会首脳が国土交通省鷲頭海事局長を訪問し、水先制度の抜本改革に係る申し入れを行った。

 このうち至急実施すべき事項として申し入れた特別会費とともに廃止を求めた乗下船実費については、2004年2月および3月に開催した国土交通省の今後の取り組みの内容とスケジュールの確認を目的とした鷲頭海事局長/草刈会長に会談おいて、関係水先人会のヒアリングを通じて実態を把握した上で、20044月中を目処に改善策等について順次結論を得ることとされた。(年報2004参照)

 

 その後、国土交通省海事局海技資格課は、東京湾、横須賀、伊良湖三河湾、大阪湾、内海各水先人会のヒアリングを実施し、各水先人会における水先人の乗下船にかかる費用を含めた諸課題について実態の把握を行った上で、五つの水先人会に諸課題の改善を要請。これを受けて五つの水先人会において検討が行われ資料Eの通り改善策が取りまとめられた。これらの改善策の実施によって、年間3億円強の費用削減が行われることとなった。

 この間、当協会としては、あくまでも乗下船実費は水先料金に含まれているものとの認識の下、国土交通省がこの問題を責任を持って解決すべきとの立場で、同ヒアリングに参画し問題点の指摘に努めた。

なお、乗下船実費については、20074月よりスタートする新料金制度の中で、どのように位置付けるかについては、国土交通省、日本パイロット協会、当協会で今後検討を進めていくこととしている。

 

 

513 新たな強制水先免除制度

 

国土交通省は、水先免許制度のあり方を中心とした水先制度に係る諸課題を検討するため、海事局海技資格課長の私的検討機関として学識経験者および海事関係者等で構成する「水先問題検討委員会」を20034月に設置した。同検討会では、従前より当協会が要望していた、航海実歴認定による強制水先の免除の行使を、FOC船等すべての船舶に拡大するための諸問題について検討を開始した。

また、こうした動きと並行して、港湾管理者及び荷主業界が航海実歴認定による強制水先の免除範囲の拡大を規制緩和の一環として要望していたことから、政府は20043月末に「船長の航海実歴による強制水先の免除の対象となる船舶について                    は、ヨーロッパにおける制度も十分参考にして、外国籍船に対しても船長が同等の知識・能力を有する場合には強制水先の免除を認めるべきである」との閣議決定を行った。

(年報2004参照)

この閣議了解を受けて、200410月に開催された水先問題検討委員会(WG)において、試験方法、航海実歴認定に必要な実歴の回数、シミュレーターによる実歴の代替措置及び航海実歴の認定ルート等の新たな制度の詳細について検討を行った。

新制度の概要はヨーロッパの制度を踏まえ、現行では同一の取り扱いとしていた航海実歴の回数(4回ないし6回)を一般貨物船と危険物積載船に分け、それぞれ24回、48回とするとともに認定のルートを細分化して倍増の35ルートとする等となっており、新同制度は省令改正を経て200541日より施行された。資料F参照)

 当協会は新制度の実施に向けて、航海実歴認定に必要な実歴回数やシミュレーターによる実歴の代替措置の軽減等について、船社の運航実態を反映して国土交通省海事局海技資格課に強く申し入れた。

その結果、シミュレーター講習の成績優良者(講習における得点100%〜90%)については、現行と同様に4回の履歴で認定が可能となる等の軽減措置が設けられた。

また、更に経過措置として既認定受有者については、新制度施行後、初回の再認定に限り、従来の実歴回数で認定されることとなった。

 

 

514 横浜・川崎港曳船運営の健全化

 

 20043月、当協会はタグ、綱取りなど船舶の入出港に係る港湾周辺業務について、主な港において実態調査を行い、水先人との関係が不透明な事例など、問題点の整理、見直しの方向をまとめた「港湾関係諸料金について」と題する報告書を作成した。

その内容は、タグ料金の設定は、基地発基地着の時間制ではなく、一作業当たりあるいは本船着(作業開始)から本船発(作業終了)までの時間とすべきとの方向を示している。また、横浜港におけるタグへの水先人の関与や、横浜市の関与を見直すべきとの提言を行っている。

その後、当協会は200411月に横浜市港湾局に非公式に申し入れを行い横浜・川崎港の水先人の関与(タグ指名)に絡む種々の問題の解決策を検討する場が設置されることとなった。

これを受けて、横浜・川崎両市港湾局、横川曳船、東京湾水先人会、当協会等の関係者で構成する「横浜・川崎港における曳船利用に係る検討会」を設置し、2回の会合を開催したが、関係者より前向きな回答が出てきていないことから、当協会は再度東京湾水先人会および横浜・川崎地区のタグ関係者に検討を要請した。

その後、20053月に座長調整案が提示されが、問題点が完全に解決するに至らず、当協会が了解できる内容でないことから、引続き解決に向けて働きかけて行くこととしている。(資料A参照)