6・1海賊問題への対応

 

61 海賊事件の発生状況

(1)世界における発生件数

国際商業会議所(International Chamber of Commerce = ICC)の下部組織である国際海事局(International Maritime Bureau = IMB)の海賊情報センター(クアラルンプール)の年次報告によれば、全世界における2004年の海賊事件(未遂事件も含む)の報告件数は325件で、2003年より120件、約36.9%減少し、3年ぶりに大幅に減少した。

地域別発生件数を見ると、東南アジアが156件(48%)で、依然として世界で最も海賊事件の多い地域となっており、これにアフリカ(72件)、アメリカ(44件)が続いている。東南アジアの海賊事件の多くはインドネシア(93件)で発生している。マラッカ海峡は2002年(16件)、2003年(28件)、2004年(37件)と、2年連続で増加した。

また、発生件数が減少する一方で、乗組員が海賊に殺害される件数が30人にものぼり、2003年の21人から大幅に増加した。身代金要求型の人質事件も多発(20030件、200486件)していることから、より凶悪化している傾向にあるといえる。

 

(2)日本関係船の発生件数

国土交通省海事局外航課は、わが国の外航海運事業者に対してアンケート調査を実施し、2004年におけるわが国関係船舶(邦船社が所有、運航、用船している外航船舶)に対する海賊事件について取りまとめた。その概要は次のとおりである。

@被害件数

2004年において、わが国関係船舶が海賊に襲われた発生件数は7件で、前年の12件から減少した。被害船の船籍別の内訳は、日本籍船1隻、パナマ籍5隻、キプロス籍1となっている。また、日本人が乗船していた船舶は1隻であった。

A発生海域

地域別に見ると、従来と同様インドネシア周辺海域を中心に、すべて東南アジアで発生している。特に南シナ海での発生が顕著である。

B被害状況

被害の事例としては、これまでは錨泊中、停泊中に小型ボートで接近し、襲撃されるケースが多かったが、2004年に発生した事例では、航海中に襲撃されるケースが増えている(7件中4件)。

また、日中に襲撃されたケースや、自動小銃を乱射された事件も報告されている。

 

6・2 わが国および当協会の対応

(1)海賊・海上武装強盗対策推進会議

20053月にマラッカ海峡北西部において発生したタグボート「韋駄天」の海賊襲撃事件注に引き続き、翌月には同海峡において日本関係船が不審船数隻に追尾されるという事件が発生したことから、国土交通省および海上保安庁は、同海峡を重要な海上輸送ルートとするわが国にとって海賊問題の解決は喫緊の課題であるとして、同年4月に海賊・海上武装強盗に対する取組みを全省的に強力に推進するための「海賊・海上武装強盗対策推進会議(座長:国土交通審議官)」を設置した。

一方、当協会においても、マラッカ・シンガポール海峡における海賊問題等については、これまでも関係省庁担当部局との間で、情報・意見交換を行なうための「マラッカ・シンガポール海峡に関する意見交換会」を適宜開催していたが、国土交通省内に設置された上記対策推進会議との連携が図られるようになり、本意見交換会において議論された内容が同対策推進会議へ反映されることとなった。

同対策推進会議では、20057月に中間取りまとめとして、これまで官民で取組んできた海賊対策の検証を踏まえたうえで、次の3項目を骨子とする海賊対策を推進することを発表した。

  @ 便宜置籍船等を含む日本関係船舶の自主警備対策の強化のための環境整備

A 沿岸国の海上取締能力向上のための一層の支援

B 海賊行為抑止のための国際協力体制の拡充

 

なお、同対策推進会議の開催状況は以下のとおりであった。(括弧内は国土交通省により発表された議題。※印は同対策推進会議と連携して開催された当協会との意見交換会)

  第1回:200547日(海賊・海上武装強盗対策の現状と課題について)

      ※2005426

  第2回:200561日(海賊・海上武装強盗対策の検討)

3回:2005727日(海賊・海上武装強盗対策の中間とりまとめ)

      ※2005818

 

注:「韋駄天」の海賊襲撃事件

2005314日夕刻、日本籍船のタグボート「韋駄天(いだてん)」が、マレーシア領海内のマラッカ海峡を建設工事用のバージを曳航してミャンマー向け航行中、武装集団が乗り込んだ小舟に襲撃され、日本人の船長、機関長、およびフィリピン人乗組員の計3名が連れ去られる事件が発生した。連れ去られた3名は、事件発生の6日後の320日、タイ南部のサトゥーン沖合で現地のタイ海上警察によって無事保護された。

 

(2)アジア海賊対策地域協力協定(船協年報2003参照)

深刻化するアジア地域の海賊問題に有効に対処するため、海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じて海上保安機関間の協力強化を図ることを目的とした本協定は、200411月に、わが国のほか東南アジア関係諸国15ヶ国の参加により採択された。

その後わが国は、2005428日、シンガポールにおいて同協定に署名するとともに、同協定締結のための国内手続を完了した旨を通告する通告書を、この協定の寄託者であるシンガポール政府に寄託した。また、同日、日本とともに、シンガポールおよびラオスが、署名と通告書の寄託を行い、カンボジアが署名のみ行った。

なお、同協定は、10番目の締約国が国内手続きの完了を寄託者(シンガポール政府)に通告してから90日後に発効することとなっている。

 

(3)ソマリア沖における海賊被害

アフリカ東岸のソマリア沖においては、20053月頃より凶暴は海賊被害が急増しており、20056月および10月には、同年3月に発生したインドネシア・スマトラ島沖地震による大津波の被災地に支援物資を運ぶ途中の国連チャーター船がハイジャックされた他、11月には、米国の会社が運航するバハマ籍客船が、ロケットランチャーやマシンガン等重火器で武装した海賊に銃撃を受けるなどの事件が発生したことから、日本および米国は、同年10月下旬から継続して航行警報を発出し、付近を航行する船舶に対し注意喚起を行った

また、同海域における海賊事件被害の深刻さ鑑み、IMOにおいてもその対応について検討が行なわれ、200511月の第24IMO総会において、加盟国に対し自国籍船への注意喚起を促すこと等の措置の実施を求めるとともに、国連事務総長および国連安全保障理事会への適当な措置の検討を要請する決議が採択された。

 

(4)海上保安庁による取組み(船協年報200120022003参照)

20004月、アジア地域における海上保安機関間の連携・協力強化の指針として、情報交換、相互連携協力、技術協力および専門家会合の開催を内容とした「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択された。

海上保安庁では、同指針に基づき以下の取組みを実施している。

  @ 巡視船・航空機の派遣

    巡視船等のアジア各国への派遣による公海上のしょう戒、寄港国における各国海上保安機関との連携訓練および意見交換、並びにしょう戒中における日本関係船との海賊対策訓練の実施。

  A 海上保安機関による海賊対策専門家会合の開催

    2000年にマレーシア、2002年にインドネシア、2003年にフィリピン、2004年にタイにて専門家会合を開催。

  B 人材育成のための支援

    東南アジア各国海上保安機関に対するキャパシティ・ビルディングのため、海上保安大学校への留学生の受け入れ、海上犯罪取締り研修、巡視船による体験乗船研修・航空機への体験搭乗等を実施。

  C アジア海上保安機関長官級会合の開催

    20046月、東京において開催し、アジアの海上保安機関が海賊および海上テロを含む海上における不法行為を連携協力して対応するための「アジア海上セキュリティイニシアチブ2004」を採択。

また、上述の海賊・海上武装強盗対策推進会議の中間取りまとめにおいて、今後の具体的な海賊対策の一つとして、便宜置籍船等の日本関係船舶が海賊および海上武装強盗に襲撃された場合には、当該事案についての迅速な沿岸国関係機関への情報提供、捜索・救助要請を行なうことができるとして、当該船舶からの船舶警報通報装置による海上保安庁への通報を受け付けることが公表された。

  注:船舶警報通報装置

     200471日に発効した改正SOLAS条約で一定の船舶に搭載が義務付けられた装置であり、船舶が危害行為を受け、危険な状態にあることを海上保安当局等へ伝達するための設備。

 

(5)海賊情報伝達訓練実施への協力

上述の、海上保安庁によるアジア各国への巡視船派遣の際に公海上で実施される海賊情報伝達訓練には、当協会会員会社が運航する船舶が参加している。

訓練実績は次のとおりである。

2004  11月:巡視船「みずほ」とLNG船(商船三井運航)

200412月:巡視船「しきしま」とVLCC(商船三井運航航)

20057 :巡視船「やしま」とVLCC(共栄タンカー運航)

  20058 :巡視船「しきしま」とLNG船(日本郵船運航)

 


IMB(国際商工会議所の国際海事局)による2004年次報告書の概要(1994年〜2004年統計)

 

1:発生件数推移

 

2:発生地域

 

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

東南アジア

38

71

124

92

89

161

242

153

153

170

156

極東

32

47

17

19

10

6

20

17

17

19

15

印度亜大陸

3

16

24

40

22

45

93

53

52

87

32

南北アメリカ

11

21

32

36

35

28

39

21

65

72

44

アフリカ

6

20

25

46

41

55

68

86

78

93

72

その他

0

13

6

14

5

5

7

5

5

4

6

年間計

90

188

228

247

202

300

469

335

370

445

325

 


 

3:襲撃時の状況2004           ( )内は未遂事件

地域

着岸中

錨泊中

航行中

東南アジア

12

3

48

( 8)

48

(37)

極東

0

0

4

( 0)

8

( 3)

印度亜大陸

3

0

13

( 2)

11

( 3)

南北アメリカ

7

1

25

( 5)

4

( 2)

アフリカ

11

4

27

( 8)

12

(10)

その他

0

0

2

( 0)

2

( 2)

合計

33

8

119

(23)

85

(57)

総計

237(88)

 

 

4:襲撃の種類

襲撃の種類

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

侵入未遂

22

27

36

18

25

46

143

83

71

93

76

発砲

 

9

6

24

11

12

8

14

13

20

12

侵入

54

129

180

174

145

227

307

219

257

311

226

ハイジャック

5

12

5

17

17

10

8

16

25

19

11

抑留

6

11

 

8

4

1

2

1

 

 

 

不明

3

 

1

6

 

4

1

2

4

2

 

合計

90

188

228

247

202

300

469

335

370

445

325

 

 

5:武装状況

武器

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

銃の所持

17

39

32

71

48

54

51

73

68

100

87

ナイフを所持

13

9

23

31

40

85

132

105

136

143

95

その他の武器

6

34

54

24

18

24

40

39

49

34

15

不明

54

106

119

121

96

137

246

118

117

168

128

合計

90

188

228

247

202

300

469

335

370

445

325

 


 

6:乗組員に対する暴行

 

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

人質

11

320

193

419

244

402

202

210

191

359

148

誘拐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

86

脅迫

8

59

56

119

68

21

72

45

55

65

34

暴行

 

2

9

23

58

22

9

16

9

40

12

傷害

10

3

9

31

37

24

99

39

38

88

59

殺害

 

26

26

51

78

3

72

21

10

21

30

行方不明

 

 

 

 

 

1

26

 

24

71

30

合計

29

410

293

643

485

473

480

331

327

644

399