6・2 海上交通安全対策

 

6・2・1 海上ハイウェーネットワーク構想

 

海上保安庁では、船舶交通が輻輳する東京湾、伊勢湾、および瀬戸内海において、ITを活用したソフト面からの施策と国際幹線航路の整備等のハード面からの施策を組み合わせることにより、船舶航行の安全性と海上輸送の効率性が調和した海上交通環境の構築に向けて取り組んでおり、2001年から2003年までの東京湾に関する検討に引き続き、2004年から伊勢湾に関する検討が開始された。

 

1.2004年度の検討結果概要

 伊勢湾の航路体系見直しおよび利用者意見の聴取により、以下の検討課題が抽出された。

@ 自主規制航路付近における航行船舶間の競合の改善

A 伊良湖水道航路の航路外待機基準の見直し

B 操業漁船と通航船舶の競合の改善

C 錨泊船と通航船舶の競合の改善

 

2.2005年度の検討結果概要

前年度に抽出された検討課題について、船舶運航の安全性および効率性の観点から、伊勢湾口海域、湾央海域および湾奥海域を対象に、定性的な評価検討とシミュレーション手法等を用いた定量的な評価検討を実施し、安全性と効率性を両立させた新たな伊勢湾の交通体系等が以下のとおり取りまとめられた。

(1)安全面について

@  伊勢湾内では、大小様々な船舶が多数混在して航行しており、特に中部国際空港沖から名古屋港沖の海域では、船舶間の複雑な見合い関係が発生する危険な海域になっている。

このため、同海域では従来より自主規制航路が設けられる等の安全対策が講じられているが、更に通航船舶の可航水域を拡大するため、自主規制航路を示す灯浮標の一部を移設するほか、これら灯浮標を中心とする右側通航の航法を新たに設け、複雑な見合い関係の発生を防止する。

A  伊良湖水道から三河湾方面へ向かう巨大船は、水深と喫水の関係から伊良湖水道航路を途中で離脱して渥美半島沿いを航行する必要があるが、深喫水船も航行できる新しい通航ルートが中山水道に整備されたことから、三河湾方面に向かう巨大船は新しい通航ルートを経由することとし、伊良湖水道航路を途中離脱する特例は廃止する。

(2)効率面について

@ 伊良湖水道航路は航路幅が狭いため、巨大船航行時には準巨大船(全長130m 以上200m 未満)に対し一律に航路外待機が指示されているが、2003 年に伊勢湾海上交通センターが運用開始されたことから、伊良湖水道航路内を航行する船舶を個々に監視することが可能となる等、航行環境は改善されているので、準巨大船の航路外待機の運用は緩和する。ただし、危険物積載船については、その潜在的な危険性を考慮し従来どおりの運用とする。

A      伊勢湾および三河湾の各関係団体が一堂に会する協議会を設置する。

 

 

6・2・2 こませ網漁業安全対策

 

瀬戸内海備讃瀬戸海域においては、永年にわたり、「こませ網」漁業の盛漁期にあたる2月から6月の間、同漁業によって、海上交通安全法に基づき船舶の通航路として定められた航路の可航幅が狭められ、場合によっては全面閉塞される事態が度々発生している。その結果、通航船舶は航路外や反対航路の通航を余儀なくされ、非常に危険な航行をせざるを得ない状況となっていることから、当協会は関係省庁等に対する航行船舶の安全確保の要望や、各種委員会における関係者との協議・検討を通じ、同海域の航行安全対策に取り組んでいる。

 

1.安全対策への取り組み

当協会は、内海水先人会と協議のうえ、運航船社として実行可能な「こませ網」漁業盛漁期間中における安全対策を策定し、その実施協力について会員会社へ周知するとともに、同安全対策に基づく措置として、同漁業盛漁期間中は毎日、備讃瀬戸東航路の巨大船航行予定を漁業関係者へ周知した。

また、関係海事団体(日本船長協会、日本パイロット協会、日本旅客船協会、全日本海員組合、日本内航海運組合総連合会)と協力して、2005228日に海上保安庁および水産庁、31日に岡山県、翌2日には香川県に対して、大型船の航行安全を確保するため、航路内可航幅300mの確保、保安庁船艇による監視と航行指導の徹底、漁具標識の統一等の要望書を提出して陳情するとともに、第六管区海上保安本部、高松海上保安部および備讃瀬戸海上交通センターも訪問し、安全確保への協力を要請した。

なお、当協会は、瀬戸内海海上安全協会が現地において定期的に開催している、備讃瀬戸海上安全調査委員会および備讃瀬戸海上交通調査委員会にも出席することとしており、漁業従事者も含む関係者へ航行船舶の安全確保の要請を直接行っている。

 

2.巨大船の避航状況

第六管区海上保安部の調査結果によれば、2005年のこませ網漁業による航路閉塞回数(可航幅300m未満)は423回(前年460回)、また巨大船の避航回数は95回(前年143回)となっている。前年に比べ、航路閉塞回数、避航回数ともに減少したものの、こませ網漁業による備讃瀬戸東航路の全面閉塞により、2隻の巨大船が当日の同航路への入航を取りやめ、翌日の入航とせざるを得ない事態が発生した。

 

3.漁業盛漁期間中の航行安全対策の実施結果

 自主的に取り組んでいる航行安全対策の実施結果は次のとおりである。

(1)備讃瀬戸東航路航行船舶のうち進路警戒船を自主配備した隻数

(海上交通安全法の定めるものを除く巨大船)

@期間:200538日〜524

西航船41隻、東航船44

  A期間:2005624日〜711

西航船10隻、東航船12

(2)備讃瀬戸東航路の東航船のうち標識として曳船を配備した隻数

   (礼田埼沖に水路限界表示と操船補助船を兼ね大型曳船を配備)

期間:200538日〜524

水島向け13隻、福山向け4

(3)備讃瀬戸東航路への入航調整を実施した深喫水船および大型危険物積載船の隻数

該当日13日間で対象船舶が12隻航行した。

(4)各港からの出港時間の調整を実施した隻数

水島港9隻、坂出港4

(5)来島海峡航路を経由して西航した巨大船

こませ網を避けるため来島海峡航路経由とした船舶はなかった。

(6)こませ網に関連して発生した事故

  2件(ともに漁具損傷)

資料:こませ網漁業による巨大船の避航状況