6.6 船舶の建造および保船、機関管理
6・6・1 新船体構造基準
1. ゴールベース・スタンダードに関する検討
(1) 経緯
2003年5月に開催された国際海事機関(IMO)の第77回海上安全委員会(MSC77)において、これまで各国・船級毎に異なっていた船舶の構造基準について、今後はある一定の基準を定め、国際的に合意された要件を設定する「目標指向型の新造船構造基準(Goal-Based New Ship Construction Standards:GBS)」をIMOの長期課題として検討することが合意された。そして、その具体的な規則の内容は国際船級協会連合(IACS)が作成することとなった。
その後、2004年5月に開催されたMSC78では、IACS、ギリシャおよびバハマの共同提案により、GBSの基本原則、目的および機能要件等を階層毎に規定することが合意された(船協海運年報2004 7・6・1参照)。
(2) MSC79およびMSC80における審議結果
2004年12月に開催されたMSC79において、GBSの内容に関する本格的な議論が開始された。審議の結果、基本原則については、あまり詳細を定めるべきではないとの意見を多くの国が支持し、簡潔なものとすることが合意された。また、構成については、5段階の階層構造とすることが合意され、この内、第1階層(目標)、第2階層(機能要件)および第3階層(適合要件の検証)は今後IMOにおいて定めることとし、第4階層(船級規則)および第5階層(建造、運航、整備等に関する実施コードおよび安全品質管理システム)については船級協会等が作成することとなった。
その後、2005年5月に開催されたMSC80では、GBSの基本原則、第1階層(目標)、第2階層(機能要件)の具体的内容、および今後の作業計画が 資料6-6-1 のとおり作成された(ただし、同会合では「機能要件」の適用対象を一般的なタンカーとバルクキャリアに限定して審議が行われた)。
今後の予定として、2006年5月に開催される次回MSC81において、全ての船舶に拡張させた第2階層(機能要件)、および第3階層(適合要件の検証)等について検討が行われることとなる。
2. IACSによる共通構造規則(CSR)策定の動向
(1) これまでの経緯とスケジュールの延期
IACSは、IMO MSC77における審議結果を受けて、現在、船級協会によって異なる船体設計基準を統一するべく、タンカーとバルカーに関する共通構造規則(CSR:Common Structural Rules)の作成を開始した。その後、2004年6月にはJoint Tanker Project(JTP)がタンカー規則の草案を、また同年7月にはJoint Bulker Project(JBP)がバルカー規則の草案を発表した注1(船協海運年報2004 7・6・1参照)。
なおこの時、IACSは2004年9月まで両規則案に関する関係業界からのコメントを受け付け、同年12月にCSR案を承認、2005年7月に同規則を発効させる計画を示していた。しかしながら、両案には当協会を始めとする関係者から3000を超す意見が寄せられたため、IACSは2004年10月に臨時理事会を開催してスケジュールの再検討を行った。この結果、2005年6月承認、2006年1月発効へとスケジュールの6ヶ月延期を決定した。
(2) Tripartite Meetingの模様
2004年11月8~9日に横浜において、船主、造船、および船級の3者が情報交換や相互理解を深めることなどを目的とした非公式会合であるTripartite Meetingが開催され、CSRに関する意見交換が行われた。
席上、日本造船工業会(造工)は、VLCCに関するCSRの影響評価を検討した結果、鋼材使用量が貨物タンク部で3000トン、船首尾部で300トン増加するため、船体重量が現在より8~9%増加する見込みとなることを発表した。さらに、波浪により船体に生じる疲労、および船体の折損に対する最終強度の計算式に技術的な問題があることや、あまりに詳細な規則となっているために合理的な技術の導入が排除されているなどの問題点を指摘した。
また、当協会も同会合に参加し、「造工の検証結果に驚いており、IMOで検討が行われているGBSとの整合性を確保し、過大な船体重量の増加を招くことになる技術的合理性の無い板厚の増大を排除するようIACSに改めて要望する」との発言を行った。
(3) IACSと当協会/造工との意見交換会の模様
IACSは、CSR案について当協会および造工に説明を行うとともに、政策的/技術的観点からの意見交換を行うことを目的に、2005年2月24~25日、東京において会合を開催した。
席上、当協会/造工は、CSR発効までのスケジュールが拙速であること、およびCSR案策定にあたっての阻害要因となっている、タンカー/バルカー両規則案における技術的な不整合をまず調和させるべきと指摘した。
これに対してIACSより、両規則案を調和させる作業には時間を要するため、2006年1月の発効時までに必要最低限の調和作業を行い、その後引き続きすべての相違点について調和作業を行いたいとの回答があった。また、当初7~11%と見られていた船体重量の増加は、多くのコメントを基に見直しを行った結果、3〜4%に減少するとの説明があった。
上記会合の後、当協会は造工との連名で次を骨子とするコメントを、同会合に出席したIACS理事会の副議長宛に2005年3月7日付で送付した。
・ 今後の規則改正や、他の船種への適用拡大が行われる可能性を考慮すれば、タンカー/バルカー規則案における調和・統一が図られた後、発効させるべきである。
・ しかしながら、仮にCSR発効後に完全な調和作業を行わざるを得ないと判断される場合には、発効前に優先的に調和作業を行うべき必須項目を抽出し、最低限これらを解決したCSR案を作成すべきである。
・ この最低限の調和作業と海運/造船業界による検証作業を行うため、発効スケジュールを1年間延期すべきである。
(4) CSR第二次草案の発表
上記会合の結果、およびこれに先立って開催された韓国での会合(韓国造工はCSR第二次草案の検証期間が必要なことから、発効スケジュールを6ヶ月延期するようコメントしていた)の結果を受けて、IACSは2005年3月29日に臨時理事会を開催した。しかしながら、IACS内部では、海運・造船業界が要望していた両規則間における調和作業が進まず、またCSR発効後の取り扱いについても方針が定まらない状況にあったため、同理事会の結果さえ公表されなかった。
このような状況にも拘わらず、JBPは同年4月8日にバルカー規則の第二次草案を発表し、また一方のJTPは同15日にタンカー規則の第二次草案を発表した。また、JTP、およびJBPのメンバーであるフランス船級(BV)は、それぞれの規則について4ヶ月間の業界による検証期間を設けることとし、2005年6月に予定されているIACSによる規則承認が不可能となるにも拘わらず、予定どおり2006年1月1日に発効させることも併せて明らかにした。
(5) 更なるスケジュールの延期
IACSメンバーである各船級協会は、2005年6月13日にパリにおいて会合を開き、概要以下のとおり合意した。
@ CSRを2005年10月1日までに理事会において採択し、2006年4月1日に発効させる。
A 両規則間の調和作業に関し、短期で終了可能な項目についてはCSR採択までに終了させる。時間を要する項目については採択後に作業を開始することとし、その計画についても採択までに明らかにする。
B CSRの採択とともに規則の所有権は各船級協会に属することとし、JTP/JBPは両規則の開発等に要した費用を互いのプロジェクトに請求することはしない。
これを受けて、当協会/造工は、IACSに対して7月7日付でレターを送付し、2006年4月1日にCSRを発効させるためには、上記スケジュールでは第二次草案を検証する期間が不十分であること、また同草案に対する業界からのコメントをIACSがCSRに取り込む時間的余裕がないと思われることから、コメントの受け付け期間、ならびに採択に関し再度スケジュールを延期するよう申し入れた。この結果、IACSは当初8月末までとしていたコメントの受け付けを9月末までに延期するとともに、採択日を2006年1月1日までとすることを公表した。
注1:JTP/JBPの両プロジェクトを形成する船級協会は以下のとおりである。
JTP:英国船級(LR)、米国船級(ABS)およびノルウェー船級(DNV)
JBP:日本海事協会(NK)、韓国船級(KR)、中国船級(CCS)、フランス船級(BV)、イタリア船級(RINA)、ドイツ船級(GL)およびロシア船級(RS)
6・6・2 バラストタンク等の塗装基準
(1) 塗装基準に関する検討の発端
1998年12月に開催されたIMO MSC70より、バルクキャリアの追加的安全措置を規定する海上人命安全条約(SOLAS条約)第XII章の改正に関する検討が行われていた。
その後、2002年12月開催のMSC76において、狭隘なスペースであることから定期的な点検・整備が困難となる二重船側部分については、当該箇所をバラストタンクとするかボイドスペースとするかに拘わらず、ある一定の基準に従って塗装を施工するという内容を条約改正案に盛り込むことが合意された。なお、議長はIACSに対し海運業界と共同で同基準の草案を作成することを要請し、同案の内容については、今後、設計・設備小委員(DE)において検討することとなった。
(2) DE47における審議模様
2004年2月に開催されたDE47では、IACSより、国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)、国際海運会議所(ICS)等の合同作業部会(Joint Working Group:JWG)と上記基準案の作成を行っているものの、未だ提案する段階には到っていないとの報告が行われた。このため、議長の提案により本件に関する作業期間を2006年までとすることが合意された。また、議長はIACSに対し、次回DE48より本件に関する審議を開始するために同会合にドラフトペーパーを提出するよう要請した。
(3) MSC79における審議模様
SOLAS条約第XII章の改正案は、2004年12月開催のMSC79において採択されることが予定されていた。この中では、前述のとおり、バルクキャリアの二重船側部分にはIMOで定める塗装基準を適用することが規定されていた。
わが国は同会合の席上、同基準の内容が定められていないにも拘わらずこれを強制化することは、新造船建造時に混乱を招くことが予想されることから、この規定を削除する提案を行った。これに対し、多数の国からは、当該基準は今後DEにおいて検討することが決定していることから何らかの規定は残すべきとの意見が出された。
審議の結果、同規則の削除には至らなかったが、同基準が作成され強制適用となるまでの間は、現行規則(注1)に従い、かつ各国の主官庁が容認可能とする基準を参照することが追記されることとなった。また、IACSからの提案により、同基準の適用を海水バラストタンクにも拡大することが合意され、条約改正案は採択された。
(4) DE48における審議模様
2005年2月に開催されたDE48に先立ち、IACS - Industry JWGはTSCF15(注2)をベースとする塗装基準案を提案しており、この中では塗装前の鋼板下地処理の要件としてサンドブラスト(注3)によりショッププライマー(注4)を70%除去することが求められていた。
一方、わが国造船所の標準的な施工では、ショッププライマーを塗布した鋼板を直ちに工作に回すため、一般的にこれを除去せずに本塗装を行っている。もしこの基準案が強制化された場合には、下地処理等の工程およびコストが増加するばかりか、ブラスト設備を持たない国内造船所では対応が困難となる。これを避けるべく、わが国は、塗装の基準を高めることについては賛同するものの、より合理的な手段として、プライマーと相性のよい塗料を使用し、これによりプライマーを除去した場合と同等以上の防食性能をもたせるという提案を事前に行っていた。
同会合では議長より、本件はターゲットデートが2006年であり、詳細な専門的議論が必要であることから、書面審議グループ(Correspondence Group:CG)を設置して検討を進めていくこととし、今次会合では一般的な議論を行いたい旨の提案があった。これについて特段の反対意見はなく、議長案に従い審議が行われ、以下のとおり合意された。
@ 適用船種
本件は、バルクキャリアの二重船側部分とバラスト・タンクを適用対象として審議が行われているが、将来的には全船種のバラストタンクとボイドスペースに強制適用されるようになるだろうとの見方が多数の国から示され、わが国もこれに同調した。
なお、適用の拡大についてはSOLAS条約の改正が必要になることから、MSC に諮ることとなった。
A 目標耐用年数
耐用年数を15年とすることについてはどの国からも異論は出ず、各国合意した。わが国も同案を支持した。
B プライマー除去の代替案
ギリシャ、英国およびINTERTANKOから、提案文書にあるプライマーの取り扱い(70%除去)に関し、それ以外の方法、つまりわが国提案にある代替手段についても、同等性が立証されるならば認められるべきとの考えが示され、今後CGの中で検討することが合意され、その結果をもとに2006年2月開催予定のDE49において審議することとなった。
(5) MSC80における審議模様
2005年5月に開催されたMSC80において、わが国はすべての造船国が同じ問題意識を持ち、より合理的で実現可能な塗装基準が確立されるべきとの観点から、同基準を全船種のバラストタンクに適用拡大するよう提案を行った。これに対し、韓国、中国は造船業界にインパクトが大きいとして反対したが、多くの国・船主団体が賛成したため、次回DE49では全船種のバラストタンクとともにボイドスペースも対象として、同基準を検討することが合意された。
ただし、わが国は、バラストタンクとは明らかに環境の異なるボイドスペースに同一の基準を用いることについては反対の意見を表明したが、具体的な審議は行われず引き続きCGおよびDE49で検討されることとなった。
注1:SOLAS条約第II-1章3-2規則において、タンカーとバルクキャリアを対象にバラストタンクの腐食を防止する方法が定められている。
注2:TSCF(Tanker Structure Co-operated Forum:タンカーの構造に関する技術的な討論を行う場。船級協会、オイルメジャーおよび独立系船主が調査結果等を持ち寄り、参加者が討論する形で運営される)が作成した "Guideline for Ballast Tank Coating Systems and Surface Preparation"の中に、塗装耐用年数(10年、15年、25年)に対応する仕様が定められており、この15年仕様をTSCF15と呼んでいる。
注3:圧縮空気とともに砂を鋼板に吹き付け、錆や不要な塗料を除去する表面処理方法。大量の粉塵が発生するため専用の屋内施設を必要とする。
注4:錆止めを目的として鋼材の時点で塗布される塗料。
6・6・3 燃料油タンクの保護
(1) これまでの経緯
海洋汚染防止条約(MARPOL条約)附属書Iでは、衝突・座礁事故による油の流出を防止するために、載貨重量600トン以上のタンカーについて貨物タンクをダブルハル化することが義務付けられている。一方、近年の大型コンテナ船等における燃料油タンクの容量は10,000㎥にも及び、この容量は小型タンカーの貨物タンク容量をはるかに凌いでいるにも拘わらず特段の防護策が規定されていない。このため、2003年3月に開催されたDE46において、オランダは海難事故による燃料油タンクからの油流出事故を防ぐために、これをダブルハル化する新規則案について検討を行うことを提案し、翌年のDE47から審議を開始することが合意された。
2004年の2月に開催されたDE47では、燃料油タンクはダブルハル構造とするべきとのオランダ、ノルウェーに対し、ドイツ、ギリシャ等が燃料油の仮想流出量の許容範囲を定めた上で、確率論的手法(*注)に基づきタンク配置を決めるべきであると主張し、シングルハルのまま当該タンクを小区画に区切ることを提案した。
なお、米国とフランスは、確率論を取り入れる規則では社会的な理解が得られにくく、また取り扱いが複雑になることを理由に、ドイツ等の提案に難色を示した。
審議の結果、燃料油タンク保護のための新規則案については、書面審議グループ(Correspondence Group:CG)が作成し、次回のDE48に報告することが合意された。
(2) DE48における審議模様
2005年2月に開催されたDE48では、ドイツを議長国とするワーキンググループ(WG)が設置されCGが作成した規則案をベースに審議が行われた。わが国はWGにおいて、新規則案にできるだけ設計の自由度を確保することを目的に、ダブルハル化の代替手法として確率論的手法を取り入れるべきとする提案を行った。また、船底損傷時における油の流出量については、わが国が行った燃料油流出実験の結果、燃料油は高粘度であるため、タンク内下部にある程度の水の層が形成された時点で流出は止まり、二重底タンクの底から10cm程度、またはタンク容量の5%しか燃料油は流出しないことを主張した。
しかし、米国と国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)は、代替手法を認めるにしても船底損傷時については傾斜や動揺を、また船側付近の損傷時には縦方向にも開口が発生することを考慮すれば、更に多くの燃料油が流出するとして、船底から1mまたはタンク容量の50%のいずれか小さい値を仮想流出量とすべきとの意見を発言した。
種々論議の結果、WG議長より調停案として二重底タンクからの仮想流出量は、船底よりB/50(B:船幅)または0.4mのいずれか小さい方の値とする提案があり、WGに参加した各国は同案に合意した。
この数値は当初の米国案と比較するとかなり緩和されたものの、船種によっては二重底部分に燃料油タンクを配置することがほぼ困難となり、大幅な設計の変更が必要となる可能性が高くなった。なお、わが国が調停案に止む無く合意することとなった背景には、米国を孤立させた場合、米国は独自の地域規制を導入することが懸念されたことがあった。
審議の結果、燃料油タンクの保護に関する新規則案は概要次のとおり合意され、MARPOL条約の改正案として海洋環境保護委員会(MEPC)に報告されることとなった。
@ 本規則は、燃料油タンクの総量が600㎥以上の船舶に適用する。ただし、個々の容量が30㎥を超えないタンクについては適用除外とする。
A C重油、ディーゼルオイル、およびガスオイルを燃料油と定義する。
B 個々の燃料油タンクの容量は2500㎥を超えるものであってはならない。
C 燃料油タンクは、原則としてダブルハル内部に配置されなければならない。
D ダブルハル化に代わる方法、つまり、シングルハルにて燃料油タンクを配置する場合には、船体損傷時においても燃料油はある一定の量を超えて流出しないよう設計しなければならない。なお、この場合の仮想流出量は、確率論を用いて計算するものとし、船底損傷時には船底よりB/50(B:船幅)または0.4mのいずれか小さい方の値の燃料油が流出することを考慮しなければならない。
(3) MEPC53における新規則案の承認
2005年7月に開催されたMEPC53では、DE48において合意されたMARPOL条約改正案が特段の修正なく承認された。今後の予定としては2006年3月に開催予定のMEPC54において採択され、2007年8月に発効する見込みである。この場合、適用時期については次の何れかに該当する船舶が対象となる。
イ)2007年8月1日以降に建造契約が交される船舶
ロ)2008年2月1日以降に起工する船舶(建造契約がない場合)
ハ)2010年8月1日以降に引渡される船舶
* 注 確率論的手法:船体損傷時に発生する破孔の大きさを、損傷統計に基づいた確率により算出する手法。燃料油タンクを船体のどの位置に配置するかによって仮想流出量が異なってくる。同手法は既にSOLAS条約の「復原性」、およびMARPOL条約の「流出算定」に採用されていることから、提案国のドイツをはじめ、日本、ギリシャ、シンガポール、リベリアおよび国際海運会議所(ICS)が支持を表明していた。
6・6・4 損傷時復元性に関する規則の改正
(1) これまでの経緯
船体損傷による浸水時においても、船舶の十分な復元性を確保するために船内を水密隔壁で区切ることが、海上人命安全条約(SOLAS条約)第U-1章の損傷時復原性規則により定められている。しかしながら、同条約では、貨物船と旅客船では異なる手法を用いて規則が作成されていた。具体的には、貨物船については損傷統計に基づく確率より、船体の部分ごとに発生する破孔の大きさは異なるとして損傷時の復元性を規定しているのに対し、旅客船については損傷時に船体の長さ・幅から算出される一定の破孔が生じることを前提にこれを規定している。
このため、1994年に開催されたIMO第38回復元性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF38)より両規則の調和に関する検討が開始され、これらを統一した条約改正案が、2004年12月に開催されたMSC79において承認された。
(2) MSC80における条約改正案の採択
2005年5月に開催されたMSC80では、上記改正案が一部修正を加えられた上で採択された。この結果、損傷確率に基づく新たな復元性規則が長さ80m以上の貨物船と旅客船(長さを問わない)に対して同様に適用されることとなった。新規則では、最近の船舶の大型化を考慮して、予想される損傷の範囲が見直されたことから、現行規則より安全性が向上しており、さらに旅客船については設計の自由度が増すと見られている。
しかしながら、多層構造の自動車専用船およびRORO船等については、新規則によって区画を増加する必要があるため、同型船においても積載量が減少し、あるいは荷役効率が低下するといった影響もあり得る。
なお、条約の発効は通常採択の18ヶ月後であるが、同改正条約については造船所が設計に要する時間を考慮した結果、発効日を2年遅らせ2009年1月1日以降に建造される船舶を対象とすることが合意された。
6・6・5 舶用燃料油の含有硫黄分に関する規制
(1) 舶用燃料油に関する規制の動向
船舶からの排出ガスを国際的に規制し、大気汚染の防止を図ることを目的とする海洋汚染防止条約(MARPOL条約)附属書VIが2005年5月19日に発効した。この内、第14規則では、船舶の主機関、発電機用エンジン、ボイラー等の排気ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)を削減するために、舶用燃料油の含有硫黄分を4.5%以下とすることが規定された。また、指定された硫黄酸化物排出規制海域(SOx Emission Control Area:SECA)においては、同1.5%以下の燃料油を使用することが義務付けられ、2006年5月よりバルティック海が同海域に指定されることも決定していた。さらに、同年7月に開催されたIMO第53回海洋環境保護委員会(MEPC53)において、北海をSECAに追加する改正案が採択され、2007年11月より同海域に指定されることとなった。
一方、2005年5月23日には、欧州連合(EU)による「硫黄分含有舶用燃料油に係る指令(1999/32/EC)」(*注)の改正案が欧州閣僚理事会において採択され、同年8月11日に「1999/32/ECを改正する指令(2005/33/EC)」として発効した。この内容は概ね上記付属書VI第14規則に準じているが、内水域航行船および停泊船については2010年1月より硫黄分0.1%以下の燃料油を使用することを義務付けている(資料6-6-5参照)。
(2) 燃料油の低硫黄化に伴う問題点
舶用燃料油の含有硫黄分を1.5%以下とするためには、製油所に新たな設備が必要となり精製過程も増加するため、通常の燃料より高価になることが予想されており、また安定した供給量が確保されるのか不透明である。このため、船舶は通常海域においては従来の燃料を使用し、バルティック海等のSECAを航行する場合には、低硫黄燃料油に切替えることになる。しかしながら、既存船では機関室内に燃料油の系統が1組しかないために燃料切替えには長時間を要することになり、この結果、高価な低硫黄油を必要以上に消費することになる。これを避けるために、新造船については2組の燃料油系統が装備されることとなり、既存船についても可能であればこれと同様の仕様に改装する必要が生じる(資料6-6-5-2参照)。
また、従来のディーゼル機関は低硫黄燃料油を使用することを想定して設計されておらず、使用実績も少ないため、主機関および発電機用エンジンにどのような影響を及ぼすのか懸念されている。
*注:船協海運年報2004 7・6・5参照