7・1 混乗の拡大に伴う船員対策
7・1・1 日本籍船の現状
1990年より「新たな丸シップ」として開始された日本籍外航船の混乗は、外航二船主団体と全日本海員組合の合意に基づくものであり、この混乗制度の根幹である法定職員の軽減は、船舶職員法第20条の「乗組み基準の特例」により許可されている。
また、2002年2月1日からのSTCW95条約の完全施行に対応して、同法第20条の規定に基づき特例として配乗されている外国人職員については、当該船員出身国の海技免状を所有することで、員外職員として当直に組み込まれるとともに、日本国政府から員外職員の承認書が発給されている。
一方、1996年の国際船舶制度の導入により、日本人船長・機関長2名配乗船を含む、承認外国人船員配乗の国際船舶が誕生している。
2004年6月末現在の総トン数2,000トン以上の日本船籍(外航)船は99隻、総トン数ベースで757万トンであった。また、日本商船隊に占める日本籍船の割合は、隻数ベースで5.2%、総トン数ベースで10.7%となっているが、本配乗要件の撤廃により、日本人配乗の柔軟性を高め、以って日本籍船建造を容易とするべく、2005年7月、全日海と共同で国交省に配乗要件見直しの要請を行った。本件は、現在国交省の設置した船・機長配乗要件の見直し等に関する検討会で検討が行われている。
7・1・2 外国人船員対策
(1)外国人船員の労働条件
従来、外国籍船に配乗する外国人船員の賃金はITF(国際運輸労連)が一方的に設定し、船主にこれを強要していた。これに対抗するため当協会は2003年に国際船員労務協会(国船協)と連携し、IBF(International Bargaining Forum:国際団体交渉協議会)交渉へ人材を派遣し、ITFによる賃金の押付けという状況を賃金交渉という形に変革させることに成功した。この交渉により締結された労働協約は2005年12月31日に有効期限を迎えることから2005年はこの協約の改訂交渉が行われた。
(2)IBF(国際団体交渉協議会) と地域交渉
IBF交渉は雇用者側代表であるJoint Negotiation Group(JNG:合同交渉団)と労働者側代表であるITFにより行われる。
JNGには日本から国際船員労務協会が参加しているが、日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社を初めとする船社も同協会の会員となっている。
今回のIBF交渉ではJNGとして同協会のほか、韓国船主協会、デンマーク船主協会およびThe International Maritime Employers’ Committee(IMEC:国際海事使用者委員会)で参加の予定であったが、新たな動きが認められた。
IBF協約の適用を希望する台湾の船主に対し、個別会社としての参加を認めていないJNGはこれを受入れることが出来なかった。このため、国船協は新たにInternational Seafarers Employers Group(ISEG)を設立することでこれを受け入れ、JNGへ改めてISEGという形で再加入した。
IBF交渉は6月7日ローマにおいて開始された後、7月ムンバイ(インド)、9月サンクトペテルブルグ(ロシア)でのワーキンググループを経て、10月6日東京における最終会合で妥結し、これを受けて国船協は全日本海員組合といわゆる地域交渉を行った結果、11月1日、2006年1月1日から2007年12月31日まで有効な協約(IBF JSU/AMOSUP-IMMAJ CBA およびIBF JSU-IMMAJ CA)の締結をみた。
今回のIBF交渉においてはITFが10%の賃金増額を含む大幅な増額となるコスト関連条件を要求した事に対し、JNGは乗組員のe-mailの無料使用を含む1年につき5%ずつのコスト全体の増額を認めることで妥結した。この結果を受けて地域交渉においては新たな費目の設定や、現行の費目の増額などにより、既に自国の給与水準に較べて高額であるアジア船員の賃金が更に大幅な増額とならぬよう対応が取られた。
今回の交渉の結果、日本船社全体では2年目で約8%弱のコスト増が見込まれる。
(3)JNGにおける課題
当協会は船員の賃金について従来からの次の方針を掲げている。
(a)船員の賃金は、その船員の居住国の物価に見合うものであること
(b)労働協約は雇用者と船員の出身国組合の間で交渉されるものであること
(c)ITF FOCキャンペーンとその他関連政策を容認しないこと
JNGも同方針を掲げており、今後は当協会の方針の実現に向けて国船協とどの様に協約交渉に取り組むか、アジア船主が協力することとなったISEGをどのように活用し、日本船主の利益に結び付けていくかが課題となる。