7・3 船員関係法規

 

731 STCW95条約への対応

当協会は、国土交通省及び()日本海技協会と連携し、IMOの訓練当直基準(STW)小委員会へオブザーバーとして参加することにより船社意見の反映に務め、STCW95条約の解釈及び運用上の問題点の解決に努めている。

20051月に英国ロンドンにおいて開催された第36STW小委員会では、船舶保安職員の資格要件の取扱いが重要議題として議論され、その内容を決定する局面に来ることから、当協会は、先んじて実施している日本政府及び邦船社の運航船籍国の船舶保安職員養成にかかる制度との整合性を注視し、日本国政府はもとより、他国及びISFに対して速やかな実行を確保できる制度とすべきであることを主張するとともに働きかけを行った。

その結果、船舶保安職員の資格要件の規定は2009年にはSTCW条約のY章へ盛り込まれることが決定されたが、資格要件の内容は各国の現行の養成制度との整合性を保つものとなり、条約の施行により新たに追加的な教育を施す必要が発生するなどの運用上の問題点は回避できることとなった。

 

732 船員法等の改正への対応

2004119日に召集された第159回通常国会において、「海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律」が可決され、これら法案は200541日に施行された。国土交通省海事局ではこれらの改正を周知するため、全国で説明会を実施した。

このうち船員職業安定法の改正による船員派遣事業については、これまでにない新たな事業であることから当協会の労政幹事会、労務懇話会にて海事局船員政策課を招き説明会を開催し、その事業に関する法令の内容について周知をはかった。

 

(1)船員法の一部改正

今回の改正では労使合意を条件にこれまで認められなかった時間外労働が認められることとなり、4月1日の改正船員法施行を前に各社毎に時間外労働に関する労使協定を締結し地方運輸局への届出がなされた。

なお、同法の施行にあたり下記の関連通達が整備された。

@         国海働第217号平成17221日 いわゆる回り休暇制を採用している船舶の雇入契約の公認申請時等の審査について

A         国海働第197号平成17224日 船員法上の部門間の兼務の取扱いについて

B         国海働第237号の1平成17311日 海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律等について

@         国海働260号平成17324日 船員職業安定法の船員派遣事業等に係る雇入契約の成立等の届出の際に留意すべき事項について

A         国海働第262号平成17325日 定員関係通達(いわゆる252通達)の一部改正について

 

(2)船員職業安定法の一部改正

既に陸上で先行している派遣事業が船員においても認められることとなり、船員派遣を行う事業者は4月1日以降の許可申請が行なわれた。許可にあたり、船員中央労働委員会の意見を聞かなければならないとされており、4月の第718回船員中央労働委員会には14社、5月の第719回には21社について諮問、答申が実施され、その後順次船員派遣事業者の許可がおりている。

なお、改正船員職業安定法の施行にあたり下記の関連通達が整備された。

@         国海政第154号平成17215日 「外国人等に貸し付けられている日本船舶に係る日本人船員の配乗に関する船員職業安定法等の適用について(昭和581227日付け員労第608)」の改正について

A         国海政第155号国海働第213号国海資第308号平成17215日「外国人等に貸し付けられている日本船舶に係る日本人船員の配乗に関する船員職業安定法の適用について(昭和581227日付け員労第609号、員其第291号、員職第576号)」の改正について

B         国海政第156号国海働214号平成17215日 「外国法人等に派遣される日本人船員の取扱いについて(昭和5141日付け員第121号)」の改正について

C         国海政第157号平成17215日 船員職業安定法等の一部改正に伴う船舶管理会社及び在籍出向に関する基本的考え方について

D         国海政第161号国海働第218号平成17年2月18日「船員職業安定法等の一部改正に伴う在籍出向等に関する基本的考え方について(平成17215日付け国海政第157号)」の適用について

E         国海政第28号国海働第26号平成17610日 船員派遣事業の許可を受けた者に係る就業規則作成及び届出等について

 

733 ILO条約改正への対応

1. 海事統合条約

ILOではこれまで、31の海事条約と1つの議定書、条約に付随する23の勧告を採択しているが、条約の多くは批准する国が少ないため、国際的な実効を伴っていないのが現状である。こうした状況下、20011月の第29回合同海事委員会において未発効の条約を除く30の議定書及び23の勧告を統合した1つの条約・勧告を作り、批准の拡大と実効のあるものにするための決議案が採択された。以来、政労使の三者で構成する各作業委員会であるハイレベル三者ワーキンググループ会合(延べ4回)、役員会合(延べ5回)、サブワーキンググループ会合(延べ2回)、社会保障に関するワーキンググループ会合がそれぞれ開催され条約案の検討が進められてきた。

ILOでは、条約草案の審議は2回討議となっており、その第1回目の検討会議にあたる予備技術海事会議が20049月にジュネーブのILO本部において開催され、草案の多くは合意が得られたものの、一部は審議未了で残った。

そのため、ILO20054月にフォローアップ会合を開催し、予備技術会議で審議未了となった事項を中心に検討が行われ、その結果を基に20062月に開催される海事総会(第95回総会)に条約草案が提出され採択される予定となった。なお、条約発効の条件、条約修正の条件に関する加盟国の数、船腹量は草案には含めず、20062月開催予定のILO海事総会にて審議されることとなった。

本条約では、実効性を確保する為、旗国検査による証書の発行、ポートステートコントロールにおける査察の実施が定められていることから、STCW条約、SOLAS条約、MARPOL条約と並ぶ実効性の伴った条約となることは確実である。

条約発効は一定数の国の批准後、1年が経過してからとなるが、批准後の条約適用に関しては政府、船主、及び現場である船舶に、検査に適合させるためにこれまでにない運用が強いられることとなる。さらに未批准国の船舶であっても、IMOのポートステートコントロールと同様にNo more favorable treatmentの扱いにより、批准国にてポートステートコントロールの査察を受けなければならず、批准国の船舶と同様な対応が求められる。

なお、本統合条約は、20062月の海事総会で残る問題点の解決・合意後採択が予定されている。

 

(1)                   予備技術海事会議フォローアップ会合

ILO予備技術海事会議フォローアップ三者会合はジュネーブのILO(国際労働機関)本部において2005421日(木)から4月27日(水)にかけて68ヶ国の政労使253人が参加し開催された。わが国からは国土交通省、全日本海員組合、および当協会が参加した。

 

@                 会議の構成

会議の前半4日間は予備技術海事会議における未解決事項を、後半2日間は予備技術海事会議に提出された修正提案について全体会議にて審議された。

審議項目はILO事務局にて事前に未解決事項として21の項目、修正提案は159件に整理された。

 

A                 未解決事項の主な審議内容

 審議の結果、未解決事項21項目の内17項目について合意をみた。

() 総則規定

(a) 条約適用対象船舶のトン数制限及び内航船への適用について

予備技術海事会議では、トン数の適用制限(下限)値を500総トンとすること及び政府の判断により内航船が除外できるとした草案であったが、船員側は前回同様、船舶の大きさや就航形態にかかわらず基本的権利と船員の保護は保障されるべきと主張し、政府グループ内で検討された結果、漁船及びダウやジャンクなどの旧来型の構造を持つ船舶以外は、内航船も含め全てこの条約が適用されるとした。

但し除外規定を個別に設けることができるとし、居住設備を含む第3章に関しては別途トン数制限値を、遵守及び執行の第5章の海上労働証書、労働適合証明書の発行については国際航海に従事する500トン以上の船舶を対象とすることで合意された。

3章(居住区等)の適用についてはワーキンググループが設けられ検討された結果、乗組員居室の床面積等を対象に200トン以上としたものの、船員側は2ヶ月後の20056月のILO総会における漁業条約の結果をみるとして態度を保留し、来年2月の海事総会で審議されることとなった。

(b) 条約の発効要件、改正の発効要件、改正提案の提出要件について

政府側のグループ会合にて議論されたが、今次会合では結論が出ず、海事総会で審議されることとなった。

() 第4章 健康/福祉/医療/社会保障

(a) 船舶所有者の災害補償責任及び船舶所有者の保険加入責任について

先の予備技術海事会議では船員の遺棄に関するILO/IMO共同作業グループの審議の結果を踏まえるとし保留となったものの、同グループでの審議の早期の結論は期待できないことから海事総会に先送りとせず今回審議された。

船員の医療費用の船主負担は業務開始日から送還日までとし、国内法あるいは雇用契約、労働協約に従った死亡及び長期にわたる災害補償については、船主が保険を手配することで合意された。

(b) 社会保障に関する旗国責任について

勧告規定ではあるものの、先の予備技術海事会議では、船員は全て旗国と同じ社会保障を確保する推奨案で船員側が強制規定化を要求し未解決事項となっていたが、推奨案を修文のうえほぼ同じ内容で勧告規定に留め置くことで合意された。

 

() 第5章 遵守/執行

(a) 海上労働証書の取消し

予備技術海事会議では時間切れとなり結論に達しなかった項目である。政府グループ案を基に検討され、証書の取消しを行う場合、考慮する点として、”seriousness or the frequency of cases of non-compliance”を強制規定に組み入れることで合意された。

(b) 船上の苦情処理手続きについて

予備技術海事会議での推奨案をもとに審議されたが、苦情の対象の中に旗国検査にも含まれているincluding seafarers’ rights の文が船員側の要求により加わり合意された。

(c)ポートステートコントロールについて

先の予備技術会議では査察の対象として船員の権利を含むかどうかで議論が中断した。今回の会合においても船員のhumiliatingdegradingな扱いも含むとする事務局案や、船員のfundamental and principle rightsの違反も含むとするEU政府グループ案、旗国検査と同様にincluding seafarers’ rightsとするアジア諸国が支持する日本政府案が検討され、ポートステートコントロールでは旗国検査の範囲を超えるべきではないとの意見が通り、旗国検査と同様に条約の違反にincluding seafarers’ rightsの文を含めることで合意された。

(d) 船員の苦情による査察の措置

船員の苦情による寄港国における査察の範囲は、その苦情の内容に限定するとして合意された。

(e) ポートステートコントロールにおける船舶の拘留の条件

出港停止となる条件として船員に明らかな危険、安全、保安の危険がある場合、あるいは条約の重大な違反、繰り返しの違反の場合とし、ポートステートコントロールの査察の範囲で合意されたincluding seafarers’ rightsの文も含まれることとなった。

(f) 陸上における苦情処理

寄港国における船員の苦情処理について法的な問題がある国もあり、船員は苦情を寄港国にできるが、これに対し寄港国は苦情の調査及び旗国や船主団体、船員団体、ILOへの通知を行い、苦情処理については船上あるいは旗国が処理する案で全面的に修正された。また、船上における苦情処理と同様、苦情の内容はこの条約の違反にincluding seafarers’ rightsの文が加えられた。

(g) 旗国検査項目、ポートステートコントロール査察項目

許可された民間の船員の募集及び職業紹介機関の使用及び給与の支払いについて、船主側は以前より削除を求めていたが、条約に記述があることから原案で合意された。検査項目は、上記の2点を含み船員の最低年齢、健康証明、資格、雇用契約、労働時間、配乗定員、居住設備、船内娯楽設備、食糧及び供食、健康・安全・事故防止、船内医療、船内苦情処理手続きとなった。

 

B                 修正提案の取扱い

予備技術海事会議で提出された修正提案159件について審議された。これは政労使共に合意したもののみ修正され、16件の修正提案が採用された。

 

2. 船員の身分証明書に関する条約

2001911日の同時多発テロ事件を契機に、船員の身分証明書にバイオメトリクス(生体認証システム)情報を導入する事がIMO(国際海事機関)に提案された。

これを受け、ILO(国際労働機関)の船員の身分証明書に関する条約(108号)を改正することとなり、20036月のILOの一般総会で108号条約は破棄され、新たに185条約が採択された。

その後、この条約はフランス、ヨルダン、ナイジェリアが批准し、2ヶ国批准との発効要件を満たし200529日に発効した。その後ハンガリーが批准し、批准国は計4ヶ国となった。しかしながら、フランスでは身分証明書(SIDSeafarers’ Identity Document)についての実際の運用が未だ実施されておらず、またアメリカ、オーストラリアでは批准を保留する意思表明もなされており、世界的に統一されたSIDの浸透には相当な時間を要するものと思われる。

一方、わが国政府は海事テロ対策や行政手続きの効率化の観点から、平成16年度から2ヵ年計画で船員手帳をIC化する「船員データ電子化」の検討に着手した。初年度にはSIDのバイオメトリクス認証の技術的な検証が実施され、当協会も当協会加盟船社と共にこの検証に協力した。

なお、わが国政府は、ILO185号条約の批准については、国際的な動向などをふまえながら検討する方針としている。