7・4 船員の社会保障制度および労働協約の改訂
7・4・1 船員の社会保障制度の概況
1 適用状況の推移
船員法上の船員を対象とした船員保険及び厚生年金保険(第三種被保険者のうち船員)の適用事業所並びに被保険者数は、海運・水産業界の厳しい状況を反映して斬減傾向が続いており、2004年3月末の適用事業所ならびに被保険者数は、前年に比べてそれぞれ151事業所、3,530名の減少で、6,460事業所、63,288名ととなっている。(資料7-4-1-1参照)
2 船員保険の財政状況
船員保険の財政は、被保険者数の減少に伴い、保険料収入も減少する一方で、疾病部門、失業部門の財政が大きく黒字に転じた結果、2003年度の収支は、全体で28億円の黒字で6年ぶりの黒字決算となった。
これにより2003年度の船員保険全体の積立金残高は、1,069億円となった。
(資料7-4-1-2参照、予算については資料7-4-1-3参照)
(1) 疾病部門
2003年度は、医療改革制度による総報酬制の導入に伴う保険料率の見直しや医療費の本人負担3割等により保険料収入が増加し、収支は前年度に比べ52億円増加の55億円の黒字となった。
(2) 失業部門
2003年度は、失業率が大幅に改善したため、保険給付費が低下し、前年度に比べ16億円増加の20億円の黒字となった。
(3) 年金部門(労災)
2003年度は、被保険者数の減少によって保険料収入が減少した一方、年金受給者はほぼ横ばいだったため、収支は前年度に比べ2億円悪化して50億円の赤字となった。
年金部門の財政は、被保険者数の減少に比べ、年金受給者の減少が小幅に留まるため、今後も赤字幅が拡大していくことが懸念され、船員保険収支全体に与える影響が最も大きい部門である。
7・4・2 船員保険制度の改革
1 「船員保険制度のあり方に関する検討会」の設置
1972年度以降実質30年以上連続での被保険者数の減少に伴い、保険料収入が着実に減少するなど、厳しい財政状況に直面していることから、陸上一般の保険制度に統合することも視野に入れ、今後の船員保険制度の在り方についての意見交換をする場として、非公式ながら官労使による「船員保険制度勉強会」が2002年12月から2004年10月までに6回開催されてきた。
その間、財政制度等審議会から「船員保険特別会計については被保険者数等の推移を踏まえ、今後独立した保険事業としての必要性を検討すべきである」、また、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」(平成16年6月4日)においても船員保険については「その存廃も含めて検討する」との指摘を受けていた。このような状況を踏まえ、厚生労働省保険局長の懇談会として、「船員保険制度のあり方に関する検討会」が設置され、概ね1年を目途に船員保険制度の方向性について議論していくこととなった。
同検討会には、使用者側代表として当協会の他、大日本水産会、日本内航海運組合総連合会、日本旅客船協会、日本経済団体連合の5名が、労働者側代表として全日本海運組合、日本労働組合総連合会の4名が、公益委員として学識経験者3名が参画し、2004年10月から2005年7月までに4回にわたり開催された。同検討会では、仮に陸上一般の保険制度と統合した場合に考えられる問題点等が示されるに留まり、統合の可否についての結論には至っていない。
2 船員保険福祉施設の見直しについて
年々船員数が減少していく中で、保険料収入の減少に伴う福祉施設事業予算の減少により、船員保険病院、保養所等を維持していくことが事実上困難な状況にたち至っている。
また、船員保険の福祉事業を取り巻く状況も以下の影響を受けていることから、制度の見直しを迫られている。(船員保険宿泊施設・医療施設の利用状況は資料7-4-2-1、7-4-2-2参照)
(ア)2000年5月26日の閣議決定(民間と競合する公的施設の改革について)により、保養施設 等を中心とした民間と競合する公的施設について、既存施設の廃止、民営化その他合理化措置を2005年度までに行うことが求められていること
(イ)財政制度等審議会、経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進会議においては更なる合理化が求められていること
(ウ)年金の福祉施設等については、例外なく5年以内に整理合理化を進めることとなっていること
これらの状況を勘案し、現在、社会保険庁主催の「船員保険福祉施設問題懇談会」において福祉施設の見直しが以下のとおり進められている。
なお、本懇談会は、2005年度をもって現在行われている合理化計画が終了することから、来年度以降は新たに検討する場を設置する予定になっている。
(1) 船員保険国内保養所及び福祉センター合理化計画について
国内保養所及び福祉センターの合理化については、2004年12月10日開催の船員保険福祉施設問題懇談会において承認された、「船員保険国内保養所及び福祉センター合理化計画について」に基づき、実施されている。
本合理化計画では、27箇所の施設を、早急に廃止すべき施設(8施設)、経過観察施設(11施設)、存続施設(8施設)に分類し、
@ 早急に廃止すべき施設に分類された施設については、2002〜2005年度にかけて段階的に廃止する
A 経過観察施設については、経営改善期間(2002〜2003年度)の経営状況等を判断し、最終的に2001年度末現在の施設数の半数程度となるよう、存続施設を決定する。廃止施設については、2004年度末から2005年度末にかけて計画的に廃止する
こととなっている。
なお、本合理化計画は、計画実行中であっても、船員保険を取巻く環境の変化などにより、見直しの必要が生じた場合には、所要の措置を講ずることになっている。
− 2005年度末までの国内保養所及び福祉センターの見直し状況 −
存 続 施 設 (14) 稚内、気仙沼、鳴子、三崎、箱根、焼津、鳥取、俵山、内子、指宿、小樽、長野、神戸、久留米
廃 止 施 設 (13) 2003年度末までに廃止された施設: 白浜、室戸、湯の川、千葉 2004年度末までに廃止された施設: 日南、八戸、大沢、秋田、和倉 2005年度末までに廃止される施設: 大洗、銚子、鳥羽、坂出
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(2) 船員保険海外保養所について
海外保養所(ホノルル日本船員保険保養所)については、近時の保険料収入の減少により、収支状況が益々悪化したことに伴い、現行の客室賃貸借契約期間が終了する2006年6月15日をもって廃止することとなっている。
7・4・3 労働協約の改定
外航労務部会と全日本海員組合は、平成17年度の労働協約改定に関し、有効期間の改定及び平成17年4月1日施行の船員に関する育児・介護休業法施行規則の一部改正に伴い、育児休業制度と介護休業制度に関する労働協約書について必要な整備を行うことで合意した。この協議結果をふまえ条文・確認書等の整理を行い、有効期間の改定を含め、平成17年度の協約が確定した。
中央における労働協約は既に、平成13年度に賃金関連項目が各社個別で協議することで合意されており、さらに平成15年度には協約書の労使当事者間が遵守すべき権利・義務関係を定めた債務的部分と休日休暇制度などを含む労働者の待遇を定めた規範的部分に分け、後者については一部を除き個別協議化ができることで合意している。