11 トン数標準税制等の新外航海運政策に関する諸課題への対応

 

 

111 「トン数標準税制等の新外航海運政策に係る調査研究」アドバイザリーグループへの対応

当協会は、20053月、株式会社日通総合研究所および株式会社野村総合研究所(以下、日通総研および野村総研)に対し、「トン数標準税制等の新外航海運政策に係る調査」を委託するとともに、同調査の報告書の客観性を高めるため、財団法人日本経済研究所(以下、日経研)に、学識経験者等で構成するアドバイザリーグループ(以下、AG)を設置した。【船協海運年報2005参照】

日通総研および野村総研は、AGからの助言も得つつ、約10ヶ月をかけて調査を行い、20061月に報告書を取りまとめた。

本調査の背景等および調査報告書の概要は以下の通り。

 

(1)本調査の背景等

欧州等の海運先進国においては、自国籍船の海外流出に歯止めをかける等の理由により、第二船籍制度、税制等の様々な海運政策を講じてきた。加えて10年前より、海運企業の所得ではなく船舶の運航トン数に応じて課税する一種の外形標準課税であるトン数標準税制の導入が相次いでいる。1996年にオランダで導入されたのを皮切りに、同年ノルウェー、1999年ドイツ、2000年英国、2002年デンマーク、2003年フランス、そして2005年には韓国でも導入されている。

このトン数標準税制は、船社にとっては予め納税額が確定しているので資金繰りが容易、また高収益時に直接的に内部留保の増大につながること等のメリットがあり、国家にとってはやり方によっては自国籍船の増大や自国海運産業の競争力強化が期待でき、また船社に損失が発生してもみなし利益により課税所得を計算しているので安定的な税収を確保できる等のメリットがある。

特に現在のようなマーケット好況時には、同税制を採用している企業とそうでない企業との間のキャッシュフローの格差が拡大するため、当協会は、税制面の国家間のイコール・フッティング、邦船社の国際競争力確保等の観点から、諸外国と同等の制度の早期導入を訴えている。

このような課題等について、国土交通省海事局と当協会は、20046月、共同で「外航海運政策推進検討会議(以下、検討会議)」を設置して検討を行い、同年11月末、トン数標準税制の導入等に関する基本的な論点整理を行うとともに、同年12月、調査すべき事項等を取りまとめた。

一方、トン数標準税制を採用している国とわが国とのバックグランドには違いがあり、わが国において同制度の導入を要望するためには、同税制の導入によりもたらされる効果について、広く国民に理解を得られるような実証的な理論構築が不可欠であることから、当協会は、検討会議における論点整理等を踏まえ、同税制等の新たな外航海運政策をわが国に早期導入するための理論構築を目指し、20053月、日通総研および野村総研に調査を委託した。同時に、この調査の客観性を高めるため、AG(資料1-1-1-1参照)を設け、専門的かつ公正な見地からの指摘を受けることとした。

AG20053月から12月までに合計9回の会議を開催し、両総研の調査内容について意見交換等を行った。両総研は、このAG委員の意見も踏まえつつ、約10ヶ月をかけて200512月に報告書を取りまとめた。(資料1-1-1-2および資料1-1-1-3照)

(2)調査報告書の概要

報告書の全体の流れは資料1-1-1-2のとおりであり、まず日本商船隊、邦船社等の意義について、ライナーサービスとトランパーサービスそれぞれ、市場の特性や、各国、各船社における位置付けや取り組みが大きく異なることから、これらのサービス区分を踏まえつつ整理しており、次いで、外航海運業の特質、国際競争力比較を行い、邦船社における外船社との国際競争力低下や邦船社の経営危機の可能性を分析し、それによって日本経済、日本の荷主に深刻な影響を与える可能性があることについて言及している。そして、諸外国の外航海運政策や他産業の税制の例をひき、わが国においてもトン数標準税制導入が不可欠であることを述べている。さらに、同税制を導入することにより生ずる効果については、既に導入しているイギリス・オランダ、ドイツ、ノルウェー、韓国の4つの事例を取り上げ、それぞれの特徴を踏まえて、同税制が導入された場合と導入されなかった場合を比較検討し、日本型モデルによる試算結果を取りまとめている。

当協会は、両総研からの調査報告を受け、今後、トン数標準税制を平成19年度税制改正に際し要望するか否か、また要望する場合はどのような内容とするか、等について検討することとした。

 

 

112 自民党海造特「海運税制(トンネージタックス等)問題小委員会」への対応

(1)自民党が勉強会を設置

トン数標準税制が世界の主要国で導入されている状況を関係方面に周知する等の当協会の活動が奏功し、自民党は、20063月、政務調査会の特別委員会のひとつ「海運・造船対策委員会(委員長:衛藤征士郎衆議院議員、以下海造特)」のなかにトン数標準税制等に関する勉強会「海運税制(トンネージタックス等)問題小委員会」(委員長:金子一義衆議院議員、以下、T-TAX小委員会)を設置し検討をはじめた(資料1-1-2-1および1-1-2-2参照)。

トン数標準税制について当協会は、日通総研および野村総研に委託した調査結果も参考にしつつ、政策委員会が中心となり、トン数標準税制導入要望に際しての留意点を含めた今後の対応等についての検討を行ってきた。

その結果、トン数標準税制等を講じている国の商船隊合計トン数の割合は全体の67%(自国船に限れば実に73%)となっており(資料1-1-2-3参照)、もはやトン数税制は世界標準の海運税制であり、世界共通のルールの下で競争できる環境を早急に整える必要があること等から、トン数標準税制を平成19年度税制改正において自民党や国交省にとりあげてもらえるよう、当協会として要望していくこととし、2006322日に開催した定例理事会において正式に決定した。また具体的な要望内容については諸外国との国際競争力確保の観点に留意しつつ調整を図っていくこととした。

 

(2)自民党海造特が中間取りまとめ

 2006615日、T-TAX小委員会の第6回会合が開催され、外航海運税制についての中間的な取りまとめが行われ、引き続き開催された海造特会合において満場一致で承認された(資料1-1-2-4参照)。

T-TAX小委員会は、20063月より6月までの間に合計6回の会合を開催し、当協会から鈴木会長、宮原副会長、前川副会長他が出席し、国際競争力強化の観点等からトン数標準税制の早期導入の必要性を訴えてきた。

当初当協会は欧州、韓国等と同等の規模の制度を求めていたが、小委員会における議論のなかで、多数の国会議員から、欧州並みの規模の場合、現下の厳しい財政事情からその実現を危ぶむ状況認識が示されたこと、また国会も終盤に入り、この機会を逃がすと制度の実現が画餅に帰してしまう怖れがあることから対象船舶の絞り込みについて検討し、613日に開催された第5回会合において、制度についての当協会としての考え方、すなわち対象船舶を基本的に日本籍船とした制度案(資料1-1-2-5参照)を説明し、関係の国会議員の支持を得た。

615日の自民党「中間取りまとめ」においては、「国際的な海運税制の大きな相違は看過し得ず、早急な是正が必要であり、また税のコンバージェンス(租税政策の国際的一致)の観点からもトン数標準税制の導入に取り組むべきである」旨取りまとめられ、概ね当協会の考え方を反映したものとなった。加えて「船舶特別償却制度の維持」ならびに「船舶の固定資産税の廃止等」についても言及されている。

このように自民党海造特においてトン数標準税制の実現を求める考え方が示されたが、今後その実現にあたっては、財政当局はもとより党税調、世論、産業界に対し、精力的にその必要性を訴え、理解を求めていかねばならず、当協会は、トン数標準税制の早期実現に向け、海事局等とも連携のうえ鋭意活動していくことを確認した。

 

 

113 「新外航海運政策検討会」への対応

国土交通省海事局は、今後の外航海運政策の基本的な方向性について学識経験者等の有識者からの意見を聞くため、20063月、「新外航海運政策検討会(座長:杉山武彦 一橋大学学長)」を設置した(資料1-1-3-1参照)。当協会からは鈴木会長が参画し、国際競争力確保の観点から意見反映に努めた。

同検討会は20063月より6月までの間に全4回の会合を開催し、資料1-1-3-2のとおり「今後の外航海運政策」を取りまとめた。

この取りまとめにおいては、今後の外航海運政策は、@できる限り企業経営への国の介入を行わず、競争を通じた良好(効率的かつ信頼性の高い)な輸送サービスの実現、Aフェアで安定的な市場環境の確保、B安全・環境・保安対策の充実、を基本として進めるべきである旨、整理されている。また我が国商船隊の充実・強化のなかの便宜置籍船対策の一環として、便宜置籍船にわが国の管轄権が及ぶよう、ドイツをはじめとする欧州諸国等において導入されている登録国と旗国を分離する船舶登録制度と同様の制度をわが国にも導入することについて検討を行う必要がある、とされた。

 

 

114 交通政策審議会海事分科会への対応

 平成18722日、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会のなかの海事分科会第11回会合(資料1-1-4-1)が、三田共用会議所において開催され、同分科会の要請により、当協会鈴木邦雄会長(中本光夫理事長が代理出席)および全日本海員組合井出本榮組合長が出席した。

同会合では、事務局(海事局)より、@新外航海運政策検討会 、A船・機長配乗要件の見直し等に関する検討会、B内航船舶の代替建造推進アクションプラン、C船旅の魅力再生のための懇談会中間提言、D水先制度の抜本改革のあり方(交通政策審議会答申)、EILO海事労働条約の概要等、最近の海事行政をめぐる動きについて説明がなされた後、意見交換が行われた。