32  WTO

 

WTOWorld Trade Organization:世界貿易機関)は1995年に設立され、本部をジュネーブに置き、モノやサービスの貿易の自由化を図る多国間協定を実施するための国際機関である。

WTOが管轄している協定には、関税の引下げなどによってモノ(物品)の自由貿易を促進するためのGATT(関税及び貿易に関する一般協定)やサービス産業における自由化を促進するためのGATS(サービス貿易に関する一般協定)などが含まれており、海運はGATS適用を目指す業種の一つとして自由化交渉が進められてきた。

しかしながら海運は、1995年までのウルグアイラウンド(ラウンドは「多角的通商交渉」の意)やその後1996年まで続けられた継続交渉(NGMTS)にもかかわらず、自国海運の自由化に消極的な米国が最後まで自由化約束の提出を拒み続け、更には交渉の打ち切りを強く主張したため海運自由化交渉は次期ラウンドまで先送りという結果になっていた。このため、海運はサービス産業の中でこれまで唯一自由化に関する合意が成立しておらず、GATSの対象外業種となっている。

外航海運業はかねてより海運自由の原則の下で世界的に自由化が進展している分野ではあるが、一層の自由化が望まれる国々も依然として存在している。当協会としては、外航海運が世界貿易の持続的発展を支援していく上でも、最恵国待遇や内国民待遇などのGATS諸原則が早期に外航海運分野に適用され、公正な市場開放が多角的枠組みの下で保証されていくことが重要であると考えている。

 

3.2.1 WTO3回閣僚会合後の動き

199911月に米国シアトルで行われた第3WTO閣僚会合では、アンチダンピング等の問題で各国の意見が対立し、新ラウンドは立ち上がらなかった。(「船協海運年報2000」参照)

しかしながら、海運を含むサービスと農業については、ウルグアイラウンド終結時の決定事項に基づき、20001月からサービス貿易理事会(以降サ貿理)特別会合で自由化交渉が開始され、暫定作業計画に基づいて各国から分野別交渉提案が行われた後、20013月には各国提案を元に「交渉ガイドライン」が合意された。

一方、日本、EC等海運交渉に関心のある国/地域は、サ貿理特別会合での交渉開始を受けて海運関心国非公式会合(いわゆる“海運フレンズ会合”)を20007月に結成し、早期に海運交渉を本格化すべく、同特別会合に海運交渉に関する共同声明を提出するなど各国に対する働きかけを行った。

(「船協海運年報2001」参照)

 

3.2.2 WTO4回閣僚会合後の動き

WTOは新ラウンド立ち上げを目指し、200111月にカタールのドーハで第4回閣僚会合を開催した。

1)新ラウンドの立ち上げ

米国同時多発テロによって強まった世界景気減速への危機感を背景に開催されたドーハ閣僚会合では、新ラウンド立ち上げが決裂した第3回閣僚会合の反省に立ち、WTO体制の恩恵が乏しいとする途上国に配慮して議論が進められ、新ラウンドの立ち上げを謳った閣僚宣言が採択され、「ドーハ開発アジェンダ」、通称「ドーハ・ラウンド」が立ち上げられた。

閣僚宣言では、新ラウンドの期限を2004年末までとしており、当時の加盟144カ国/地域は今後約3年間の交渉で鉱工業品の関税引き下げや農業自由化などを含め、新たな通商ルールを作ることになった。

これにより20011月から交渉が開始されているサービス分野についても、新ラウンドの枠内で交渉が行われることになり、海運を含むサービス分野について以下日程が定められた。

● 他国に対する1回目自由化要望(リクエスト)提出期限:20026月末日

● 同要望に対する1回目回答(オファー)提出期限:20033月末日

(「船協海運年報2002」参照)

2)中国、台湾の加盟

4回閣僚会合期間中に中国および台湾のWTO加盟が正式承認された。

中国は20011211日に加盟が発効、200211日に加盟が発効した。

 

3.2.3 WTO4回閣僚会合後のサービス交渉の動き

新ラウンドの立ち上げに伴い、海運を含むサービス分野については各国の1回目の自由化要望(リクエスト)を20026月末までに提出することが定められていたため、わが国政府も海運関係要望事項を含む各サービス産業横断的な自由化要望を各国に送付した。(海運分野に関する自由化要望事項は87カ国に提出)

リクエスト・オファー方式

WTO サービス交渉においては、各国が相互に自由化の要求を行い(リクエスト)、各国は要求に応じることが可能な案件を提示し(オファー)、最終的に最恵国待遇原則の下、二国間の合意内容が全加盟国に適用される方式(リクエスト・オファー方式)を採用している。

各国の自由化要望に対する1回目の回答(オファー)期限は、20033月末日とされていたことを踏まえ、20033月のサ貿理特別会合において、日本政府が中心となって、関心52カ国が共同で海運交渉への各国の積極的な参加を求める共同声明を提出した。

その後20047月末まで海運分野に関する何らかのオファーを提出したのは23カ国であったが、米国は海運分野についてはリクエストもオファーも提出せず、交渉の進捗状況を見守る立場をとった。

 

3.2.4 WTO5回閣僚会合

WTOは、20039月にメキシコのカンクンで第5回閣僚会合を開催した。この閣僚会合は、200511日の交渉妥結に向け、農業分野でのモダリティ(注)確立・非農産品アクセス交渉のモダリティ合意などを目指したものだが、先進国・途上国間の対立の激化により交渉は決裂し、所期の目的を達成できなかった。

なお、第5回閣僚会合までにWTO加盟国は148カ国・地域となった。

 

(注)モダリティ:

関税の引き下げや国内保護の削減などについて、各国に共通して適用される取り決め。

 

3.2.5 WTO5回閣僚会合後の動き

カンクン閣僚会合決裂以降WTO交渉は停滞していたが、20047月、WTO一般理事会で交渉の「枠組み合意」が採択され、交渉が再び軌道に乗ることとなった。200512月に香港において閣僚会合を開催することが合意され、2004年末とされていた当初の交渉期限の延長が決定された。「枠組み合意」には農業交渉などの枠組み合意が盛り込まれた他、サービス分野に関しては、交渉の促進が示されるとともに、20055月末を期限に改訂オファーを提出することが盛り込まれた。

「枠組み合意」の概要:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/wto_gh_0408.html

日本政府は、20056月中旬に改訂オファーを提出した。その中で、海運関連分野については、新たに船舶の保守及び修理サービスに関してオファーを行った。

 

3.2.6 WTO6回閣僚会合(200512月於香港)

20051月から5月にかけて断続的に非公式閣僚会合が開催されたが、20051月にスイスのダボスで開催された非公式閣僚会合において、2006年末までに交渉を終結させることが確認された。

20052月のサ貿理特別会合において、わが国を含む41カ国は、海運分野における自由化は加盟国全体の利益になるとの観点から、各国がより質の高い自由化約束をするよう求める「海運交渉推進のための共同声明」を採択した。

加盟各国は、「2006年中に新ラウンド交渉を終結させるために、200512月の香港閣僚会合における合意が重要であり、その合意のFirst Approximation:『たたき台』を20057月末までに作成する」との共通認識が形成されており、各国は『たたき台』作成のための作業を進めてきた。

20051212日から18日までの日程で行われた香港閣僚会合では、各分野の交渉手法等に関する閣僚宣言が纏められ、海運を含むサービス交渉については、今後の交渉促進に向けた以下事項が盛り込まれた。

@分野毎の交渉目標等を「努力目標」として規定すること。

A従来の二国間交渉に加え、リクエスト(自由化要求)・オファー(自由化約束)交渉を分野毎に複数国間(プルリ)交渉を行う。

Bプルリ交渉に関するリクエストの提出期限を20062月末とし、第2次改訂オファーの提出を20067月末とすること。また、最終的約束表案の提出を200610月末とすること。

 

上記の通り、サービス分野の交渉については、交渉目標の明確化、交渉方法に関する合意がなされ、その後の本格交渉向けた足がかりが得られた。

(香港閣僚会合の合意事項を踏まえたWTOドーハ・ラウンドのスケジュールは資料3-2-6参照)

 

3.2.7 香港閣僚会合後のWTOサービス貿易交渉

20062月、WTOサ貿理特別会合が開催され、海運サービス分野については海運フレンズ(海運関心国非公式会合)及び二国間協議等が行われた。

200512月の香港閣僚会合では、サービス交渉のプルリ・リクエストの提出期限は20062月末とされていた。このため、本特別会合はリクエスト編成交渉を行える実質的に最初で最後の場であったため、各分野ともリクエスト編成に向けて積極的な議論が行われた。

海運フレンズ会合については、14カ国/地域(豪州・カナダ・中国・EC・香港・日本・韓国・メキシコ・ニュージーランド・ノルウェー・シンガポール・スイス・台湾・アイスランド)から40名が参加して開催された。

会合では、香港閣僚会議前にフレンズ会合メンバーで取りまとめた共通の海運交渉目標をたたき台としてリクエストの編成作業を行った。また、同時にリクエストの一部となる海運モデル約束表の見直しも行われた。

この結果、海運フレンズメンバーから、米国・インド・ブラジル・インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ等約30カ国に対し、海運モデル約束表を基に海運市場の自由化約束を要求することを内容とした海運プルリ・リクエスト案について大筋合意した。

同リクエストは、各国が持ち帰って再度内容及び対象国の最終確認を行った後、当初の予定通り20062月末日までに、フレンズ会合を代表して日本政府から対象国宛送付された。

 

3.2.8  ドーハ・ラウンド中断

ドーハ・ラウンド交渉は、年内の最終合意に向け農業と非農産品市場アクセスのモダリティの確立を目指してきたものの、香港閣僚会合以降、我が国、米国、EU、ブラジル、インドなどの主要国間で、いわゆる「三角形」(農業市場アクセス、農業補助金、非農産品(鉱工業品等)等)の膠着状態に陥っていたため、これを如何にして打開するかが焦点となっていた。

2006629日から71日までジュネーブで閣僚レベルの会合が行われたものの、モダリティ確立に関し合意に至らず会合が終了したため、756日の訪日を皮切りにラミーWTO事務局長が調整役として主要国・地域との対話を行った。

その後、716日・17日にロシアのサンクトペテルブルグで開催されたG8(日・米・英・仏・独・伊・加・露)サミットにおいて、G8首脳は、ドーハ・ラウンド妥結へ向けて柔軟性をもって協調し、1ヶ月以内にモダリティ確立を目指すことを確認した。これを受け、G6(日・米・EU・ブラジル・印・豪)閣僚会合は急遽、723日からG6閣僚会合を集中的に開催することを決定した。

G6閣僚会合においては、農業市場アクセス、国内支持について約14時間に及ぶ議論が行われたものの、各国の立場の違いが埋まるには至らなかった。ラミー事務局長は、現状では議論の進展は見込めないとの判断から、24日午前、G6との短時間協議を経た上で同日午後、非公式貿易委員会(TNCTrade Negotiation Committee2001年の第4回閣僚会合で設置された組織)を招集し、ラウンド交渉を中断する旨発表。各国とも遺憾の意を表明しながらも事務局長の提案を了承した。

これによりラウンド交渉は当面中断となり、当初のスケジュール通り2006年末までの交渉妥結は事実上困難となった。

多角的貿易体制を貿易政策の幹と捉え、その強化のため、今次ラウンドの早期妥結を目指して積極的に貢献してきたわが国は、ドーハ・ラウンドの中断を受け、81日にコメントを発表した。(資料3-2-8参照)

 

3.2.9 ドーハ・ラウンド中断決定後の動き

わが国等は早期ラウンド再開の道を模索していたが、早期再開には政治的後押しと再開後の円滑な交渉の進め方に関する事務的段取りを如何に整えていくかが焦点となっている。

交渉再開の機運を高める観点から、APEC20061118日に開催された首脳会議でドーハ・ラウンドをめぐる対立解消に努める姿勢を示す声明(添付資料3-2-9参照)を採択した。

声明は、20067月から中断されている交渉の再開に向け、引き続き各国・地域がそれぞれ柔軟性を持って関わっていく姿勢を示した他、具体的な内容には踏み込んでいないが、鉱工業品関税の実質的な引き下げやサービス貿易の開放に取り組む必要性を呼びかけている。

 

3.2.10 WTO加盟状況

20061212日現在、WTO加盟国数は149カ国・地域(アジア地域からは21カ国・地域)、現在加盟交渉中の国は31カ国・地域となっている。加盟交渉中の国のうち、ベトナムについては2006117日のWTO一般理事会で加盟を承認され、2007111日に150番目の加盟国となることが決定した。これによりベトナムにおける海運の市場アクセス等が大幅に改善される。(資料3-2-10参照)

ロシアについては、1993年の加盟申請以降、各国と加盟交渉を行ってきたが、難航していた米国との交渉がようやく妥結したため、2007年半ばの加盟が見込まれている。

 

3.2.11 WTOサービス自由化交渉に対する民間の対応

1)当協会の対応

 他国に対するわが国要望事項に当協会意見を反映すべく、国際幹事会において各国/地域に対する当協会としての海運関係要望事項を取り纏め、第1回目の自由化要望前の20011月に国土交通省に提出した。

その後、各国からの1回目の回答(オファー)の提出があった後、日本政府はサ貿理特別会合において各国政府とオファーの内容について確認のための二国間協議を進めているが、円滑な交渉の進展に資するため、当協会は、国際幹事の意見・要望を踏まえ、必要な情報を国土交通省に提供している。

今後も、同省や関係機関を通じてサ貿理特別会合や2国間協議等の情報収集に努めると共に、今次交渉でGATS諸原則の海運分野への適用が実現し、海運市場の自由化が促進されるよう意見反映を図ることとしている。

2ICSの活動

ICSInternational Chamber of Shipping:国際海運会議所)は200512月の第6回閣僚会合(於 香港)に向け、ドーハ・ラウンドで海運に対するGATS諸原則適用実現の必要性を訴えるとともに、海運の自由化は海運サービス利用者にとっても利益となり、ひいては世界貿易の健全な発展に資する旨主張したリーフレットを作成、関係者に広く配布した。

また、20062月末に海運フレンズメンバー国から約30カ国宛にプルリ・リクエストが提出された機会を捉え、ICSメンバーに対し、自国政府が海運交渉に参加するよう促すことを改めて要請した。

3)日本経団連の活動

@ ドーハ・ラウンド交渉の実質的進展に向けたポジションペーパー

日本経団連はわが国産業界の意見を集約した提言を例年取り纏めており、20059月には同年12月開催の第6回閣僚会合の成功に向けての提言書を、20066月には、当初の予定通り2006年中に今次ラウンド交渉成立に向け、WTO加盟国に対して現実的な対応としかるべき譲歩を切に求める提言書を取り纏めた。

20066月に最終化された提言書では、各分野別交渉に関する意見も含んでおり、海運サービスについては「複数国リクエストにおいて求められているように、加盟国は質の高い自由化を約束すべきである。特に、国際海上運送サービス及び海上運送の補助的サービスの自由化、ならびに港湾サービスへの無差別なアクセス及び利用の確保が重要である」との文言が含まれた。

A 日本経団連貿易投資委員会ミッション

日本経団連は、日本の経済界の意見を反映させることを目的に、2000年以降、毎年、ジュネーブ等にミッションを派遣している。2005年及び2006年もジュネーブおよびワシントンDC)にそれぞれミッションを派遣、WTO事務局首脳他と会談し、ドーハ・ラウンド交渉の2006年末までの合意に向けて率直な意見交換を行った。

20067月の交渉中断以降は、御手洗会長他、経団連首脳が欧州委員会バローゾ委員長、米国通商代表部シュワプ代表、主要関係国と面談し、ラウンド交渉の早期再開を働きかけた。