5.1水先制度の抜本改革について
5.1.1交通政策審議会・海事分科会 水先制度部会の答申
国土交通省海事局長の私的懇談会として設置された「水先制度のあり方に関する懇談会」(座長:杉山武彦一橋大学学長)が取りまとめられた報告書を受けて、国土交通省は更に幅広い関係者等からの意見を聴きつつ、その具体化に向けた検討を深度化させることを目的として、2005年7月14日、交通政策審議会(会長:奥田碩 日本経済団体連合会会長)に対し、「水先制度の抜本改革のあり方について」を諮問した。この諮問に対する答申案の具体的な検討を行うことを目的に、交通政策審議会海事分科会はその下部機構として「水先制度部会」設置した。(本誌2005年参照)
同部会は、2005年7月28日に第1回会合を開催し、懇談会報告をベースに検討を進め、11月24日開催の第3回会合で最終的に答申を取りまとめるとともに、交通政策審議会答申として、国土交通相に提出された。(資料5-1-1)
同答申に盛り込まれた水先抜本改革の具体的方策については、2005年6月の「水先制度のあり方に関する懇談会」報告(本誌2005年参照)をベースに通り取りまとめられた。
但し、このうち当協会が責任の明確化の観点から予てより主張していた「水先引受主体の法人化」に関しては、法人形態が弁護士法人と同様に水先人全員を社員とする法人となることから、仮に、水先人の故意・過失により事故が発生した場合、全員が連帯責任を負うこととなり、業務の継続ができなくなる等の問題が生じ、これを回避するためには、水先人が自己破産手続を行った上で業務を継続する等、異常な状態を招く可能性があった。
このため、当協会は機関決定を経て、引受主体の法人化に換えて「水先人会」を法人化するとともに、水先業務の品質管理や会計の透明性を確保する方策等の導入により、業務の適確化を目指すこととし、2005年11月2日、国土交通省にこの旨申し入れを行っていた。(資料5-1-1-2)
これら問題については、その後、国交省による精力的な調整が行われた結果、答申においては、水先人会を法人化し、引受ルールの策定・開示をはじめ透明で公正な運営の確保等を概要とする「水先業務運営の適確化・効率化のための方策」として答申に整理された。
また、答申においては、「水先人不足の到来に対応するための方策」、「水先業務運営の適確化・効率化のための方策」および「水先人の安全レベルの維持向上等を通じた安全確保のための方策」として具体的に抜本改革の方向性が示されており、船舶交通の安全確保と海洋環境保全および水先業務運営の効率化による港湾の国際競争力の向上に資するものとなっている。
なお、海事分科会および部会には、鈴木当協会会長が委員として参画し、船主意見の反映に努めた。
その後、国土交通省は交通政策審議会の答申に沿った水先制度改革を実施するため、改正水先法案を取りまとめ国会に提出し、改正水先法は2006年5月17日交付、2007年4月1日に施行されることとなった。
5.1.2水先人養成制度について
水先制度抜本改革の具体的方策として「水先人の養成・確保」が答申に盛り込まれている。特に養成制度については、2007年度早々から実施するため、水先人を養成する施設の内容及び登録要件、養成内容等を事前に決定し、政省令等を整備する必要があった。
このため、当協会をはじめ国交省、パ協、船員養成機関等の関係者によって「水先人養成等の仕組みの具体化に当たっての専門的検討事項に関する懇談会」が2005年12月に設置され(資料5-1-2)、次の事項について検討を開始した。
@ 等級別の資格要件
A 等級別の業務範囲
B 養成期間及び養成カリキュラム
C 養成教材、シミュレーターソフト等の内容
D 養成養育計画等の内容、
E 水先人志望者の養成課程への参入を促す方策 等
その後、2006年7月末までに延べ3回に亘って検討を行い、@〜Bについてのとりまとめを行った。
国土交通省は同懇談会のとりまとめを受けて、9月末までに上記事項に関わる事項に関する政省令等を公布した。その概要は次の通りである。
○水先人免許
@経歴等の新要件
要 件 |
一級水先人 |
二級水先人 |
三級水先人 |
||
乗船履歴 |
船舶 |
総トン数 |
3,000GT以上 |
3,000GT以上 |
1,000GT以上 |
航行区域 |
沿海以遠 |
沿海以遠 |
沿海以遠 |
||
職 名 |
船長 |
一航士以上の職 |
(実習生可) |
||
期 間 |
2年以上 |
2年以上 |
1年以上 |
||
海 技 免 許 |
三級海技士(航海) |
三級海技士(航海) |
三級海技士(航海) |
A免許等級と行使範囲
免 許 |
行 使 範 囲 |
一級水先人 |
制限なし。 |
二級水先人 |
上限5万トン、但し危険物船は上限2万トン |
三級水先人 |
上限2万トン、但し危険物船は不可 |
○養 成 機 関
・東京海洋大学、神戸大学、海技大学校(予定)
○養成期間・養成カリキュラム等 (単位 : 月)
養成 内容 |
新 規 |
進 級 |
複 数 |
|||||
一 級 |
二 級 |
三 級 |
一 級 |
二 級 |
一 級 |
二 級 |
三 級 |
|
座学 |
3.5月 |
6月 |
9.5月 |
1月 |
2月 |
1.5月 |
3月 |
4月 |
操船シミュレータ |
1.5月 |
3.5月 |
6月 |
0.5月 |
1月 |
1月 |
2月 |
3月 |
商船等乗船訓練 |
− |
− |
4月 |
− |
− |
− |
− |
− |
タグ乗船 |
− |
0.5月 |
0.5月 |
− |
− |
− |
− |
− |
水先現場 |
4月 |
8月 |
10月 |
1.5月 |
3月 |
2月 |
4月 |
5月 |
合 計 |
9月 |
1年6月 |
2年6月 |
3月 |
6月 |
4.5月 |
9月 |
12月 |
今後は、同懇談会において養成支援の内容や養成教材、シミュレーターソフト等の内容について、早急に内容を確定していくこととしており、当協会は、引き続き安全と効率の両面から必要な意見を主張していくこととしている。
5.1.3 2006年度水先料金改定
当初の予定では、2006年4月から特別会費が2億円引き下げられ、16億円になる予定であったが、水先制度の抜本改革を実現するために実施した実態調査(水先区・強制水先に関する実情把握等)への支払いが約1億2,000万円見込まれることから、18年度においては、特別会費より4000万円をこの調査費用に充当することとし、今年度の特別会費引下げ額は1.6億円を見込んでいる。(調査費用の残額の8000万円については、次年度あるいは次年度以降の2年間で拠出予定)。
但し、その他別途1.6億円が水先料金から引き下げられることとなり、結果として、18年度の水先料金は、約3.2億円相当の引下げが行われる見込みである。
最近の料金引下げ額の推移は以下の通りで、2003〜2006年度の4年間で約37億円の引下げが行われることとなっている。
【水先料金引き下げ額(2003〜2006)】
2003年度:14億2,800万円(きょう導距離見直し11.5億円+ニ人乗2.8億円)
2004年度:14億8,200万円(きょう導距離見直し4.3億円+特別会費8.5億円+乗下船実費見直し2.5億円)
2005年度: 4億8,700万円(特別会費3.7億円
+東京湾水先人会の船艇費是正分1.2億円)
(見込み)
2006年度: 3億2,000万円(特別会費1.6億円+その他1.6億円)
(見込み)
合 計 :37億1,700万円
注:@平成2003〜2004年度にかけて各水先区の「きょう導距離の見直し」が実施された。また、2003年度からは二人乗料金(70/100⇒50/100)の引下げが実施された。
A2004年度からは「特別会費」の廃止に向けて段階的な引下げを実施。また、三大湾にて乗下船実費の見直しが実施された。
B2005年度の「東京湾水先人会の船艇費是正分」は水先艇の綱取ボートとしての転用相当分を削減したものである。