5・4 港湾労働関係

 

5・4・1  2006年港湾春闘

1.春闘の争点

今年の春闘は、制度面を中心とする中央団交で組合側(全国港湾労働組合協議会:全国港湾、全日本港湾運輸労働組合同盟:港運同盟)から「ここ数年中央団交において大きな進展がないために継続協議課題が山積している」として、「各地区港湾団交、中央部会や各委員会において個別に協議し、最終的に中央団交で確認を行う」という新たな協議の進め方が提案されるなど、異例の展開となった。

一方、中央団交と平行して行われていた船内賃金交渉では、使用者側(日本港運協会船内経営者協議会:船経協)から当初より有額回答があったものの、組合側(港湾荷役事業関係労働組合協議会:港荷労協)はそれを不服として交渉は合意に至らず、326日の日曜夜荷役拒否という、限定的ながらも1999年以来7年ぶりとなるストライキが実施された(コンテナ船と自動車船数隻にスケジュール遅延等が発生)。

業界誌等で当初から報道された通り、今年の春闘は04年春闘交渉以来の「港湾運送料金完全収受(特に非協力的な一部外船に対する)」による賃金の大幅改善が最大の争点であった。

 

2.労使交渉経緯

(制度関係)

28日(水)に第1回中央団交が開催され、組合側(全国港湾、港運同盟)より使用者側(日本港運協会:日港協)に対し、「06年度港湾産別協定の改定に関する要求書」が提出され、産別協定の改定を目指して、以下の要求項目について趣旨説明がおこなわれた。

(1)06年度産別協定の改定の要求について

@産別協定の完全実施について

A産別賃金制度の改定について

(2)継続課題の協議について

@労使政策委員会課題について

Aアスベスト対策について

B事前協議制度の改定について

(3)協議の進め方について

@労使交渉

ア)産別協定の完全実施について:各地区港湾団交並びに中央部会交渉を実施し、各企業の協定完全実施を図る。

イ)制度賃金について:賃金労働時間専門委員会を開催し、問題解決を図る。

ウ)ITF協約船問題ならびに事前協議改定の細部について:事前協議委員会を開催し、解決を図る。

エ)継続課題について:労使政策委員会および中央安全委員会を開催し、解決を図る。

A解決目途について、上記4項の課題は3月中旬を目途に解決を図る。

B3月下旬に開催する中央団交で上記4項の解決を確認する。

 

38日(水)に第2回中央団交が開催され、28日(水)の第1回中央団交においての組合側要求項目に対して、使用者側から逐条的に考え方が示された。特に協議の進め方に対しては地区などを通じて意見集約を進めていたが、「歴史と伝統と権威がある中央団交を尊重して進めていきたい」などとして、否定的な見解が示された。これに対して組合側は「中央団交を軽視しているわけではなく、継続協議事項となっている各課題についてより深く議論を進めていきたい」などと説明、「交渉方式」に関する議論を中心とした入口論に終止した。

 

328日(火)に第3回中央団交が開催、使用者側から再度回答が提示され、双方歩み寄りの結果最終的に妥結に達し、以下内容の仮協定書および仮覚書が締結された。

[仮協定書]

(1)港湾産別協定の順守について

@1972年協定に基づき、締結された各港湾別協定を順守する。

A労使政策委員会に小委員会を設置し、既存協定の整理並びに適用範囲等について、協議検討する。

(2)

@基準賃金制度の設置については、労使政策委員会で協議する。

A産別最低賃金協定に係わる問題及び検数・検定労働者の標準者賃金については、個別賃金交渉終了後「賃金・労働時間問題専門委員会」で協議する。

B時間外割増算定基礎時間については、別紙平成18328日付「覚書」による。なお、労働基準法に基づく所謂分母については、労使政策委員会で確認する。

(3)スーパー中枢港湾等コンテナターミナルの再編問題については、平成17年11月30日付「スーパー中枢港湾及びコンテナターミナルの自動化に係わる確認書」による。なお、当該確認書に係わる別途協議等を必要とした問題については、労使政策委員会で協議する。又、政策課題については当該確認書に基づく行政対応を含め、労使が協力して夫々努力する。

(4)常用港湾労働者の派遣等、常用港湾労働者対策については、労使政策委員会で協議する。

(5)アスベスト荷役に係わる港湾労働者の健康対策としては、行政対応を含め労使が協力して、夫々努力するものとする。その外必要な事項については、中央安全専門委員会で引き続き協議する。

(6)事前協議問題について

@平成17331日付協定書3項の定めによる。

A平成17年度要求書の継続協議事項については、中央事前協議会に於いて引き続き協議する。

(7)(1)−A、(2)−@、Bについては、平成187月末目途に結論を出すべく努力する。

 

[仮覚書]

(1)6大港船内及び船側沿岸について199159日付協定覚書「労働時間の短縮について」

労働基準法に基づく算定基礎を目標とし、出来る限り早急に実現に向けて努力する。ただし、本年度は現行154時間を153時間とする。

(2)2006年度労使政策委員会について

@労使双方合意により小委員会を設けることが出来る。

A協議事項について

ア)産別協定の順守について

イ)平成171130日付「スーパー中枢港湾及びコンテナターミナルの自動化に係わる確認書」による別途協議事項等

ウ)常用労働者派遣の促進及び常用労働者対策にかかわる諸施策

エ)基準賃金について

オ)年末年始特別有給休暇等の例外荷役に関する問題

カ)その他、労使双方が協議必要と合意した問題

 

(賃金関係)

37日(火)に第1回船内賃金交渉(第1回船内労使協議会)が開催されたが、組合側(港湾荷役事業関係労働組合協議会:港荷労協)よりの要求書内容(基準内月額一律10,000円と基準内月額平均6,000円、合計16,000円の賃上げ、昨年と同要求額)の趣旨説明が行われただけで使用者側(日港協船内経営者協議会:船経協)より発言もなく終了。

 

317日(金)に第2回船内賃金交渉(第2回船内労使協議会)が開催され、使用者側は2,000円(基準内月額一律)の有額回答をしたが、組合側はこれを不満として交渉は決裂。組合側は平和交渉の打ち切りと、争議(争議内容については後日申し入れる)を使用者側に通告した。

 

323日(木)に第1回船内賃金団交(第3回船内労使協議会)が開催されたが、使用者側が317日(金)の第2回船内労使協議会で提示した2,000円(基準内月額一律)の有額回答に上積みを提示しなかったため、組合側はこれを不満として交渉は決裂、組合側は直ちに次のスト通告を行ない、本通告通り1999年以来7年ぶりとなるストライキが実施された(コンテナ船と自動車船数隻にスケジュール遅延等が発生)。又、同日全国港湾は同争議行為を支援/協力するよう、各単組委員長/地区港湾議長へ指示を出した。

日  時:3月26日(日)18時00分〜翌27日(月)08時00分

争議内容:就労拒否及び阻止行動

対象事業所:船内経営者協議会加盟の全港・全事業場 (東京港/川崎港/横浜港

        神戸港のみ対象) 

328日(火)に第2回船内賃金団交(第4回船内労使協議会)が開催され、使用者側は、@上乗せ回答500円(計2,500円/月基準内)、A時間外算定基礎分母153時間、を提示したが、組合側はこの回答を不服とし「42日(日)以降の日曜就労拒否及び阻止行動」を書面で通告した。これに対し使用者側はコンテナをその対象から除く事を要望したが拒否された。

 

329日(水)に第3回船内賃金団交(第5回船内労使協議会)が開催され、使用者側は更に上乗せ回答500円(計3,000円/月基準内)を提示したが、組合側はこの回答を拒否し妥結に至らなかった。翌330日(木)に団交が再開され、使用者側は「来週初めに誠意ある回答をするので、42日(日)のストは回避願いたい。」と申し入れた。これを受けて組合側から「42日(日)のストは延期する」と回答があり、同日のストは回避された。

 

46日(木)に第4回船内労使団交(第6回船内労使協議会)が開催され、使用者側は、@基準内賃金=1,000円上積みの平均又は単純職階平均月額4,000円アップ、A時間外賃金算定基礎分母=154→153、B労災補償=死亡および1〜3級まで400万円の上積み、合計4,000万円、を回答。休憩を挟んで再開されたトップ交渉において、使用者側が、C基準内賃金の値上げとは別に、基準外として一時金一律月額2,000円(年額24,000円)を支給する事を提示し、組合側がこれを受け入れ賃金に関しては妥結。その後その他諸要求について協議され、最終的妥結に至り、スト解除指令が口頭でなされた。因みに昨年の妥結額は基準内賃金月額3,000円の値上げ、一時金一律月額2,000円である。

 

3.総括

日港協より「今年の春闘交渉は制度問題より賃上げ交渉のほうが先行する」「04年年末年始荷役の問題で船社は”05年春闘では協力すると約束したにもかかわらず、邦船からは一定の協力が得られているものの、アジア系を中心とした外船社からは依然として協力を得られていない」「現状のままでは(06年春闘で)労組を説得できない」等の見解が示されていた。若干陰りが見えるものの、船社側の3年続けての高業績を背景に組合側が強硬姿勢を打ち出し、7年振りのストライキを経て昨年妥結実績を1,000円上回ることとなった。

 

 

<参考資料> 2006年港湾春闘の労使交渉経緯

2月8日   第1回中央団交

組合側より「06年度港湾産別協定の改定に関する要求書」が提出され、要求・申し入れ内容について趣旨説明がなされた。

2月27日 港荷労協より船経協に基準内月額16,000円の値上げを内容とする        要求書が提出された。

3月7日   第1回船内賃金交渉

3月8日   第2回中央団交

協議の進め方に対し、使用者側から「歴史と伝統と権威がある中央団交を尊重して進めていきたい」との見解が示され、組合側は「中央団交を軽視しているわけではなく、継続協議事項となっている各課題についてより深く議論を進めていきたい」などと説明、「交渉方式」に関する議論を中心とした入口論に終止した。

3月17日  第2回船内賃金交渉

使用者側より月額2,000円の有額回答があったが、組合側はこれを拒否。平和交渉の打ち切りと争議(内容については後日申し入れる)を通告した。

業側は再検討のうえ再回答。組合側は「前回よりも一定の前進はあったものの、中間回答として受け止める事として、次回は回答を前進させることを願う」と返答。320日の日曜作業拒否の準備指令は解除された。

3月23日  第3回船内賃金交渉(第1回船内賃金団交)

使用者側が3月17日に提示した2,000円に上積みを行なわなかったため、組合側は直ちに3月26日(日)18:00〜翌27日(月)08:00の就労拒否及び阻止行動を通告。本通告通りストライキが実施された。

3月28日  第3回中央団交及び第4回船内賃金交渉(第2回船内賃金団交)

中央団交では使用者側から再度回答が提示され、双方歩み寄りの結果最終的に妥結に達し、仮協定書及び仮覚書が締結された。

一方、船内賃金交渉で使用者側が@上乗せ回答500円(計2,500円)、A時間外算定基礎分母153時間を提示したが、組合側はこれを不服とし、4月2日(日)以降の日曜就労拒否及び阻止行動を書面で通告した。

3月29日  第5回船内賃金交渉(第3回船内賃金団交)

使用者側が更なる上乗せ回答500円(計3,000円)を提示したが妥結に至らず。翌3月30日に団交が再開され、使用者側が「来週初めに誠意ある回答をするので、4月2日(日)のストは回避願いたい」と申し入れた。組合側はこれを受け入れ4月2日(日)のストは延期された。

4月6日   第6回船内賃金交渉(第4回船内賃金団交)

使用者側が更なる上乗せ回答1,000円(計4,000円)、基準外一時金一律月額2,000円等を提示。組合側がこれを受け入れ、最終的に妥結に至り、日曜就労拒否及び阻止行動通告は解除された。