6・6 貨物の積付けおよび安全輸送

 

6・6・1 危険物の運送

(1)世界調和システム(GHSGlobally Harmonized System)(※)導入に関する改正

化学品の分類および表示に関するGHSに基づき策定された「海洋汚染物質の判定基準」が国際連合の「危険物輸送勧告(国連勧告)に取り入れられた。これに伴い、IMO国際海上危険物規程(IMDGコード)への同判定基準の導入について20039月のDSC8から継続して審議が行われている。

20069月に開催された第11回危険物・固体貨物およびコンテナ小委員会(DSC11)においては、同コード2.10章(海洋汚染物質の分類等に関する記述)およびその他関連箇所の改正について検討が行われた。

同会合の審議の結果、策定された改正案が原則合意され、20075月の専門家会合において詳細な検討が行われ、IMDGコード第34回改正(2010年発効予定)に取り入れられることとなった。

現行IMDGコードの第3.2章「Dangerous Goods ListDG List)」または品名別索引(INDEX)には、海洋汚染物質が明記されており、当該物質についてはIMDGコード第34回改正以降も原則、海洋汚染物質として扱われることとなる。

しかしながら、海洋汚染物質に該当していない物質は、荷送人が新第2.10章の判定基準に従い、海洋汚染物質に該当するかどうか海上運送の都度判定し、該当する場合には海洋汚染物質として運送しなければならないこととなった。

なお、DG ListまたはINDEXに海洋汚染物質として規定されている物質であっても、同判定基準により、海洋汚染物質には該当しないと判定された場合には、主管庁の許可のもと、非海洋汚染物質として運送することも可能である旨合意された。

GHS:世界的に統一されたルールに従って、化学品を危険有害性の種類と程度により分類し、その情報が一目でわかるよう、ラベルで表示したり、安全データシートを提供したりするシステム

 

(2)個別の提案について

@ 貨物輸送ユニット(CTUCargo Transport Unit)内で冷却目的に使用される無包装のドライアイス

ドライアイスは、海上運送中に気化し、船倉内の酸素濃度を著しく低下させるため、危険物として扱われており、甲板下積載禁止などの運送要件がIMDGコードに規定されている。

しかしながら、魚介類冷却のため無包装のドライアイスが収納されているコンテナが、非危険物として運送されているケースが散見されることから、そのドライアイスの取り扱いについて検討が行われた。

審議において、冷却目的の無包装のドライアイスをコンテナ内に収納することの是非について意見が分かれたため、専門家会合において、各国の意見を踏まえて詳細な検討が行われることとなった。

A ポータブルタンクによる運送

SOLAS条約U-219規則により、危険物積載船は、4組の自蔵式呼吸具の備え付けが要求されている。

一方、IMDGコードにおいても、ポータブルタンクによる吸入毒性物質運送時の安全措置として、自蔵式呼吸具の備え付けが要求されており、この結果、吸入毒性物質の入ったポータブルタンクを運送する場合、追加の自蔵式呼吸具の備え付が必要となっていた。

そもそもIMDGコードの要件は、SOLASの要件が規定される前に導入されたものであり、SOLASの要件が規定された現在においては、不要な要件となっている。

ただし、SOLAS条約とIMDGコードでは船舶の適用範囲が異なり、IMDGコードの要件を削除した場合、国際航海に従事しない500GRT未満の船舶については、自蔵式呼吸具の備え付け規定が全く無くなることとなる。

そのため、SOLAS非適用船に対しても、自蔵式呼吸具の備え付け規定が残るよう、SOLAS条約II-219規則の規定により自蔵式呼吸具を備え付けている船舶には追加の呼吸具を要求しないとするIMDGコード改正案が合意された。

B 隔離要件の見直し

ベルギー、フランスおよびドイツが危険物の海上運送における様々な隔離要件について改正案を提案しており、また英国は同提案に対するコメントを提出していた。

同改正案では、「away from(水平距離で3m以上離して積載すること)」が適用される危険物同士は、コンテナ内で3m以上の距離が確保できる場合には主管庁の承認無しに同一コンテナに収納できるとすることが提案されていた。しかしながら、同一船倉内における「away from」と同一コンテナ内の「away from」では、同等の安全性が確保できないとする反対意見が多数の国からあり、審議の結果、同提案については合意されなかった。

また、その他の隔離要件改正に関する提案についても、合意は得られず、今後、関係各国の協力の下、英国が積載および隔離要件の包括的な見直し作業を続け、改正について検討していくこととなった

 

662 固体ばら積み貨物の運送

(1)強制化に向けた固体ばら積貨物の安全実施規則(BC コード)の改正

 20059月のDSC10において、BCコードを強制化するためには、内容の詳細な検討および全体的な書き直しが必要であることが合意され、通信作業部会(コレポン)において検討が進められてきた。

20069月のDSC11では、コレポンの検討結果が報告されるとともに引き続き同コードの改正について検討が行われた。

@ 還元鉄粉のBCコードへの取り入れ

 還元鉄粉は水と反応し、水素ガスを放出する危険性があり、過去、同物質の運送中に爆発事故が発生している。

そのため、当該物質の運送要件を定めることとなり、その検討が行われた。

審議では主に運送中のカーゴホールド内の雰囲気について検討が行われ、不活性ガスによるホールド内酸素の置換(イナーティング)を必要とする意見と、イナーティングにはハッチカバーからの漏洩など問題があり、非現実的であるとする意見に分かれた。

しかしながら、当該物質の運送要件に関する検討を行うには、同物質の情報が不充分であることから、さらに情報を各国から求め、引き続き検討することとなった。

なお、当該貨物の正式名は「DIRECT REDUCED IRON FINES: DRI FINES」とすることが合意された。

 

A 硫黄の分類の見直し

 IMDGコードでは、硫黄の粉末を危険物としており、ペレット等の塊状については非危険物としている。一方、BCコードでは、粉状の硫黄は運送禁止としており、ペレット等の塊状を危険物としている。

上記矛盾を解消するため、ドイツは、ばら積み運送する硫黄(ペレット等塊状)を、危険物ではなくMHBMaterials Hazardous only in Bulk:ばら積み時のみ危険性を有する物質)として分類することを提案した。

同提案に対しては、数カ国から支持があったが、大多数の国がこれに反対したため、結果、同提案は合意されなかった。

 

B MHBのクライテリア

 MHBは、「危険物ではないが、ばら積みの際、化学的危険性を有する物質」と定義されているが、明確な判定基準がない。そのため、米国はMHBの判定基準案を提示し、さらに、3物質(硝酸アンモニウム肥料、クロマイト鉱およびタピオカ)をGroup C(化学的危険性も液状化危険性も無い物質)からMHBにすることを提案した。

同判定基準については、明確化を支持する意見もあったが、時期尚早との意見もあり、また、米国判定基準案を検討するためには更にデータが必要であるとの意見もあったことから、米国に更なる検討を依頼することとなった。

 

(2)BCコードの強制化について

@ 貨物の個別運送規定(BCコード付録1)の強制化の範囲

 BCコードの改正と併せ、貨物の個別運送規定の強制化の範囲についてもコレポンにて検討が進められてきた。

DSC11の審議ではコレポンの報告を受け、貨物の個別運送規定のうち、強制化すべき範囲を決定すべく、「貨物の種類によらず全て強制化」、「化学的危険性を有する貨物(Group B)のみ強制化」および「全て強制化しない」という3つの選択肢について検討が行われた。

審議の結果、貨物の説明(DescriptionおよびCharacteristics)および非常措置指針(Emergency Schedule: EmS)を除き、貨物の種類によらず全て強制化することが合意された。ただし、強制化に当たっては、各物質の個別運送規程の詳細な検討の必要性が確認され、全体的な見直しを行うこととなった。

 

A BC コード本文の強制化の範囲

 DSC11の審議の結果、BCコード本文の強制化の範囲が以下のとおり合意された。

前文       Foreword)は非強制

第1章   (適用、定義等)は強制

第2章   (一般要件)は強制

第3章   (船舶の人員の安全)は強制

第4章   (貨物情報等)は強制

第5章   (荷繰り)「全ての貨物は荷繰りすること」との要件(5.1.1)は「貨物申請資料に基づき荷繰りすること」に修正の上、強制

第6章   (貨物の静止角の試験法)試験法を考慮すべきことを強制

第7章   (液状化)液状化に関する説明(第7.2節)を除き強制

第8章   (液状化物質の試験)水分値計測が行えない場合の処置(第8.2節 水分値計測は強制要件であるため、強制要件が満たせない場合の非常措置と位置付けられる)を削除し強制

第9章   (危険物)強制

10 (廃棄物)他の強制規程(例えばバーゼル条約)との齟齬が生じない内容に修正し強制

11  (保安要件)非強制

12 (載貨係数換算表)非強制

13 (関係規程への参照)関係規程を理解すべき旨を明記する目的で強制

 

B 今後の予定および対応

 わが国およびオーストラリアをコーディネータとするコレポンが設置され、BCコードの本文(保安要件、載貨係数換算表を除く)および貨物の個別運送規定(DescriptionCharacteristicsの一部及びEmSを除く)を強制化することを前提として、各要件を精査し、必要な表現の修正を行うこととなった。

 なお、コレポンの付託事項は以下のとおり。

aDSC11の審議結果を反映したBCコード本文の改正

bSEED CAKE貨物の分類に関する検討

c)貨物の標準申告書式の作成

dBCコードとSOLAS条約における通風要件の整合に関する検討

eSOLAS条約第II-2章、第VI章、第VII章の改正案の検討

fBCコードの各種不整合/矛盾点の検討

gDSC 12での承認に向けたBCコード改正案の作成

 

6・6・3 ケミカル/プロダクトタンカーの爆発防止対策

(1)第49回防火小委員会(FP49)の審議結果(2005124日〜28日)

 FP49において、フランスよりケミカルタンカー「CHASSIRON号」(フランス籍ケミカルタンカー、9,995DWT)の爆発事故の報告があり、その報告内容について審議が行われた。

 当該爆発事故は引火点40度未満の石油製品(無鉛98-octane(Super))を積載していたタンクの洗浄を開始した直後、同タンクより爆発が発生し、乗組員1名が死亡、船体にも重大な損傷を受けた。

 同報告書では、爆発防止対策として、揚荷中やタンク洗浄中などにおけるタンク開口部開放の禁止やタンク洗浄の制限などのほか、現行SOLAS条約では20,000DWT以上のタンカーにのみ適用されているイナートガス発生装置(IGS)(※)の設置義務を20,000DWT未満のタンカーにも拡大することが提案されていた。

 現行のケミカルタンカーは、その多くが20,000DWT未満であり、フランス提案はケミカル業界に多大な影響を及ぼすことが予想され、特に次のような問題点が考えられた。

@ 現存船では装置設置スペースが無いなどの構造的問題がある。

A 対象とされる「引火点60度未満の揮発性石油製品」はあまりにも漠然とした定義のため、対象貨物を特定する必要がある。

 

 審議の結果、フランス文書は参考情報として留意するに止められ、同国に対し、IMO海上安全委員会(MSC)に、新規議題として本件に関するSOLAS条約U-2章改正提案を提出するよう要請した。

※イナートガス発生装置:排気ガスや窒素などの不活性ガス(イナートガス)を発生し、カーゴタンク内の酸素を不活性ガスにより置換する装置

 

(2) MSC81の審議結果(2006510日〜19日)

 国際海運会議所(ICS)、国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)、国際乾貨物船主協会(INTERCARGO)および石油会社国際海事評議会(OCIMF)など民間団体で構成する産業間合同作業部会(Inter-Industry Working GroupIIWG)において、ケミカル/プロダクトタンカーの爆発事故に関する調査分析が行われ、その結果がMSC81に報告された。

 同報告では、爆発の主たる原因は、適切な作業手順の不履行と解析されていたが、安全対策として、20,000DWT未満の新造タンカーに対するIGS要件の適用が推奨されており、また既存船については、その適用の検討に当たり、総合的安全評価(Formal Safety AssessmentFSA)および費用対効果の検証を実施することが提案されていた。

 同会合ではIIWGの報告書をもとに審議が行われ、今後の検討の進め方が以下のとおり合意された。

@ 本件はMSCの正式議題となっていないことから、200612月のMSC82に正式議題とすべく、ノルウェーが提案文書を提出する

A 本件は正式議題とはなっていないが、取り急ぎ検討する必要性があることから、関係小委員会で、20,000DWT未満の新造/既存タンカーに対するIGSの適用等について検討を行い、200710月のMSC83に検討結果を報告すること