7・2 船員教育機関の現況と海技資格付与制度

 

721 船員教育機関の現況

独立行政法人の見直しによって、船員教育機関の効率的かつ効果的な運営を図るための構造改革を行った結果、20064月、()海技大学校と()海員学校が統合し、()海技教育機構となった。

同機構は、国立清水海上技術短期大学校に本部を設置し、海技大学校(1)、海上技術短期大学校(2)ならびに海上技術学校(5)によって構成される。

 ()航海訓練所は、これら各教育機関からの委託を受け、練習船5隻により航海実習を実施し、学生の海技資格取得に必要な知識・技能および乗船履歴を身に付け、幅広い層の船舶職員の養成を行っている。

()日本船員福利雇用促進センター(SECOJ)は、雇用されている船員および離職船員を対象として、16級海技士養成訓練、海上特殊無線技士等を養成する無線講習等の技能訓練を実施している。(資料7-2-1-1

()海技教育機構および商船系の国立大学法人(2大学)、商船高等専門学校(5) の入学者数状況および卒業生の求人・就職状況は資料(資料 7-2-1-27-2-1-3参照)のとおりである。

 

722 船員教育のあり方に関する検討会

今後の船員教育のあり方を幅広い見地から検討するため、国土交通省海事局は平成18年4月に、船社、海事関連企業、船員教育機関、関係団体および学識経験者により構成する「船員教育のあり方に関する検討会」(座長=宮下國生・大阪産業大学経営学部教授、事務局=海事局船員政策課)を設置した。船員教育の内容と質、規模、制度・組織運営面での見直しの必要性について議論を進め、日本人海技者を取り巻く環境の変化に適切に対応した船員教育のあり方を平成18年度末までに取りまとめる予定となっている。

この議論が開始された背景には、外航日本人海技者の役割の変化、内航船員の高齢化と後継者不足、即戦力船員不足に対応した船員教育システムが不可欠となっていること、更に、行政改革の流れの中で、国土交通省の船員教育独立行政法人についてもその見直しが避けて通れない課題になっていることがある。

 外航分野では、外国人船員との混乗進展により日本人船員が減少し、日本人海技者の役割が変貌を遂げてきた。従来の運航要員としての役割から、海上経験を基に、船舶管理や営業支援など陸上の業務にその活動の場が広がっている。一方で内航分野に目を転じると、高齢化と後継者不足で慢性的な船員不足に陥っている状況にある。しかし、わが国の船員教育制度はこのような劇的な変化に対応するための抜本的な見直しが行われずに現在に至っているため、現場のニーズから乖離した船員教育制度(資料7-2-2-1参照)が依然として存続している結果となっており、その見直しが喫緊の課題となっている。

 また、船員教育独立行政法人の見直しでは、平成1612月に閣議決定された「今後の行政改革の方針」を受けて、海事教育のニーズに柔軟に対応した事業運営体制を構築するため、平成18年4月に独立行政法人である海技大学校と海員学校を統合して海技教育機構が発足したところである。これに加えて、平成1712月には内閣府の規制改革・民間開放推進会議が船員教育機関の学生に対して航海実習を行っている航海訓練所の業務の民間解放を提言し、これが平成18年3月に閣議決定されており、市場化テスト(官民競争入札制度)を含めた民間開放の実施に向けて積極的な検討を行い、平成18年度中を目処に結論を得ることとされているが、世界の船員教育を見ると、日本と韓国は公的機関が練習船を持って海技資格取得の際の航海実習を行っているが、英国、ドイツやオランダをはじめとする諸外国における乗船実習は船会社の船で訓練を受けるキャデット制度が一般的であり、航海実習業務の民間開放も検討会の主要テーマの一つになっている。

 検討会は平成18426日に開催された第一回目の会合の後、外航部会と内航部会に分かれて論点整理を行い、これを踏まえて、629日に開催された第2回検討会で事務局から中間整理案が提示された。これをもとに活発な議論が行われ、委員の意見を踏まえて77日に中間整理が取りまとめられた。中間整理には、検討会で出された意見や事務局が事前に船会社に対して行った調査で出された意見、検討に当たっての基本的視座、今後の具体的な検討の方向性などが示されている。基本的視座には、日本海運の現在および将来の環境変化とニーズへの的確な対応、教育内容の役割分担と連携、行政に対する減量・効率化の要請への的確な対応が挙げられており、これらを念頭に、外航7項目、内航6項目の論点(資料7-2-2-2参照)について、これから検討を深めていくこととしている。

外航分野の主要な論点としては、人材供給源の多様化に対応した教育訓練体制の複線化、航海訓練所によるタービン船および帆船実習のあり方、そして、船社ニーズの的確な反映等が挙げられる。複線化の具体例としては、現状では海技資格を得るために航海訓練所の航海実習を受ける必要があるが、船会社の社船による実施などのオプションを設定してもよいのではないか、との問題提起がなされている。また、現在5隻ある練習船(帆船2隻、汽船2隻、タービン船1隻)に関しては、帆船実習とタービン船実習のあり方について要、不要の両論から議論が展開されている。既存のタービン船は老朽化により5年以内に代替期を迎えるため、LNG船などに搭載されているタービン・エンジン用の海技資格取得や、荷役作業などに用いるタービン・プラント補機の搭載船への影響も考慮しつつ、タービン船の廃止も含めてそのあり方を見直していくべきではないかとの論点が示されている。帆船については、実習の時期や期間、義務づけなどについて、抜本的な見直しの必要性が指摘されている。一方、内航分野における主要な論点としては、高齢化が顕著であり緊急に大量の船員を確保する必要があることに鑑み6級海技士取得コースを海技教育機構に設けることや、現在同機構の傘下にある5つの中卒者を対象とした本科(海上技術学校)を高卒者を対象とした専修科(海上技術短期大学校)へ移行させること、更には内航の船型や就航の実態にあった独自の練習船の活用や教育内容のあり方などが挙げられている。

本検討会は今後、外航、内航に分かれた部会をそれぞれ数回開催した上で、平成18年度末までに取りまとめを行う予定としている。検討会には個別船社、海事関連企業、船員教育機関、当協会を含む関係団体、学識経験者、行政(国土交通省、文部科学省)といった関係者が一堂に会しており、それぞれの立場を反映した多様な意見が出されている。議論の収斂には関係者の更なる努力を要するが、海運業界のニーズを的確に反映した、将来にわたって有効に機能する船員教育制度が構築される提言がなされることが期待されている。

 

      3級制度:船会社に雇用されている者(内定者を含む)であって、船員教育機関を除く高等専門学校、短大卒以上の学歴を有する者を対象とした3級海技士要請制度。平成177月海技大学校に開講し、課程期間は航海科が2年、機関科が2年半となっている。

 

723 外国人船員に対する我が国の海技資格付与制度

1)承認船員

外国人船員が日本の承認船員となるためには、我が国の海事法規に関する知識を身に付けるため、国内海事法令講習(内容、時間は資格の種類によって異なる)の修了が義務付けられている。2005年度、同講習はマニラで6回実施され、修了者数は560名(対前年度比74名減)であった。

2005年度、承認試験が3回実施され、161名(前年度比110名減)が受験した。

また、船長が船員の実務能力確認を行うことで承認証が発給される制度(新承認制度)による承認申請者数は374名(前年度比169名増)であった。

2005年度末時点の有効承認証数は2,011件で、そのうち約94%がフィリピン人船員である。

2)海上無線通信士

日本籍船に航海士として乗組むためには、総務省発行の第一級海上特殊無線技士または第三級海上無線通信士(三海通)あるいはそれ以上の無線資格の受有が義務付けられている。これらの資格を付与するための講習がマニラで実施され、2005年度は計6回の講習で延べ270名が資格を取得した。

3)兼務通信長

日本籍船に兼務通信長として乗組むためには既述の三海通資格に加え、国土交通省発行の三級海技士(電子通信)(三電通)資格を取得しなければならず、三電通資格の国家試験は20057月に第一回目が実施されて以降、3/年の割合で承認試験と併せて実施されている。2005年度末時点における外国人の三電通資格受有者は19名である。

4)船舶料理士

200623日、船舶料理士に関する省令の一部改正(200323日公布・施行)の経過措置が終了したことに伴い、船舶料理士になるための資格要件が改正された。新たな資格要件として、調理業務経験(専ら調理業務に従事した者であって、ボーイやウェイターとしての経験は含まない)の期間において、業務を適切に行っていたことを二人以上の船長により証明されていなければならないことが追加された。

2005年度、船舶料理士試験はマニラで計3回実施され、69(対前年度比35名減)が資格を取得した。

 

724 日本人船員の確保・育成のための啓蒙活動

東京海洋大学の学生に対して、20061月、東京海洋大学・越中島キャンパスにおいて海事シンポジウムを開催した。シンポジウム開催の目的は、学生に日本の船社に船員として就職する動機付けを与えることである。約80名の学生が参加した講演会では、日本海運の現状や海事技術者の活躍の実態の紹介が船社担当者によって行われた。

講演会に先立ち、大学の教官と16船社、23名の就職担当者との間で意見交換が行われ、双方から活発な意見が交わされた。