7・3 船員関係の条約および国内法

 

731 STCW95条約への対応

 STCW95条約に関する事項を審議する国際海事機関(IMO)第37回訓練当直基準小委員会(STW37)が、2006123日から27日までの間、英国ロンドンのIMO本部にて開催された。

 今次会合で審議された主な事項は次のとおりである。

1. 部員の能力要件

国際労働機関(ILO)において、船員に関する既存条約を統合した海事統合条約を審議する過程で、有能海員の証明に関するILO74号条約(わが国は未批准)に定められた同船員の能力要件等については、STCW95条約に移管することがILO/IMOによって決定されたことを受けて、これをどのように定めるかについて検討された。

英国を幹事とするCorrespondence GroupCG)の報告を基に議論した結果、既存の当直部員に関する規定(甲板部:条約第2章、機関部:同第3章)に加えて、有能海員の資格を新たに定めることについて大筋合意した。能力要件の詳細については、次回以降の小委員会で検討されることとなった。

 

2. 海事保安を高めるための措置

Working Group(WG)では、海事保安に関する条項がSOLAS条約に規定されたことを受け、STCW95条約においても海事保安に関する規定を盛込むための検討を行う必要があるとの認識で一致した。

米国から、「船舶保安職員(SSO)以外で保安に関する特定の責務を有する乗組員」および「保安に関する責務を有しない乗組員」に関する規定をSTCW95条約へ盛込むべきである旨の提案がなされ、これについて議論したが、これらを条約のどの箇所にどのような規定を盛込むかについては次回以降の小委員会で検討されることとなった。

 

3. STCW95条約・コードの包括的見直し(comprehensive review

IMOミトロプロス事務局長は、STW37開会のスピーチにおいて、今後更に高める必要がある海事保安や、急激に増大することが見込まれるLNG輸送の安全運航に対応できる船員育成に関する課題への対応の重要性を強調した。同事務局長は、これらの課題に適切に対応するため、STCW95条約を包括的に見直すことについて、予備的検討を開始すべきとの認識を示した。

IMO事務局長の発言を受けて、条約の包括的見直しの必要性について議論を行ったところ、各国代表団から、見直しは不整合な点に限定すべきであり、包括的な改正(comprehensive revision)につながるような見直しについては慎重に対応すべきとの意見が相次いだ。

これらを受け、本件を今後新たな議題としてSTW小委員会で検討していくこととなった。

 

732 外国政府が発給した海技士資格を承認する制度(承認制度)

承認制度において、2005年度の承認試験および船長が船員の実務能力確認を行うことで承認証が発給される制度(新承認制度)により承認証発給件数は資料(資料7-2-2参照)のとおりである。

現行の承認制度では、承認船員の就業範囲が13等航海士・機関士に限られているため、これを船長・機関長に拡大する(日本籍船における日本人船・機長配乗要件の撤廃)ための検討会が20059月に立ち上げられ、これに係る問題等について検討を重ねているところである。

20068月、国土交通省はルーマニアの海技資格証明書を承認するための取極を同国海事当局との間で締結したことにより、わが国と承認制度における二国間協定を締結している国は、フィリピン、インドネシアをはじめ、8カ国となった。

 

 

733 船員法等の改正

200671SOLAS条約の一部改正に伴い船員法施行規則の一部が改正された。

船舶の航行の安全を確保するため、SOLAS条約は船舶の構造や設備の基準等が規定されている。2004年、救命艇を進水装置により移動することによる点検を、毎週行う救命艇の点検項目に新たに加えることとするほか、救命艇操練を行う際の乗艇義務、月ごとの救命設備の点検、週ごとの救命設備の点検、救命艇の点検を行った場合の航海日誌への記載について等の改正が行われ、200671日から発効することになった。この条約改正を国内法令で担保するため、船員法施行規則が改正され、平成1871日より施行された。

 

734  ILO条約改正への対応

国際労働機関(ILO)の第94回海事総会が200626日から223日の間、106ヶ国1135名が参加して、スイス・ジュネーブの国連欧州本部において開催され、わが国からは、寺西国土交通大学校副校長(政府代表)、井出本全日本海員組合長(船員代表)、飯塚労政委員会副委員長(船主代表)をはじめ国土交通省、日本内航海運組合総連合会、全日本海員組合および当協会から計22名が出席した。本総会は、ILO総会としては94回目の開催であり、海事総会としては10回目の開催となった。

ILOでは、これまで60を超える船員労働に関する条約・議定書および勧告が採択されているが、条約を批准する国が少ないこと等の諸問題から、これら条約の多くは国際的な実効が伴っていない現状にあった。

そのため、20011月に開催された第29回合同海事委員会(JMC)において、これらの条約を統合し、多くの国に批准され実効のあるものとすべき旨の決議案が採択され、以来約5年の長期にわたり、政労使の三者で構成される作業部会において統合条約案の策定作業が進められてきた。この背景にはILOにおいては船員労働分野に対する「decent work」の確保を、労働者側においては船員の「権利の章典」の制定、使用者側には労働基準の最低基準を制定することにより不良な船舶を排除し、海運業に公平な競争の場「Level PlayingField」をもたらすという三者それぞれの意図があった。

本総会ではこの統合条約策定作業の最終審議が行われ、残された懸案事項である発効要件等についても合意が形成され、最終日の223日に投票が行なわれた結果、賛成314票、棄権4票、反対0票の満場一致に近い賛成により「2006年海事労働条約(Maritime Labour Convention2006)」として採択された。

なお、本条約は、実効性のあるものとするため、単に従来の条約を統合したものにとどまらず、国際海事機関(IMO)関係条約の手法を取り入れ、旗国責任に基づいた旗国検査、旗国による証書発行、および寄港国検査(PSC)を課すとともに、PSCにおいては「no more favourable treatment」の概念を導入し、より広範な強制力を持つものとなっている。また、ILOによれば、本条約は今後IMOの関係条約であるSOLAS条約、MARPOL条約、STCW条約と並ぶクオリティ・シッビング実現の為の4本目の柱になるとしている。

当協会は海事労働条約について船主の理解を深めるため全国5ヶ所にてILO海事セミナーを5月から6月にかけて実施した。

 

7341 ILO海事総会

(1)総会の目的

条約草案は20013月に開催されたILO理事会の条約統合作業着手の決定から、政・労・使の三者ハイレベルワーキンググループ会合(4回)、サブグループ会合(2回)、社会保障に関するワーキンググループ会合、ハイレベルワーキンググループ役員会合(8回)、20049月に開催され全てのILOメンバーに開放された予備技術海事会議、および20054月目開催された予備技術海事会議フォローアップ会合を経て審義されてきた。

条約草案は一部を除いて本総会前に略固まっていたため、本総会の目的は未決定となっていた条約の発効要件、条約の改正手続、条約が適用される船舶のトン数、条約の一部規程である居住娯楽設備規則が適用される船舶のトン数についての合意を形成するとともに、最終的な修正提案を各国政府および労使から受け付け、審議することにあった。

(2)審議結果

未決定であった事項は除いて、条約の大多数の論点については既に合意が得られていたため、修正提案に対しては現状の案文や考え方を出来るだけ維持し、過去の議論が無駄となることがないよう対処することとしたため、細かな修正が殆どであった。修正提案は計115件(政85件、労16件、使14件)が提出され1件ずつ全体会議にて検討した結果、56件が採用または審議のうえ再修正され、2件は否決、57件は提案取り下げとなった。その主な審議結果は以下のとおりである。

@発効要件

発効要件は最終審議の本総会で決定するとされていた。この条約には、IMO関係条約で取り入れられている「no more favourable treatment」の概念が導入されているため、安易な発効要件にはしないが遅くとも5年以内には発効すべきとした数値が検討された結果、批准国が30ヶ国かつ批准国籍船の船腹量がWorld Gross Tonnage33%となった日から12ヶ月後に発効することとされた。

A内航船・小型船への緩和規定の導入

20054月に開催されたフォローアップ会合では、500総トン以下の小型船を適用除外とし、内航船は政府の判断により本条約の適用除外ができるとしていた条約草案が船員側に反対され、小型船や内航船も条約の対象とすることとされていた。

しかしながら、本総会において、カナダ政府およびアメリカ政府から、内航船への条約適用に関し批准の障害となる懸念が示され、フィリピン政府もこれに同調した。それぞれの国は寄港国、旗国、船員供給国として重要な地位を占めており、これを解決するために内航船に関する作業部会が開催されたが、批准の障害となる条文毎の適用除外も総会における時間的制約から難しく、条約全般の一律な適用除外も船員側の同意を得ることが出来ず、作業部会では結論が得られないまま議長預かりとなった。そのため、非公式な議長の諮問機関(Friends of the Chair)が結成され検討された結果、200総トン(国際総トン数)未満の内航船に限り条約適用については、別途国内法令や労働協約等によって対応し、かつ労使協議を経ることを条件に各国裁量に基づく柔軟性を認めることが合意された。

B軍艦、軍の補助艦に対する適用除外

アメリカ政府等の提案により、軍艦、軍の補助艦および政府が運航するその他船舶は適用除外とする提案がなされたが、政府が運航する船舶においても民間の船舶が商業活動の一環として政府に用船される場合もありうるとの意見もあり、STCW条約との整合性をはかりながら、軍艦および軍の補助艦については適用除外することを明記することとなった。なお、条約本文の船舶の定義では、inland waterport regulationの適用水域等のみを航海する船舶やダウ・ジャンク船などの伝統的構造を有する船舶および漁船は適用除外とされる一方で、通常商業活動に従事する全ての船舶を適用対象としている。

C船長の労働・休息時間規制

本件に関しては、船主および日本政府から修正案が提出され、その議論において様々な問題提起と議論が行われたが、修正案反対が多数を占め原案維持の結果となり、船長も労働・休息時間の規制対象とすることとされた。経緯および審議の模様は以下のとおり。

<経 緯>

20049月に開催された予備技術海事会議において、条約草案にあった船長・機関長を労働・休息時間規制から除く規定は、船主側は支持、船員側は不支持と意見が分かれた。一方政府側は日本、韓国を始めとするアジアの各国政府は支持したものの、欧州を主とする政府は、疲労が海難事故原因の大きな要素と指摘されている状況下、船長についても疲労防止の観点から規制の対象とするべきとして不支持を表明し、政府側での採決の結果削除された。20054月に開催されたフォローアップ会合においても、船主側は対象を船長に絞り修正提案を提出したが、船員側や欧州を主とする政府の支持が得られず否決された。

当協会は、本総会においてもデンマーク船協とともにISFをリードし、再度船長の労働・休息時間規制に関する緩和規定を提案した。また、これまでの検討結果から緩和規定が通らない場合に備えて、船長は特別な職務であり、その取扱については配慮が必要であるとの総会決議案を準備し、船主側意見を取り纏めた。

わが国政府も、「当直に従事する船長のみ規制対象とする」「疲労に対しては十分考慮した措置をとる」とした修正案を、韓国をはじめとしたアジア各国の支持を取り付けた上で提案した。

<審議模様>

審議においては、船主側は船主側提案を取り下げ日本政府提案一本に絞り本提案の支持を表明した。わが国政府は、船長の職務の特殊性は労働・休息時間規制に馴染まないとし、また疲労については適切に検討されなければならないが、当直に従事している船員は船長を含め厳重に規制している国内事情の例をあげ説明を行った。これに対し船員側は、イギリスの海難事故調査委員会(Marine Accident Investigation Branch)の調査報告書から幾つかの例を挙げ、不十分な配乗体制と疲労が事故原因の多数を占めており、船長はその重大な責任故に適切な判断が常時下せるよう労働・休息時間規制の下に置き、過剰な労働と疲労から護られなければならないとの主張を行ない、また条約草案には既に労働・休息時間の柔軟性の規定はあり、これ以上の緩和はできないと主張した。

政府側は、55力国もの政府がそれぞれの意見を表明したが、欧州各国政府を中心とする修正案反対を支持する国が多数を占め、わが国政府は本提案を取り下げざるを得ない状況となった。(修正案支持および柔軟性を求める国:15力国、修正案反対:38力国、中立:2力国)

そのため、わが国政府は、原案の緩和規定である、条項Standard A2.3.13(労働協約による規制の適用除外規定)、および条項Standard A2.3.14(安全のため必要な場合の規制の適用除外規定)についてILO事務局に公式解釈を求めるとともにその議事録への記録を求めた上で、修正提案を撤回した。

また、当協会が準備した総会決議案は、決議案を検討する会議において船員側の猛反対を受けるとともに政府側の意見も二分したため、投票に持ち込めば禍根を残すとの船主グループ内部の多数意見により、当協会の主張にも拘らず取り下げることとなり廃案となった。

D居住設備・娯楽設備の適用最小船型

居住設備の寝室の床面積等に関する規程を適用する最小船型は、船員側がILO漁業条約(20056月に開催された第93ILO総会において投票に付されたが採択されなかった)の結果を見てからとして先送りとなっていた。本総会において、当協会は船主グループ会議で内航総連代表とも相談のうえ500総トンとするよう提案した結果、他の船主団体の支持を得て修正提案を提出した。しかしながら、全体会議において、20054月に開催されたフォローアップ会合作業部会での結論であった適用船型を200総トン以上とした案を尊重するとの意見が、船員側、政府側において大勢を占めたため、修正提案は取り下げられ、適用船型は200総トン(国際総トン)以上とされた。

E寝室の規定を要求する船舶の範囲

居住設備関連規定の適用は、「船上において船員の労働または生活またはその両方(working or living on board or both)が行われる場合」となっていたため、船主側から宿泊を必要としない船舶まで寝室に係る規程を適用することの不合理性を指摘し、船員側の理解を得て寝室広さの規程は、寝室を必要とする船舶にのみ適用とすることとされた。

F船員の法の下の平等および紛争解決に係る差別の禁止

船員側の提案で、船員が法の下で平等に紛争解決の処理が扱われるとする文を追加するもの。この条約に明記することにより、船員が法の下で平等に扱われることを船員に情宣することを目的としており、船員側は国連の世界人権宣言やILOの移民労働者(補足規定)条約(143号)、原住民および種族民条約(169号)を例にあげた。

政府側からは、船員側の提案文では各国法制と不適合となる等の指摘がなされたが、ILO事務局から提示された裁判管轄権や裁判地の決定には影響しないとの文を追加することで、船員側提案を採用することとなった。

G自国籍船の検査範囲に社会保障を含めることについて

船員側の提案で、旗国検査の範囲に社会保障を含め、旗国責任により社会保障を確保させようとしたもの。20049月に開催された予備技術海事会議において、ILO加盟国は自国に居住する船員に対し9つの社会保障の内3つを確保することにより批准ができるとして三者合意がなされており、この提案はこの合意を覆そうとするものであった。更に船員側は、旗国は船員を「Level Playing Field」の中から選択するべきとし、社会保障が先進国並に確保されていないような国の船員を雇うべきではないとする先進国船員組合の意図が垣間見られる主張もなされた。

自国籍船に船員の国籍を問わず社会保障を確保している国を除けば、旗国にとって船員居住国である他国の社会保障まで精通し検査する必要が生じることから、政府側は総じて反対の意思を表明した。

船員側は、なおも旗国検査がなければ船員の社会保障は改善できぬと繰り返し主張し、記録投票を要求した結果、議長もこれを受け、本総会の個々の審議としては唯一、挙手による投票が実施され、修正提案賛成票11280票、反対票15120票、棄権960票で否決された。(票数は参加者の数に係数を乗じたもの)

H寄港国の労使に対するPSCの通知について

PSCにおいて欠陥が発見された場合、寄港国の検査官は、その欠陥を旗国および次港の当局、寄港国の船員団体と船舶所有者団体に通知するとの条約草案であったが、EU諸国政府から、PSCの効率性や業務量軽減の観点からこれらの通知は寄港国の裁量で自由に選択し実施できるように改める修正提案が提出された。

船員側は、20054月に開催されたフォローアップ会合で既に合意されたものであると反論したが、多くの政府が修正提案に理解を示したため、船員側は最低限PSC検査官が寄港国の船員団体に欠陥を通知することで妥協が行なわれた。

(3)主な決議

強制力はないものの、今後の条約に関連する活動に関するものも含め21の決議案が提出され、審議の結果17の決議が採択された。採択された主な決議は以下のとおりである。

@船員の職種に関する決議(船員の定義に関するガイドライン)

条約草案では、船員の定義について疑義がある場合は加盟国が決定できるとしているが、船員の定義をそのまま解釈すれば船上で働く者全てが条約の適用となり、水先人、造船所の技師や客船のエンターテイナーまで本条約の適用となる可能性があり、船主側にとって大き問題点として指摘してきた。

本総会において、船員側は船員の定義の変更については難色を示したものの、船員の定義に関するガイドラインを作成するのであれば反対はしないという姿勢を示したことから、船主、政府、事務局もガイドライン作りに賛同した。この結果、陸上で働き短期間に乗船する者は船員と見なさず、繰り返し乗船する者は船員と見なすことができるとの基本的な考え方を基に、ハーバーパイロットや港湾作業者、ゲストエンターテイナー、検査官、修理技師は船員から除外できるとし、その他疑義が生じる職種は、乗船期間や回数、仕事の目的により考慮し判断するとのガイドラインが決議された。

APSCのガイドラインに関する決議

PSCでは、海事労働証書および海事労働適合宣言書を提示することで、本条約に適合していることを証明することとなる。条約に適合していない何らかの根拠や船員からの苦情がある場合には更なる詳細な検査を実施することができるとしているが、本条約にはPSCの具体的な詳細は示されていない。今後必要となる船員労働基準のPSCガイドラインについては、IMOの諸条約関連のPSCガイドライン(政府のみで作成)と異なり、政労使の三者協議にて策定するとの決議が採択された。

Bヒューマン・エレメントに関する決議

ヒューマン・エレメント(船員の能力、船上の組織、労働環境、陸上の管理体制等などが複合する人的要因)は近年海難事故の要因の一つとして注目されている。

IMOでは、海難事故の調査項目のひとつにヒューマン・ファクターを加えるべしとのガイドラインが、199811月に開催されたIMO21回総会で採択されているが、本条約の規定する労働環境に関係していることからヒューマン・エレメントに関するILOIIMO合同のワーキンググループを設置することを求める決議が採択された。

C船員の死亡・傷病・遺棄に関する責任および保障についてのILOIMO専門家会合に関する決議

200111月に開催されたIMOの第22回総会において既に決議として採択されているが、実効がないとのことで引き続き議論されている事項であり、船員側は本条約に取り込むことを考えていた。しかしながら、採択を前にこの議論の結論が得られなかったことから、今後も引き続き議論し、本件を本条約に取り入れるとことも考慮するとの決議が採択された。

D証書発行に関する決議

条約の発効時に多数の船舶に対して証書を発行する必要性が迫られることから、これを緩和すべく、条約の発効時に限り客船とばら積み船には即時の証書発行を求めるが、その他の船舶には証書発行に1年の猶予を与えることが出来るとの決議が採択された。

 

(4)総括当協会は、本総会に対して船長の労働・休息時間規制と船員の定義に関する問題を最大の焦点として臨んでいた。その結果、船員の定義については総会決議として採択されたガイドラインで、疑義が生ずる職種の具体例を挙げられるとともに、乗船期間や回数、仕事の目的を考慮し判断するとされたため、当協会の懸念はひとまず解消されたが、船長の労働・休息時間規制については船主側の意見はわが国政府の修正提案とともに取り下げる結果となった。一定の条件の下で労働協約による適用除外規定、および船舶・貨物・船客等の安全確保のための労働・休息時間は規制の適用除外ができる旨の規定もあるが、その適用はPSCガイドラインの動向も踏まえ慎重に対応する必要があると思われる。

また、本総会の最終日に、EUの運輸担当コミッショナーが、これまでの船舶の安全や保安に関するEU指令とこの条約採択は方向性が一致していると述べ、EU加盟国(25ヶ国、船腹量25%)に対しこの条約を早期に批准するよう求め、定期的に批准状況をモニターするとの発言をした。また、全体会議でもEU加盟国はまとまって修正案を提出するなどEU加盟国は結束しており、発効時期は発効要件(30ヶ国、船腹量33%)からみて、EU加盟国の批准状況に大きく影響されるものと思われる。

一方、採択前後に行なわれた各国スピーチでは、アメリカ、カナダ、フィリピン、インド、オーストラリア政府が、内航船の取扱いや条約の柔軟性不足に言及し、慎重に検討する姿勢を示した。また、中国通信省の副大臣の特別講演では、条約の労働基準はステップバイステップで導入するべきであり、地域の経済格差を考慮しなければならないとし、経済状況を考えず高い基準を設けることは不合理であるとの含みをもったスピーチが行なわれた。

このように、圧倒的多数で採択されたものの、批准に関して懸念を示す発言を行った国も相当数あったことから、各国政府の今後の動向にも注目する必要がある。

 

7342 ILO海事労働条約セミナー

海事労働条約に関し会員各社の理解を深めるため、全国5ヶ所(2006522日東京、68日広島、69日福岡、612日神戸、613日高松)においてセミナーを開催した。

講演者は東京会場においてはILO海事総会で副議長職を務めた寺西国土交通大学校副校長が、その他の会場は後藤船員労働環境課長が条約の内容に関する講演を行い、当協会からはILO海事総会で船主側代表代理を務めた赤塚アドバイザー(神戸大学監事)により、船舶所有者からみた条約のポイントについてそれぞれ講演を行った。