8・2 内航部会

 

内航関係諸問題については、これまで近海内航部会および構造改革委員会の下に設置されていた内航活性化小委員会で対応してきたが、2005615日より実施された当協会組織改正において、これら組織を発展的に解消し、内航部会(部会長:栗林商船 栗林宏吉社長)として引き続き、内航海運がかかえる諸問題への対応を行うこととなった。(船協海運年報2005 82参照)

内航部会の方針としては、内航海運の競争力強化のための施策として従来からの検討課題である内航燃料油に係る特例の創設をはじめとした各税制措置(中小企業投資促進税制【延長】、特定事業用資産の買換え等の場合の特例措置(圧縮記帳)【延長】等)、モーダルシフト推進のためにヤードスペース、荷捌き施設の整備拡充などのインフラ整備および規制緩和(航送用シャーシの車検制度、車庫規制)等について、引き続き実現に努めていくことした。また、内航部会メンバーとは別に阪神地区、九州地区を中心とした船社との懇談会等を通じて連携を深め、両地区船社が抱える諸問題の把握およびその解決に努めた。

(1)船舶用燃料油の高騰問題について

内航船の運航コストの相当部分を占める燃料油価格が最近の原油高を背景として急激に高騰しており、多くの事業者に深刻な影響を及ぼしている。

原油価格の指標となるWTI(アメリカが産出する代表的原油で世界の原油市況の指標)が昨年から上昇の一途をたどり、一時70ドル台に近づく状況となり、それに対応し、内航船用燃料油は、1キロリットル当り200479月期でA重油4750円、C重油31,000円から200579月期でA重油51,800円(11,050UP27%増)、C重油41,600円(10,600UP34%増)と大幅に値上がり、1012月期には更にそれぞれ数千円の上昇が見込まれている。【資料8-2-1参照】

内航船舶の約6,200隻が1年間に輸送する貨物の量は、約45,000万トン、消費燃料は274万KLにも及び、燃料油A重油、C重油の上昇が年間1万円値上がりすることで約274億円ものコストアップとなる【資料8-2-2参照】。このままでは、長期低迷する運賃に加え、燃料油の高騰がのしかかり、多くの事業者の経営に深刻な影響を与えることが懸念される。

こうした状況から、当協会、日本内航海運組合総連合会、日本長距離フェリー協会の連名で、20051017日、国土交通省の北側大臣、日本経済団体連合会の奥田会長に、また1021日に海事振興連盟 関谷会長、同連盟内航分科会 山本会長、衆議院 国土交通委員長、参議院 羽田 国土交通委員長に陳情書を手交した【資料8-2-3参照】。その中で「近時の燃料油の著しい値上がりは内航海運および長距離フェリー事業者にとって死活問題となりつつあり、既に事業者の一部にあっては航路休止や航路撤廃を検討し実施に移すところも出ている」旨窮状を訴え、これら事業者の置かれている状況についての理解と支援を求めた。

また、1018日、日本経団連で「原油高騰の影響に関する懇談会」が開催され、運送事業者団体(日本内航海運組合総連合会、全日本トラック協会)、石油精製・元売事業者、国土交通省、荷主等が出席した。懇談会では、はじめに経団連奥田会長より、燃料油価格高騰にどう対応するかは、原則として個々の運送事業者や荷主等の問題であるが、今回の燃料油の高騰が著しいことから、関係者の状況について説明を聞くとともに意見交換をする主旨で懇談会を開催した旨説明があった。引き続き原油価格の高騰に伴う燃料油価格の上昇が与える影響についてそれぞれの立場から説明が行われた。

内航海運業界からは当協会内航部会栗林部会長(栗林商船株式会社社長)より、船舶用燃料油の高騰状況、内航運賃の状況、燃料油高騰の荷主負担の状況などについて説明があり、燃料油価格高騰に対する理解と協力を訴えた。

国土交通省からは星野海事局長より、内航海運の新しい価格体系への移行について行政としても協力して行きたい旨の発言があった。そのほか出席者から、石油石炭税の減免措置も強く要望していってはどうか、合成繊維業界などでは原料高、燃料高の二重の影響を受けているなどの発言があった。

 

(2)トレーラー・シャーシについての車検制度、車庫規制の緩和について

海上輸送用トレーラー・シャーシに係る車検制度、車庫規制【資料8-2-4参照】については、当協会、日本長距離フェリー協会、日本内航海運組合総連合会等の関係団体が連携してモーダルシフト促進の観点から規制緩和を図るべく活動を続けているが、200623日に国土交通省においてシャーシの規制緩和についての考え方を示した『シャーシに係る物流効率化等に関する検討会』中間報告【資料8-2-58-2-6参照】が発表された。同中間報告によれば、シャーシ車検証の有効期間の延長は困難であるとの見解が示され、また、車庫制度については港頭地区の公共バース背後地利用を検討する必要性が盛り込まれたものとなった。

当協会としては、同中間報告の見解にかかわらず、引き続き日本長距離フェリー協会など関係団体と連携し、車検整備項目および車検証の有効期限の見直しを求めていこととした。また、港湾管理者が行政財産を貸し付けることを可能とするための港湾法改正の動きに合わせて、埠頭運営事業者から車庫スペースが借りられるようにすることなどモーダルシフト推進に資する規制緩和に向け、政府はじめ関係方面に働きかけ、実現を求めていくこととしている。

 

※『シャーシに係る物流効率化等に関する検討会』中間報告に至る経緯

国土交通省は、中国などアジア地域の生産拠点・消費市場としての急速な成長、これら地域との水平分業の進展等を踏まえ、今後の国際物流施策のあり方を検討するため、国際物流施策推進本部(本部長:佐藤信秋国土交通事務次官)を20052月に設置した。4月には、中間報告「今後の国際物流の課題」を発表したが、その中で「フェリーやRO-RO船専用トレーラーについては、走行距離が短く、特殊な使用実態に鑑み、保有コスト低減につながる対応措置を検討する必要がある」と報告した。

その後、7月に同中間報告に基づいた具体的施策を提言した、『内航海運・鉄道輸送等との円滑なネットワークの構築(内航フィーダーの利用促進策)』をとりまとめ、その中でトレーラーの保有コスト軽減策等についてトレーラーの走行実態を踏まえ、その実現可能性について検討し、平成17年度に調査を行い、問題点を抽出することとしていた。

この具体的施策内容を受け、国土交通省は、海事・道路・自動車交通・港湾の各局や物流政策を受け持つ政策統括官付などの関係部局担当官をメンバーとした「シャーシに係る物流効率化等に関する検討会」を200510月に設置し、12月までに4回の検討を経てシャーシに関する中間報告をとりまとめた。


【資料8-2-4

 トレーラー・シャーシに係る規制緩和が必要な理由

<車検制度について>

モーダルシフトに資する海上輸送用のトレーラー・シャーシ(エンジンの付いたヘッドに連結して使用する部分)に対する自動車車検証の有効期限は、毎日陸上輸送している一般のトラック同様1年間である。

【道路運送車両法第61条 貨物自動車(車両総重量8トン超)の検査証の有効期限】

主に海上輸送用であるトレーラー・シャーシは、本船船内または港頭地区駐車場に(ヘッドと切り離して)停車している状況が長く、陸上走行距離が短いものとなっている。

また、トレーラー・シャーシ自体は動力を持たず、トレーラー(エンジンの付いたヘッド)に牽引されるだけである。

このような使用実態に即し、モーダルシフトに資する海上輸送用のトレーラー・シャーシをナンバープレート等により陸上輸送と区別した上で、車検の点検項目および車検証の有効期限を見直すことが必要である。

【海上輸送用シャーシは約34,000台、これらを牽引するヘッドは約9,000台(日本長距離フェリー協会調べ)であり、シャーシ3.7台に対して、ヘッド1台の割合である。】

 

<車庫規制について>

自動車の保有者は車庫法【3条】により保管場所を確保しなければならないが、海上輸送用トレーラー・シャーシについても一般のトラック同様、同法が適用されている。

さらに貨物運送事業者の保有する車庫の確認状況の確認は、車庫概要を貨物自動車運送事業の事業計画記載事項とすること【自動車運送事業法第4条】となっている。

 

海上輸送用トレーラー・シャーシ運用上においては、登録用車庫確保の負担が所有者に強いられる一方、海上輸送用シャーシの車庫の利用実態は、船内及び港頭地区に限られる。

トレーラーヘッド(エンジンの付いた部分)、シャーシ(ヘッドに牽引される部分)夫々1台づつの車庫取得に加え、港頭地区におけるヤードの確保が必要となる。

このため海上輸送用のトレーラー・シャーシについては、利用実態に合わせて港頭地区の野積場または荷捌き地を車庫とするよう要望している。

 


【資料8-2-5

シャーシに係る物流効率化等に関する検討会・中間報告のポイント

〇 「東アジア・シームレス物流圏」の確立に向けて、シャーシ等の相互乗入れについて、「日中韓物流大臣会合」準備会合や「日中物流協議」の場において、双方の関連する法制度の紹介等からスタートし、情報・意見の交換を行うこととする。また、平成18年初めに日中韓で共同刊行する「物流・流通報告書」において、本件について今後の検討課題として記述する。

〇 シャーシの平均走行距離の長さ等から、自動車検査証の有効期限の延長は困難である。定期点検整備については、車種全般にわたり、点検整備項目の削除、追加等について検討を行っているところであり、シャーシについても劣化・磨耗に関するデータ等を踏まえた検討を行う必要がある。

〇 港頭地区の公共バース背後地をシャーシ等の保管場所として利用することができるよう、港湾管理者側において、行政財産の使用許可の運用のあり方について検討を行う必要がある。また、埠頭運営事業者への行政財産の貸付け制度が今後導入されることに伴い、その活用についても検討する。

〇 RORO船やフェリーの運航の拡大に併せて、バースの増設やシャーシプールの整備など、環境整備を進めるとともに、「国際物流戦略チーム」の場などを活用し、ボトルネックの解消の為の施策を実施する。


【資料8-2-6

シャーシに係る物流効率化等に関する検討会・中間報告

(車検制度、車庫規制の部分抜粋)

 

3.シャーシに係る負担軽減軽減措置

(1) 自動車の検査及び点検整備について

@ 自動車の検査制度については、昨年度、検査対象車種全般にわたり専門技術的な観点からの検討を行い、トレーラ(被牽引車)については、車検証の有効期間1年の延長は困難であるとの結論が得られている。(「自動車の検査・点検整備に関する基礎調査検討結果報告書」(平成173月)による。)

A 日本長距離フェリー協会の調査結果(同協会が平成1617年度の2年間にわたって250台について調査した結果)によれば、シャーシの月間平均陸上走行距離は、約1,600キロであり、乗用車と比較すると約1.8倍の走行距離(同報告書によれば、自家用貨物車8t以上 3,111キロ、事業用貨物車8t以上 5,648キロ)となっており、この調査結果は部品の損耗度、経年劣化等の観点から、車検証の有効期間(現行1年)の見直しを妥当とするほどのものとは言い難い。また、自動車は、時間に応じて劣化する部分があること、海岸近くで使用される場合には、腐食のスピードが速いこと等、走行距離のみが劣化に影響するものではないことを考慮する必要がある。

B 定期点検整備については、車種全般にわたり、劣化・磨耗に関するデータを踏まえつつ、点検整備項目の削除、追加等について検討を行っているところであり、シャーシについても劣化・磨耗に関するデータ等を踏まえた検討を行う必要がある。シャーシ保有会社においても、安全運航確保のため、定期点検整備の確実な実施に努める必要がある。

 

(4)車庫について

@ 自動車の保管場所の確保等に関する法律(車庫法)は、自動車の保有者に対し、自動車の保管場所の確保を義務付け、保管場所として道路を使用することを禁止し、一方、これを担保するため、貨物自動車運送事業法において、事業計画に車庫の位置及び収容能力を記載させ、車庫要件として、使用の権原を有することとし、具体的には、自己所有又は契約期間1年以上の賃貸借契約若しくは1年に満たない賃貸借契約の場合は自動更新制の契約を締結していることを要件としている。

A 港頭地区の公共バース背後地は、港湾管理者の管理する荷さばき地等であるが、その一部をシャーシ等の保管場所として、船社又はシャーシ保有会社が利用可能となれば、事態の改善につながる。しかし、当該用地は、効率的な港湾機能の発揮に資するための行政財産であり、地方自治法上、原則として貸付はできないこととなっており、港湾管理者の監督の下に、公共的利用を図るため、使用許可制度により、利用が認められているものである。多くの港湾においては、港湾空間の制約から、まずは港湾機能に不可欠な港湾物流を業としている港湾運送事業者や船社に限り、使用許可している実態にあるが、許可に当っては、その用途について具体的な要件を定めていない。

B    当該用地をシャーシ等の保管場所として、船社又はシャーシ保有会社が利用できるか否かは、港湾管理者の判断に係るところであるが、

      港頭地区は、港湾物流機能を中心に利用されており、通常、シャーシ等の保管場所として許可しておらず、使用許可を得た上で、業務の一環として、待機場又は一時置き場として利用がなされているのが現状

      行政財産の公平・平等な使用の確保のため、使用許可の期間は、短期間(1ヶ月から1年以下)が通例であり、1年未満の場合についても自動更新制の許可は困難

      当該用地での業務秩序の保全と使用責任の明確化のため、使用許可を得た者が第三者に転貸することを禁止しているので、船社が許可を得た場合は、その用地をシャーシ保有会社に利用させることは困難

といった理由から、シャーシ等の保管場所としての利用は、通常、認められていない状況にある。

B    今後、港湾管理者としては、港頭地区の用地の使用許可に当って、港湾の活性化及び利用促進の観点から、本来の機能を確保しつつ公共目的に反しない限りにおいて、使用許可対象者の拡大、1年未満の許可の場合における許可期間終了後の自動更新制の導入などについて、港湾毎の実情を踏まえて、その可否を検討していくことが望まれる。

C    さらに、シャーシの多くは船内に置かれている時間が長い(例えば、航海時間30時間以上の2地点間に100台積みのフェリーを就航させた場合、デイリーサービスを実施するためには、本船4隻とシャーシ400台が必要となり、出発地、到着地それぞれに200台分づつの車庫の確保が必要となるが、シャーシが車庫に置かれている時間は限られている。)ので、関係業界としては、車庫1区画に対し、複数台の登録を認めてほしい旨を要望している。しかし、シャーシの使い回しの実態が明確化できない以上、こうした運用は困難と考えられる。

C 今後とも、港湾地区におけるシャーシ等の保管場所の確保がモーダルシフトの推進に果たす役割が大きいことに鑑み、長距離フェリー事業者等から個別の港について具体的要望がある場合には、その実現に向けて関係者において検討を行う必要がある。なお、駐車場を含むフェリー埠頭等を一体的に運用しようとする者に港湾管理者が行政財産を貸し付けることを可能とするための港湾法等の改正が今国会に提出を予定されているが、こうした行政財産の貸付けを受けた埠頭の運営者がシャーシ保有会社等に一定の要件の下にさらに貸付けることが可能か否かについても検討を行う。

D また、シャーシ等の運行の特殊性に鑑み、シャーシ等に係る車庫のあり方について引き続き検討する。