1.海運政策

 

11 トン数標準税制の導入に向けた対応(平成18および19年度)

 

111 平成18年度のトン数標準税制の導入に向けた対応

(1)平成19年度税制改正(トン数標準税制のみ)

国土交通省海事局は、平成1891日、財務省および総務省に対し、平成19年度の海運関係税制改正要望のひとつとして、トン数標準税制(以下、トン数税制)の創設を要望した。国交省が要望したトン数税制は、運航船を日本籍船、実質支配外国籍船、単純外国用船の別にしたうえで、長期安定輸送従事船、資源エネルギー船、船員訓練に資する船、安全環境基準を前倒しして採用する船、および非常時緊急対応船という政策目的の基準を設け、それらの組合せにより最大で27分の1に減額となるという制度案である。

当協会においても同年82日に開催した政策委員会においてトン数税制の創設要望を含む「平成19年度税制改正要望」の項目について了承を得、小冊子に取りまとめのうえ、922日、自民党政務調査会に提出した。

平成189月下旬、財務省の国土交通省に対する第1回ヒアリング(いわゆる折衝)が行われた。国土交通省はトン数税制の必要性等につき訴えたが、一方、財務省は、トン数税制が導入された場合、現時点では結果的に大幅減税となることから制度創設のためには必要性を裏付ける更なる実証的なデータ等が必要であるとのスタンスで、具体的な制度の議論までには至らなかった。

その後も国土交通省と、財務省および総務省とのトン数税制導入に向けた厳しい折衝が続けられた。当協会においても、この折衝の際に国土交通省が財務省等から求められた各事業者の経営実態などの情報提供や資料作成、また日本経団連をはじめとする関連業界への理解促進活動や一般紙等への広報活動を強化するなど国土交通省を全力でサポートした。

当協会の活動が奏功し、多くの関係者がトン数税制の導入に対して理解を示したが、同時に財政難であるわが国において現時点では大幅減税と映る面があるので、社会公共的なことへの貢献をアピールしないと訴えるにあたり迫力を欠くのではないかとの助言もあった。具体的には「トン数税制が導入された場合、今後何年間で日本籍船や日本人船員がこれだけ増加する」というような明確なコミットメントが必要であるとし、海事局においても、このコミットメントがあれば折衝において有益であるとのことであった。

しかしながら特に船員(海技者)の増加については、今後、いわゆる団塊の世代の退職時期を向かえることから、5年後10年後の全体の規模は、新規採用を増やしたとしても、現状より少し増える程度であり、各社とも大幅に増加させるということは現実問題として難しい状況にある。また、日本籍船や日本人船員(海技者)の増加についてコミットすることだけが先に議論され、その後、みなし利益の水準が世界標準よりも高く設定された場合、当協会が念願する諸外国と同等のトン数税制とはいえず利用者不在の制度になってしまう懸念があることから、これらにつき海事局に説明した。

これに対し海事局は、トン数税制の導入目的は税のコンバージェンスが基本であり、あくまで諸外国との競争に耐えられる制度でなければ意味がない、としたが、一方、国会議員をはじめとする関係者の支持を得るためには、「日本籍船は5年間で2倍増、日本人海技者は10年間で5割増する」がアピールしていく上での最低ラインであるとし、目標値としてではあるが既に関係者に説明を開始した。

その後も国土交通省は最終段階まで、当初の要求案をベースに財務省と連日深夜まで折衝を行った。一方、当協会も引き続き折衝のサポート資料を作成するとともに、会員企業にとり使い易いトン数税制の導入について関係方面の理解を得るべく、鈴木会長(当時)が中心となり国会議員はじめ関係者に毎日のように説明して廻るなど全力で対応した。

最終局面になり、「当初の要求(全ての運航船を対象)では減税規模が900億円近くにもなりとても財務省を突破することは出来ないが、対象を日本籍船に限定すれば減税規模が少なくなり(約90億円)、俎上にのぼる可能性がある」とのこととなり、実現に向けて大きく動き出した。ただいずれにせよ、関係法律作成のための物理的時間が無いため、平成194月からの実施は不可能とのことで、このため平成20年の税制改正で措置されるよう、平成191月より、法律案作成のための作業を開始することになるとのことであった。

最終的に「平成19年度与党税制改正大綱」においては、「外航海運事業者の日本籍船のみなし利益課税(いわゆるトン数標準税制)については、非常時における対応を含む安定的な国際海上輸送を確保するために外航海運事業者が果たすべき役割及び当該政策目的を達成するための規制等を明確にする法律が平成20年の通常国会において整備されることを前提にして、平成20年度税制改正において具体的に検討する。」と記され、平成20年導入への公算が強くなった。

 

(2)国会議員関連の動き

自民党は、平成1820063月、政務調査会の特別委員会のひとつ「海運・造船対策委員会(委員長:衛藤征士郎衆議院議員)以下、海造特)」のなかにトン数標準税制等に関する勉強会「海運税制(トンネージタックス等)問題小委員会」(委員長:金子一義衆議院議員)を設置し、同小委員会は同年6月までに計6回の会合を開催し海運税制についての中間的な取りまとめを行った(船協海運年報2006年参照)。

当協会は、国土交通省が平成19年度税制改正を要望した後の平成189月頃より、関係方面に対し鈴木会長が中心となり精力的に説明に廻った。また1012日に行われた超党派の国会議員等で構成される海事振興連盟の総会に鈴木会長、宮原副会長および前川副会長が出席しトン数税制の早期導入につき訴えた。さらに、1025日には国会議員をはじめとする関係者と当協会の懇談会を開催するとともに、1120日にはトン数税制に関するセミナーを実施するなど機運を盛り上げる活動を行った。

 

(3)日本経団連等への働きかけ

当協会はトン数税制の要望に際し 日本経団連(以下、経団連)はじめ 関連業界団体(日本造船工業会、石油連盟、鉄鋼連盟、電気事業連合会等)を訪問し、同税制導入の必要性への理解を求めた。

特に経団連に対しては、経団連が毎年、内閣総理大臣はじめ政府・与党首脳に対し、「税制改正に関する提言」として税制要望を建議しているが、平成19年度の税制改正提言にあたっては、海運業界のトン数税制を盛り込んでもらえるよう、鈴木会長、宮原副会長(政策委員長)が中心となり強く働きかけた。

その結果、平成18913日に開催された経団連の税制委員会において「平成19年度税制改正に関する提言」(案)に下記の通りトン数税制が盛り込まれ、同年919日開催の経団連理事会において正式に承認された。

 

経団連の提言(抜粋)

外航海運に係る法人課税

欧米を始め主要海運国において、運航トン数を課税標準とするトン数標準税制が導入されている。海洋国家であるわが国産業の基盤として海運業の課税のあり方について、国際的な整合性の観点を踏まえた取り組みが必要である。

 

(4)マスコミ等への対応

当協会は、トン数税制をわが国に導入することの必要性について理解を得るためパンフレットを作成し関係方面に広く配布した。

またトン数税制の実現に向け、世論の理解を得ることを目的に、鈴木会長はじめ当協会幹部と一般紙等の論説委員との懇談会や、宮原副会長(広報担当)と一般紙記者との懇談会を実施するとともに、平成18927日の読売新聞を皮切りに、以下のとおり一般紙および日本海事新聞(合計7紙)に意見広告(資料1-1-1)を掲載するなど、種々の機会を捉えて広報活動を展開した。

 

読売新聞      927日(水)  朝日新聞 105 日(木)  毎日新聞 1012日(木)

日本海事新聞1018日(水)  産経新聞 1019日(木)  東京新聞 1026日(木)

日本経済新聞111 日(水)

 

112 平成19年度のトン数標準税制の導入に向けた対応

(1) 平成20年度税制改正(トン数標準税制のみ)

トン数標準税制(以下、トン数税制)について当協会は、前年度に引き続き国土交通省海事局と連携しつつ平成20年度税制改正要望に向け準備を進めた。

平成198月末、国土交通省は財務省および総務省に対してトン数税制の創設について要望した。当協会においても例年同様、他の要望事項とあわせ小冊子に取りまとめのうえ、自民党政務調査会に提出した。

平成199月より、財務省および総務省より国土交通省に対するヒアリング(いわゆる折衝)が開始された。財務省はトン数税制により発生した減税額については使途制限等を課したいとの考えを示し、一方、国土交通省は、諸外国のトン数税制は使途制限等を課していない旨主張し、両者折り合いがつかず折衝が続けられた。

当協会は、国土交通省との情報共有を図り、折衝に向けた資料作成などの協力をするとともに、前川会長が中心となり使途制限等の無い諸外国と同様の利用し易いトン数税制が導入されるよう国会議員をはじめとする関係各方面へ説明に廻った。また、トン数税制に関するセミナーや懇談会を開催するなど関係方面の理解を得るための活動を精力的に行った。さらに交通政策審議会海事分科会における審議においても意見反映に努めるとともに(別記)、日本経団連に対しても働きかけを行い、昨年に引き続き支持が得られた(別記)。

特に財務省からの使途制限等を課したいとすることに対して、当協会は「諸外国のトン数税制はいずれも海運事業者の国際競争力を確保するということを主目的に導入しており、いわゆる3倍ルールなどの一定の条件をクリアーすれば、運航船(自国籍船および外国籍船)すべてが対象となる。一方わが国の目指すトン数税制は、昨(平成19)年度の税制改正大綱において、対象を日本籍船に限定することが既に決まっており、日本籍船は日本商船隊の僅か5%であるので、仮に他の条件がまったく無いトン数税制が導入されたとしても、その国際競争力は諸外国に比べて大きく劣ることが分かっているが、当協会としては、今後日本籍船を増加させれば競争力が得られることを期待しているところである。しかしながらこれ以上の諸外国には無い条件等を課すというのであれば、諸外国との競争に耐えられる制度にはならなくなる。」旨繰り返し説明し理解を求めた。

これら多岐にわたる当協会の精力的な活動が奏功し、多くの関係者からの理解が得られつつあるなか、12月上旬より自民党の税制調査会(党税調)による平成20年度税制改正についての審議がはじまった。トン数税制については“マル政“と呼ばれる政治的に決着を図る分野に選別され、マル政案件を一括審議する党税調の会合において多くの国会議員よりトン数税制を導入すべきとの発言があり、導入に向けての機運が盛り上がった。

平成191213日、「平成20年度与党税制改正大綱」が発表され、トン数税制については「経済活性化・競争力の強化」という枠組みの中で「四面環海のわが国にとって、安定的な国際海上輸送を確保することは重要な課題である。その安定輸送の核となるべき日本籍船・日本人船員の計画的増加を図るため、非常時における国際海上輸送に係る航海命令等の制度化に併せて、日本籍船に係るみなし利益課税(いわゆるトン数税制)を創設する」とされた(資料1-1-2)。また1225日に取りまとめられた「民主党2008年度税制改革大綱」においても「外航海運市場において世界標準とも言うべきトン数税制を導入する」とされた。

当協会は、与党税制改正大綱発表後直ちに前川会長のコメント(資料1-1-2-2)を発表した。

税制改正大綱発表後、財務省および国土交通省は、トン数税制に関する租税特別措置法案およびトン数税制の適用条件等を定める海上運送法の一部改正案の作成作業を行い、同法案は平成2025日に閣議決定された(資料1-1-2-3)。公布・施行は平成207月頃になると見込まれている。

わが国のトン数税制の適用を受けようとする外航海運事業者は、海上運送法の一部改正法に基づき国土交通大臣が定める基本方針を踏まえ、日本籍船の増加や日本人船員の訓練等に関する計画を作成し、国土交通大臣の認定を受けた事業者のみがトン数税制の適用を受けられる。またトン数税制を適用した事業者は、毎年度、自ら作成した計画の実施状況を報告しなくてはならず、正当な理由が無く計画が達成できていない場合には国土交通大臣から勧告が出され、勧告に従わない場合は認定が取り消されるとともに減税分を返還しなくてはならないとされる。

この認定・勧告等の具体的な運用基準等については、法律の施行にあわせて政省令等において定められることとされている。当協会は運用等により事業者がコスト増や煩雑になるなど、使い勝手の悪い制度とならないよう注視していくこととしている。

 

(2) 国会議員関連の動き

当協会は、自民・民主・公明各党の運輸関係等の会議に、前川会長はじめ当協会幹部が出席し、使い勝手の良いトン数税制の導入を求めつつ、自らトン数税制に関するセミナーや懇談会を開催するなど、関係方面の理解を得るための活動を強力に行った。

これら多岐にわたる当協会の活動が奏功し、多くの国会議員はじめ関係者からの理解が得られ、平成191115日に自民党政務調査会「海運・造船対策特別委員会(委員長:村上誠一郎衆議院議員)」および自民党の国会議員で構成する「海事立国推進議員連盟(会長:衛藤征士郎衆議院議員)」の連名による「トン数税制の導入に関する決議」が採択され、冬柴鐵三国交大臣、額賀福志郎財務大臣および増田寛也総務大臣に提出された(資料1-1-2-4)。また1127日には、超党派の国会議員等で構成する「海事振興連盟(会長:中馬弘毅衆議院議員)」においても自民党の決議と同内容の決議が採択され(資料1-1-2-5)、トン数税制実現の追い風になった。

 

(3) 日本経団連等への働きかけ

当協会は昨年に引き続き、トン数税制の要望に際し 日本経団連(以下、経団連)はじめ 関連業界団体(日本造船工業会、石油連盟、鉄鋼連盟、電気事業連合会等)を訪問し、同税制導入の必要性への理解を求めた。

特に経団連に対しては、税制改正に関する提言の取りまとめに際しては、トン数税制についても言及するよう強く働きかけを行い、その結果、平成19918日に経団連が取りまとめた「今後のわが国税制のあり方と平成20年度税制改正に関する提言」において以下の通り整理され、昨年に引き続き支持が得られた。

 

経団連の提言(抜粋)

外航海運に係る法人課税

外航海運業者の日本籍船に係る、いわゆるトン数標準税制に関し、平成20年の通常国会における法改正とあわせ、主要な海運国の税制との整合性を踏まえた制度を創設すべきである。

 

(4) マスコミ等への対応

トン数税制の実現に向け、世論の理解を得ることを目的に、前川会長はじめ当協会幹部と一般紙等の論説委員との懇談会を開催するとともに、経済4誌(東洋経済、エコノミスト、ダイヤモンド、日経ビジネス)に前川会長の対談記事を掲載するなど種々の機会を捉えて広報活動を展開した。

 

113 交通政策審議会海事分科会(国際海上輸送部会・ヒューマンインフラ部会)

1.第12回海事分科会(平成19226日)

トン数標準税制については、平成19年度の与党税制改正大綱(平成181214日)において、「外航海運事業者の日本籍船に係るみなし利益(いわゆるトン数標準税制)については、非常時における対応を含む安定的な国際海上輸送を確保するため外航海運事業者が果たすべき役割及び当該政策目的を達成するための規制を明確にする法律が平成20年度の通常国会において整備されることを前提として、平成20年度税制改正において具体的に検討する旨整理された。

これを受け、冬柴鐡三国土交通大臣は、平成1928日、同大臣の諮問機関である交通政策審議会(会長:御手洗冨士夫 日本経団連会長)に対して、「今後の安定的な海上輸送のあり方」を諮問し(諮問第50号)、同審議会は下部組織の海事分科会(分科会長:馬田一 日本鉄鋼連盟 会長)に審議を付託した。(資料1-1-3-1および資料1-1-3-2参照)

平成19216日、第12海事分科会(これまでの通算回数)が開催され、同分科会に「国際海上輸送部会」および「ヒューマンインフラ部会」の2つの部会を設置し、トン数標準税制をはじめとする海事政策全般について審議していくことが決定された。(資料1-1-3-3資料1-1-3-47参照)

 

資料1-1-3-1 交通政策審議会への諮問について

資料1-1-3-2 交通政策審議会 海事分科会への付託について

資料1-1-3-3 国際海上輸送部会及びヒューマンインフラ部会の設置について

資料1-1-3-4 交通政策審議会委員名簿

資料1-1-3-5 交通政策審議会海事分科会名簿

資料1-1-3-6 交通政策審議会海事分科会国際海上輸送部会名簿

資料1-1-3-7 交通政策審議会海事分科会ヒューマンインフラ部会名簿

 

2.中間取りまとめ(平成19628日)

国際海上輸送部会(部会長:杉山武彦 一橋大学 学長)およびヒューマンインフラ部会(部会長:杉山雅洋 早稲田大学大学院商学学術院教授)は、平成19216日の設置以降、それぞれ合計5回の会議を開催し、中間とりまとめを行った。

概要は以下の通り。

 

(1)国際海上輸送部会

国際海上輸送部会(部会長:杉山武彦 一橋大学 学長)は、平成19319日、413日、518日、68日および628日の合計5回の会議を開催し、「安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方について」の中間取りまとめを行った。

同中間取りまとめでは、はじめにわが国における外航海運事業者、日本籍船・日本人船員の意義・必要性が整理され、続いてそれを踏まえ、安定的な国際海上輸送の確保のためにわが国において講ずべき施策について、諸外国における施策も勘案しつつ整理されている。

わが国外航海運事業者の国際競争力の確保に関する施策実施の必要性については、「国際競争力の確保は、基本的には事業者の不断の自助努力により確保されるべきものであるが、諸外国の外航海運事業者が税制をはじめとする手厚い優遇制度の下で事業を行っている現状にかんがみれば、本邦外航海運事業者が、外国の外航海運事業者と同等の条件で競争できる環境整備が必要である」と整理された。また、日本籍船・日本人船員の確保に関しては、「これらが価格競争力の喪失から激減してきたことや、特に船員の育成には時間を要することを考慮すると、計画的増加・確保を求める法整備を含む新たな制度的枠組みの構築について、事業者の国際競争力の確保の観点を踏まえつつ検討することが必要である」と整理された。

具体的な施策のあり方については、まずわが国が現在行っている施策には諸外国に比べて劣後しているものがあるとし、これを踏まえ、税制等のあり方について、国際競争力の確保の観点から検討する必要があること、また、日本籍船の増加、日本人船員の確保・育成を図るための新たな制度設計を行うとともに、非常時においても安定的な国際海上輸送を確保するための措置を併せて検討する必要がある旨整理されている。

また、現在、海上運送法第26条において内航海運についてのみ規定のある航海命令を外航海運にも拡大することについての審議も行われ、以下の通り整理されている。

「非常時の対応については、現在、国内海上輸送についてのみ、海上運送法において、国が船舶運航事業者に対し航海を命じる規定があるが、国際海上輸送についても、同様の事態が生じる場合が想定されるため、安定的な国際海上輸送の確保の観点から、非常時(注)における国際海上輸送に係る航海命令の導入についても検討が必要である。なお、有事法制及び周辺事態法制における有事に係る輸送については、当該法制の枠組みの中で対応することが適当であり、この航海命令は、有事の輸送を対象とするものではない。

 

(注)  本部会においては、平時のみならず、いわゆる非常時及び有事も念頭に置きつつ、安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方全般について調査審議された。この際、「非常時」とは、国内外における事故、災害、テロ、治安悪化等の事態を想定しており、我が国及び周辺地域における武力攻撃事態等の有事は含まない。

 

当協会からは、鈴木会長が委員として5回の会議すべてに出席し、わが国外航海運事業者のおかれている状況、およびトン数標準税制の制度設計にあたっては国際競争力確保の観点に留意願いたい旨、繰り返し説明した。また、外航海運の使命は、まず平時において資源・エネルギーや日本経済に欠くことのできない物資の安定的な輸送をきちんと提供することであり、国際競争力の確保はそのための大前提であるので、国策として日本籍船と日本人海技者の増加させることについては、海運業界としても努力するが、その具体的な増加策の策定にあたっては、わが国外航海運事業者の国際競争力の確保に支障を来たすことにならないよう、事業者の意見を十分反映するようお願いした。

石油連盟、電気事業連合会、日本鉄鋼連盟をはじめとする荷主団体委員からは、「トン数標準税制はエネルギー等の安定供給に資するものであるのでその早期導入を支持する」旨の表明があり、また、「わが国の課題である日本籍船、日本人船員を増加させるということについては、その必要性は認めるが、それらが外航海運事業者にとって過度の負担とならないよう、経済性とのバランスを考慮した制度設計をお願いしたい」旨の発言があった。

一方、「トン数標準税制は優遇税制であり、これが如何に国民生活にとって必要かについての説得力ある説明が必要ではないか」との意見もあった。

国際海上輸送部会では、中間取りまとめに至る最後まで、国際競争力の強化と日本籍船・日本人海技者の増加のバランスのとり方が議論になったが、トン数標準税制は第一義に国際競争力の強化のために導入するということが確認された。一方で、日本籍船・日本人海技者の確保についても今後必要な対応をしていくことになるが、あまりこちらに重きを置いた制度になると国際競争力が低下し、利用できないものとなってしまうため、当協会としては国際競争力が確保されるトン数標準税制となるよう今後も引き続き関係者の理解を求めていくこととした。

 

(2)ヒューマンインフラ部会

ヒューマンインフラ部会(部会長:杉山雅洋 早稲田大学大学院商学学術院教授)は、平成19312日、419日、524日、613日および627日の合計5回の会議を開催し、「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」の中間取りまとめを行った。

 

3.最終答申(平成191220日)

国際海上輸送部会は、上記平成196月の中間取りまとめ以降、2回の会議を開催し、独禁法の適用除外制度の今後のあり方やマ・シ海峡問題等の課題についての検討を行った。また、ヒューマンインフラ部会も2回の会議を開催し、海事分野における人材の確保・育成等に関する具体方策のあり方等について検討を行った。当協会からは前川会長が出席し実情等につき説明のうえ理解を求めた。

その後、平成191220日、国際海上輸送部会およびヒューマンインフラ部会の合同部会が開催され、同合同部会において最終答申、すなわち「安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方について」および「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」がそれぞれ取りまとめられた。

この最終答申は、同日、両部会長より冬柴鐡三国土交通大臣に手交され、冬柴大臣からは、両部会に対し答申取りまとめへの謝意が示されるとともに、答申にある施策の実現への意欲が表明された。(資料1-1-3-8参照)

概要は以下の通り。

 

(1)国際海上輸送部会

平成196月の「中間取りまとめ」に加えて、@独禁法適用除外制度、A世界貿易機関(WTO)・経済連携協定(EPA/自由貿易協定(FTA)、Bマラッカ・シンガポール海峡等の安全対策、C船舶に係る安全・地球環境問題、について今後取り組むべき具体的施策の方向性などが取りまとめられた。

独禁法関連では、現在まで130年間にわたり海運同盟が認められてきた背景となる外航海運分野の特性等が記されるとともに、独禁法適用除外制度の今後のあり方については、関係者の意見等を踏まえつつ、さらに専門的な検討を行う必要があるとされた。また、WTOEPA/FTA関連では、自由かつ公正な国際海運市場の形成を推進するため、WTOによる多数国間の枠組みと、EPA/FTAによる二国間/地域間の枠組みの両者を最大限活用すべきとされた。さらに、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全対策については、国際的な枠組の下で、我が国が引き続きイニシアティブをとって同海峡沿岸国を支援するとし、船舶に係る安全・地域環境問題への取り組みについては、合理的な国際基準の策定と技術開発を一体的に推進することとされた。(資料1-1-3-9参照)

 

(2)ヒューマンインフラ部会

平成196月の「中間取りまとめ」以降の審議結果を踏まえ加筆され、基本的な考え方として喫緊の課題となっている船員の確保育成について、@船員を集め、A船員を育て、B船員のキャリアアップを図り、C船員の陸上海技者への転進を支援する、との4つの施策を柱として推進することとし、これに基づき具体的な方策を示している。(資料1-1-3-10参照)

 

※両最終答申は以下の国土交通省URLからも全文が入手可能。

http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/10/101220_.html

 

※両部会の配布資料、議事録等は以下の国土交通省URLに掲載。

http://www.mlit.go.jp/singikai/koutusin/koutusin.html

 

資料 1-1-3-8         国際海上輸送部会・ヒューマンインフラ部会の答申(概要) 

資料 1-1-3-9         「安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方について」(答申) 

資料1-1-3-10         「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」(答申)