27 円滑なシップリサイクルの推進

271 2006年の世界のシップリサイクル実績

 ロイズ統計によると、2006年の世界のシップリサイクル量は、541隻、459万総トン(前年比118隻増、82万総トン増)であった(表ご参照)。リサイクル国別に見ると、インドが102隻、85万総トン(前年比26隻減、27万総トン減)、バングラディッシュが159隻、288万総トン(前年比78隻増、77万総トン増)、中国が9隻、25万総トン(前年比1隻増、10万総トン増)、パキスタンが19隻、19万総トン(前年比7隻増、8万総トン増)となり、インドを除く主要リサイクル国において、リサイクル船腹量が増加した。

 

表.国別シップリサイクル実績(Lloyd’s World Casualty Statisticsより)

 

2002

2003

2004

2005

2006

リサイクル国

隻数

千総トン

隻数

千総トン

隻数

千総トン

隻数

千総トン

隻数

千総トン

インド

326

6,751

383

5,886

206

1,620

128

1,123

102

853

バングラディッシュ

87

4,894

79

2,890

123

3,357

81

2,114

159

2,883

中国

70

3,139

119

5,582

70

1,538

8

151

9

254

パキスタン

20

997

49

817

26

209

12

48

19

187

その他

307

595

339

753

264

471

194

336

252

415

合 計

810

16,376

969

15,928

689

7,195

423

3,772

541

4,592

 

272 国際機関の動向

1.国際海事機関(IMO

1)経緯

 環境/人権/安全問題を踏まえたシップリサイクルのあり方についての検討は、まず国連環境計画(UNEP)のバーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動を規制する条約)締約国会議において199912月から開始された。

これに先立つ平成11年(1999年)5月、わが国政府(所轄官庁:通産省、環境庁、厚生省(当時))は通達により解撤予定船舶をバーゼル条約の手続に従って輸出する必要があるとの見解を表明しており、この結果、煩雑な輸出手続を要するため解撤目的での日本籍船の輸出(いわゆるスクラップ売船)は実質的に不可能となっていた(20086月現在も同通達は廃止されていない)。

当協会がこの問題について認識した2000年当時、バーゼル条約締約国会議では、条約を解撤船舶に適用した場合の実行・実効上の問題点等について検討が行われているところであり、諸外国がその結論を待っている状況の中で、上記のわが国の見解は突出したものであった。

また、日本国内では大型船を解撤できる施設が存在しておらず、日本籍解撤予定船は海外の主要解撤国に依存せざるを得ない状況にあったため、当協会は運輸省(当時)等に対し、日本籍船の解撤の道を閉ざすことのないよう、上記通達を廃止するよう申し入れを行った。

一方、IMO(国際海事機関)においても、20003月からシップリサイクルに関する検討が本格的に開始された。

このような状況を受け、当協会は造船等関係業界とともに「シップリサイクル連絡協議会」を設置し、国土交通省も「シップリサイクル検討委員会」を設置してIMO、バーゼル条約会議等に対応することとなった。上述の通り、シップリサイクルをバーゼル条約の適用対象とした場合、煩雑な輸出手続きを要するため解撤促進に大きな支障をきたす懸念があることから、当協会を含むわが国関係者はバーゼル条約で解撤船舶を規制するよりも、IMO関連規則をベースとした新たな枠組みを検討することが適切であるとの立場をとった。

その後、バーゼル条約とIMOの間では、解撤に向かう船舶を管理する方法についてさまざまな論争・駆け引きが繰り広げられたが、当協会は国交省と密接な連携を取り、シップリサイクルに関する諸問題をIMOの場を中心として解決していくよう関係方面に働きかけた。

この結果、20057月に開催されたIMO53回海洋環境保護委員会(MEPC53)において、「200809年の間に強制化規則を策定する」との方針が打ち出されたことから、シップリサイクル関係についてはIMOを中心に検討していくとの方向性が明確なものとなった。

その後20063月のIMO MEPC54からは、シップリサイクル新条約の条文審議が本格的に開始され、20095月の採択に向けて条約策定作業が進められている(MEPC55までの動きについては、船協海運年報2006をご参照)。

 

2MEPC56

 200779日から13日まで開催されたMEPC56においては、作業部会を設置して採択までのスケジュールが確認されたほか、条約条文案および条約に付属するガイドライン案などの審議が行われた。

@    採択までのスケジュール

20084月のMEPC57を経て同6月のIMO理事会で条約採択会議日程を決定し、同10月のMEPC58で条約案を最終化の上、20094月の条約採択会議の開催を目指すこととされた。

また、条約案の審議を進めるため、20081月に仏・ナントにおいてシップリサイクル作業部会第3回中間会合(ISRWG3)を開催することが合意された。

A    条約条文案の審議

条約の適用対象について、自国内の航行に従事する船舶であって、かつ同国内で最終的にリサイクルされる船舶を本条約の適用対象外とすることで概ねの合意が得られ、条約の規定振りを今後検討することとされた。ただし、内航船であっても海外売船される船舶については、条約の適用対象となる。

また、英国より、条約の基準に達しないリサイクル施設については、安全・環境面の最低限の基準をクリアすれば、同施設を暫定登録し、その改善計画をIMOにおかれる委員会がモニター・助言を行い、条約基準を満たした段階で承認リサイクル施設に格上げするという提案がなされた。英国提案については、反対意見もあったものの、十分な世界の解撤能力を確保するという観点から支持をする国も多く、次回会合に向け、同国が条文案を作成することとなった。

さらに、米国より「非締約国の安全・環境上適した施設でのリサイクルを、二国間、多数国間、または地域協定を締結することにより認める」との提案があり、同提案の意図(十分な解撤能力の確保等)は評価されたものの、同提案は条約批准のインセンティブが働かなくなること、これら協定が林立する状況はグローバルな条約を策定する趣旨に反することなどから、十分な検討が必要とされた。

B    条約に付属するガイドライン案

リサイクル施設に関するガイドライン案の審議が行われた。同ガイドライン案については、日本、米国ならびにデンマークからそれぞれ提案がなされていたが、今後、日本案をベースに他国案を取り入れることが合意された。

 

3MEPC57

 2008331日から44日まで開催されたMEPC57においては、同年1月に開催されたMEPC-ISRWG3(シップリサイクル作業部会第3回中間会合)において審議未了となっていた条約条文案の逐条審議が行われた。

@    非締約国リサイクル施設におけるリサイクル

ISRWG3において、非締約国であっても安全・環境上適したリサイクル施設であれば締約国船舶のリサイクルを認める場合の特別要件について審議が行われたが、同WGでは合意にまでは至らず、本MEPC57で引き続き検討することとされていた。

審議の結果、本提案は否決され、非締約国のリサイクル施設における締約国船舶のリサイクルは認められないこととなった。このため、締約国の解撤能力が十分で無い場合の方策について決議を策定することとし、コレスポンデンス・グループを設置して書面審議による検討を行うこととなった。同決議は、20095月開催の条約採択会議において採択される予定である。

A    リサイクル国によるリサイクル計画の事前承認

ISRWG3において、リサイクル計画は最終検査前にリサイクル国政府による事前承認を受けなければならないとする提案がなされ、審議の結果、概ねの支持を得たものの条約草案に取り込まれるまでには至らなかった。

今次会合においては、上記事前承認案とともにリサイクル計画の事前承認を[14]日以内(日数は未確定)のタシット方式(*)とする案についても審議が行なわれた。

席上、英国、オランダ、スウェーデン、ベルギー等から事前承認案を支持する意見が出る一方、マルタ、米国、ノルウェー、フランス等から同案がうまく機能するのか疑問が示され、条文を修正するべきとの意見もあった。

わが国からは、リサイクル国政府によるリサイクル計画の事前承認制については原則支持するものの、タシット方式ではリサイクル計画が承認済みであることの証書等がないため、船主が旗国に対してリサイクル国の承認を証明できないことから、同方式の採用は困難である旨の発言が行われた。

審議の結果、本提案の重要性は認識されたものの、条文案の修正については合意には至らず、次回MEPC-ISRWG420089月〜10月開催予定)において更なる検討を行なうこととなった。

B    ISO規格との関係

ISO(国際標準化機構)では、現在、「リサイクル施設に関するISO規格」の策定作業が進められているが、同規格が条約に先がけて確定されると、IMOによる新条約およびガイドラインとの間でダブルスタンダード化する懸念が生じていた。このためわが国より、ISOIMOとの間で情報交換体制を強化するとともに、ISOに対して適切な情報開示、透明性の確保を求めるべきとの提案を行ったところ、多数の国の支持を得た。

C    その他

わが国より、条約の発効要件として、締約国の数、船腹量、解撤能力を勘案した案を提出していたが、時間的制約のため、次回ISRWG4において検討することとなった。IMOにおける今後の作業予定は次の通りとなっている。

20084月〜8月:コレスポンデンス・グループ(書面審議)

2008930日〜103日:MEPC-ISRWG4(条約の逐条審議)

2008106日〜10日:MEPC58(条約案の最終化)

2009511日〜15日:条約採択会議(於:香港)

20097月:MEPC59(関連ガイドラインの策定)

 

*)タシット方式:「暗黙の支持・受諾」を意味する。一定期間内に異議通告が無い限り自動的に受諾したと見做され、発効する簡易な手続き。

 

2.国連環境計画(UNEP)バーゼル条約第6回公開作業部会(OEWG6

 200793日〜7日、バーゼル条約のOEWG6がジュネーブで開催され、環境上適正な船舶の解撤が主要議題のひとつとして審議された。

バーゼル条約では、200612月の第8回締約国会議(COP8)において、各締約国に対し20071月を期限として次の事項に関する意見の提出が求められていた(船協海運年報2006ご参照)。

@バーゼル条約の管理と執行レベルの評価

Aシップリサイクル新条約案により要求される管理と執行レベルの評価およびバーゼル条約との比較

B効果的な短中期的措置の可能性の調査・検討

OEWG6では、これらの質問に対する各国回答を基に議論が行われる予定であったが、わが国とBAN(バーゼルアクションネットワーク。同条約専門の環境団体)がCOP8に提出した意見をOEWG6に再提出した他は、メキシコ1国のみからしかコメントが寄せられず、また、EUおよびインドから今次会合で詳細な議論をすることは望まないとの意見が示されたため、20081月下旬を期限として再度締約国に意見提出を求めるとともに、バーゼル条約事務局が、それら意見を取りまとめの上、083月のMEPC57に送付することとし、その旨の決定(=決議)が作成された。

 

これまでのバ条約側の検討を見ると、20033月のOEWG3および同年10月のCOP7では、EUよりバーゼル条約の「輸出国」を「旗国」と読み替えて条約を船舶に適用するなどの提案がなされるなど、同条約独自で解撤予定船舶を規制しようとする動きがあり、わが国を初めとするIMO関係国でEUの動きを阻止すべく対応してきた。

200410月のMEPC52においてIMO新条約が策定される方向となってからは、20054月のOEWG5において、IMO新条約がバーゼル条約と同等の管理・執行レベルを有するものとなるよう意見反映を目指すための決定が作成されたが、議論の途中では依然として環境派の意見も強く、IMO条約の議論の進展を遅らせかねない状況も見られた。

200512月のCOP8においても同様にIMOへの意見反映を目指すための決定が採択されたが、その審議過程において、インドがIMO新条約はヤードのみに負担を課すものであるとし、同新条約の策定を否定するともとれる発言を執拗に繰り返し議場の混乱を招くという一幕があった。

今回のOEWG6においては、これまでのバーゼル条約会合とは異なり波乱は全くなく、上述した内容の決定が採択された。これはわが国をはじめとするIMO関係国が積極的に同条約会合に参画し、IMO新条約の議論の進展を丁寧に説明してきた結果、バーゼル条約側でのIMOへの理解が深まったことが大きな一因となったといえる。

 

273 国内の取り組み

 国土交通省は、国際機関におけるシップリサイクルに関する審議への対応や、その基礎となる調査等の方針について総合的な検討を行うため、20026月、海運、造船、解撤の各業界、海事研究機関および学識経験者からなる「シップリサイクル検討委員会」を発足させた。

 現在では、同委員会の下にシステム委員会(タスク:ビジョンの策定および同策定のための基礎調査、リサイクルのための途上国育成等)、インベントリ委員会(タスク:シップリサイクル条約への対応、現存船インベントリ作成への対応、シップリサイクル関係ISO規格の策定等)、ステアリング・グループ(タスク:全体管理)を設置し、個別案件に対応している。