3・5 各国の海運政策
3・5・1 EU
○海事政策に関するブルーペーパー
欧州連合(EU)の欧州委員会(EC)は、2007年10月、EUの統合海洋統合政策(所謂ブルーペーパー)を発表した。
同統合海洋政策については、2005年3月より、ECのボルグ漁業・海事担当委員を議長とするタスクフォースが検討を開始、2006年6月に同政策の素案となるグリーンペーパー*が発表され、その後約1年にわたり関係者からのヒアリングを実施、今回ブルーペーパー*として取りまとめられた。(グリーンペーパーについては船協海運年報2006参照)
* グリーンペーパー/ブルーペーパー
グリーンペーパーは議論を喚起するために作成される文書(いわゆる議論のたたき台)。それに対してホワイトペーパーは、グリーンペーパーに基づく議論を踏まえて作成される、公的かつ具体的な政策提案文書。今回のブルーペーパーは、具体的な政策を纏めるための柱を示した文書。
今回発表された海洋統合政策について、EC発表資料によれば、現在は様々な部門において、異なる海洋関連の政策が講じられており、同統合政策により関係当局は、異なる分野・政策間の相互関係を分析し、あらゆる段階で同相互関係を考慮することが可能になるとしている。また、今後の政策は、海洋研究、テクノロジーおよびイノベーションに関する欧州の強みに基づいて策定されるという。発表されたブルーペーパーの構成は以下のとおり。
@欧州海洋統合政策に関するECコミュニケーション
A同コミュニケーション付属のECスタッフ作業文書
B欧州海洋政策に係る協議の結果に関するECコミュニケーション
内容については、@が欧州海洋統合政策を取りまとめたもの、Aの作業文書は、@の内容をより詳細に説明したもので、その末尾には同政策を進めるためのアクションプランの一覧表がある。(これら文書については、http://ec.europa.eu/maritimeaffairs/index_en.html より入手可能)
ブルーペーパーおよびアクションプランの範囲は、海上輸送、海事産業の競争力、海事に関する研究会、環境保全、漁業など多岐に亘る。主な項目は以下のとおりである。これらの項目については、政策立案に向けたプロセス、実施時期が示されているが、詳細な記述は殆どなく、アクションプランに基づき関係者との協議を重ね、ホワイトペーパーのような形で詳細な提案が行われることとなっている。(海運関係のアクションプランの概要については【資料3-5-1-1】)。
−障壁のない欧州海域(European
Maritime Transport Space without barriers)
−海洋調査のための欧州戦略
−加盟国が策定する国内統合海事政策
−海洋監視のための欧州ネットワーク
−加盟国による海洋空間計画に向けたロードマップ
−沿岸地域における気候変動の影響を緩和するための戦略
−海運によるCO2と汚染の削減
−密漁と破滅的な公海でのボトム・トローリングの排除
−海洋クラスターの欧州ネットワーク
−海運・漁業部門のための欧州労働法免除の見直し
グリーンペーパーについて国際海運会議所(ICS)/国際海運連盟(ISF)は、大気汚染、温室効果ガス、シップ・リサイクルなどの項目に関し、国際海事機関(IMO)等の国際機関での議論に影響を及ぼすとし、また、「障壁のない欧州海域」に関し、国際的なカボタージュ規制に影響のある政策の導入を示唆する表現が用いられているとして、懸念を表明していた。2007年10月に発表されたブルーペーパーでは、EU各国および関係者の支持を得るために、全体的に物議を醸しだすような表現は用いられていない。例えば、大気汚染、温室効果ガス、シップ・リサイクルなどの問題については、“グローバルな規制の重要性を認識するが、IMOで解決策が見出せない場合はEUの独自規制もあり得る”といったグローバル規制を否定しない内容になっており、また、「障壁のない欧州海域」については、非EU居住者の市場参入の阻害を示唆する表現は用いられていない。前述のとおり、ECは、アクションプランに基づきより詳細な政策を提案していくこととなるが、当協会は、引き続きその動きを注視していく。
以上