3・6 コンテナ保安問題への対応
3・6・1 米国
2001年9月の同時多発テロ事件以降、米国では様々なテロ対策が導入されており、同国向け海上貨物輸送に対しても爆発物や兵器の不正な持ち込みを防止する観点から、これまで以下の保安対策が実施されている。
@Container Security Initiative:CSI 危険性のある米国向け貨物を積出港で事前に検地すべく、米国と海外の税関当局が協定を結び情報交換や貨物検査において協力するプログラムで2002年に開始された。現在同プログラムには、日本の横浜・東京・名古屋・神戸港を含む世界50港が参加し、米国向けコンテナ貨物の8割以上をカバーしているといわれている。 A24 hours Vessel Manifest Rule:いわゆる24時間ルール 船社もしくはフォーワーダーに対し、米国向けコンテナ貨物の船積み24時間前に同国税関に貨物情報を提出することを義務付ける制度。2003年2月開始。 BCustoms-Trade Partnership Against Terrorism:C-TPAT 米国税関・国境警備局(Customs and Border Protection:CBP)のサプライチェーン・セキュリティ基準を満たす貿易業者に税関手続き・貨物検査場の優遇措置を与えるプログラム。2002年から実施。参加はあくまで任意。 |
2006年以来、米国議会では上記対策に加え、全ての米国向け貨物に対して積出港での船積み前スキャニング検査(所謂コンテナ100%スキャニング検査)を義務付ける制度の導入是非が議論されてきたが、2007年8月3日、同制度を2012年7月から実施する条項を含む法案が成立した。
また、米国税関・国境警備局(CBP)は、2008年1月、2006年10月に成立したサプライチェーン・セキュリティ強化に関するSecurity and Accountability For Every Port Act of 2006(SAFE Port Act)に基づき、米国に輸入されるハイリスク貨物を絞り込むため、既に導入されている貨物情報の事前通報規則(所謂24時間ルール)で要求される情報に加え、追加情報を輸入者と船社に求める規則(所謂「10+2」ルール)案を発表した。
これらに関する主な動きは以下のとおりである。
1. コンテナ100%スキャニング
(1) 経緯
米国下院は、2006年10月に成立したSAFE Port Actの審議において、全ての米国向け貨物に対して積出港での船積み前スキャニング検査を義務付ける条項を盛り込むよう提案していた。しかしながら、最終的には、外国港湾の協力を得て同検査の実施が可能か検証する実験プログラム*を行うとの内容が含まれるに止まった。
* 同プログラムはSAFE Port Actに基づくSecure Freight Initiative(CSI)の一部として、2007年2月以降開始。協力しているのは英国:サザンプトン・オマーン:サラーラ・パキスタン:カシム・ホンジュラス:プエルトコルテス・韓国:釜山・シンガポールの6港。
SAFE Port Actで米国向け全コンテナ貨物の船積み前スキャニング検査を実現できなかった下院は、2007年1月からの第110議会に再度同様の提案を行うとの情報が報道されていたところ、同議会開始早々の2007年1月9日、下院は以下の要件を含むテロ対策関連法案(HR1)を可決した。
- 米国向けコンテナの取扱量が75,000TEU以上の海外の港は法案施行後3年以内に、同取扱量が75,000TEU未満の場合は同5年以内に、米国政府の基準を満たしたスキャニング機器を使い、全ての同コンテナ貨物を船積み前に検査することを義務付け。
- 同コンテナ貨物に対し、米国政府の基準を満たしたコンテナシールの使用を義務付け。
HR1は、2001年の同時多発テロ事件後、米大統領が同事件の分析と包括的なテロ対策検討のために設置した“9/11 Commission”の報告書によるテロ対策を具体化するための法案だが、同報告書には海上コンテナ貨物保安対策は含まれていなかった。
上院も同報告書に関する独自法案S4を2007年3月に可決。S4には以下のコンテナ貨物保安対策が含まれた。
- 国土安全保障省(DHS)に対し、SAFE Port Actによる海外港での米国向けコンテナ貨物スキャニング検査実験プログラムの結果を踏まえ、全量スキャニング検査実現までの計画を策定することを指示。(特に全量検査実現の期限は設けず)
HR1とS4の一本化作業が両院協議会で行われた結果、以下の条項を法案に盛り込むことで上下院が合意。その後一本化された法案全体が上下院それぞれで可決された後、議会夏期休会直前の8月3日にブッシュ大統領が署名、法案は“Implementing
Recommendations of the 9/11 Commission Act of 2007”として成立した。
@2012年7月以降、外国港湾において船積み前にX線検査装置と放射性物質検知装置を組み合わせた非接触型検査装置による検査を経ていないコンテナ貨物は、米国に持ち込んではならない。
(航空貨物については、法成立日から3年以内に同様の検査を実施)
A下記条件の内2つを満たす港には、例外的に検査実施時期の2年先延ばしを認めることができる。状況により同時期を更に2年間(計4年間)延ばすことも容認。
・検査システムを購入・設置できない。
・同システムの誤作動率が受容範囲を超えている。
・港が同システムを設置するだけの特色(physical character)がない。
・同システムが既存のシステムと統合できない。
・検査システムを使用することで、トレードの量や流れを著しく阻害する。
・同システムがハイリスク貨物に関する自動警報を発しない。
実施期限延長のためには、DHS長官が議会に対して、期限延長の必要性に関する証拠を提出し、早期実施のためにどのような措置を取るかについて説明することが必要となる。
B2008年10月15日以降、米国でトランジットされる全てのコンテナ貨物に対し、コンテナシールに関するISO17712基準に適合したシールの使用を求める。
(2)主な関係者の動き
@国土安全保障省(DHS)
HR1可決以降、DHS関係者は国際貿易に与える影響を勘案し、折に触れて拙速な100%スキャニング検査実施に否定的な見解を示すとともに、まずは前出実験プログラムの結果を待つべきとの立場を取っていた。
DHSは、2007年11月に来日し、わが国の関係業界に対し、コンテナ100%スキャニングの説明会を開催した。同説明会では、出席者よりその実行性等に大きな疑問が表明されたがDHSからは、スキャニング実施への理解と協力が求められた。また、DHSからは、CSIに基づき、同年10月から、サザンプトン(英国)、ポート・カシム(パキスタン)、プエルト・コーテス(ホンジュラス)でスキャニングの実証実験を開始、また、ブラニ・ターミナル(シンガポール)、釜山ガマン・ターミナル(韓国)、モダン・ターミナル(香港)、サララ(オマーン)で限定的な実証実験を実施するため、上記実証実験の経過を見守っている状況であるとの見解が示されるとともに、同実証実験については、2008年春に米国議会への報告が行われるとの説明があった。
A関係業界
・HR1可決後、米国荷主団体大手のNITL(National Industrial
Transportation League:全米産業運輸連盟)は、100%スキャニング及びコンテナに対する高度な電子シールの義務付けが通商に与える影響に鑑み、それらの導入は拙速であるとした書簡を全上院議員に送付。World Shipping Council (WSC)*も上院議員への働きかけを開始。
** 川崎汽船・商船三井・日本郵船等世界の主要な定期船会社が主に米国海運問題への対応のため結成した団体。
・両院協議会に際し、NITL、WSC等、米国の8つの貿易関係団体は関係上院議員に上院法案S4の文言を採択するよう求めるとともに、以下問題点を指摘する書簡を連名で送付。
-スキャニング機器の技術規格
-いつ、誰が、どのようにスキャニング・データを分析するか
-誰が検査機器を購入し操作するのか、誰が購入費用を負担するのか
-他国から米国発コンテナ貨物のスキャニング検査を求められるのではないか
-検査機器の操作者等、同機器周辺で働く労働者の健康と安全をどう確保するのか
・両院協議会での検討終了後、NITLは「限りあるリソースをスキャニングに集中するやり方は間違い。リスク分析を併用する部分検査こそが米国が取るべき道」とする書簡を主要議員に送付。また、WSCも大統領署名前に100%スキャニングの実行性を非常に疑問視する声明を発表した。
B米国議員
100%コンテナ貨物スキャニング要件導入問題の関係で、両院協議会報告への署名を拒否する議員や、大統領に署名を拒否するよう求める議員が出た。
C関係国
・わが国国土交通省はEU諸国等の主要海運当局と連携し、上院関係委員会議長及びDHSや国務省に対して、米国が単独で過激な貨物保安対策を導入するのではなく、関係各国と協調して実効性のある方策を検討するよう促す等、同検査制度導入回避に向けた働きかけを行った。
・欧州委員会の税制・関税担当コミッショナーは、HR1可決後すぐにDHS長官に対し書簡を送り、同制度に強い懸念を伝えるとともに、これが導入された場合は米国発EU向け貨物に同様の措置を講ずる可能性を示唆。その後同コミッショナーは、法案成立直後にも同制度が導入されることに対し深い憂慮の念を示す声明を発表した。
上記の通り法案が成立したことによって、原則として2012年から全ての米国向けコンテナ貨物に対し、積出港での船積み前スキャニング検査が義務付けられることになった。しかしながら、そもそも現段階では誰がスキャニング機器を購入し検査を実施するのか、どのように関係各国の協力を得ていくのか、また、検査機器の信頼性はどれだけ確保できるのかといった制度実施のための重要なポイントが明らかにされていない。
それらのポイントは今後DHSによって対処されていくものと推測されるが、いずれにしても現在世界600港から米国に向けて輸出されている膨大なコンテナ貨物の全てをスキャニング検査するとなれば、円滑な貿易の大きな阻害要因になる可能性が高く、また、貿易関係者にとって大きなコスト負担を強いる惧れがある。そのため、当協会は引き続きわが国政府、国内外関係者と密接に連携し、対米貿易に混乱と障害がもたらされないよう対応に努めていく。
2.「10+2」ルール
米国の税関・国境警備局(CBP)は、「港湾安全法(SAFE
Port Act)」(2006年10月成立)に基づき、米国向けコンテナ貨物に事前の情報提出を義務付ける制度(所謂「10+2ルール」)案を08年1月2日付で米官報に公示、同年3月18日を期限としてパブコメを募集した。
同ルールは、輸入者に対し10項目のImporter
Security Filing(ISF)を、また、船社に対しVessel
Stow Plan(VSP)とContainer Status
Message(CSM)の2項目の情報提出を求めるものである(対象はコンテナ/ブレークバルク貨物)。また、FROB貨物など米国に輸入者が存在しない場合は、船社が輸入者に代わり5項目のISFを提出することを義務付けている。(08年1月2日官報に公示された「10+2」ルール案の概要は【資料3-6-1-1】)
上記パブリックコメントについて、WSCは、幾つかの技術的な問題を解決する必要があるとしつつも、同ルール案への支持を表明、また、ICSは、WSCコメントを支持するとともに、船社のISF提出、ならびにブレークバルクについては、本ルールの適用除外とするよう求めるコメントを提出。当協会は、国際幹事会で協議の上、ブレークバルク貨物の適用除外を求めることとし、ICSコメントを通じて意見反映を図った。
今後CBPは、最終規則を策定し、一定の猶予期間を設けて同規則の実施に移す見通しであることから、当協会は、内外の関係者と連携しつつ引き続きその動きを注視していくこととしている。
3・6・2 EU
米国の貨物保安対策強化の動きを受け、欧州委員会(担当−税制・関税同盟総局:DG TAXUD)は2004年に米国と同対策に関する税関協力協定を締結する一方、EUにおける対策を強化すべくEU関税法に係る欧州理事会規則の改訂を提案した。その後改訂理事会規則(648/2005規則)は2005年4月に成立、全輸送モードを対象に、米国の24時間規則*に類するEU発/向け貨物情報の事前申告制度や、EU版C-TPAT**ともいえるAEO(Authorised Economic Operator)制度が導入されることとなった。
貨物情報事前申告制度やAEO制度の詳細は、648/2005規則に係る施行規則を改訂して定めることとされていたため、DG TAXUDおよびEU加盟国税関当局で組織するCustoms Code Committee(欧州関税法委員会)で検討が進められた結果、2006年10月に改訂施行規則(1875/2006規則)が採択された。
1875/2006規則は同年12月26日に発効したものの、実施期間は施策毎に異なっており、AEO制度は2008年1月からの実施、EU発/向け貨物に関する貨物情報事前提出制度は2009年7月から実施されることとなっている。
同規則では、船社等の関係者が対応する上で不明瞭な部分があるため、DG
TAXUDと関係業界との間でそれを解決するための会合が実施されている他、AEO制度についてはガイドラインが2007年6月に作成された。
1.AEO制度
米国のC-TPAT同様、AEO制度への参加はあくまで貿易業者の自由意志によるものとされており、参加が義務付けられている訳ではない。本制度では、EU貿易に関わる製造者・輸出者・フォーワーダー・倉庫管理者・通関業者・運送人・輸入者を対象に、以下3種類のAEO証書を設けている。
@税関手続における簡素化利益が与えられるAEO証書
A貨物の保安・安全に係る税関管理上の利益を与えられるAEO証書
B@およびA両方の利益が与えられるAEO証書
同証書取得を求める貿易業者は、所定のフォームに電子化した必要情報を添えて自らの業務拠点を管轄するEU加盟国税関当局に提出するよう求められる。
申請を受けた税関当局は、他加盟国税関とも連携の上、以下をはじめとする観点から申請情報を審査し、AEO証書付与の是非を決定する。
@税関要件のコンプライアンス実績
- AEO申請前の3年間にわたって、深刻な税関関連規則等の違反がないか 等
A取引管理等の社内管理体制
- 税関が監査を円滑に実施できるような会計システムを有しているか/適切な内部管理機構を有しているか 等
B財務健全性
- 過去3年間にわたって財務内容が健全だと証明できるか
等
C保安・安全基準の適切性
- 貨物関連施設に対するアクセス管理措置が実施されているか/輸出入に関わる社内手続きが整備されているか/従業員に対して定期的な素行調査を実施しているか/従業員に対する保安・安全訓練を実施しているか 等
(2) 現状と問題点
EU加盟国のいずれかで付与されたAEO証書は全加盟国で有効であるが、証書発給国が取得者に与える“利益”も他加盟国で等しく与えられることを保証している訳ではない。
AEO証書には特に有効期限はないが、AEO基準を満たさなくなったと当局に判断された業者については、証書が無効とされる場合がある。また、同証書取得業者の一覧は欧州委員会のウェブサイトを通じて一般に公開されることとなっている。
2008年1月の制度実施を前に、英国税関当局は2007年7月から申請の受付を開始しており、他加盟国税関でも受付が始まっている。しかしながら、申請手続きや審査基準には不明瞭・不完全な部分も多く、加盟国により制度の運用が異なる危険性もあることから、DG TAXUDは関係業界とも協議しつつ2007年6月にAEO制度全般に関するガイドライン***を、また、AEO証書取得を希望する企業を支援すべく、同年12月にはAEO制度の理解および申請のためのEラーニング・ツール****を作成した。
本件については海運分野を含む関係業界から、AEOガイドライン検討の段階になるまでDG TAXUDから業界に公式な意見照会がなかったことや、AEO証書取得のために必要となる投資や負担に比べ、証書取得による“利益”の内容が漠然としたものであることに対して不満が示された。また、前述の通りAEO証書発給国により付与される利益が必ずしも他のEU加盟国でも得られるというものではないことに対しても疑問が呈されている。
* 24 hours Vessel Manifest Rule:いわゆる24時間規則
船社もしくはフォーワーダーに対し、米国向けコンテナ貨物の船積み24時間前に同国税関に貨物情報を提出することを義務付ける制度。2003年2月開始。
** Customs-Trade Partnership Against Terrorism:C-TPAT
米国税関・国境警備局(Customs and
Border Protection:CBP)のサプライチェーン・セキュリティ基準を満たす貿易業者に税関手続き・貨物検査場の優遇措置を与えるプログラム。2002年から実施。参加はあくまで任意。
***AEOガイドラインは、以下Webより入手可能。(2008.6現在)
http://ec.europa.eu/taxation_customs/customs/policy_issues/customs_security/index_en.htm#auth_eco
****AEO制度のEラーニング・ツールは、以下Webより入手可能。(2008.6現在)
http://ec.europa.eu/taxation_customs/customs/cooperation_programmes/key_policies/elearning/article_4540_en.htm
2.貨物情報事前提出制度
(1) 制度の概要
a) EU向け貨物
EUの税関領域に持ち込まれる全ての貨物(含 トランジット貨物)に対し、29項目から成るEntry Summary Declaration(ESD:【資料3-6-2-1】)によって貨物情報を提出するよう義務付けている。ESDは電子データで提出することが求められており、また、その提出期限については、遠洋コンテナ貨物は船積み24時間前、バルク・ブレイクバルク貨物は入港4時間前、近隣の非EU国発貨物はコンテナ・バルク貨物ともに入港2時間前としている。(EUとの協定により貨物保安検査について特別な取り決めを行っている国から輸入される貨物に対しては、同情報提出期限は適用されない)
「情報提出責任を誰が負うのか」という基本的な点については、規則では明確に言及されていないものの、規則発表後のDG TAXUD‐関係業界の協議において、“ESD提出に係る最終責任は原則として運送人(船社)にある”との見解がDG TAXUDから示されている。
その他ESD提出に係る規程・関連情報は以下の通り。
i) フォーワーダー等、船社以外の貨物関係者についても、運送人(船社)の同意があればESD情報を提出することは可能。運送人以外がESDを提出する場合、運送人は(第三者により)情報提出が行われることを確保する必要があるが、ESDの内容と正確性については実際の提出者に責任がある。
ii) vessel sharing/slot charterや複合貨物輸送等により、実際に貨物をEU域内に持ち込む運送人以外が輸送契約の責任を有する場合は、ESD提出責任は契約責任者にある。
iii) ii)に基づき実際の運送人以外がESDを提出する場合、運送人はESD提出と同じタイミングでESD提出者の身元情報等4項目のPre-Arrival Notification(PAN)を提出することが義務付けられる。
ESDを受領した税関当局は、遠洋コンテナ貨物については船積みを差し止めるべきものがあった場合、同受領から24時間以内にESD提出者と実際の貨物運送人に連絡するよう定められている。
b) EU発貨物
EUの税関領域から持ち出される貨物に対し、(近隣諸国向け以外の)コンテナ貨物は船積み24時間前、バルク・ブレイクバルク貨物は出港4時間前、近隣諸国向け貨物は出港2時間前までに、電子データにより通関申告を行うよう義務付けている。(EUとの協定により貨物保安検査について特別な取り決めを行っている国に輸出される貨物に対しては、同情報提出期限は適用されない)
申告を受けた税関当局は、当該貨物が輸出されるまでにリスク分析を行うこととされている。
(2) 現状と問題点
貨物情報事前提出制度については、前述の通りそもそも施行規則上で「誰が情報提出責任を有するのか」が明確にされていなかったため、同規則発表後に開催されたDG TAXUD−関係業界の協議で業界側からその点について確認を求めた。また、海運業界からは以下の点等につきDG TAXUDに問題提起されている。
・コンテナ貨物の船積み可否に関する税関の通知情報は、EU加盟国税関全てが同じ様式で行い、また、同情報を加盟国間で共有できる仕組みを構築すべき。
・ESDを輸送船社以外が提出する場合、同船社にはPANの提出が求められるが、PAN提出は本当に必要なのか、必要な場合でもB/L番号程度の情報に止めるべき。
・荒天の場合だけでなく、港湾混雑に起因する寄港先変更にも配慮すべき。
・税関による貨物の危険性分析については、EU加盟国共通の分析基準を設けるべき。
DG-TAXUD‐関係業界の会合が、2007年同制度の問題点を解決すべく、欧州委(税制・関税同盟総局:DG TAXUD)は加盟国・関係業界とのWorkshop(WS)を07年4月、7月、9月、12月および2008年1月に開催、その後も検討を継続している。
3・6・3 日本
わが国においては2007年10月までに、輸出入者および倉庫業者を対象としたAEO制度が整備・運用されていたが、財務省は、国際物流のセキュリティ確保と更なる円滑化を図る観点からAEO制度の拡充を図ることとし、2007年6月に同省内に設置された「AEO推進官民協議会」等で関係省・業界との協議を進め、その結果、2007年12月の関税・外国為替等審議会答申において、通関業者および国際運送事業者(船会社、航空会社、フォワーダー等)を対象とすべく、AEO制度の見直しを行うことが盛り込まれた。
これを受け財務省は、国交省と協力しつつ、平成20年度関税法改正において、国際運送事業者を対象に保税運送手続を簡素化する新たなAEO制度(=特定保税運送制度)を創設、2008年4月1日より運用を開始した。国際運送事業者のAEO承認については、既存の輸出入者を対象としたAEO制度に倣い、@過去一定機関に法令違反歴がないこと、A適正かつ確実に業務を遂行できること、B「法令遵守規則」の整備と実施、をその要件としている。(AEO制度に関する国交省発表資料は【資料3-6-3-1】)
上記法令遵守規則モデルについては、平成19年度「安全かつ効率的な国際物流施策推進協議会」(以下「協議会」)の下に設置された「国際運送事業者を対象としたAEO制度における法令遵守規則モデル案検討WG」において平成20年2〜3月にかけて検討が進められ、平成20年3月末の第3回推進協議会で承認された。(同モデル案は【資料3-6-3-2】)
財務・国交両省は、国際運送事業者を対象としたAEO制度の周知を図るため、2008年4月上旬より随時、各地方ブロック主要都市、ならびに関係団体毎に事業者向けの説明会を開催することとしている。
6・3・4 その他
(1)メキシコの24時間前事前申告ルール
メキシコ政府は2007年4月27日付で貿易細則(2007年貿易に関する一般規則)を官報で公示した。その中で、コンテナでメキシコに船舶輸送される貨物について、輸出国(日本など)で船積みする24時間前までに、同貨物の情報をメキシコ税関当局に申告する制度の導入を規定した。
同規則案では、コンテナ貨物については、船積み24時間前、コンテナでないバラ積み貨物は同ルールの対象外だが、鉄鋼製品を含むブレイクバルク貨物についてはバラ積みの定義に入るか否かが不明確で、もし同ルールが適用されると、鉄鋼製品の納入が遅れ、日本の鉄鋼メーカー、ならびに自動車をはじめとした進出日系メーカーなどに悪影響が及ぶことが懸念された。そのため、日本商工会議所は、メキシコ政府に対し、鉄鋼製品の同ルール適用除外を要望、当協会も在日メキシコ大使館に働きかけを行うなどしてこれを側面支援した。これに対し、メキシコ政府は、貿易に関する一般規則を一部改正することで、コンテナで輸送されない限り鉄鋼製品を一様に24時間ルールの対象外とするよう(現行通り同国到着24時間前の申告でよい)規則を改定することを決定、2007年10月末、その旨を全国各税関に文書で通達した。同改正は、同年11月末に官報に公示され、2008年1月1日より施行されることとなった。
6・3・4 国際機関における検討
(1)世界税関機構(WCO)における検討
WCO(171カ国・地域で構成。2007年9月現在)では、2005年6月の総会において、貨物保安問題に関する国際的な枠組み(『国際貿易の安全確保及び円滑化のためのWCO「基準の枠組み」』)を採択した。
同枠組みは、認定された経済事業者(Authorized Economic Operator:AEO)の概念を組み込んでおり、AEOの要件や付与できる便益等について解説した「AEOガイドライン」が2006年6月の総会において採択され、2007年6月の総会では、同枠組みに同ガイドラインの内容を包含する改正が行われた。(「基準の枠組み」の概要は以下のとおり)
≪「基準の枠組み」の概要≫
1.主要な要素
・電子媒体による事前貨物情報の国際標準化
・国際的に整合のとれたハイリスク貨物の選定
・輸出国による非破壊検知機器(大型X線検査装置等)を使用した貨物検査の実施
・一定の基準を満たす民間企業に対する優遇措置の明確化
2.国際貿易の安全確保及び円滑化のためのWCO基準
上記要素に基づき、@「税関相互の協力」、A「税関と民間とのパートナーシップ」を進める具体的な基準を列記(リスクに応じた貨物検査システムの採用、ハイリスク貨物に関する税関間の情報交換等)。
3.実施
各加盟国における法的枠組みや税関の業務処理能力に応じ段階的に実施。
4.キャパシティ・ビルディング
「基準の枠組み」実施のための能力向上が必要な途上国に対し、技術協力等を実施。