4 法務保険

 

41 国際条約関連

411 海難残骸物の除去に関するナイロビ国際条約

 本条約は、航行または海洋環境に危険を及ぼす海難残骸物の除去およびその費用負担を確実にすることを目的としたもので、海難残骸物の除去に係る船主の義務および金銭的保証の義務付け、沿岸国による除去の権利などを目的としている。

 

1IMO92回法律委員会

20061016日から20日にかけて、パリのUNESCO本部でIMO92回法律委員会では、20075月に予定される条約採択の外交会議を前にドラフトの最終案文化に向け、以下主要点を中心に審議が行われた。

(1) 条約の適用範囲

本条約ドラフトでは排他的経済水域(EEZ)を適用範囲としつつも強制保険/金銭的保証の規定(船主の強制保険および保険者への直接請求)については領海にも適用できる(Opt-in条項)としていたことから、デンマーク等より保険条項だけのOpt-inでは条約の統一性および透明性を欠くとして、全締約国の適用範囲を領海に拡大する、また

は、各締約国が領海への適用するか否かを選択する、とした提案がなされたが、オランダ等は現行ドラフトで問題はなくこれを維持すべきとして見解が分かれた。

また、ICSからは海難残骸物への責任に関しEEZと領海で異なる手続きを生じぬよう調和したルールとすべきこと、更に国際P&Iグループ(IG)からは、グループが証書を発行するのは国際ルールに基づくものに限られるとして、各締約国が領海において異なる法体系を取れば証書を発行することは出来ないとの発言があった。

本件については非公式作業部会で検討が行われた結果、デンマーク等よりOpt-inする規定を限定して解決を図るとした案が、一方でオランダ・アルゼンチンから現行規定を微修正(実質的には現行と同じ)した案が委員会に提出されたが議論は割れたままで纏まらず、ドラフトでは両論併記としたまま外交会議まで結論を持ち越すこととなった。

(2) テロ被害に対する責任

テロ行為による海難残骸物の発生に係る船主責任の問題について、オランダ提案では船主やP&Iクラブが付保する戦争保険で十分カバーできると結論付けドラフトの変更(テロ免責等)は必要ないとしていた。これに対してIGおよびICSは、戦争保険は除去費用のみに充てられるものではないこと、7日前通知により一方的に解除が可能なためドラフトの規定(3カ月の期間を経過する前に効力を失う可能性がある場合は条約の要件を満たすことにはならない)に反すること、多数の保険者が異なるレベルのカバーを提供しており条約が要求する証書を発行することは困難であること、アテネ条約のように新たに証書を発行する機関が必要であることなど諸問題が見落とされていると反論した。更に本条約案において請求者になるのは国であり、利用者(船客)保護を主目的としていたアテネ条約のケースが必ずしも当てはまるとは限らないとしてテロリズムを戦争と同様(適用除外)に扱うよう主張した。

アテネ条約とは異なる解決を図るとした見解には、ギリシャ、ブラジル、デンマークなど複数の国より支持を得たが、一方で米国等は現行ドラフトの変更は不要との立場を取るなど結論がでなかった。

(3) 紛争の解決

現行ドラフトでは締約国間で条約の解釈または適用に関し紛争が生じた場合には当事者間の合意した平和的手段で解決すると規定されているが、イタリア等よりこうした手段での解決が図られない際は国連海洋法条約(UNCLOS)の紛争解決手段を準用するか、国際海洋法裁判所(ITLOS)に提起できるとの提案があり、審議の結果、ドラフトの規定が変更された。

(4) 船舶の適用基準

本条約に基づき強制保険の対象となる船舶の適用基準は総トンで規定することを決定した。また、総トン数については外交会議で300G/T以上または500G/T以上の何れかで結論を出すこととなった。

 

2海難残骸物除去条約に関する国際条約を採択するための外交会議

 海難残骸物除去条約に関する国際条約を採択するための外交会議が2007514日から18日にかけてナイロビの国連事務所で開催された。外交会議は、これまでIMO法律委員会で検討されてきた条約案を最終化・採択するもので、日本をはじめ64カ国が参加した。

 最大の争点であった条約の適用範囲の問題については、締約国の任意でEEZに加え領域(領海を含む)にある海難残骸物にまで拡大することを可能にする(voluntaryベースのopt-in条項)規定の導入が大勢の支持を得て合意された。なお、領域への適用により締約国の管轄権が制約されることへの懸念を払拭するためいくつかの規定はopt-inからは除外された。

 また、登録船主は条約の規定に基づき海難残骸物の位置決定、標示及び除去の費用について厳格責任を負うとされているが、IG及びICSより、CLC条約をはじめとする他の責任条約に倣い、「(当該責任に関する)費用の請求は、この規定に基づく場合を除くほか、登録船主に対して行うことが出来ない」との一節を導入すべきとの提案があり、大方の支持を得るとともに、領域の海難残骸物に対しては本条約以外の手段による国内措置が認められることが明確にされた。

 これら決定事項を含めたFinal Act(最終文書)が採択され、開催地に因み条約の名称を「2007年の海難残骸物除去に関するナイロビ国際条約」とする決議が承認された。

 

 本条約の主な内容は以下の通り。

(1) 定義と目的

 条約の適用水域は締約国のEEZ(締約国がEEZを設定していない場合は同等の水域)だが、締約国がIMOへ通知することにより領域を含めることが出来る。

 締約国は、航行および環境に危険を及ぼす海難残骸物の除去に関して適切な措置を取ることが出来るが、その手段は当該危険に見合ったものでなければならず、合理的に必要とされる範囲を超えてはならない。

(2) 適用範囲と適用除外

 上記の通り締約国は条約の適用を領域に拡大できるが、それにより当該国が領域にある海難残骸物に対して条約以外の手段(国内措置)を取る権利を侵害するものではない。但し、そのような手段については条約上の厳格責任および強制保険は適用されない。

(3) 海難残骸物の報告

 締約国の船舶の海難事故により海難残骸物が生じた場合、船長または運航者は影響を受ける国(沿岸国)へ報告することが求められる。

(4) 海難残骸物の除去を容易にする手段

 沿岸国は、海難残骸物により危険が生じていると決定した時、直ちに旗国および登録船主に通知し、かつ措置について登録国および同様に影響を受けている他の国と協議する。登録船主は、危険を生じさせていると決定された海難残骸物を除去しなければならず、海難残骸物を除去するため救助業者との契約を締結することができる。除去の前に沿岸国は条件を規定できるが、安全かつ海洋環境に支障のない方法で行われることを限度し、またその限度において除去への介入ができる。沿岸国は除去の期限を設定し、登録船主に通知しなければならない。また、期限までに除去が行われなければ、沿岸国が登録船主の負担で除去ができる。即時の行動が必要な場合で、その旨旗国および登録船主に伝えた場合は、沿岸国は最も実践的で迅速な手段により除去を行うことができる。

(5) 船主の責任および責任の例外

 登録船主は、CLC条約、HNS条約(未発効)およびバンカー条約(未発効)等が適用される場合を除き、本条約の規定に基づき海難残骸物の位置決定、標示および除去の費用について厳格責任を負うが、IMOの他の責任条約と同様に不可抗力に準ずるような場合にのみ免責が認められる。

 また、既存の責任の制限に関する国際条約または国内法に基づき、登録船主が責任を制限できる権利に影響を与えるものではない。

(6) 強制保険と直接請求

 強制保険の対象となるのは締約国の300G/T以上の船舶で、1996LLMC条約の責任限度額までの金銭的保証を維持しなければならない。締約国の当局が発行する証明書の保持と関連費用に対する保険者への直接請求の規定が導入されており、直接請求は、領域への適用をopt-inした締約国が条約に基づかない措置を行った場合には認められない。

(7) 条約の発効要件

条約の発効要件は10カ国が批准した後、12カ月後となり、トン数要件は含まれない。

 

 

412 HNS条約の改正

HNS条約は、危険物質及び有害物質の海上輸送に関する損害についての責任と補償を規定したもので、CLC条約とFC条約がタンカーによる汚染損害をカバーしているのに対し、HNS条約はHNS貨物を運ぶ船舶による汚染損害に加えて火災・爆発等もカバーしている。同条約は1996年にIMOで採択された後、条約批准促進に向け様々な取組みがなされてきたが未だ発効には至っていない。欧州各国を中心に批准に向けた検討が進められているが、条約を現実に機能させる為には、解決しておくべき実務的な問題点が多数あり、その解決の目処が立たない限り批准に進めないとの考えも強い。

 

1.国際油濁補償基金第12回総会およびIMO93回法律委員会

20071015日から19日にかけてロンドンで開催された国際油濁補償基金(IOPC基金)第12回総会、および20071022日から26日にかけてパナマシティで開催されたIMO93回法律委員会において、HNS条約の見直しについて概要以下の議論が行われた。

(1) IOPC基金総会での議論

IMO法律委員会の前週にロンドンで開催されたIOPC基金総会において、各国が条約批准に進む妨げとなっている次の三つの問題点について検討を行う「HNSフォーカス・グループ」をIOPC基金総会の下に設置することが決定された。

 @ LNG会計への拠出の確保

A 受取人の定義

B 批准国による拠出貨物の未報告解消の実現

フォーカス・グループでは、大々的な条約改正は行わないとした上で、上記問題への法的拘束力を持つ解決策を打ち出すための議定書案作成が合意され、今後は20083月および6月のIOPC基金総会時で議定書案を検討した上で、同年10月のIMO法律委員会での承認を得て、その後速やかに外交会議を開催するタイムテーブルが示された。

(2) IMO法律委員会での議論

IOPC基金総会での議論を経て開催された翌週の法律委員会では、前週に結論は出ているものの議論が繰り返されることとなった。

議場ではHNS条約の早期発効の必要性については異論が出されなかったものの、条約の問題点をIMOではなくIOPC基金総会で検討すること、およびフォーカス・グループでの議論が、議定書という形で現行条約の改定にまで踏み込みかねないことについては参加国(欧州各国のなかでも)の間で見解が分かれた。

 フォーカス・グループでの突っ込んだ議論を支持する国と、議論を限定すべきと考える国の間で意見の応酬はあったが、いずれにせよ、フォーカス・グループで議論をし、議定書案の提示を含む結論を次回のIMO法律委員会に上程するとのIOPC基金での業務の取り進め方を、IMOとして了知した格好となった。

上記の慎重な国の立場から、IOPC基金総会で決議されたフォーカス・グループ運営に対する Terms of Reference には、1.1に「責任分担の体制に基づくこと」、1.3に「検討の対象は3つの問題点に限定され、条約の大々的な改訂には踏み込まないこと」、1.5 に「既批准国や批准に近い段階にある国の利害へ配慮すること」について規定が設けられている。これらの点については、IMO法律委員会でも再確認された。

本件に関しICSは、現行の枠組での解決が望ましいとしながらも、フォーカス・グループでの検討参加を表明した上で、検討にあたっては、地域的なものではなく国際的な解決策であること、および船主と貨物受取人との責任分担の原則を歪めるべきではないことを強調した。

 

2.第1HNSフォーカス・グループ

2008311日から14日にかけてモナコのSporting Complex Monacoで開催された1992年国際油濁補償基金第40回理事会にあわせ、第1HNSフォーカス・グループが開催された。

 今回の初会合では、夫々の問題点について提出されたPolicy Proposalsおよびそれらを集約・修正した議長提案文書に基づき審議が進められた。

 

(1) 受取人の定義

 船主にとって最も影響のある「受取人の定義」について、ノルウェー等の9カ国は、梱包貨物(Packaged Goods)の最終的な受取人の把握が困難な問題を解決するため次の改正を提案した。

 @ 梱包貨物はHNS基金への拠出貨物から除外する。これにより受取量の報告と基金への拠出が不要となる。

  A 一方で、梱包貨物に関わる事故への補償は引き続きHNS基金より行うため、その部分はバルク貨物関係者が基金へ拠出する。

 B バルク貨物受取人の基金への追加負担分を減じるために、梱包貨物の船主責任限度額を引き上げる。(具体的な引き上げ額は提案していない)

 また、IGからは過去5年間のHNS条約対象事故に関する統計データが提出された。それによるとHNS貨物に係る事故件数126件中、船主責任制限額を超えるものは2件で、また総額では13,700SDR中、船主が12,000SDRHNS基金が170SDRであり、殆どが現行HNS条約における船主責任限度額の範囲内で収まっているとの報告があった。

 

 上記提案について、ICSはデータを引き合いに船主責任限度額を引き上げる必要性は生じていないとしながらも、政治的な妥協案として穏当な引き上げであることを条件に提案を支持した。また、日本は提案のコンセプトへの支持を表明した上で、船主責任の問題については今後慎重な検討が必要とした。結局、本提案は多数の国が支持するところとなったが、船主責任制限の引上げ額についてはフォーカス・グループでは審議はせず最終的には改正提案の議定書を審議する外交会議で決定することとした。

(2) LNG会計への年次拠出

 LNG会計は荷揚げ直前の権原者(Title Holder)が基金への拠出者であるが、拠出者が条約の非締約国にいる場合に拠出金を確保できない可能性があるとした問題について、カナダ等の8カ国は、他の会計と同様にLNG会計の基金への拠出者を権原者から受取人に変更することを提案した。

 同提案については、日本をはじめイタリア、フランス、スペイン及び韓国等のLNG輸入国からは、批准をより困難にするものとして強い反対があったものの、多くの国は問題への現実的な解決策であるとして改正案を支持した。

 なお、議長は大勢が提案を支持したと評する一方で、反対意見があったことへも留意し、多くの国が批准できるような解決策の必要性を唱えた。

(3) 拠出貨物の未報告

 英国等の9カ国は、条約を批准しても拠出貨物を未報告の国にはHNS基金の補償を行わないことを提案した。

 条約は補償を受ける権利と義務を併せ持つもので、報告義務を履行せずに補償を受けること公正さを欠くとして、本提案が大勢の支持を得た。

 

 

413 IMO法律委員会における条約案等の検討

IMO法律委員会では、海事法務に関する条約の策定および改正等について審議が行われている。最近の同委員会における主要議題としては、海難残骸物除去条約(前述)、HNS条約(前述)、2002年アテネ条約改定議定書のフォローアップ、船員の公平な取扱いのガイドラインなどがあげられる。

前述を除く主要議題の結果は以下のとおり。

 

1IMO92回法律委員会の模様

IMO92回法律委員会が20061016日から20日までの間、パリのUNESCO本部で開催された。

 

(1) 2002年アテネ条約改定議定書

1974年アテネ条約を改定する2002年議定書は未だ発効に至っていないが、その原因とされる改定議定書が定める金銭的保障の実効性(テロ問題および保険総額の問題)について、これまで法律委員会での議論とともにノルウェーのRøsæg教授を中心に非公式な協議が行われてきた。

@テロ問題

20064月の第91回法律委員会において、ロンドンの保険ブローカーより戦争危険(テロ危険)について5USドルの限度額を設けた上で条約が要求する証書の発行を引き受け可能とするスキームが紹介されたが、事前の検討時間が無かったこと及びスキームの詳細が不明だったこともあり継続審議となっていた。

今次会合では“テロ問題”に関する現実的かつ実行可能な解決策として、英国よりテロ関係の責任については“船客1人あたり25SDR”または、“1船あたり34,000SDR(=5USドル)として、テロ損害の請求に関しては責任限度額と強制保険額を同一にした提案()の説明があり、共同提案者であるICCL(国際旅客船評議会)ICSをはじめ業界も妥協的解決策としてこれを支持、更に各国からも支持が表明されたことから同提案が了承された。

A保険総額の問題

議定書が規定する高額な強制保険と責任限度額に対し保険引受けが困難であるとの問題についてこれまでIGで検討が行われてきたが、今般IGより乗客3,600名以下の客船に対して保険カバーを提供するとの表明があった。但し、全てのクラブが対応するものではないこと、更にはテロ問題がP&Iクラブおよび船主にとって納得のいく解決が図れた場合に限ることが付け加えられた。

テロ問題についてはIGも上記提案を原則支持しており、これに伴い保険総額の問題についても進展が図られるものと見られる。

 

(2) 船員の公平な取り扱い(Fair Treatment of Seafares

近年海難事故に伴い、船長/船員が沿岸国に長期間に渡り勾留されるケースが起きていたことに端を発し、「船員の公平な取り扱い」に関するガイドラインが20064月の第91回法律委員会および同年6月のILO理事会で採択されている。

当該ガイドラインは寄港国/沿岸国に対し、捜査の公正化と迅速化、不当な拘留の防止、関係者との連絡手段の確保、人件の保護、給料や生活の保証、差別的待遇の防止などが示されているほか、旗国、船員国、船主、船員の夫々に対して、海難事故発生時に船員が公正な取扱いを受けられることを確保することを推奨している。

今次会合では米国等が改正を提案した、賃金の支払い、非商用船への非適用、海難事故の定義、黙秘権の行使等について法律委員会の下に設置されたアドホックWGを中心に検討が行われたが、ガイドラインは作成されて間もないため改正を検討するには今しばらく様子を見る必要があるとする意見も多く、改正の必要性についてコンセンサスを得るにはいたらなかった。

また、IMO/ILOの合同アドホック専門家WGを復活させて、ガイドラインの履行状況と改正が必要となりうる分野をモニターする提案もだされたが、WGの委託事項を検討するのに十分な時間もなかったため結論はでなかった。

しかしながら、米国より引き続き本件を法律委員会で審議すべきとの提案もあったことから次回法律委員会の議題として残すこととなった。

 

 

2IMO93回法律委員会の模様

IMO93回法律委員会が20071022日から26日にかけてパナマシティで開催された。

 

(1) 海上犯罪行為(Maritime Criminal Acts

本件は、TAJIMA号事件を受け、日本から外国籍船での犯罪事件の被疑者を速やかに引き渡す方策の必要性を訴えたことに端を発するもので、200410月の第89回法律委員会において、CMI(万国海法会)が“海上犯罪行為からの船員および船客を保護する”の解決策としてモデル国内法案をIMOに呈示することとされていた。

今次会合でようやくCMIよりモデル国内法のガイドライン案が提出されたほか、更にインドからは本件を国際条約として規定するべしとして、条約案が提出された。両提案文書は異なる性質を有するものであるがこれらが一括して議論された。

議論の過程で一部の国が逐条ごとに意見を開陳するケースもあったが、全体としては今後の委員会の正式議題として検討していくことが相応しいか否かということを焦点が絞られた。

議論は、既存の法体制では現実の海上犯罪との間でギャップが存在しており、法律委員会の議題として更なる検討を求める立場と、UNCLOSSUA条約など既存の国際条約及び国内法で解決可能であり新たな法手段は不要との立場、また刑事管轄権に係る各国の主権との関係を問題視する意見、必要性を裏付けるだけの海上犯罪の統計データの不在が指摘されるなど、賛否が分かれることとなった。

最終的には現段階では次回以降の法律委員会での正式な議題に格上げして議論を継続するまでには至らず、引き続き“その他”の議題として取り上げることを認める扱いとし、関心国やCMIへ更なる検討を促すに留まった。

 

(2) 船員の公平な取り扱い(Fair Treatment of Seafarers

 「船員の公平な取り扱い」に関するガイドラインは、寄港国/沿岸国に対し、捜査の公正化と迅速化、不当な拘留の防止、関係者との連絡手段の確保、人権の保護、給料や生活の保証、差別的待遇の防止などが示されているほか、旗国、船員国、船主、船員の夫々に対して、海難事故発生時に船員が公正な取扱いを受けられることを確保することを推奨している。

今次会合では、「船員の公平な取り扱い」の重要性、および、ガイドラインの改正を検討するにあたっては現行ガイドラインで十分な経験を経てからとするのが適当であることを再確認した。これに伴い、ガイドラインの履行状況を監視するため、IMO/ILO合同作業部会を開催することが合意され、IMOおよびILO事務局へ準備を要請した。

 

(3) IMO民事責任条約における戦争/テロリスクカバー

 テロリスク等保険マーケットが除外している各種リスクは、アテネ条約議定書で留保およびガイドラインに基づく解決策が図られた以外は、これまで正式に委員会の議題にされたことはなかった。

 本件についてICSIGは、他の未発効条約においても問題解決を図ることが必要とし、特にバンカー条約の発効が現実味を帯びていることから早急にコレスポンデンス・グループで検討することを提案した。

 同提案に対しては、英国、デンマーク等から深刻な問題であり検討の必要があるとの支持を得た(=アテネ条約の例は同条約の独自の解決策であり他に流用することはできない)が、一方で、問題点は認識するがCLC で規定するテロリスクへの保険カバーは確保されており、その他の条約の同種リスクへのカバーもまず保険マーケットであたってみるべきもので、今回の法律委員会での議題である「様々な条約で規定するリスクに対する保険付保を包括的に証明する単一モデル文書の策定」とは関係のない案件として検討には慎重な意見もだされた。

 これら議論を受け、今次会合には文書での提案がなされていないこともあり、コレスポンデンス・グループの設置は見送られた。但し、様々なIMO民事責任条約で要求しているテロリスクをカバーする保険をマーケットで手当てするのに、IG及び船主側では依然として問題を抱えており、期近で言えばバンカー条約が発効しても保険が確保できない可能性がある点について、参加者に対して明確な説明がなされた。

 

(4) 船員の死傷及び遺棄の問題

 “船員の死傷および遺棄に関する責任および補償に関するIMO/ILO合同専門会作業部会” は20059月以降開催されていなかったが、2008年の第一四半期にジュネーヴで開催されることとなり、各国政府、ICSおよびITFもこれを支持した。

 委員会は、引き続き本件を法律委員会の議題として維持することで合意した。

 

 

414 国際油濁補償問題

国際油濁補償は、タンカーからの油流出等で油濁損害が発生した場合に、船主による民事責任条約(CLC)および油の受取人による国際基金条約(FC)により被害者への賠償・補償を行う制度である。20053月には両条約の責任を超える損害に対する補償を行う追加基金(Supplementary Fund)が発効したほか、20062月にはIGによる自主協定である小型タンカー補償協定(STOPIA)およびタンカー油濁補償協定(TOPIA)がスタートした。

国際油濁補償基金会合は、基金の拠出が伴う損害に関するクレイム処理業務を中心に審議しているが、200510月には、「油の海上輸送のクオリティシッピングを促進するための技術的でない手法に関する作業部会」(第4作業部会)が設置され、技術的側面ではなく経済的側面からクオリティシッピング促進について検討が行われている。

4作業部会における審議概要は以下の通り。

 

1.第2回第4作業部会の模様

2007314日から16日の間、ロンドンのインマルサット本部で開催された国際油濁補償基金会合に併せ、第2回第4作業部会が開催された。主要議題の審議については以下の通り。

(1) クオリティシッピングに関する情報交換

 ノルウェーより、保険者間での情報共有を可能とする法改正が20077月に施行されると紹介があったほか、同様な対応が可能か調査を行っている国も複数あると報告があった。

 IGより、英国法では情報共有は禁止されていないものの(全てが英国法の下で契約している訳ではない)IGでは慎重に対応 していること、および船主の承諾によって情報が共有できるモデル・ルールの作成を試みたが、一部のクラブで競争法との問題が生じたため進展していないと報告があった。

 本件については議長提案に基づき、締約国は夫々の競争法当局と情報交換を容易にする方法を調査することで合意した。

(2) IGおよびIACS以外の船舶による油濁事故

 1978年から2006年の間で基金が関与した油濁事故は137件で、その内14件がIG 以外の船舶で(全て2,000D/W以下)、8件は無保険であった。また、ITOPFによると 過去35年間の1,313件の油濁事故の内、15件だけがIG以外であった。

 この結果、殆どがIGと考えて差し支えなく、またIGへ保険付保している船舶の殆どがIACSメンバーの船級協会を利用しているため、IACS以外の船舶は殆ど無いと推測出来る。

(3) IGによるクオリティシッピング対策

 IGにより実施されている各種対策について紹介があった。その中の一つであるDouble Retention制度についてはEU及び米国の独禁法には抵触しないと説明があった。

(4) 締約国によるCLC証書発行のプロセス

 英国より自国の発行プロセスについて、IG加盟クラブであればノーチェックだが、それ以外の保険者についてはFinancial Security AuthorityFSA)によるチェックが行われると説明があった。また、ギリシャ、カナダ及びキプロスからも同様の制度があるとの説明があった。

 議長より、IG以外の保険者の船舶に対してCLC証書を発行する場合のガイドライン を検討について提案があった。

 

2.第3回第4作業部会の模様

2007612日から15日の間、モントリオールのICAO本部で開催された国際油濁補償基金会合に併せ、第3回第4作業部会が開催された。主要議題の審議については以下の通り。

(1) クオリティシッピングに関する情報交換

 議長より、IGとして取りうるクオリティシッピング対策は講じていることが認識された。また、船体保険者間での情報交換の障害についてCMIへ調査を委任することとなった。

(2) CLC証書発行

 CLC証書発行にあたり、旗国は保険付保のみならず船舶のクオリティをチェックすべきとしたカナダ・フランス提案について議論されたが、大勢の支持を得るところとはならなかった。

 

3. 4回第4作業部会の模様

2008311日から14日の間、モナコのSporting Complex Monacoで開催された国際油濁補償基金会合に併せ、第4 回第4作業部会が開催された。主要議題の審議については以下の通り。

(1) クオリティシッピングに関する情報交換

 CMIより、各国海法会へ対して実施した保険者間の情報共有と各国競争法上の関係に関するアンケート調査結果について報告があったが、回答数が少なく次回WGで再度報告することとした。また、調査結果の詳細な分析をサザンプトン大学の専門家へ委託するとしたCMI提案については、基金事務局から費用面の問題はないとの返答があったものの、各国から十分な支持を得ることができず実施は見送られた。

 

 

415 新国際海上物品運送条約

国際海上物品運送法の分野においては、ヘーグ・ルール、ヘーグ・ヴィスビー・ルール、ハンブルグ・ルールなどが併存するとともに、各国が国内法として国際海上物品運送法を定めるなど、国際的な統一ルールが無かったことから、19966月のUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)第29回総会において、統一的なルールの作成について検討を開始するとともに、本件について専門機関の助力を仰ぐことが決定された。これを受けてCMIが新国際海上物品運送条約の草案作成にあたってきたが、200112月、CMI草案が完成し、UNCITRALに送付された。UNCITRALでは、20024月以降、第3作業部会(Working Group V)で本草案の検討が行われてきたが、20081月をもってWGでの検討を終了した。

これらUNCITRALWG等における審議に対応するため、わが国では、学識経験者、法務省、国土交通省、および船社・フォワーダ−・保険会社等産業界をメンバーとして、日本海法会に設置された運送法小委員会(委員長:谷川久 成蹊大学名誉教授)で検討が行われている。当協会もオブザーバーとして参加するとともに、各会合への対処方針について国交省を通じて船主意見の反映に努めている。

ここでの議論はわが国の対処方針に反映され、藤田友敬 東京大学助教授を中心とする代表団がUNCITRALWG等に出席し対応している。

同作業部会については以下の通りである。

 

1.第18UNCITRAL運送法作業部会

国際海上物品運送法の改訂草案を審議する第18UNCITRAL運送法作業部会が2006116日から1117日の間にウィーンにおいて開催された。

各項目の概要については以下のとおり。

(1) 運送書類(Transport Documents

40(3)−運送人の身元(Identity of Carrier

 ICSは、運送書類で運送人の身元がはっきりしない場合、登録船主を運送人と推定(反証可能)することには反対し、代替案もコンセンサスが得らなかったことから次回以降のWGで再検討となった。

43条−一応の及び終局的証拠(Prima Facie and Conclusive Evidence

 終局的証拠の規則を譲渡性のない運送書類にまで拡大する提案に多くの支持が寄せられたことから、新ドラフトテキストには盛り込まれることとなった。

(2) 遅延への責任(Liability for Delay

 運送人と荷送人の双方が遅延に対する責任を有し、その責任は制限されることで合意された。また、遅延による経済的損失について、荷送人は50USドルを上限に、運送人は運賃の額とする提案が支持を得た。

 (3) 運送人の責任制限(Limitation of Carrier's Liability

 ヘーグ・ヴィスビー・ルールの重量とパッケージの方式が支持を得たが、多くの国が限度額の引き上げが望ましいとした。本件は、次回以降のWGで検討される。

 (4) 訴訟を提起する権利、及び時効(Rights of Suit and Time for Suit

 「訴訟を提起する権利」の章は削除することで合意された。また、「時効」の章について次の事が合意された。

  ・ 運送人と荷送人の双方に適用があること。

  ・ 如何なる請求者に対しても同じ時効の期間を適用すること。

  ・ 時効までの期間は2年間とすること。

  ・ 求償については時効の期間を延長すること。

 (5) 裁判管轄(Jurisdiction

 前回WGでの広範な意見一致にも拘らず、裁判管轄の章はオプションとする提案があった。これは各国が留保又はopt-inにより適用を選択できるとするものであり、必然的にドラフトテキストの変更を要するものとなる。なお、本件については合意には至っていない。

 (6) 仲裁(Arbitration

 前回WGでの合意に基づき、定期船と不定期船トレードの区別を維持したドラフトテキストが提出されたが、定期船についてはハンブルグ・ルールのアプローチが取り入れられていた。ICSは、これまで同様に仲裁の規定を設けることに反対したが、仮にこのまま進められるとしても適用にあたっては裁判管轄と同様なメカニズム(留保又はopt-in)とすることを求めた。

 

2.第19UNCITRAL運送法作業部会

19UNCITRAL運送法作業部会が2007416日から27日の間にニューヨークにおいて開催された。

各項目の概要については以下のとおり。

(1) 運送契約を超える移動(Transport not Covered by the Contract of Carriage

 荷送人が、運送契約に含まれていない特定の運送、および契約運送人が提供しない運送を含む単一の運送書類を要求する場合、その手配は荷送人の代理として運送人により行われる。という主旨のテキストが合意された。(運送人が他の運送を手配することで条約上の義務は生じないことを明確にする規定)

(2) 責任原則(Basis of Liability

 船主の義務として航海中も継続的に堪航状態を保持することが確認された。17条に列記した適用除外はテキスト通りで合意された。

(3) 運送人の代償責任(Liability of the Carrier for Other Persons)および、海上履行当事者の責任(Liability of Maritime Performing Parties

 WGは運送人の義務を履行する者に対するヒマラヤ条項タイプの抗弁を与えることで合意した。また、同様の抗弁が荷送人の義務を履行する者にも適用すべきことも合意した。

(4) 延着(Delay

 荷送人および運送人の延着責任について、荷送人の責任は条約でカバーしないこととなり、運送人については21条の規定の後半を削除することとなった。(荷送人の責任は国内法に委ねることとなり、運送人は合意が無い限り責任はないとされた)

(5) 海上運送の前後の運送(Carriage Preceding or Subsequent to Sea Carriage

 複合運送の非海上運送区間で発生した損害について、本条約の規定は他の運送の規定に優先するものではないが、これがCMR(国際道路運送条約)やCOTIF(国際鉄道輸送条約)のような国際条約に限るのか、国内法にまで広げるのかで議論が分かれ、妥協案として、国内法については当該国が宣言することにより適用が可能とされた。但し、あくまで損害が宣言をした当該国の中で生じたことが要件になる。

(6) 荷送人の運送人に対する責任の根拠(Basis of Shipper's Liability to the Carrier

 運送書類の誤記および危険物に係る義務違反については荷送人が厳格責任を負うがそれ以外は過失責任とすることで合意した。

(7) 運送人の特定(Identity of the Carrier

 契約明細に運送人の詳細が無い場合は、登録船主または裸傭船者を運送人と推定するとの規定が維持された。

 

3.第20UNCITRAL運送法作業部会

20UNCITRAL運送法作業部会が20071015日から25日の間にウィーンにおいて開催された。

各項目の概要については以下のとおり。

(1) 運送書類及び電子的運送記録(Transport Documents and Electronic Transport

 文言の契約明細の証拠としての効力が、荷受人に譲渡された全ての譲渡性のない運送書類、Sea Waybillにまで拡大する条文案(42条)が合意された。

 (2) 物品の引渡(Delivery of the Goods

 49条(譲渡性のある運送書類又は電子的運送記録が発行されている場合の引渡し)では、B/Lの提示が無いなかで正当な指示に基づき物品を引き渡した場合には、運送人は保護される規定が盛り込まれている。

 また、譲渡性のある運送書類の保持者の責任が加重されている。

 本条文案が合意された。

 (3) 責任制限(Limits of Liability

 複数の主要国から大方のケースでヘーグ・ヴィスビー・ルールは適切なカバーを提供しているとの発言があったが、一方でハンブルグ・ルール国にとっては既存の限度額以下で合意することは政治的に不可能であることも明らかになった。

 但し、これはドラフトの他の規定との兼合い(62226bis、及び99条の削除)が考慮されなければならないとしている。議論の結果、次回WGでハンブルグ・ルールの限度額をベースにコンセンサスの形成に向けて審議することとなった。

(4) 裁判管轄と仲裁(Jurisdiction and Arbitration

 裁判管轄と仲裁の章については、完全にオプション(opt-in)とすることが合意された。

(5) 他の条約(Other Convention

 複合運送における航空と海上の規定が抵触する際の問題を解決するため84条(航空物品運送を規律する国際条約)の規定が合意されていたが、他の輸送モードとの間にも同様の規定を設けることでUNCITRAL事務局がドラフトを作成することとなった。

(6) 最終規定(Final Clauses

 条約の発効要件となる締約国数について、地域主義を回避するため多数国が好ましいとする国と、早期発効のため少数国が好ましいとする国とで意見が分かれ、長い議論の末、5カ国と20カ国が一番広く受け入れられた数字となり、次回WGで結論と出すこととなった。

 

4.第21UNCITRAL運送法作業部会

 第21UNCITRAL運送法作業部会が2008114日から24日の間にウィーンにおいて開催された。

 なお、今次がWGの最終会合であり、運送人の責任制限等の重要な問題を含め全ての条文についてWGとしての結論が出された。

(1) 責任制限(Limits of Liability

 運送人の責任制限は、ハンブルグ・ルールよりも大幅な引き上げを求める荷主国(特にアフリカ諸国)との激しい議論があったが、究極的な妥協として1包もしくは1単位につき875SDR、または1kgにつき3SDRのいずれか高い方の額とすることとなった。

 また、運送人の延着責任は合意された時間内に引き渡されなかった場合に生じることとし、責任制限額の範囲の中でfreightの経済的損失の2.5倍とすることなった。

 なお、責任制限に関する議論との絡みで、622concealed damage(隠れた瑕疵)、27bisの国内輸送の条約体制からのopt out(国内法の適用)、99条の制限額の簡易的改正手続きが削除された。

(2) 数量契約(Volume Contracts

 数量契約は、次の要件を満たす場合に条約とは別の定めが出来ることとなった。

・条約と異なる条件が明示的に定められていること。

・個別に交渉されたものであること。

・運送人に対し、条約に従った条件での契約締結の機会が与えられ、かつそれが通知されていること。

・条約と異なる条件が、当該契約とは別の書面に記載されていないこと、かつ交渉を経ていない約款に含まれていないこと。

(3) 最終規定(Final Clauses

 条約の発効要件は20カ国の批准とされ、トン数要件は設けられなかった。

(4) 今後の予定

 今後、最終草案は20086月、7月のUNCITRAL委員会へ送られ、その後2008年末の国連総会で諮られることになる。