5・3 港湾労働関係

 

531  2007年港湾春闘

1.春闘の争点

例年春闘は中央団交が船内賃金団交より2週間程先行して展開されていたが、今年の春闘は、「制度交渉と船内賃金交渉を一体的に取り組み、両交渉を平行して進めていく」という組合側(全国港湾労働組合協議会:全国港湾、全日本港湾運輸労働組合同盟:港運同盟)の戦術に沿って2月14日に中央団交(制度交渉)と船内賃金団交(賃金交渉)が同時にスタートする異例の展開となった。

 

争点としては、新規参入阻止、産別協定順守、石綿対策が最重要項目としてあげられたが、業側は係争中の労側ОBによる年金訴訟問題により労使間で長年築き上げてきた協定締結の意義に疑問を呈し、労使間での春闘の成果物である協定締結に向けた対応では温度差が生じた。労使間での今春闘の争点は、その出発点から接点を見出せないまま推移した。

 

また、船内賃金交渉では組合側(港湾荷役事業関係労働組合協議会:港荷労協)は最重要課題である賃金の原資確保、即ち、適正作業料金の確保及び港運現業基盤の強化を目指した。

 

2.労使交渉経緯

(制度関係)

2月14日 第1回中央団交

労側より「07年度労働条件改善に関する要求書」が提出されたが、これに際し業側から「港湾年金訴訟問題は、労使協定の存在理由そのものを否定することにつながる」等の不信感が表明され、一時紛糾したが、最終的には215日(木)に行われる本訴訟に関する最高裁でのヒアリング(労側が「労使協定が裁判によって否定された場合、労使関係、中央団交の機能が失われる」との上申書を提出した)の様子を見るとの条件で、回答指定日を3月28日とする以下の要求項目について趣旨説明がおこなわれた。

(1)雇用と就労の安定化対策

(2)産別協定の順守と協定の整理

(3)産別賃金制度の維持と拡充

(4)石綿(アスベスト)対策

(5)港湾労働者の大幅賃金引上げを実施するため、加盟店社を指導すること。

3月14日 第2回中央団交

業側は年金問題を抱えている中で難しい環境にあるとしながらも、労側が提出している要求書に対して逐条毎に回答するも、組合側はこれまでの業側の見解を超えるものではないとして、業側に再考を要求して交渉を打ち切った。

4月4日  第3回中央団交

業側より前回の交渉の回答内容につき説明するも、労側はこれ以上の回答は得られないとして、なお団体交渉の申し入れには応ずる用意があることを付記した争議通告(4月8日(日)08:00〜翌09日(月)08:00(24時間)就労拒否及び荷役阻止行動、抜港船・スト破り行為等に対する上乗せ行動)が出され交渉は決裂。

4月 8日 全港・全職種で08:00〜翌9日08:00までのストライキを実施。

4月10日 全国港湾が4月15日(日)08:00〜17日(火)08:00(48時

              間)の上乗せ争議行動を通告。

4月13日  第4回中央団交

業側より回答の提示後、2度の休憩を挟みアスベスト対策基金の設立などが合意されたことから最終的に妥結に達し、仮協定書及び仮覚書が締結され、労側よりスト指令が解除された。

 

[仮協定書]

1.  新規参入問題について

港湾運営秩序を乱す新規参入については反対する。

新規参入課題については、港運労使及び各地の「安定化協議会」で協議対応を図る。

2.  日本・中国・韓国3国間シャーシ相互乗り入れは原則的に反対する。

今後の状況推移を見極めながら労使協力して対応する。

3.  港頭地区の港運事業労働者の就労は法令順守に基づくものとし、違法な派遣労働

は認めない。

  4.産別協定の順守について

  (1)1972年協定に基づき締結された各港湾産別協定は順守する。

  (2)産別協定順守重点項目として、平成15423日付「協定書」を再確認し実施

を図る。

1.      新しい港湾労働体制について

 (1)364日・24時間フル稼働に対しては、8.7.45を個別各社縦割りの中で順  

    守することを基本とする。

    六大港、船内・船側沿岸以外の週休2日制については、平成12418

    日付「協定書」4.−(2)−(b)、(c)に基づき引き続き協議する。

   5.産別協定の整理について

     労使政策委員会に小委員会を設置し協議する。

   6.検数・検定労働者の標準者賃金及び産別最低賃金については、個別各社賃金交渉

        終了後に「賃金・労働時間問題専門委員会」で協議する。

   7.アスベスト労使対策基金を設立する。資金は1億円とする。

     詳細については、労使政策委員会で引き続き協議する。

     その他アスベスト問題対策については、中央安全専門委員会で引き続き協議する。

 

[仮覚書]

2007年度労使政先委員会について

(1)労使双方合意により小委員会を設けることが出来る。

(2)協議事項について

@産別協定の整理について

Aアスベスト対策基金問題について

B基準賃金について

C年末年始特別有給休暇等の例外荷役に関する問題

Dその他、労使双方が協議必要と合意した問題

 

(賃金関係)

2月14日 第1回船内賃金交渉(第1回船内労使協議会)

組合側(港湾荷役事業関係労働組合協議会:港荷労協)から2月8日に使用者側(日本港運協会船内経営者協議会:船経協)に提出された要求内容(昨年同様に基準内月額平均16,000円の値上げ、回答指定日3月28日)の趣旨説明が行われた。使用者側からは「原資捻出は現状では厳しいが、交渉には真摯に対応する」との説明が行われた。

3月14日 第2回船内賃金交渉(第2回船内労使協議会)

業側は回答を留保。

3月23日 第3回船内賃金交渉(神戸)(第3回船内労使協議会)

業側は回答を留保。

3月28日 第4回船内賃金交渉(第4回船内労使協議会)

業側は「賃上げ原資となる作業料金を確保できておらず、回答をできる状況にない。」として回答を留保。労側はこれを不満として平和交渉を打ち切り、争議通告1号「行動の自由を留保する」を業側に通告した。

4月4日 第5回船内賃金交渉(第1回船内団交)

業側より基準月額一律2,000円を回答するも交渉決裂。労側は4月8日(日)08:00〜翌09日(月)08:00の(24時間)就労拒否及び荷役阻止行動、抜港船・スト破り行為等に対する上乗せ行動(争議通告2号)を業側に通告した。

4月6日 第6回船内賃金交渉(第2回船内団交)

業側より基準月額一律2,000円に加え500円の上乗せ回答をするも、労側はこれを不服とし、交渉決裂。

4月8日 全港・全職種で08:00〜翌9日08:00までのストライキを実施。

4月11日 第7回船内賃金交渉(第3回船内団交)

業側より基準内500円を上乗せし、3,000円を回答、労側に次回団交まで持ち帰り検討を要請、労側は4月13日の中央団交後の交渉まで休憩とした。なお49日の全国港湾第4回戦術委員会兼港運同盟合同会議決議を受け港湾荷役事業関係労働組合協議会(港荷労協)は全港・全職種を対象に4月15日(日)08:00〜17日(火)08:00(48時間)の争議通告3号を業側に通告した。

4月13日 第7回船内賃金交渉が再開され、業側より最終回答として昨年同額の基準内

月額4,000円+一時金月額2,000円(年額24,000円)が提示され、労側はこれを受け入れた。制度・賃金交渉の何れも解決したことにより15日(日)08:00〜17日(火)08:00(48時間)のストライキは回避された。

 

3.総括

今春闘は8年ぶりとなる全国規模でのストライキが4月8日に実施されたが、4月15日からの第2次48時間ストライキ実施直前の13日に制度、賃金とも妥結したことで収束した。産別協定無視とみられる港湾年金訴訟問題を抱えたままスタートし、最大の争点となったアスベスト対策では、組合が要求していたアスベスト労使対策基金1億円の創設で合意、規制緩和問題では港湾の秩序を乱す新規参入には反対し、各地で設立されている「安定化協議会」で協議を図ることが確認された。又、賃金は昨年と同額で合意された。

 

 

<参考資料> 2007年港湾春闘の労使交渉経緯

2月8日  港荷労協は船経協に基準内月額16,000円の値上げを内容とする要求書を提出。

2月14日 第1回中央団交および第1回船内賃金交渉

労側は「07年度労働条件改善に関する要求書」を提出、要求内容の趣旨説明が行われた。回答指定日3月28日

一方、船内労使協議会では組合側より2月8日に提出された要求内容の趣旨

説明が行われ、船経協からは原資捻出は現状では厳しいとの説明が行われた。

回答指定日3月28日

3月14日 第2回中央団交

業側は労側が提出している要求書に対して逐条毎に回答するも、労側はこれまでの業側の見解を超えるものではないとして、業側に再考を要求して交渉を打ち切った。

3月14日 第2回船内賃金交渉

業側は回答を留保。

3月23日 第3回船内賃金交渉(神戸)

業側は回答を留保。

3月28日 第4回船内賃金交渉

業側は引き続き回答を留保。労側は争議通告し、平和交渉を打ち切った。

4月4日   第3回中央団交および第5回船内賃金交渉(第1回船内団交)

業側より前回の交渉の回答内容につき説明するも、労側はこれ以上の回答は

得られないとして、争議通告(4月8日(日)08:00〜翌09日(月)08:00(24時間)就労拒否及び荷役阻止行動、抜港船・スト破り行為等に対する上乗せ行動)を出し交渉は決裂。

一方、回船内賃金交渉にて業側より基準月額一律2,000円を回答するも交渉

決裂。労側は4月8日(日)08:00〜翌09日(月)08:00の(2

4時間)就労拒否及び荷役阻止行動、抜港船・スト破り行為等に対する上乗

せ行動を書面にて通告。争議通告(2号)。

4月6日  第6回船内賃金交渉(第2回船内団交)

業側は上乗せ回答500円(計2,500円)するも、労側はこれを不服とし、交

渉決裂。

4月8〜9日 全国日曜スト実施

全国規模では8年ぶりとなる日曜ストライキを4月8日(日)08:00

〜翌09日(月)08:00(24時間)実施。

4月9日   全国港湾労働組合協議会(全国港湾)は全国港湾第4回戦術委員会兼港運

同盟合同会議を開催し春闘情勢を分析。交渉を前進させるためにスト戦術

の上乗せを決定。

4月10日  全国港湾労働組合協議会(全国港湾)は日本港運協会に対して、全港・全

職種を対象に4月15日(日)08:00〜17日(火)08:00(4

8時間)のストライキを通告。

4月11日  第7回船内賃金交渉(第3回船内団交)

業側は上乗せ回答500円(計3,000円)し、労側に検討を要請、労側は4月13日の中央団交後の交渉まで休憩とした。労側は4月9日の全国港湾第4回戦術委員会兼港運同盟合同会議決議を受け全港・全職種を対象に4月15日(日)08:00〜17日(火)08:00(48時間)のストを書面にて通告。争議通告(3号)。

4月13日    第4回中央団交および第7回船内賃金交渉

業側より回答の提示後、2度の休憩を挟み最終的に妥結に達し、仮協定書及び仮覚書が締結され、労側はスト指令を解除。

一方船内賃金交渉にて、業側は最終回答として基準内月額4,000円+一時金月額2,000円(年額24,000円)を提示、労側もこれを受け入れ妥結、スト指令を解除。

 

532 地方港規制緩和関連

2006515日に施行された改正港湾運送事業法では主要9港以外の地方港における港湾運送事業及び検数事業等の規制緩和(需給調整規制を廃止し、事業参入を免許制から許可制に、運賃・料金規制を認可制から事前届出制に改める)が実施された。

全国港湾労働組合協議会(全国港湾)は秋田県の物流会社が地方港の規制緩和を契機に秋田港で一般港湾運送事業の新規参入を許可(条件なし)申請したことに対して全国統一抗議行動を展開、2006106日午前8-9時の時限ストライキを含む全港・全職種対象の抗議行動を行った。その後 1019日に同物流会社が許可申請を自ら取り下げたことにより、本件は一旦終息した。

しかしながら、同社は平成1972日に再び東北運輸局に許可申請を提出した。同社は業務範囲を「自らの貨物=18品目だけに限定」と説明し、日港協もこれを容認する姿勢を示していたが、その後同社が「今後取扱いが予想される貨物」に変更したため、組合は反発し、711日に日港協に中央団交を申し入れた。組合は中央団交が開催されない場合、或いは726日までに解決の見通しがつかない場合には、7278:0010:00の時限ストライキを実施すると通告していたが、中央団交が726日に開催されたためストライキは留保された。お盆休みを挟んで829日に開催された第2回目の中央団交で日港協は、「これ以上は行政の判断に委ねるしかない」とし、参入を容認する姿勢を示したが、組合は07春闘協定・労使合意違反、あくまでも新規参入反対と主張し、978:0010:00までの時限ストライキを通告した。その後の労使協議により、日港協として同社に申請を取り下げることを要請することが確認され、97日のストライキは留保された。918日、東北運輸局は同社の申請が許可基準を満たし欠落事項もなかったことから条件付(16品目限定、コンテナ船の船内荷役を除く)で許可した。これを受け全国港湾は19日「過当競争と貨物の争奪競争、事業者の整理・淘汰を本質とする新規参入を認めたことに断固として抗議する」との声明を発表、国交省に抗議した。また20日に秋田港での全国動員抗議集会、21日には同社に対する抗議行動を実施した。なお全国港湾事務局は「国交省からは参入後の料金などの事後チェックを厳密に行うとの表明を受けており、当面は行政の対応などを注視しながら新たな行動を準備する」とした。

この間、当協会は全国港湾の抗議行動に関する情報を収集して会員会社への情報提供に務めた。