6.海上安全対策
6・1 マラッカ・シンガポール海峡の航行安全問題
1. マ・シ海峡における航路整備の推進
1967年3月に発生したトリーキャニオン号事故を契機として、船舶の航行安全に関する諸問題がIMCO(現在のIMO=国際海事機関)において取り上げられ、1967年12月、マラッカ・シンガポール海峡については「沿岸3ヶ国(マレーシア、インドネシア、シンガポール)がこの海域の通航に利害関係を持つ諸国と協議することが望ましい」旨が合意された。
これを受け、日本政府は沿岸国と協力してマ・シ海峡の航路整備を推進することを決定、一方民間側においては、日本船舶振興会(現・日本財団)の支援のもとに当協会、石油連盟、日本造船工業会、日本損害保険協会の関係4団体および日本海事財団(現・日本海事センター)からの資金拠出を得て、1968年にマラッカ海峡協議会が設立され、以来、マ・シ海峡における灯台および灯浮標など航路標識の設置、設標船および集油船の寄贈、水路調査の実施ならびに航路標識の維持管理・修繕などの事業が実施されてきた。わが国は、40年近くに亘り、同協議会を通じ合計1億5000万ドルの貢献を行っており、当協会もこのうち900万ドルを拠出している。
2.
新たな協力の枠組みの構築に向けた動き
マ・シ海峡の大部分は沿岸3カ国の領海であるものの、1994年に発効した国連海洋法条約(UNCLOS)において、国際航海に利用される海峡(国際海峡)の航行安全や船舶から発生する汚染について、海峡利用国は沿岸国と協力するよう求められている。また、近年、アジア諸国の経済発展に伴い日本以外の国の船舶の海峡利用が増加しており、海峡の通航量は今後も増加していくことが予想されることから、安全航行等の確保を沿岸国とわが国のみでなくその他の利用国も共に担っていくよう、新たな国際協力体制の構築が急務となっている。
こうした状況から、わが国政府は、沿岸国・利用国等による国際協力体制の構築に向けて、沿岸3ヶ国の政府間技術専門家会合(TTEG)や関係国際会議に参加するなど積極的な取り組みを行ってきた。また、当協会もアジア船主フォーラムへ働きかけを行い、本件に対するアジア各国船主協会の理解促進に努めた。
折しも、2001年9月11日に米国同時多発テロが発生し、海上セキュリティへの関心の高まりから、2004年11月のIMO理事会において、マ・シ海峡におけるセキュリティ・航行安全・環境保全に関するハイレベルの会議の開催が決定され、IMOと沿岸国政府の主催により、2005年9月に「ジャカルタ会議」、2006年9月に「クアラルンプール会議」、そして2007年9月に「シンガポール会議」が開催された。
シンガポール会議には、沿岸3ヶ国および利用国50ヶ国、そのほか関係国際機関・団体等が出席し、過去2回の会議における合意を踏まえ、海峡の航行安全および環境保全のための新たな国際協力メカニズムの設置が合意された。また、沿岸国より提案されたプロジェクトに対し支援表明があるとともに、同メカニズムの機能の1つである「航行援助施設基金」に対して、日本のほか、韓国およびアラブ首長国連邦より支援表明があったほか、日本財団より当初5年間、事業費の3分の1を上限に拠出する用意がある旨表明があった(別表参照)。
3. 協力メカニズムの概要
「協力メカニズム」は、マラッカ・シンガポール海峡における航行安全および環境保全のため、沿岸国、利用国およびその他利害関係者との対話と協力を促進することを目的とし、次のとおり構成される。
<フォーラム>
フォーラムは、沿岸国と利用国、海運業界、その他利害関係者との一般的な対話・意見交換の場を提供し、具体的かつ実質的な協力の促進を図る。議長および事務局は、TTEGと同様、沿岸3ヶ国が持ち回り担当する。
<プロジェクト調整委員会>
標記委員会は、沿岸3ヶ国およびプロジェクト支援者により構成し、プロジェクトの実施状況を監督する。沿岸国より提案されているプロジェクトおよび各プロジェクトへの支援表明の状況(2007年9月時点)は次のとおりである。
プロジェクト内容 |
支援表明国 |
事業費用の見積り(米ドル) |
分離通航帯内の沈船の撤去 |
|
調査等630万ドル、撤去費500万ドル/隻 |
有害液体物質への対応体制整備 |
中国・米国(着手済み)、豪州 |
350万ドル |
AISクラスBの実証実験 |
日本、韓国、豪州 |
10万ドル |
潮汐、潮流などの観測システムの整備 |
中国、米国 |
170万ドル |
既存の航行援助施設の維持・更新 |
日本、韓国、UAE |
10年間2820万ドル(メンテナンスは年45万ドル) |
津波被害の航行援助施設の復旧整備 |
中国(着手済み) |
260万ドル |
<航行援助施設基金>
標記基金は、航行援助施設の維持・更新のための拠出の受け皿となる。基金の管理・運営に関しては沿岸国および拠出者により構成する「航行援助施設基金委員会」が行い、日常的な運営は沿岸3ヶ国が3年ごとに持ち回り担当する。
シンガポール会議において、日本財団より航行援助施設の維持・更新に係る事業費の3分の1を上限として当初5年間支援する用意がある旨表明があった。
4. 協力メカニズムの具体化に向けて
日本財団は、航行援助施設基金への協力を促すため、2007年12月、海運主要4団体(ICS(国際海運会議所)、BIMCO(ボルチック国際海運評議会)、INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)、INTERCARGO(国際乾貨物船主協会))と会談した。関係者に基金支援への働きかけを協調して行っていくこと、その一環として2008年に国際シンポジウムを開催することなどで合意した(同シンポジウムは、2008年11月にクアラルンプールで開催の見通し)。
一方、2008年4月、マレーシア・ペナンにおいて、第1回航行援助施設基金委員会が開催された。同会議において、基金が正式に設置されるとともに、基金による整備事業の開始を2009年1月とし、2008年4月から約6ヶ月間に航行援助施設事業の正確な費用見積りのための調査が行われることとなった。この調査は、日本財団による1億5000万円の資金拠出により実施される(航行援助施設事業に係る支援の状況は以下のとおり)。
2008年5月下旬には、第1回協力フォーラムおよび第1回プロジェクト調整委員会が開催される見通しであり、これにより、協力メカニズムのすべての機能が立ち上げられることとなる。
<航行援助施設事業 支援表明の状況>
@ 支援表明国
日本:緊急に更新が必要な航路標識1基の基本設計を含む調査費用を支援
「AISクラスBの実証実験」に要する機器30台のうち10台を支援
韓国:10万米ドル拠出、航行援助施設調査への協力(日本と別個に実施)
UAE:10万米ドル拠出
A 日本財団:事業費1/3を上限に5年間拠出、調査費用約140万米ドル拠出
B MENAS(ペルシャ湾の航行援助施設整備業者):100万米ドル/年拠出
C ギリシャ:IMO事務局長に対し100万米ドル拠出
以上