62 海上交通安全対策

 

621 こませ網漁業安全対策

瀬戸内海備讃瀬戸海域において、「こませ網」漁業の盛漁期間中(2月から6月)、海上交通安全法に基づき船舶の通航路として定められた航路の可航幅が漁具や漁船により狭められ、場合によっては全面閉塞される事態が発生している。その結果、通航船舶はそれらを避けるため航路外あるいは定められた通航方向と反対側の通航を余儀なくされ、浅瀬への乗り揚げや他船との衝突が発生しかねない非常に危険な状況となっている。このため、当協会は、関係省庁等に対し航行船舶の安全を確保するよう要望しているほか、備讃瀬戸の航行安全を関係者間で協議・検討する委員会に参画し、同海域の航行安全に向け取り組んでいる。

 

1.航行安全への取り組み

当協会は、内海水先人区水先人会をはじめ、関係海事団体(日本船長協会、日本水先人連合会、日本旅客船協会、全日本海員組合、日本内航海運組合総連合会)と協議のうえ、「こませ網」漁業盛漁期間中における安全対策を策定し、その実施について会員会社へ協力を求めた。さらに、同安全対策に基づく措置として、同漁業盛漁期間中に毎日、備讃瀬戸東航路の巨大船航行予定を漁業関係者へ周知した。

また、関係海事団体とともに、2007213日に海上保安庁に対して、大型船の航行安全を確保するため、航路内における可航幅300mの確保、保安庁船艇の適切な配備による監視と航行指導の徹底、こませ網漁船操業状況情報の迅速な提供、漁具標識の統一等を内容とする要望書を提出した。さらに、水産庁(2/13)、第六管区海上保安本部(2/27)、香川県農林水産部(2/28)、高松海上保安部(2/28)および備讃瀬戸海上交通センター(2/28)を訪問し、安全確保への協力を要請するとともに、種々意見交換を行った。

なお、当協会は、瀬戸内海海上安全協会が現地において定期的に開催している備讃瀬戸海上安全調査委員会および備讃瀬戸海上交通調査委員会にも出席し、漁業従事者を含む関係者へ航行船舶の安全確保の要請を直接行った。このほか、同協会の実施するこませ網漁船体験乗船に船社の参加を広く募り、船社に対してもこませ網漁業が航路航行船舶に及ぼす影響について実情把握すべく協力している。

 

2.巨大船の避航状況

第六管区海上保安本部の調査結果によれば、2007年のこませ網漁業による航路閉塞回数(可航幅300m未満)は348回(前年442回)、また巨大船の避航回数は54回(前年86回)となっている。前年に比べると、航路閉塞回数および巨大船の避航回数はともに減少した。

 

3.漁業盛漁期間中の航行安全対策の実施結果

 自主的に取り組んでいる航行安全対策の実施結果は次のとおりである。

(1)備讃瀬戸東航路航行船舶のうち進路警戒船を自主配備した隻数

(海上交通安全法の定めるものを除く巨大船)

期間:200733日〜731

西航船98隻、東航船129

(2)備讃瀬戸東航路の東航船のうち標識として曳船を配備した隻数

   (礼田埼沖に水路限界表示と操船補助船を兼ね大型曳船を配備)

期間:200733日〜731

水島向け10隻、福山向け9

(3)備讃瀬戸東航路への入航調整を実施した喫水16mを越える船舶および大型危険物積載船の隻数

該当日15日間で対象船舶は15

(4)各港からの出港時間の調整を実施した隻数

水島港20隻、坂出港3

(5)来島海峡航路を経由して西航した巨大船

44

(6)こませ網に関連して発生した事故

   安全対策期間中に4件の漁具損傷が発生した。

 

622 海上交通規制等の見直し

1.東京湾および伊勢湾における海上交通規制等の見直し

東京湾においては、第三海堡の撤去および中ノ瀬航路の浚渫が概ね完了し、伊勢湾においては、伊勢湾海上交通センターの運用が開始され、中山水道開発保全航路の浚渫が完了している。両湾における船舶交通をとりまく環境の変化から、国土交通大臣は、2007828日、海上交通安全法第36条に基づき、同法に定める交通規制の概略以下の見直しについて、交通政策審議会へ諮問した。

同審議会は、94日、本諮問について審議し適当である旨、即日答申した。

(変更内容)

 ○ 東京湾

   ・ 浦賀水道航路における航路への出入または航路の横断の制限区間の廃し

   ・ 浦賀水道航路における航路航行義務区間の変更

   ・ 行き先表示の変更

 ○ 伊勢湾

   ・ 伊良湖水道航路における巨大船の航路航行義務区間の特例の廃止

   ・ 伊良湖水道航路における航路外待機基準の運用の変更

 

2.AISの整備等を踏まえた新たな船舶交通安全政策のあり方

わが国における海難隻数、海難に伴う死者・行方不明者等は、様々な海難防止活動を行っている中で横ばい傾向で推移し、毎年貴重な人命・財産が失われている。また、今後も、船舶の大型化・高速化の進展、外国籍船の増加、内航船舶における高齢化・厳しい労働環境、プレジャーボート免許保有者の増加等により潜在的な海難のリスクが高まっていくものと考えられる。

一方で、今般施行された海洋基本法においては、国の責務のひとつとして、効率的かつ安定的な海上輸送の確保および海洋の安全の確保のために必要な措置を講ずることを求めている。

海上保安庁では、2008年度までにわが国の全沿岸を対象にAIS(自動船舶識別装置)(*1)陸上局を整備することとしており、リアルタイムでの船舶の動静把握や危険情報の提供業務を順次拡大しているところである。

このような状況の下、2007828日、国土交通大臣は、安全性と効率性が両立した船舶交通環境の維持・向上を図るため、航行環境の変化、AISの整備の進展等を踏まえ、新たな船舶交通安全政策の方向性および具体的施策について、交通政策審議会へ諮問した。

同審議会は、2008310日に海事分科会を開催し、具体的課題解決のための今後5年間の重点施策として以下を骨子とする中間とりまとめをとりまとめた。同審議会は、20085月にも答申をまとめることとしている。

 

1)海難分析・対策立案機能の強化

@本庁と管区本部との連携強化、A水産庁、海事局、航湾局等の課長クラスが参加する連絡会議にて海難防止策を展開する。

2AISの整備等を踏まえた航行安全対策・効率性の向上

@AIS等の活用により、船舶の交通を整え、海難発生を減少させる。AAISを利用し、港内における船舶を個別に管制し、港内の船舶交通の効率性を向上する。

3)地域特性に応じたきめ細かな海難防止活動の推進

管区本部の役割分担の明確化と、地域における関係機関との連携を強化する。

4)特性を活かした安全情報の提供

安全情報提供センターを構築し、航行支援情報、気象通報業務等の情報提供業務を統合、一元化する。

5IT等の最新技術を活用した安全対策の推進

気象・海象、管制状況などの情報を文字だけでなく、ビジュアル化により利用者にリアルタイムで提供するシステムを構築する。

6)航路標識の整備、管理のあり方

@灯台などの航路標識にLEDを使用、A太陽光発電等のクリーンエネルギーを導入しCO2排出を削減する、B航路標識の保守業務を民間へ委託する、C保安庁と港湾管理者等の間における航路標識の設置・管理範囲を明確化する。

 

*1)自動船舶識別装置(AIS):テロ対策を目的として、国際航海に従事する旅客船および総トン数300トン以上の貨物船に20047月より搭載が義務づけされた装置で、船名、位置、針路、速力、目的地などのデータを表示する。同装置により、船舶の動静をリアルタイムで把握することができる。