6・3 海事保安問題への対応
6・3・1 船舶長距離識別追跡システム(LRIT)
LRIT(Long Range Identification and Tracking System)とは、衛星通信を通じて船舶の識別符号や位置情報等を締約国に配信することにより、陸上において遠洋航行中の船舶の動静把握とともに、捜索救助を目的とするシステムである。同システムに関するSOLAS条約第5章の改正規則は2008年1月1日に発効し、国際航海に従事する総トン数300トン以上の船舶で2008年12月31日以降に建造される船舶、既存船については2008年12月31日以降の最初の無線検査までにシステムの搭載が要求される。
IMOでは、LRIT情報の配信に関する費用については利用国が負担し、原則、船社の費用負担はないこととなっている。各国間における費用の負担方法、情報を管理するデータセンターにおける情報の交換に関する詳細等について、IMO LRIT作業部会における検討が継続して行われている。
6・3・2 船舶気象通報の情報公開問題
世界気象機関(WMO)では、SOLAS条約第5章第5規則によって船舶に推奨されている気象観測通報について、その通報項目や通報様式を定めた「篤志観測船(VOS:Voluntary Observing Ships)制度」を運用している。WMOは、同制度に参加した船舶から通報される気象観測データを、集約し、データベースとして各国の気象機関に提供している。
しかしながら、上述の船舶から通報される気象観測データが、ある私企業のインターネット・ウェブサイト上で、通報船舶の船名や船舶特有の符号(船舶符号)および位置情報等が公開されていることが判明したため、国土交通省は、船舶の保安確保に支障が生じるおそれがあるとして、問題解決するまでの当分の間、船名等を伏せて気象通報を行うように対応していた。
気象庁は、当協会等と協議の上、各社が船名、船舶符号、船種、船舶の長さ等の各船舶別のデータを非公開にしたいという希望があれば、事前に該当船舶の登録手続きを行なうことにより、該当船舶から通報される気象観測データの内、各船舶別のデータを非公開にすることができる通報制度を確立し、2007年12月より運用を開始した。