6・5 船舶の安全運航対策

6・5・1 船橋設備に関する問題

(1)電子海図情報表示システム(ECDIS

20067月開催のIMO52回航行安全小委員会(NAV52)において審議されたECDISの搭載強制化は、20077月に開催のNAV53において、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スェーデンより改めて提案が出された。総トン数500トン以上の客船およびタンカー並びに総トン数3000トン以上のタンカー以外の貨物船を対象に、20107月から段階的に搭載を強制化とする内容であった。

日本からは、搭載強制化の対象は総トン数10,000トン以上の全船舶とし、既存船への適用については3年〜5年の猶予期間を設け、2年以内に廃船する船舶への適用は除外すべきことを提案した。

審議の結果、主要航路(欧州〜アジア〜米国等)を航行する船舶以外の船舶に対して搭載を強制化する意義や費用対効果、および電子海図(ENC)の整備状況に対する懸念から、次回20087月開催のNAV54において、強制化することの利点・欠点等を整理した上で、さらに検討を進めることが合意された。

 

(2)船橋当直警報装置の搭載要件の検討

船橋当直警報装置(BNWASBridge Navigational Watch Alarm System)とは、当直者の居眠り等、当直者に異常が発生した場合、船長室等に警報で知らせ、当直者の見張り不十分による事故を未然に防ぐための装置である。20065月開催の第81回海上安全委員会(MSC81)において、デンマークより総トン数150トン以上の船舶にBNWASの搭載強制化について提案があり、NAV53において詳細な審議が行われた。

各国からは、同装置の強制化にはさらなる調査が必要であること、同装置の強制化が航海当直要員の削減を導くものであってはならないことなどの発言があり、審議の結果、次回NAV54にて引き続き審議することとなった。当協会は、2名当直体制であれば同装置の搭載は不要であるとし関係先に働きかけた。

 

(3)E-Navigation(次世代航海システム)戦略の構築

E-Navigationとは、AISECDIS等の最新の電子航行技術の活用により、ヒューマンエラーによる海難・海洋汚染の防止、効果的な捜索救助などを目的としたもので、MSC81において、E-Navigation戦略の構築を策定することが合意され、NAV 52から検討が開始された。

NAV53では、E-Navigationの定義、目的および将来的構想の確立などが審議され、次回NAV54では、さらにユーザー(船社、船員)の要望等も取り入れさらに審議を深めることとなった。

 

 

6・5・2 船舶の救命設備等の見直し

(1)救命艇等の定期的整備に関する指針の強制化

MSC81にて「救命艇等の定期的整備に関する指針(MSC.1/Circ.1206)」が策定され、MSC82200612月)、DE5020073月)にて同指針の強制化が検討されてきた。

同指針の附属書1では、原則、救命艇製造業者もしくは同業者により承認を受けた整備業者が救命艇および進水装置(以下、救命艇等という)の整備を行うことができると規定されている(但し製造業者が廃業などにより存在しない場合、主管庁に承認された整備事業者が整備を行うことができる)。しかし、世界的な整備事業者の不足のため、同指針の要件を適用することは困難な状況であった。

(日本は、国内法(船舶検査の方法)にて20067月より適用している。)

200710月開催のMSC83では、世界的に救命艇等の整備事業者が不足していることから、主管庁または主管庁から承認された機関が救命艇製造業者とは別の独立した整備事業者にも認定を与えるように提案され、審議の結果20082月開催のDE51にて検討することとなった。

DE51の審議において、同指針を強制化とせず非強制扱いとすること、また救命艇等の製造事業者と別の独立した整備事業者を認めること。また、その承認基準を作成することが提案された。

当協会は、国際海運会議所(ICS)と協力して、独立した整備事業者にも認定を与えるように関係先に働きかけた。審議の結果、救命艇等の製造事業者と別の独立した整備事業者を認めるための承認基準である「整備技術者承認指針」および「独立した整備事業者の承認方法」は合意され、同指針と承認方法は、暫定勧告案(MSC回章文)として、20085月開催のMSC84に提出され、承認を受けることとなった。

 

(2)国際救命設備(LSA)コードおよび救命設備の試験に関する勧告の改正

20052月に開催された第48回設計設備小委員会(DE48)において、救命胴衣やイマーションスーツといった個人用救命設備に関する承認基準見直しが審議され、審議の結果、SOLAS条約第3章、LSAコードおよび救命設備試験勧告の改正案が作成された。

<主な改正内容>

@    急速離脱装置に備える救命浮環は、4kg以上の質量であること

A    幼児用救命胴衣の性能、基準および搭載数等の規定(航海時間24時間以上の旅客船は、幼児1人に1着を備えておくこと)

B    体格の大きい人(胸囲1750mm、体重140kgまで)でも救命胴衣を着用できるように補助具を備え付けること

C    救命胴衣、イマーションスーツに吊り下げ用ロープおよび落水者同士をロープで結びとめるためのバディーラインの設置等

救命設備試験勧告の改正案は、MSC8020055月開催)にて採択され、SOLAS条約第3章およびLSAコードの改正案は、MSC81にて採択された。これらは201071日に発効することとなった。

また、20061月に開催された第50回防火小委員会(FP50)において、SOLAS条約第3章、LSA コードおよび試験勧告の間の整合化等を目的に審議が行われ、SOLAS条約第3章、LSAコードおよび救命設備試験勧告の改正案が作成された。

<主な改正内容>

@      救命艇および救助艇の落下試験(各座席に100kgの重りを載せて水面上3mから自由落下させる)

A      曳航試験(救命艇および救助艇が救命いかだを曳航できる最大曳航力を確認すること)

B      進水装置および乗艇装置の試験(自由降下式救命艇の離脱機構部に最大作用負荷の2.2倍の静的許容負荷をかける)等

この改正案は、MSC82にて採択され、200871日に発効することとなった。

これらの改正を受け、日本は、救命設備全般にわたり型式承認試験基準を見直す必要が生じてきたため、日本舶用品検定協会において型式承認試験基準の改正作業を開始し、20082月に終了した。

 

 

6・5・3 ポートステートコントロール(PSC

サブスタンダード船排除のためには、国際条約に基づいて旗国がその責任を適切に果たすことが重要であるが、中にはそれが十分に行われていない旗国がある。

このため、この本来旗国が果たすべき役割を補完するため、寄港国の権利として、自国に入港する外国船舶への立入検査・監督(PSCPort State Control)を行うことが国際的に認められている。

このPSCの実効性を高めるため、それぞれの地域において締結されたPSCに関する覚書(MOUMemorandum of Understanding on Port State Control)のもと、各国が協調してPSCを実施する体制が作られており、欧州における「パリMOU」、アジア・太平洋地域における「東京MOU」のほか、6つのMOU(地中海、黒海、インド洋、南米、カリブ海沿岸、西・中央アフリカ)が設立されている。

また、米国はこれらMOUの正式メンバーにはなっていないものの、各地域MOUにオブザーバー参加することで協力体制を築くとともに、独自のPSCを実施している。

2006年におけるパリMOU、東京MOUおよび米国コーストガード(USCG)の活動の概要は以下のとおりである。(2007年の活動概要はまだ公表されていない)

 

1.  パリMOUの活動の概要(http://www.parismou.org/

欧州におけるPSCの標準化、協力体制の強化を目的として、1982年に欧州14カ国で締結された覚書(パリMOU)は、現在27カ国(ベルギー、ブルガリア、カナダ、クロアチア、キプロス、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、英国)が加盟している。(下線を付した2カ国が前年より増加)

 

(1)      2006年は、パリMOU域内で延べ21,556隻の船舶に対してPSC検査が実施された。このうち拘留された船舶は1,174隻となり、検査隻数に対する拘留率は5.44%2005年:4.67%)となった。

(2)      200621日から430日の間に実施されたMARPOL Annex I(海洋汚染防止条約付属書1)に関する集中キャンペーンにより、4,614隻について検船が行われ、128隻の拘留があった(拘留率2.8%)。

また、集中キャンペーンについては、次のとおり実施、もしくは予定されている。

      ISMコード関連について(2007年9月より3ヶ月間)東京MOU等と同時実施

      SOLAS条約第5章(航行安全)関連(2008年予定)航海計画、航海データ記録装置(VDR)、船舶自動識別装置(AIS)、電子海図情報表示装置(ECDIS)等の近年急速に発展した航海システムについて

(3)      パリMOUは、2003年より、拘留率は減少傾向であったが、2006年のPSC検査結果は2005年より若干増加しており、サブスタンダード船の数を減らすには、まだ努力が必要であるとの見解を出している。

 

2.  東京MOUの活動の概要(http://www.tokyo-mou.org/

  アジア・太平洋地域におけるPSCについては、1993年に11カ国で発足した東京MOUが加盟国を増やし、現在18カ国(豪州、カナダ、チリ、中国、フィジー、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、ロシア、シンガポール、タイ、バヌアツ、ベトナム)となっている。(前年からの増減なし)

東京MOUでは、PSCに従事する検査官の能力および監査方法の平準化が重要であるとして、PSC検査官を対象とした基礎的な研修を日本において実施している。

 

(1)     2006年の総検査隻数は21,686隻で、このうち拘留された船舶は1,171隻となり、検査隻数に対する拘留率は5.40%2005年:5.21%)となった。

(2)     200621日から430日まで、MARPOL Annex I に関する集中キャンペーンにより、4,824隻について検船が行われ、96隻の拘留があった(拘留率2.0%)。

 

3.       米国コーストガード(USCG)の活動の概要

http://homeport.uscg.mil/mycg/portal/ep/echtorial.Search.do#

USCGの活動は、1970年代に外国籍船舶に対して米国海洋汚染防止法および航海安全法に適合していることを確認する目的で検査を行ったことに始まり、1994年にはサブスタンダード船の入港を排除するプログラムを策定した。

また、2001年には「Quality Shipping in the 21st CenturyQUALSHIP 21)」と呼ばれる、優良な船舶を識別し、高品質なオペレーションを促進する制度を確立している。

 

(1)   2006年には79カ国8,178隻が年間78,668回米国に寄港し、10,136回の立入検査が実施された。このうち拘留された船舶は110隻で、検査隻数に対する拘留率は1.35%)(2005年:1.61%)となった。

また、ISPSコード(保安関係)に関する検査は9,053回実施されたが、改善命令のあった船舶は35隻に留まり、良好な結果となった。検査隻数に対する改善命令の割合は0.43%(2005年:0.65%)であった。

なお、2004年から2006年の3年間で、日本籍船は36回の立入検査、29回のISPSコードに関する検査を受け、このうち立入検査により拘留された船舶が1隻あった。