8・3 2006および2007年度の内航海運対策

1)船員教育のあり方に関する検討会

国土交通省海事局は、わが国の商船船員を取り巻く環境の変化が、外内航とも一層顕著となっていることに鑑み、船員教育のあり方全般について見直しを行うため幅広い見地から検討を行うこととし、外航・内航船社、海事関連企業、船員教育機関、関係団体、学識経験者等で構成される「船員教育のあり方検討会(委員長:宮下國生大阪産業大学経営学部教授)」を20064月に設置し、20073月までに各3回の外航部会、内航部会において外航・内航業界ごとによる詳細な検討を行うとともに、4回の全体会議において全般的検討を重ね、「船員教育のあり方に関する検討会報告」 を取りまとめた。

資料8-3-1 今後の船員教育のあり方(概要)】

同報告では、まず、日本海運を取り巻く状況について、「船舶の技術革新、国際的安全基準の強化、保安意識の高まりなど、がある」とし、「内航海運では、高齢化と後継者不足が進んだことが問題」と指摘している。船員の役割については、「内航では、高齢化に加え今後は外航や漁船分野からの経験豊富な船員の算入が望めず、後継者難と即戦力船員の不足が深刻化することから、今後は、運航安全マネジメント制度の導入など、高度な船舶管理能力で対処していくことが求められる。」としている。このような環境変化に対し、同検討会では具体的方策として次の項目が掲げられた。

1 実習内容の見直し

「社船実習の拡大等による教育訓練の複線化の推進」「帆船実習」「内航用小型練習船の導入」「船社と船員教育機関と航海訓練所の連携強化」など

2 航海訓練所の練習船隊の見直し

   「小型練習船の導入」など

3 海に対する関心を高めるための措置

「海に対する関心の重要性」、「練習帆船の有効活用」、「船員志望者を増加させるための対策」など

4 航海訓練所及び海技教育機構の財政基盤の整備

5 航海訓練業務にかかる市場化テストを含めた民間開放について

 

2)内航海運ビジネスモデル検討会

国土交通省海事局は、「内航船舶の代替建造推進アクションプラン」【年報2006841参照】の具現化の一環として、学識経験者、内航海運事業者等の関係者をメンバーとする内航海運ビジネスモデル検討会」を20065月から12月にかけて開催し、これからの内航海運の望ましいビジネスモデルのあり方及びその推進方策について検討を行い2007年1月12日に「内航海運ビジネスモデル検討会」 最終報告書を公表した。 「船舶管理会社の活用によって、従来の集約・協業化 (=合併) とは異なる緩やかなグループ化を推進」するという、従来にない新たな発想に基づくグループ化の方向性が示された。その推進に向けた行政の取組みとして、

@ 船員の確保・養成、船舶の代替建造、安全確保などの今日的な課題に対応するためには、船舶管理会社を活用した緩やかなグループ化を進めていくことが有効。

A 内航海運事業者のグループ化の必要性に対する認識は、平成11年度の調査時と比べて飛躍的な高まり。

B 国土交通省としても関係者と協力して新しいビジネスモデルの普及促進に取組む。

 

グループ化によって得られるメリット

@ 船員の確保・養成(就職先としての魅力向上、教育の充実等)

A 船舶の代替建造の推進(金融機関、オペレーターに対する信頼性の向上)

B 安全性の向上(安全管理体制の充実、優れた安全ノウハウの共有)

 

今後のグループ化の方向性

船舶管理会社の活用によって、従来の集約・協業化(=合併)とは異なる緩やかなグループ化を推進

 

グループ化の推進に向けた行政の取り組み

@ グループ化のメリット及びそのあり方についての情報発信

A 個々の抱える経営課題等に関する事業者同士の意見交換の場の設置

B グループ化に成功した事業者による説明会の開催

C 研修・教育支援、船員派遣事業の振興等のための新たな制度導入を検討

資料8-3-2参照】

 

3)国土交通省交通政策審議会ヒューマンインフラ部会

外航日本人船員が極端に減少し、内航船員も著しく高齢化が進展する中、「海洋国家」である我が国において、人的基盤(ヒューマンインフラ)である船員(海技者)の確保・育成を図る上で、いかなる海事政策を展開すべきか審議するため、200728日、国土交通大臣から交通政策審議会に「今後の安定的な海上輸送のあり方について」の諮問がなされた。

これを受け、海運業界において、人材の育成という課題を克服し、我が国経済の根幹としての機能を今後とも果たしていく必要とした課題に対処し、いかなる海事政策を講ずべきかについて審議するため、「国際海上輸送部会(部会長:杉山武彦一橋大学学長)」、「ヒューマンインフラ部会(部会長:杉山雅洋早稲田大学商学学術院教授)」を設置し、それぞれ8回に亘る議論を行った結果、20071220日「安定的な国際海上輸送の確保のための海事政策のあり方について」及び「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」の答申が行われた。

特にヒューマンインフラ部会関係で、「海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について」の答申では、内航船員について、高齢化が進んでいる年齢構成や現状レベルの採用や退職の状況並びに内航船のこれまでの運航の効率化の流れが今後も継続することを前提に、今後5年間ないし10年間の内航船員の需給状況を試算したところ、5年後に約1,900人、10年後には約4,500人程度の船員不足が生じる可能性があるとしている。こうしたことから、高度な技術者である船員の育成には長い期間がかかることを踏まえると、少子高齢化が進展し、今後生産労働人口が減少する中で、内航船員の確保・育成に向けた対策は喫緊の課題となっている。船員(海技者)の確保・育成という観点から、今後の施策を進めるに当たっての考え方を整理すると、船員を@集め、A育て、Bキャリアアップを図り、C陸上海技者への転身を支援する、4つの施策を柱として推進することが適切であり、今後は、この4つの柱に沿った施策に取組むものとしている。

資料8-3-3

 

4)自民党海事立国推進議員連盟(内航分野)

自民党は、2007412日、国会議員で構成する「海事立国推進議員連盟 (会長・衛藤征士郎衆院議員)」を設立した。同議員連盟の目的は、将来にわたり安定的な海上輸送体系を構築し、日本が引き続き「海事立国」として発展するため、海運・造船を中心とした海事産業を育成するとともに、海事産業政策を我が国の重要な国策の一つとして位置づけ、海事に関する総合的かつ戦略的な政策を規定する「海事立国推進大網」の制定を目指すこととしている。【資料8-3-4

20071025日には、自民党政務調査会「海運・造船対策特別委員会(委員長:村上誠一郎衆議院議員)」および「海事立国推進議員連盟」が合同会議を開き、内航海運組合総連合会の上野孝会長(当協会副会長)が内航海運の現状について資料等をもとに説明するとともに、「船員不足や老朽船舶の代替建造促進」、「内航海運暫定措置事業を円滑かつ着実に実施するための支援」、「カボタージュ堅持」、「石油石炭税の減免または還付措置の創設」、「平成20年度税制改正要望」など6項目を要望した。【資料8-3-5


資料8-3-4

「海事立国推進議員連盟」設立趣意書

 

1.四面を海に囲まれた我が国は、輸出入物資の99.7%の輸送を担う外航海運により支えられており、海運業及びこれを支える造船業等を中心とした海事産業の健全な発展を図り、安定的な海上輸送を確保することは我が国経済及び国民経済の存立にとって極めて重要な課題である。

2.しかしながら、我が国外航海運は熾烈な国際競争に勝ち抜くため、コスト高な日本籍船の削減を図らざるを得なかったため、日本籍船は昭和47年の1580隻をピークに減少を続け、平成17年には95隻までに減少した。これに伴い外航日本人船員も昭和49年の56,800人から2,600人へと大幅に減少するなど、経済安全保障上極めて危機的な状況に陥っている。

3.国内物流の基幹的機能を果たす内航海運にあっては、船舶の老朽化、船員の高齢化、若年船員不足が顕在化しているほか、離島航路経営問題、燃料油価格の高騰等の課題が山積している。

4.安全・高品質な海上輸送の確保の観点からは、人的基盤としての優秀な船員(海技者)の確保・育成は極めて重要な課題であるところ、中長期的な視野に立った人材確保策の確立が急務となっている。

5.造船業においても、今後、国際競争が一層激化することが予想され、我が国造船業の国際競争力の強化及び競争条件の整備を図るとともに、革新技術の研究開発・普及促進が重要な課題となっている。

6.今通常国会には海洋基本法が議員立法で提出されるところ、基本法を具体化する総合的な海事政策の立案が、重要かつ緊急の課題になってきている。

将来にわたり安定的な海上輸送体系を構築し、日本が引き続き「海事立国」として発展するため、海運・造船を中心とした海事産業を育成するとともに、海事産業政策を我が国の重要な国策の一つとして位置づけ、海事に関する総合的かつ戦略的な政策を規定する「海事立国推進大網」の制定を目指して、ここに「海事立国推進議員連盟」を設立するものである。

                            平成十九年四月十二日