【資料3-1-1

                                                                                                                 2006915

社団法人 日本船主協会

 

外航海運に関する独占禁止法適用除外制度の在り方について

 

四面を海に囲まれ、食料自給率が約40%(カロリーベース)、エネルギー自給率が約5%(原子力を除く)に過ぎず、いずれも主要先進国中最低レベルにある我が国にとって、貿易物資の安定的な輸送確保は必要不可欠である。したがって、輸出入の99.7%(重量ベース)を担う外航海運は、まさに我が国の生活と経済を支えるライフラインであり、外航海運サービスの安定と国民生活・経済活動の安定は表裏一体と言える。

今回、公正取引委員会は、外航海運に関する独占禁止法適用除外制度の在り方についてのパブリックコメントを募集すると同時に、同委員会が事務局を務める政府規制等と競争政策に関する研究会(「規制研」)の検討結果(3ヵ月間で計4回開催された)として、外航船社間協定に対する独禁法適用除外規定を廃止することが適当とする報告書案を公表した。当協会は規制研において、現行制度は諸外国との制度と整合した上で有効に機能しており、同制度が廃止されれば日本発着の定期船サービスの低下を招き、国民生活を支える輸出入貿易に悪影響を及ぼすおそれがあるとして、性急な結論付けを行わないよう慎重な検証を繰り返し要請してきたところである。今回のパブリックコメントにおいては、規制研に対してこれまで申し述べてきた当協会意見の主要点を記すこととし、論点の詳細や関連データについては、公正取引委員会ホームページで公表されている規制研に提出した当協会資料をご参照頂きたい。(http://www.jftc.go.jp/pressrelease/kenkyu.html(2008.6現在)

 

 

1.     外航海運業の特性と独禁法適用除外制度の必要性

 

@ 外航定期船海運の特殊性

外航定期船海運は、船舶の建造費やターミナル整備等に莫大な投資を必要とする一方、貨物量の季節変動や往復航の貨物量の不均衡等により、構造的に供給過剰に陥り、破滅的な競争が行われやすいという特殊性を有している。基幹航路を運営する米国船社の消滅、日本の定期船社の減少(嘗ての12社→3社)、欧州を中心に相次ぐ大規模M&A、不安定な市況等の事実は、このことを裏付けている。

 このような業界において、安定した運賃・サービスを確保するための安定化装置として同盟制度が誕生し、その後の独禁法の成立や強化等の環境変化に対応し、競争制限性を可能な限り排除しつつ、130年以上にわたって世界主要各国・地域でその存在が評価され、存続が認められている。

 

A 制度の国際的な整合性

現在、EU(日本発着のコンテナ輸送量の12%)では制度見直しの動きがある一方、我が国最大の貿易相手地域であるアジア(同60%)、北米(同17%)では同様の動きは見られていない。他方、最近では、我が国同様のアジアの貿易立国であるシンガポールにおいて20067月に除外制度新設が決定されており、豪州でも8月に除外制度の維持(一部修正)が打ち出されている。このような状況の中で、もし我が国が除外制度を廃止すれば、全世界を網羅する定期船航路の中で、日本発着航路のみが特殊な法環境下に置かれることとなり、日本の貿易システムそのものが混乱に陥るリスクがある。

 

2.     現在の同盟・航路安定化協定の機能

 

同盟・航路安定化協定は、各国の法制変化および荷主の要請に応える形で、より競争制限性の低い形に変貌してきており、現在の同盟・協定は市況の情報交換と共有を行う一方、世界貿易の拡大に応え得る定期船事業への再投資を可能とする適正運賃水準の共通認識形成(運賃・サーチャージに関するガイドライン設定)を主な機能としている。

現在、同盟・協定の存在する航路における運賃は、同盟・協定によるガイドラインを参考とした上で、各船社・荷主間の個別交渉で決定されている。各同盟・協定ともガイドライン遵守を義務づけてはおらず、需給状況等によってはガイドラインの実効性が薄い場合もあると言える。但し、上述の通り、生来的に破滅的競争を行う土壌のある定期船海運業界において、ガイドラインそのもの、もしくはその合意形成の過程によって運賃安定化がもたらされていると言え、これにより不定期船分野に見られる極端な運賃の乱高下が回避されているものと考える。

また、船舶建造に必要な長期・大型の投資にあたっては、同盟・協定内での需給状況等に関する情報交換と、同盟・協定によってもたらされる運賃安定化への努力(安定収益見通しの共有)が極めて重要な役割を果たしており、貿易・荷主業界のニーズに応じた適切な再投資のためにも同盟・協定活動は必要である。

 

3.     除外制度を廃止した場合の影響

 

 除外制度が廃止された場合、以下の事態が発生することが懸念される。これらの懸念が現実のものとなれば、日本経済への悪影響は避けられず、国民生活へも多大なる影響を及ぼす事になる。同盟・協定に対する外部からの切迫した申し立てが明らかにされていない現状において、現行制度を早急に改廃せねばならない必然性は乏しいものと思われ、寧ろ制度の存廃については、国益の観点から、時間をかけた慎重且つ十分な検討が必要不可欠である。

 

@ 運賃とサービスの不安定化

荷主の国際的なサプライチェーンに外航海上輸送が組み込まれている現状下、日本の荷主の多くが運賃・サービスの安定化を重視しているものと理解する。運賃・サービスの安定化装置としての同盟・協定制度が失われた場合、除外制度のない不定期船(タンカー、ばら積み船)市況で見られるような、短期間に運賃が大幅に上下する運賃乱高下や、有効な同盟・協定の存在しない日中航路で指摘される運賃・サービスの不安定化(週・曜日単位の運賃変動、短期間での航路への参入/退出の繰り返し)が発生し、我が国荷主が必要とする輸送サービスの提供が困難になることが懸念される。

 

A    更なる寡占化

同盟・協定の競争制限性の低下に伴い、歴史ある定期船社がM&Aや市場からの撤退を余儀なくされていることは上述の通りであるが、除外制度が廃止された場合には、その後の無秩序な競争激化により、一部船社の市場からの撤退=寡占化が更に進展することは避けられない。除外制度が廃止される事により、需給悪化時にはこれまで以上に運賃が下落する事になるが、これはまさしく破滅的競争を意味し、体力や経営体力に劣る会社が淘汰され、その過程において荷主が受けるサービスの選択肢が減少していく事になる。又、一旦寡占に近い状況が成立してしまえば、競争が著しく限定的となる為、荷主が選択し得る運賃は高止まりとなり、且つサービスが悪化する等の弊害が懸念される。理論上は、かかる寡占状態は新規参入により是正される事が考えられるが、現実には、巨大なアセットの整備が必要となる外航定期船業への新規参入には相当の準備期間が必要であり、且つ生き残っている巨大船社との競争は過酷を極める事が予想される事から、寡占状態の解消は容易ではないものと思われる。

 

B    巨大船社による航路支配

世界の定期船社上位5社(運航船腹ベース)のうち、4社が欧州船社によって占められており、最大手のマースク社(デンマーク)の輸送キャパシティは、邦船大手3社合計の2倍以上に達している。欧州においては、税制面など自国船社への優遇措置が充実しており、船社の国際競争力維持を政府が強力にサポートしている。一方、我が国船社は、欧州やアジア各国等と税制等の面で不利な条件下において国際競争を行っており、市場に踏みとどまって競争を続けていく上で、除外制度による運賃・収入の安定化が果たしている役割は大きい。このような状況下、除外制度が廃止され、収支が決定的に悪化することになれば、経営上の観点から日本船社の定期船事業からの撤退という事態も起こる可能性がある。

 

 

C    日本への大型船寄港の減少

アジア/北米航路、アジア/欧州航路という二大基幹航路において日本発着貨物のシェアは夫々10%程度である。かかる状況下、日本で除外制度が廃止されて協定活動が不可能となれば、過当競争が起こって日本発着航路の収支が悪化し、同航路に供給される定期船サービスが低下することが予想される。特に欧州航路においては、日本は地理的に航路の最東端であり、日本への大型船の寄港を取りやめて中国等で折り返し運航を行うと、欧州・アジア間を一巡するための航海距離・日数が短縮されて投入船舶を1隻削減でき、相当のコスト・セーブが可能となる。この場合、日本航路に対しては中国等のハブ港との間での小型船の配船が主体となり、積み替えに伴うコスト増や、欧州までの輸送日数の長期化による荷主の在庫積み増しなどが発生し、我が国製造業の国際競争力低下や国民の生活物資の価格上昇につながることが強く懸念される。また、我が国の精密機械荷主などは、貨物ダメージの可能性が高くなる積み替えを忌避する傾向にある。さらに、日本がフィーダー・サービス(支線)の対象とされることにより、年々取扱量を伸長させているアジア諸港に対し、日本の主要国際港湾が埋没・衰退することが考えられる。

 

4.     日本荷主協会の意見

 

規制研において、日本荷主協会は以下4点の現状改善が速やかに行われれば、早急な制度廃止を求めることなく、現行法の改革に向けて十分な議論を共に尽くすことも吝かではないとしている。

@    国土交通省による届出協定事項の開示と必要に応じ利用者の意見を聞くことを担保すること

A    二重運賃制の速やかな廃止

B    同盟・協定等における運賃・料金を変更あるいは新規課徴する際は、都度荷主団体と協議することを確約すること

C    ーチャージ新設や値上げに際しては、その内容を十分説明すること

 同盟・協定に向けられた上記A〜Cに関しては、当協会加盟船社が各同盟・協定に働きかけた結果、Aの二重運賃制度に関しては日本発着の全航路において200691日までに全廃され、BCに関しては、日本荷主協会に対し確約を行った。

 また、@に関しても、日本荷主協会と国土交通省の間で運用の改善が図られたところであり、日本荷主協会から出された当面の要望に関しては、迅速な対応が図られたところである。

 

5.     おわりに

 

上記4.で述べた通り、現行制度の下において、国土交通省並びに公正取引委員会の監督下、荷主と船社が互いの立場を尊重しつつ共存共栄を目指して行く事は十分可能であり、現行制度の廃止を直ちに結論付ける必要性は存在していない。

 一方、有効な船社間協定のない日中航路においては、日本における船社・荷主間の話し合いの枠組みが存在しておらず、運賃や料金の乱高下や混乱が起こっているとも指摘される。

当協会としては、同盟・協定の枠組みの中で、我が国航路において安定したサービスを提供しつつ、荷主とのより良い関係を構築することが、船社経営のみならず、日本経済の安定に寄与するものと確信している。

 当協会は、公正取引委員会は、除外制度の廃止が我が国の貿易・港湾、そして社会経済全体に及ぼす影響について、短期間の検討で結論を急ぐのではなく、国益および国際動向を踏まえて時間をかけて検証を行うべきである、と考える。

 

以上