2・2 地球温暖化防止対策

 

221 気候変動枠組条約

1. 京都議定書の制定

人類の活動の拡大に伴う大量の温室効果ガス(GHG)の大気中への排出が地球温暖化の要因であるとされ、大気中のGHG濃度を安定させることを目的として、1992年に国連において気候変動枠組条約(UNFCCC)(※1)が採択された。同条約は1994年に発効し、20096月末現在192ヶ国が批准している。

その後、2008年〜2012年の間にGHG排出量を先進国全体で1990年比5.2%削減するとし、先進各国に法的拘束力のある数値約束を設定した京都議定書が1997年に採択された。同議定書は2005年に発効し、20096月末現在187ヶ国が批准している。

国際海運から排出されるGHGについては、同議定書第2条第2項により、国際航空とともに、専門の国際機関において排出抑制を追及することとされ、国際海運については、国際海事機関(IMO)において検討されている。

 

1:気候に対して人為的な影響を及ぼさない範囲で大気中の二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的とした条約。具体的には、先進国に対してGHGの排出と吸収の目標の作成、温暖化の国別の計画の策定と実施などが義務つけられる。

2UNFCCCの目的を達成するための議定書。先進国等に対しGHGを、1990年比で2008年〜2012年に一定数値(日本6%、米7%、EU8%他)削減することを義務づけている。

 

2. ポスト京都議定書の枠組み

京都議定書の削減約束期間(2008年〜2012年)以降の枠組み(ポスト京都議定書)については、200712月のUNFCCC13回締約国会議(COP13)において、200912月にコペンハーゲンで開催されるCOP15で合意するとの方針が合意され、新設した特別作業部会において精力的な議論が行われている。

国際海運からのGHG排出抑制策はIMOで追及することとされているが、欧州委員会(EC)は、IMOの取り組みが不十分であれば、次期枠組みにおいて国際海運からの排出量を各国の削減対象に割り当てることや、独自に地域規制を導入することなどの考えを表明している。

IMOでは、COP15に向けて議論が活発化する中で、国際海運からのGHG排出削減対策についても2009年までにまとめるよう対応している。

 

222 国際海運におけるGHG削減対策

1. IMOにおける削減対策の審議動向

IMOでは、UNFCCCの要請により1998年よりGHG排出抑制策について審議を行ってきたが、UNFCCCにおける“共通だが差異ある責任”(※3)の原則により途上国が一律規制に反対するなどして、なかなか審議が深まらないまま推移してきた。そうした中、2003年の第23回総会において、「船舶からのGHG削減に関するIMOの政策および実行」に関する決議A.963(23)が採択されるとともに、200610月の第55回海洋環境保護委員会(MEPC55)では同決議に基づく作業計画が合意され、現在、これに基づき、技術的手法(新造船のエネルギー効率改善)、運航的手法(減速航行、最適航路選択等)、市場メカニズム基づく経済的手法(燃料油課金、排出量取引等)に整理して検討が進められている。

また、20084月のMEPC57では、UNFCCCがポスト京都議定書の枠組みについて2009年末のCOP15までに合意する方針が示されたことから、国際海運からのGHG排出削減対策についても2009年までにまとめていくことを、IMO事務局長が宣言した。IMOは、MEPC58200810月)の前の20086月に第1回中間作業部会、MEPC5920097月)の前の20093月に第2回中間作業部会の開催を追加して、各削減手法の審議を加速させている。第2回中間作業部会終了時点での各手法の検討状況は以下のとおりである。

なお、MEPC57においてGHG排出削減対策に関する基本原則9項目が作成された(船協海運年報2007 参照)。しかし、中国、インド、ブラジル等は、削減対策が「すべての旗国に平等に適用されること」としている点について、“共通だが差異ある責任”の原則に反しているとしてこれに合意していない。

 

1)技術的手法

効率の優れた新造船の建造を促すため、新造船の燃費性能を事前に評価する「エネルギー効率設計指標」(EEDIEnergy Efficiency Design Index)の策定が検討されている。船舶の設計・建造段階で、船舶の仕様に基づいて、単位輸送量(トン・マイル)当たりのCO2排出量をインデックス化して船舶に付与するもので、各船固有の数値となる。

MEPC58200810月)において同指標の算出方法に関する暫定ガイドラインがまとめられた。日本は、実海域での性能が正しく評価されるべきとの考えから、波浪・風浪等による速力低下を反映する修正係数(fw)を提案し、これはEEDI算出式の中に盛り込まれた。また、当協会や造船工業会等の協力の下行ったEEDIの試計算の結果(276隻)から、同ガイドラインの不明確な点や問題点の改善が図られた。同ガイドラインは次回MEPC5920097月)で最終化の運びである。

なお、将来、EEDIが強制化された際に必要となるEEDIの認証方法については、設計段階および海上試運転の2段階において認証を行う方法が合意され、MEPC59に向けて、日本とノルウェーが共同して、同認証に関するボランタリーベースのガイドライン案を準備することとされている。

 

2)運航的手法

実際の運航における燃費を示す「エネルギー効率運航指標」(EEOIEnergy Efficiency Operational Indicator)の算定のための暫定ガイドラインについて見直し作業が進められており、MEPC5920097月)において最終化する予定となっている。

また、EEOIを自己モニタリングし、CO2排出削減のために最も効率的な運航方法(減速、ウェザールーティング、適切なメンテナンス等)を個船毎に管理・支援するツールとして、「船舶エネルギー効率マネージメントプラン」(SEEMPShip Energy Efficiency Management Plan)の策定が進められている。@計画、A実施、Bモニタリング、C評価および改善というサイクルを継続して管理するという基本的コンセプトに基づき、MEPC59に向けて、日本と米国が共同して同プラン作成のためのガイドライン案を作成することとされている。

 

3)経済的手法

国際海運からのGHG排出削減対策の一つである、燃料油課金や排出権取引制度といった経済的手法については、これまでに具体的な進展はなかったが、20097月のMEPC59より詳細な議論が開始されることとなっている。

 

3:共通だが差異ある責任(CBDR: Common but Differentiated Responsibilities):地球環境問題のような課題は全人類の抱える問題であり先進国はもちろんのこと発展途上国にも共通の責任があるという主として先進国側の主張と原因の大部分は先進国にあり、また対処能力においても異なっているとする途上国側の主張との両者の意見を折衷して形作られてきたもの。
一言でいえば、地球環境問題に対しては共通責任があるが、各国の責任への寄与度と能力とは異なっているという考え方。

 

 

2. 国際海運に起因するGHGに関するスタディ

IMOでは、国際海運に起因するGHGに関するスタディを2000年に実施しているが、統計値が古くなっている等の理由から、同スタディを更新する作業が行われている。同作業は、世界の海事関係研究機関および大学等の11組織からなる“国際コンソーシアム”によって実施されており、同コンソーシアムにはわが国より海上技術安全研究所および海洋政策研究財団が参画している。

MEPC58200810月)において同調査の中間報告が行われ、2007年における国際海運からのCO2排出量が8.43億トン(地球全体のCO2排出量の約3%)と見込まれること等の報告が行われた。今後さらに、CO2以外のGHGや、GHG削減手法の選択肢などについて調査が行われ、MEPC5920097月)に報告される予定である。

なお、IMOは今後のGHG関係調査で不足する資金の拠出を各国に要請しており、日本政府はこれに応えるべく当協会に拠出の要請を行った。当協会は、当該調査実施の必要性に鑑み、IMO10万ドルを拠出した。同拠出はMEPC58において報告され、MEPC議長より当協会へ謝意が表明された。

 

3. 当協会によるGHG関係調査の実施

当協会は、CO2排出量の総量に対する規制の議論に役立てることを目的に、IMOによる国際海運に起因するGHGに関するスタディを活用して、2050年におけるCO2排出量を2007年レベルまで削減しようとする場合のインパクト等について調査を行った(委託:三菱総合研究所)。

その結果、2050年のCO2排出量を2007年レベルに安定化させる場合、高い成長率を維持する社会シナリオ(A1)の場合では達成が困難であり、環境と経済の調和を重視した社会シナリオ(B1B2)の場合においても、40%もの減速を実施しなければ達成できないことなどが示された。

 

 

223 日本経団連の環境自主行動計画

日本経済団体連合会(日本経団連)は、温暖化対策について産業界として実効ある取り組みを進めるべく、1997年より各業界の環境自主行動計画を取りまとめており、2008年度は60業種・企業が参加した。その結果、2007年度のCO2排出量は1990年度に比較して1.3%増加(前年度比で3.1%増加)した。その要因としてCO2排出係数の悪化を挙げている。2007年度の電力の使用に伴うCO2排出係数は、新潟県中越沖地震の影響等による原子力発電所の利用率の低下等により2006年度以上に悪化していることから、この影響を除いた場合のCO2排出量は1990年度比1.9%減と試算している。

なお、当協会もこの取り組みに賛同し、環境自主行動計画を策定しており、外航船舶を対象に、2008年度〜2012年度におけるCO2排出原単位(1輸送貨物トン当たりのCO2排出量)を1990年度より15%削減するとの目標を立てている。2007年度について調査した結果、CO2排出原単位は1990年度比16.4%減となり、前年度(13.5%減)より改善した。

 

年度

1990

2003

2004

2005

2006

2007

CO2排出原単位指数

1.00

0.85

0.85

0.88

0.86

0.84

注)排出原単位は、輸送貨物1トン当たりのCO2排出量で、1990年度を1とする。