3・2 WTO

 

WTOWorld Trade Organization:世界貿易機関、本部:ジュネーブ)は、1995年に設立された国際機関で、モノやサービスの貿易の自由化を図る多国間協定の実施を目的としている。

WTOが管轄する協定には、関税の引下げなどによってモノ(物品)の自由貿易を促進するためのGATT(関税及び貿易に関する一般協定)や、サービス産業における自由化を促進するためのGATS(サービス貿易に関する一般協定)などが含まれており、海運はGATS適用を目指す業種の一つとして自由化交渉が進められてきた。

しかしながら海運は、1995年までのウルグアイラウンド(ラウンドは「多角的通商交渉」の意)やその後1996年まで続けられた継続交渉(NGMTS)にもかかわらず、自国海運の自由化に消極的な米国が最後まで自由化約束の提出を拒み続け、更には交渉の打ち切りを強く主張したため、海運自由化交渉は次期ラウンドまで先送りという結果になっていた。このため、海運はサービス産業の中でこれまで唯一自由化に関する合意が成立しておらず、最恵国待遇を始めとするGATS主要規定が適用されない状況にある。

外航海運業はかねてより海運自由の原則の下で世界的に自由化が進展している分野ではあるが、一層の自由化が望まれる国々も依然として存在している。当協会としては、外航海運が世界貿易の持続的発展を支援していく上でも、最恵国待遇や内国民待遇などのGATS諸原則が早期に外航海運分野に適用され、公正な市場開放が多角的枠組みの下で保証されていくことが重要であると考えている。

 

321 WTOドーハ・ラウンドの最近の動き

(1) ドーハ・ラウンドの全体の動き

200111月のドーハ閣僚会議で交渉が開始された世界貿易機関(WTO)新ラウンド(ドーハ開発アジェンダ:DDA)は、20087月の閣僚会議(ジュネーブ)で、農業・NAMA(非農産物)のモダリティ*合意形成に向け一時は急速に議論が進んだものの、農業分野の途上国向け特別セーフガードを巡り、米国とインド等途上国との間で意見が対立したため、交渉は決裂した。世界経済の減速が顕在して以降は、G20首脳が0810月の「金融・世界経済に関する首脳会合」において「年内のモダリティ合意を目指し努力」するとのコミットメントを行ったことなどを受け、同年12月に農業・NAMA交渉議長テキストが提示されたが、主要国の立場に大きな歩み寄りが見られなかったことから、モダリティ合意のための年内の閣僚会合開催は先送りされることとなった。

*モダリティ:(1)市場アクセス(関税削減等)(2)国内支持(国内農業助成金)(3)輸出に関する規律−などについて、WTO(世界貿易機関)加盟国間で共通に適用される大枠ルール

 

(2) サービス自由化交渉の動き

現在のサービス貿易自由化交渉は20001月に開始され、翌0111月よりドーハ・ラウンドの一分野として交渉が行なわれており、海運を含むサービスの自由化約束は、「一括受諾(シングル・アンダーテーキング)」の一部として、農業分野やNAMAとともに約束・バインドされることになっている。同自由化交渉は、リクエスト(自由化要求)・オファー(自由化約束)方式により進められ、2000年の交渉開始より、二国間協議を通じてリクエスト・オファー交渉*1が行われてきたが、05年の香港閣僚宣言に従い、リクエストする側もされる側も複数国となるプルリ交渉が開始された。087月には、シグナリング閣僚会合(主要関心国の閣僚が次期オファーの改善点等を示唆しあう会合)が開催され、先進国、途上国を問わず、多くの国が主要サービス分野(金融、電気通信、流通、人の移動等)において次期オファーの前向きな示唆の発言を行い、各国閣僚とも評価する旨表明した。海運分野については、077月、わが国のイニシアチブにより海運自由化に関心が高いWTO加盟国間で交渉促進のための意見交換を行う場として「海運フレンズ*2」を設置し、以降、WTOサービス交渉のタイミングに合わせて、フレンズ会合が開催され、議論が行われている。

*1リクエスト・オファー方式:WTO サービス交渉においては、各国が相互に自由化の要求を行い(リクエスト)、各国は要求に応じることが可能な案件を提示し(オファー)、最終的に最恵国待遇原則の下、二国間の合意内容が全加盟国に適用される方式(リクエスト・オファー方式)を採用している。

*2海運フレンズ加盟国(20093月現在) 豪州、カナダ、中国、EC、香港、アイスランド、日本(議長国)、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、パナマ、スイス、台湾

 

322 WTO加盟状況

20085月にウクライナ、同年7月にカーボヴェルデ共和国がWTOに加盟した。同年7月現在、WTO加盟国数は153カ国・地域(アジア地域からは22カ国・地域)、加盟交渉中の国は30カ国となっている。