3・6 コンテナ保安問題への対応
3・6・1 米国
(1) コンテナ全量検査法(100%コンテナスキャニング)
米国では、2007年8月に成立した「9月11日委員勧告実施法(Implementing
Recommendations of the 9/11 Commission Act of 2007)」により、2012年7月以降、全ての米国向けコンテナ貨物について、船積み前にX線検査装置と放射性物質検知装置を組み合わせた非接触型検査装置による検査が義務付けられることとなり、米国内外より、全量検査に対する懸念の声が示されてきた。
このような中、米国国土安全保障省(DHS)とエネルギー省が2006年に発表した新保安対策、Secure Freight Initiative(SFI)の下、国境警備局(CBP)は、2007年10月から2008年5月頃まで、比較的コンテナ取扱量の少ないSouthampton(英国)、Puerto Cortes(ホンジュラス)、Port Qasim(パキスタン)で全量検査の実験を実施、2008年6月に同実験の中間報告を議会に提出、以下の問題点を指摘した。
−苛酷な気象条件下で機器が故障すること。
−米国のNational Targeting Centerにデータを送るコストが高いこと。
−港の効率性に影響を与えないように、機器を設置する場所も含めて港のレイアウトを再検討しなければならないこと。
−警報が鳴ったときの対応を各港毎に作成すること。
−機器の運用と保守の費用は誰が負担するかを確認すること。
−スキャン技術の許可条件。
−機器とデータの所有権は誰にあるのか確認すること。
CBPは、上記3港の実験で米国政府はこれまでに6千万ドルを費やしており、このような高いコストでは世界の700の港で100%スキャニングを実施することはできないとも述べている(多くのターミナルでは10以上のトラックレーンがあり、全量検査実施にはトラックレーン1本当り約800万ドルの費用が発生)。また、大きな問題として、中継港での積み替え貨物(Transhipment Cargo)のデータを事前に把握する技術がまだ確立していないとしている。同実験のフェーズ2として、シンガポール、香港、韓国の釜山、オマーンのサララ各港でも、限定されたパイロットテストが進行中である。
2009年1月に成立したオバマ新政権のジャネット・ナポリターノDHS長官は、全量検査の実施延期の立場を明確にしている。また、同年初から、米国連邦議会では、同スキャニングの実行可能性・費用対効果を疑問視する議員が現れ始めており、今後の進捗が注目される。
(2) 「10+2」ルール
CBPは、2009年11月、既に2002年に導入されている貨物情報の事前申告制度(所謂24時間ルール*)で要求される情報に加え、追加情報を輸入者と船社に求める規則(所謂「10+2」ルール)の最終暫定規則を発表。同暫定規則は、2009年1月26日から実施され、同年6月まで一部の提出項目についてパブリックコメントを受け付けた後、2010年1月26日から罰則を含め完全実施されることとなった。(最終暫定規則の概要は【資料3-6-1-1】)
* 2003年2月開始。船社もしくはフォーワーダーに対し、同国税関に貨物情報を事前提出することを義務付ける制度。米国向けコンテナ貨物については船積み24時間前までの情報提出が求められることから、24時間ルールと呼ばれている。
3・6・2 EU
米国の貨物保安対策強化の動きを受け、欧州委員会(担当−税制・関税同盟総局:DG TAXUD)は2004年に米国と同対策に関する税関協力協定を締結する一方、EUにおける対策を強化すべくEU関税法に係る欧州理事会規則の改訂を提案した。その後改訂理事会規則(648/2005規則)が2005年4月に成立、全輸送モードを対象に、EU版の24時間ルールとなる貨物情報事前提出制度およびAEO(Authorised Economic Operator)制度が導入されることとなった。これらの制度は、648/2005規則に係る施行規則を改訂して定めることとされていたため、DG TAXUDおよびEU加盟国税関当局で組織するCustoms Code Committee(欧州関税法委員会)で検討が進められた結果、2006年10月に改訂施行規則(1875/2006規則)が採択され、EU版AEO制度は、2008年1月から実施に移されている。(船協海運年報2007参照)
一方、2009年7月1日より実施される予定だった貨物情報事前提出制度については、EU加盟国において、同制度を実施するための国内法および技術システムの整備が遅れたため、同年2月に開催されたEU関税法委員会において、輸入/輸出貨物とも2010年12月31日までは強制適用とはせず、ボランタリーベースで提出できることが合意された。但し、EU域内からの輸出貨物については、同年7月1日より輸出者に対し、同制度で求められるのと同じセキュリティ情報を含んだ輸出税関申告を電子的に提出することが求められている。なお、同制度の概要は、【資料3-6-2-1】 のとおりである。
3・6・3 日本
わが国においては、2008年4月、国際運送事業者(海運会社、航空会社、フォワーダー等)を対象に保税運送手続を簡素化するAEO制度(正式名称:特定保税運送制度。以下「AEO運送者制度」)が創設された。(船協海運年報2007参照)
AEO運送者制度の周知を図るため、財務/国交両省は合同で、同年4月上旬より事業者向けの説明会を実施。また、その後、平成20年度「安全かつ効率的な国際物流施策推進協議会」(関係7省庁及び23民間団体により構成。以下「協議会」)の下に設置された「国際運送事業者を対象としたAEO制度普及方策検討WG」において「国際運送事業者を対象としたAEO制度実務手引書*」の検討が進められ、2009年2月の第2回協議会において、同手引書が承認された。
*同手引書は、右記ウェブサイトにて入手可能。http://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000021.html
3・6・4 中国
中国海関総署は2008年4月、中国版24時間ルールを2009年1月1日から実施することを盛り込んだ「中国海関進出境運輸工具艙単管理業法」(海関総署令第172号)を、その後、同年8月には、輸送積荷明細書などのデータ様式(海関総署広告第54号)を交付した。その概要は【資料3-6-4-1】のとおりだが、米国、EUの制度と異なる点としては、貨物情報を主要データとその他データに分けて提出させることにある。
同ルールは2009年1月1日より罰則執行猶予期間付で導入されたが、中国政府から厳格実施時期についての正式な発表はない。
3・6・5 国際機関・組織による検討
WCO(171カ国・地域で構成。2007年9月現在)では、2005年6月の総会において、貨物保安問題に関する国際的な枠組み(『国際貿易の安全確保及び円滑化のためのWCO「基準の枠組み」』)を採択した。同枠組みは、認定された経済事業者(Authorized Economic
Operator:AEO)の概念を組み込んでおり、AEOの要件や付与できる便益等について解説した「AEOガイドライン」が2006年6月の総会において採択され、2007年6月の総会では、同枠組みに同ガイドラインの内容を包含する改正が行われた。(船協海運年報2007参照)。
2008年1月からは、コンプライアンスに優れた貿易事業者を税関が認定し、通関手続きの簡素化等の便益を与えるAEO基準(International standards on Authorized Economic
Operator by WCO)が導入され、各国では、同基準に整合する形でのAEO制度を構築する動向が見られている。2007年9月現在で、149カ国がAEO制度の導入を表明している。
また、WCOは、2008年6月、フランスのルアーブル大学に委嘱した米国の100%コンテナスキャニングに関する報告書を発表。同報告書では、全量検査を直ちに止めるべきであると結論づけることは避けているものの、様々な問題点を指摘してその効果に疑問を投げかけるとともに、世界貿易を停滞させる原因になることを指摘した。
※参考文献:(財)日本船舶技術研究協会、発表資料等。
以上