6・4 海事保安
6・4・1 船舶長距離識別追跡システム(LRIT)
2001年9月に発生した米国同時多発テロを契機として、米国より国際的な保安対策を構築する必要があるとの提案がなされ、旗国や沿岸国が船舶の動静等を把握できるようなシステムをIMOにて検討することとなった。同システムはLRIT(Long Range Identification and Tracking
System)と称され、衛星通信を通じて船舶の位置情報等(LRIT情報)を締約国が受信することにより、陸上において遠洋航行中の船舶の動静把握や捜索救助等を可能にするものである。LRITはSOLAS条約第5章に規定され、2008年1月1日に発効し、国際航海に従事する総トン数300トン以上の船舶で2008年12月31日以降に建造される船舶、既存船については2008年12月31日以降の最初の無線検査までに船上機器(インマルサットC等)の搭載が要求される。
しかしながら、LRITに対応した船上機器は旗国の承認を得る必要があり、2008年1月1日に条約が発効したにもかかわらず、承認された船上機器は存在していなかったため、2008年12月31日以降の適用開始日までに船舶が対応できない懸念があった。そのため、既存船については新たに承認された船上機器に換装する代わりに既に搭載済みの船上機器をLRITに適用し、船上で試験を実施したLRITを適合機器として承認するという手法がIMOで承認された。これにより、既存船は換装工事に伴う入渠工事の手配等、緊急を要する対応は回避された。
当協会は、本件に関する国内外の検討に参画し、既存の機器がLRIT適合機器として引き続き使用できるように我が国政府に働きかけを行った。