6・6 船舶の安全運航対策
6・5・1 船橋設備に関する問題
(1)電子海図情報表示システム(ECDIS)
航行安全や環境保全の促進をより一層図るため、電子海図情報表示システム(ECDIS)の搭載強制化について、2004年7月開催のIMO第50回航行安全小委員会(NAV50)より審議が開始された。その後、ECDISの利用による安全性向上と費用対効果を解析するための総合安全評価が実施され、電子海図(ENC)の普及状況(ENCが世界の海域をカバーしている割合)はほぼ十分であることが確認された。この結果、同装置の搭載を強制化するSOLAS条約改正案がNAV54(2008年7月)にて合意され、2008年12月開催の第85回海上安全委員会(MSC85)にて承認された。当初、総トン数500トン以上の客船およびタンカーならびに総トン数3,000トン以上のタンカー以外の貨物船を対象に、2010年7月から段階的に搭載を強制化とする内容であったが、日本から搭載強制化の対象は総トン数10,000トン以上の全船舶とし、既存船への適用については3年〜5年の猶予期間を設けるなど船種等を考慮し適用を開始するべきであることを提案したところ、概ね採用された。
当協会はわが国政府に対し、搭載強制化が適用されるまで十分な猶予期間を設けるよう働きかけを行った。
<ECDIS搭載の搭載要件>
@新造船
総トン数500トン以上の旅客船(2012年7月1日以降建造)
総トン数3,000トン以上のタンカー(2012年7月1日以降建造)
総トン数10,000トン以上の貨物船(タンカー以外、2013年7月1日以降建造)
総トン数3,000トン以上10,000トン未満の貨物船(タンカー以外、2014年7月1日以降建造)
A<IMG src="file:///Y:/Inetpub/wwwroot/NEWHP/nenpo/nenpo2008/a_btn152.gif"
width="22" height="22" border="0"> 既存船
総トン数500トン以上の旅客船
(2014年7月1日以降の最初の安全設備検査までに搭載)
総トン数3000トン以上のタンカー
(2015年7月1日以降の最初の安全設備検査までに搭載)
総トン数50,000トン以上の貨物船
(タンカー以外、2016年7月1日以降の最初の安全設備検査までに搭載)
総トン数20,000トン以上50,000トン未満の貨物船
(タンカー以外、2017年7月1日以降の最初の安全設備検査までに搭載)
総トン数10,000トン以上20,000トン未満の貨物船
(タンカー以外、2018年7月1日以降の最初の安全設備検査までに搭載)
(2)船橋当直警報装置の搭載要件の検討
船橋当直警報装置(BNWAS:Bridge Navigational Watch Alarm System)とは、当直者の居眠り等、当直者に異常が発生した場合、その異常を船長室等に警報で知らせ、当直者の見張り不十分による衝突等の事故を未然に防ぐための装置である。MSC81(2006年5月開催)において、デンマークより総トン数150トン以上の船舶にBNWASの搭載強制化が提案され、同装置の有効性を報告したところ、各国より高く評価され多くの支持を得た。
当協会は、2名当直体制であれば同装置の搭載は不要であるとし関係先に働きかけたが、搭載強制化に多数の国が支持を表明したため、搭載強制化とするSOLAS条約改正案はNAV54(2008年7月)にて合意されMSC85にて承認された。ただし、既存船に搭載済みの同装置は性能基準の要件を満たしていない装置が多いため、主管庁裁量で継続して使用できるようわが国から主張したところ多数の国から支持され、SOLAS条約改正案に反映された。
<SOLAS条約改正案>
(1)SOLAS条約第5章第19規則2.2.3
BNWASの性能基準(MSC.128(75))を下回らない基準に適合する装置を搭載しなければならない。
@ 2011年7月1日以降に建造される船舶
A 大きさに拘らず2011年7月1日以前に建造された客船は、2012年7月1日以降の最初の安全設備検査時まで
B 2011年7月1日以前に建造された3000総トン以上の船舶は、2012年7月1日以降の最初の安全設備検査時まで
C 2011年7月1日以前に建造された500総トン以上3000総トン未満の船舶は、2013年7月1日以降の最初の安全設備検査時まで
D 2011年7月1日以前に建造された150総トン以上500総トン未満の船舶は、2014年7月1日以降の最初の安全設備検査時まで
(2)SOLAS条約第5章第19規則2.2.4
2011年7月1日以前に搭載されたBNWASは、主管庁の判断により、完全に基準(MSC.128(75))に適合することを免除される。
6・5・2 船舶の救命設備等の見直し
(1)救命艇等の定期的整備に関する指針の強制化
船上での訓練時等に救命艇の落下事故が多発したことを受け、MSC81にて「救命艇等の定期的整備に関する指針(MSC.1/Circ.1206)」が策定され、MSC82(2006年12月)、DE50(2007年3月)にて同指針の強制化が検討されてきた。
同指針の附属書1では、原則、救命艇製造業者もしくは同業者により承認を受けた整備業者が救命艇および進水装置(以下、救命艇等という)の整備を行うことができると規定されている(但し製造業者が廃業などにより存在しない場合、主管庁に承認された整備事業者が整備を行うことができる)。しかし、世界的な整備事業者の不足のため、同指針の要件を適用することは困難な状況であった。
(日本は、国内法(船舶検査の方法)にて2006年7月より適用している。)
MSC83(2007年10月)では、世界的に救命艇等の整備事業者が不足していることから、主管庁または主管庁から承認された機関が救命艇製造業者とは別の独立した整備事業者も認定できるよう提案され、審議の結果DE51(2008年2月)にて検討することとなった。
DE51の審議において、同指針を強制化せず非強制扱いとすること、また救命艇等の製造事業者とは別の独立した整備事業者を認めること、またその承認基準を作成することが提案された。
審議の結果、救命艇等の製造事業者と別の独立した整備事業者を認めるための承認基準である「整備技術者承認指針」および「独立した整備事業者の承認方法」が合意された。また、同指針と承認方法は、MSC84(2008年5月)において承認された。
当協会は、国際海運会議所(ICS)と協力して、独立した整備事業者にも認定を与えるように関係先に働きかけた。
6・5・3 ポートステートコントロール(PSC)
サブスタンダード船排除のためには、国際条約に基づいて旗国がその責任を適切に果たすことが重要であるが、中にはそれが十分に行われていない旗国がある。
このため、この本来旗国が果たすべき役割を補完するため、寄港国の権利として、自国に入港する外国船舶への立入検査・監督(PSC:Port State Control)を行うことが条約上認められている。
このPSCの実効性を高めるため、それぞれの地域において締結されたPSCに関する覚書(MOU:Memorandum of Understanding
on Port State Control)のもと、各国が協調してPSCを実施する体制が作られており、欧州における「パリMOU」、アジア・太平洋地域における「東京MOU」のほか、6つのMOU(地中海、黒海、インド洋、南米、カリブ海沿岸、西・中央アフリカ)が設立されている。
また、米国はこれらMOUの正式メンバーにはなっていないものの、各地域MOUにオブザーバー参加することで協力体制を築くとともに、独自のPSCを実施している。
2006年におけるパリMOU、東京MOUおよび米国コーストガード(USCG)の活動の概要は以下のとおりである。(2007年の活動概要はまだ公表されていない)
1. パリMOUの活動の概要(http://www.parismou.org/)
欧州におけるPSCの標準化、協力体制の強化を目的として、1982年に欧州14カ国で締結された覚書(パリMOU)は、現在27カ国(ベルギー、ブルガリア、カナダ、クロアチア、キプロス、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、英国)が加盟している。(前年と変わらず)
(1)
2007年は、パリMOU域内で延べ22,877隻の船舶に対してPSC検査が実施された。このうち拘留された船舶は1,250隻となり、検査隻数に対する拘留率は5.46%(2006年:5.44%)となった。
(2) 2007年9月1日から11月30日の間に実施された国際安全管理コード(The International Safety Management Code(ISM Code))に関する集中キャンペーンにより、5,427隻について検船が行われ、176隻の拘留があった(拘留率5.4%)。
また、集中キャンペーンについては、次のとおり実施、もしくは予定されている。
・
ISMコード関連について(2007年9月より3ヶ月間)東京MOU等と同時実施
・
SOLAS条約第5章(航行安全)関連(2008年予定)航海計画、航海データ記録装置(VDR)、船舶自動識別装置(AIS)、電子海図情報表示装置(ECDIS)等の近年急速に発展した航海システムについて
(3)
パリMOUは、2003年より、拘留率は減少傾向であったが、2006年のPSC検査結果では2005年より若干増加しており、サブスタンダード船の数を減らすには、まだ努力が必要であるとの見解を出している。
2. 東京MOUの活動の概要(http://www.tokyo-mou.org/)
アジア・太平洋地域におけるPSCについては、1993年に11カ国で発足した東京MOUが加盟国を増やし、現在18カ国(豪州、カナダ、チリ、中国、フィジー、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、ロシア、シンガポール、タイ、バヌアツ、ベトナム)となっている。(前年からの増減なし)
東京MOUでは、PSCに従事する検査官の能力および監査方法の平準化が重要であるとして、PSC検査官を対象とした基礎的な研修を日本において実施している。
(1)
2008年の総検査隻数は22,149隻で、このうち拘留された船舶は1,530隻となり、検査隻数に対する拘留率は6.91%(2007年:5.62%)となった。
(2)
2008年9月1日から11月30日の間に実施された航海設備 に関する集中キャンペーンにより、4,836隻について検船が行われ、31隻の拘留があった(拘留率0.64%)。
主な指摘事項は、海図・航海用刊行物(水路書誌)の不備によるものが全体の54.4%(1,183件)を占め、次いで航海データ記録装置(VDR)の欠陥によるものが7.82%(170件)あった。
3. 米国コーストガード(USCG)の活動の概要
(http://homeport.uscg.mil/mycg/portal/ep/echtorial.Search.do#)
USCGの活動は、1970年代に外国籍船舶に対して米国海洋汚染防止法および航海安全法に適合していることを確認する目的で検査を行ったことに始まり、1994年にはサブスタンダード船の入港を排除するプログラムを策定した。
また、2001年には「Quality Shipping in the 21st Century(QUALSHIP 21)」と呼ばれる、優良な船舶を識別し、高品質なオペレーションを促進する制度を確立している。
(1)
2008年には86カ国8,661隻が年間82,103回米国に寄港し、11,578回の立入検査が実施された。このうち拘留された船舶は176隻で、検査隻数に対する拘留率は2.03%(2007年:1.82%)となった。
また、ISPSコード(保安関係)に関する検査は9,489回実施されたが、改善命令のあった船舶は27隻に留まり、良好な結果となった。検査隻数に対する改善命令の割合は0.31%(2007年:0.51%)であった。
なお、2006年から2008年の3年間で、日本籍船は62回の立入検査、40回のISPSコードに関する検査を受けたが、立入検査により拘留された船舶はなかった。