6・7 船舶の建造および保船

 

671 新船体構造基準

(1)経緯

国際海事機関(IMO)の海上安全委員会(MSC)では、船体の構造基準に一定の目標を定め、国際的に合意された要件を設定する「目標指向型の新造船構造基準(Goal-Based New Ship Construction Standards : GBS)」に関する検討が行われている。なお、本検討については、MSC8120065月)における合意に基づき、油タンカーおよびばら積み貨物船を対象として、仕様的アプローチ(板厚要件等の各種要件を仕様的に策定する方法)に基づくGBSと、セーフティーレベルアプローチ(SLA;リスクを物差しとして、達成すべき船舶の安全性レベルを定量的に設定する規則策定方法)に基づくGBSが並行して進められている(船協海運年報2007 671参照)

MSCでは、200710月に開催されたMSC83までの審議において、仕様的アプローチに基づくGBSについて、目的(第1階層)および適用等を規定する海上人命安全条約(SOLAS条約)改正案、ならびに機能要件(第2階層)等を定めた決議案がほぼ合意されている。また、MSC85200812月)では、技術基準の適合性検証(第3階層)のための手続き等を定めた指針案を最終化の上、GBS全体としての承認が予定されていた。

 

(2)MSC85200812月)における審議結果

MSC85では、SOLAS条約改正案および第2階層の内容についてはほぼ全ての部分が最終化されたものの、第3階層の一部や適合性検証のための経費負担等について合意することができなかった。このような状況から、検討すべき項目が残っている段階でSOLAS条約改正案を承認することは時期尚早との意見が多数を占め、同会合での承認は見送られた。

なお、同会合での合意事項は以下のとおりである。

@    適用船舶:

                              ・長さ150m以上の油タンカー

                              ・鉱石運搬船および兼用船を除く、一層甲板を備え、貨物区域にトップサイドタンクおよびホッパータンクを設けた長さ150m以上のばら積み貨物船

A    適用時期:

                              201511日以降に建造契約が結ばれる船舶

                              ・建造契約が無い場合、201611日以降に起工する船舶

                              201911日以降に引き渡しが行われる船舶

なお、上記適用時期に関して、2012年に構造規則検証の状況等をIMOでレビューし、必要があれば適用時期の見直しを行うという日本提案の内容がSOLAS条約の改正案に盛り込まれた。また、この適用時期については、今次会合でのSOLAS条約改正案の承認を前提として日本から提案した内容が合意されたものであるため、同会合での承認見送りを踏まえ、次回MSC8620095月)にて再審議されることとなる。以下にGBSの枠組みを示す。


 

672 原油タンカーの貨物タンクの防食措置

(1)原油タンカーの貨物タンクに防食措置を義務付けるSOLAS条約の改正案について

@ 経緯

2006年に開催されたIMO82回海上安全委員会(MSC82)において、油タンカーの貨物タンク内部の腐食による構造強度低下を防止する目的で、欧州諸国および船主団体等から、貨物タンク内部に一義的に防食塗装を義務付ける海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正案が共同提案された。これに対し、日本は、既に日本船主が運航する原油タンカーの貨物タンクに採用されている耐腐食性の鋼板(耐食鋼)を防食塗装の代替措置として認めるべきとの提案をしており、設計設備小委員会(DE)において詳細な検討が行われている。その後、20082月に開催されたDE51においては、塗装および耐食鋼による措置による防食措置を強制化するSOLAS条約の改正案が策定されていた。

 

A DE5220093月)における審議結果

DE52では、日本から提案した耐食鋼の性能基準を参考に、塗装以外の防食措置をどの様にSOLAS条約改正案に盛り込むかについて審議が行われた結果、次のとおり合意された。

i)適用

5,000DWT以上の原油タンカーの全ての貨物タンク

(ケミカルタンカーおよび兼用船は対象外)

ii)防食措置の強制化

イ) 防食塗装の性能基準に従って塗装すること、または、

ロ) 代替措置の性能基準に従って、必要な構造の完全性を25年間維持するために、

   代替の防食手段または耐腐食性の材料を使用して保護すること

iii)次の場合、主管庁は上記(ii)を免除できる

ハ) 防食塗装以外の新たな防食措置について実船での試験を行う場合、または

ニ) 貨物タンクを腐食させることのない貨物のみを運搬する場合

 

なお、同改正案は、20095月のMSC86において承認のための審議が行われることとなった。

 

(2)原油タンカーの貨物タンクに対する塗装性能基準について

原油タンカーの貨物タンクに対する防食塗装の性能基準(詳細な施工手順や塗料の試験法案)については、既に採択されているバラストタンクの塗装性能基準を基に、産業界(国際船級協会(IACS)、塗料業界および船主団体等から構成)の合同作業部会(JWG)にて検討が進められ、性能基準案がDE52に提出されたていた。しかしながら、同案では、塗料の試験法案を最終化できなかったとの理由により、塗料の試験法案が纏まるまでは「原油タンカーの貨物タンク用の塗料であること」を塗料メーカーが宣言することで、運用する内容となっていた。

今次会合においては、日本をはじめ多くの国から「塗料メーカーの宣言書で可」とする点について懸念が表明され、性能基準案を合意することできなかった。そのため、書面審議グループ(CGe-mailベースでの検討会)が設置され、次回DE5320103月)までに性能基準案を纏めることが合意された。

 

673 バラストタンク等の防食措置関連

200612月に採択されたバラストタンク等の塗装性能基準が適用される船舶については、就航後の塗装の保守・修繕についても、IMOで作成されるメンテナンス指針に従って船舶の一生涯を通じて主管庁による塗装状態の確認を受けるとともに、実施した保守・修繕について記録することとなっている。同指針については、DE5120082月)において、IACSの指針(Recommendation 87)をベースに、保守と修繕の方法を分けて考える日本の意見を取り入れた形で草案が策定されていた(船協海運年報2007 672参照)

20083月に開催されたDE52においては、DE51で検討が終了していなかった「油タンカー以外の船舶に対する塗装状態の評価箇所」について、IACSが用意した案を取り入れた上で、指針案が合意された。また、同指針案は、非強制の勧告として、MSC8620095月)において承認のための審議が行われることとなった。