7. 船員労働
7・1 船員の資格・技能教育と人材確保問題
7・1・1 人材確保への対応
平成19年12月に取りまとめられた交通政策審議会海事分科会ヒューマンインフラ部会の報告書に於いて、@外航日本人船員については昭和49年の約57,000人をピークに現在は約2,600人にまで激減していること、A内航船員についても10年後には4,500人程度の不足が生じること、が明らかとなったため、日本人船員・海技者の育成の必要性が示され、海運事業者の採用・育成の努力を求めるとともに、国/業界団体/海事教育機関等による支援の必要性が明示された。
これを受け広報活動を主目的に「海事産業の次世代人材育成推進会議」が国/海運団体(当協会を含む)・船員関係団体・その他を構成メンバーとして立ち上げられ、平成19年度より日本人船員確保に向けての各種活動が開始された。
当協会に於いても平成20年7月1日、人材確保タスクフォースを設置し、トン数標準税制導入に伴う日本籍船増加に伴い必要不可欠とされる@日本人船員・海技者の確保、A外国人船員の承認海技資格取得制度の合理化・簡素化、に対し総合的に取り組んできた。
同タスクフォースに於ける「日本人船員・海技者の確保に関する活動」の概要は以下の通り。
1.海事教育機関との連携・支援
(1)海事教育機関との連絡会
平成20年8月7日、東京海洋大、神戸大、商船高等専門学校、海技教育機構(海上技術短大・海上技術学校を運営)の代表者(現場の教員)による第1回連絡会を開催し、関係者の連携強化(教員のインターンシップ、進路指導の為の船員給与・待遇に関する基礎情報の提供、学校説明会・語学教育その他に対する補助制度の可能性等)について検討を行った。
また、平成21年3月27日に第2回連絡会を開催し、平成20年度の高等専門学校合同進学ガイダンスの効果や21年度の開催場所等について確認した。
(2)商船高等専門学校合同進学ガイダンス
上記第1回連絡会の意見交換を踏まえ、中学校進路指導教諭、中学生及び保護者を対象とした合同進学ガイダンスを開催し、商船高等専門学校の生徒募集活動を支援した。
同ガイダンスは二部構成で開催し、第一部では、商船高等専門学校全体の説明、各校の説明、若手卒業生による講話を行い、第二部ではチャーター船に乗船し、東京港・神戸港をクルーズし、コンテナ船・自動車専用船などを見学した。
東京会場(船の科学館)平成20年10月25日(土)
中学生等35名、保護者及び教師40名、商船高等専門学校スタッフ等40名、全体で115名が参加し、その模様が同日18:00のNHKニュースにて90秒間に亘り放映されるなど、大きな反響があった。
神戸会場(神戸国際会館)平成20年11月1日(土)
中学生等25名、保護者及び教師30名、商船高等専門学校スタッフ等35名、全体で90名が参加した。
平成21年度については、7月25日(土)に東京(船の科学館)に於いて、また8月8日(土)に福岡(福岡国際会議場)に於いてそれぞれ開催し、将来も継続して活動して行く予定。
2.広報活動
(1)海事教育機関新入生を対象にした意識調査に基づく広報媒体の作成
東京海洋大学、神戸大学、5商船高等専門学校の新入生を対象に実施した意識調査の結果を分析し、中・高校生に対象を絞って、海事教育機関や船員の仕事とその魅力について紹介する、DVD・小冊子セットを制作しており、平成21年7月中に完成予定である。本セットは、ダイレクトメールにて中・高校進路指導教師に配布するとともに、海事教育機関に配布し、各機関の生徒募集を支援する。
(2)意見広告記事の掲載
外航船員になるための教育機関として、東京海洋大学・神戸大学・5商船高等専門学校を紹介する意見広告を、首都圏では平成20年10月5日版の朝日新聞・読売新聞に、関西圏では同年10月12日版の朝日新聞に掲載した。
(3)(社)横浜港振興協会の「子供たちと港を語る事業」への後援
横浜港振興協会が中学生を対象に実施している「子供たちと港を語る事業」を後援し、コンテナターミナル見学や操船シミュレーター操作等の職場体験を通じ、船員・海運への興味を深めてもらい、将来の進路選択や職業選択の一助とする活動を始めた。
第1回として、平成20年11月26日(水)に、横浜市の中学生5名が操船シミュレーターを体験学習した(日本海洋科学殿に於いて開催)。
(4)船員について紹介するウェッブ・サイトを設置
船員希望者の増加を目的として、先輩などの体験談が閲覧できる、動画映像をメインとしたウェッブ・サイトを設置すべく準備している。
7・1・2 外国人船員に対するわが国の海技資格付与制度
1. 承認制度簡素化に係わる規制改革要望
平成20年5月に海上運送法等が改正され、翌平成21年度からトン数標準税制が導入されることとなった。
これに伴い、日本籍船の隻数が大幅に増加することが見込まれることから、日本籍船に乗り組むことができる外国人船舶職員(承認船員)を十分に確保することが喫緊の課題であった。
このような状況下、船員・船社にとって非常に重いものである現行の承認制度が、日本籍船増加の阻害要因とならないよう、経団連および内閣府・規制改革推進本部に承認制度簡素化に係わる要望書を提出し、STCW条約締約国が発給した資格証明書を受有している者に対して、わが国の海事法令の周知のみによる承認証の付与(承認試験の廃止)を求めた。
これに対し、国土交通省海事局は、外国人船員を日本籍船の船舶職員として承認するに当たっては、海技に係わる知識・能力を適切に確認することが船舶航行の安全確保上不可欠であるとし、承認試験を廃止するのではなく、より使い勝手の良い承認制度とすべく、平成20年8月、「承認船員制度等の在り方に関する検討会」が設置され、当協会もこれに参画することとなった。
2. 制度簡素化の具体的措置
平成20年11月、第3回 承認船員制度等の在り方に関する検討会に於いて、承認試験受験者数の増加および承認船員の多国籍化に対応するため、以下の具体的措置を講じることとなった。(資料7・1・2(検討会報告書)参照)
(1)承認試験実施回数および実施国の拡大
・
実施回数
: 3回/年 → 最大で11回
・
実施国
: フィリピンのみ →
フィリピン(7回)、インド(2回)、ブルガリア(2回)
(2)承認に関する二国間取極締結国の拡大現在、フィリピンをはじめ、9ヵ国と二国間取極を締結しているところであるが、今後、日本籍船に配乗予定のある国について早急に二国間取極を締結するよう迅速に作業を進める。
<二国間取極締結国>
フィリピン、トルコ、ベトナム、インドネシア、インド、マレーシア、クロアチア、ルーマニア、
ブルガリア
(9ヵ国)
<二国間取極締結要望国>
英国、ウクライナ、バングラディッシュ、ロシア、モンテネグロ、ミャンマー、ポーランド、中国、
スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、韓国、パキスタン、スリランカ (14ヵ国)
(3)資格付与講習の講習時間を一部軽減わが国の海技資格を取得するための講習を受講するため、フィリピンに於いて長期間拘束されることが船員および船社の大きな負担となっていることから、以下の軽減措置をとることとなった。海事法令講習
: 履修済み講習の省略(最大で37時間短縮)
・
海技免許講習 : STCW条約締約国政府の発行した海技士資格(甲)受有者に対しては、修了試験のみとする(約20時間短縮)
(4)その他検討会の下に設けられたワーキンググループに於いて、@民間登録機関による承認試験の実施、A海事法令講習へのe-learning導入、B承認試験へのWeb会議システム導入、C船長確認による承認証付与制度(新承認制度)適用国の拡大等、について検討することとなった。